恩田 ゆじ(おんだ ゆじ)
神木兄弟おことわり(かみききょうだいおことわり)
第01巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
高1の色葉(いろは)は、お母さんの再婚を前に、再婚相手の息子兄弟と同居することに。でもその兄弟、イケメンだけど、ちょっと普通じゃないみたいで……!? イジワルな兄&キュートな弟と、だんだんキョリを縮めていく色葉の毎日は昼も夜もドキドキ☆ イケメン兄弟と人生変わっちゃう同居ラブ!
簡潔完結感想文
- 親同士の再婚で同学年の男女の連れ子が ひとつ屋根の下で同居生活となる。
- 勉強回がある度に仲が深まっていく2人。このためのアホの子 設定なのか??
- 自意識過剰なヒーローに対してヒロインは無自覚だから男性を虜にしていく。
自転しながら 公転していく 1巻。
シチュエーション重視の「別フレ」の名に恥じない、イケメン兄弟との同居生活を描いた作品。画力も高く、タイプの違う兄弟の魅力を十分引き出している。同居による禁断の恋に加えて、連載当時(2015年)に人気のあったであろう「俺様ヒーロー」を取り入れているのも抜け目ない。しかも本書の場合、俺様の人格は仮面で、その下にヒーローの本質が隠れているという二重構造になっているのが憎い。これによって多少 ヒーローが乱暴なことを言っても その裏には実は少し不器用なヒーローが見え隠れし、そこもまた「萌え」るポイントとなっている。本書のヒーローは飽くまで「俺様風」の まがいもの で、1話で いきなりキスをするセクハラや、他人の人格を蹂躙するモラハラなどは見えない。多少 性格がキツい or 悪い ぐらいに読める程度に塩梅が調整されている。
本書ではヒロインだけじゃなく、ヒーローは どの女性にも冷淡な対応をしているのが特徴だろうか。少女漫画では社会の中で人当たりが良いヒーローがヒロインにだけドSになることで そこに(ある意味で)特別な関係性が生まれると思うのだが、本書の場合、ヒーローは女性に対して冷淡で、ドSというより単純な女嫌いのように見える。そんな全女性を否定する彼の「特別」になる過程が読者の自己承認欲求を満たしていくのだろう。
序盤はヒロインが、家庭の事情や同居する兄弟に振り回される被害者意識の高い作品なのかと思っていたが、途中からヒロインも無自覚に兄弟の心をかき乱していることが判明していく。これによって、もぉ やだぁ~といいながら俺様(風)ヒーローに振り回される快感を密かに感じるようなダメンズ好きの女性にヒロインが陥いることを回避している。男女双方ともに互いにドキドキしながら「家族」だから生じてはいけない相手への好意に葛藤するという面白さが出ている。
でも再婚相手の家族(全員 男)が名前に色が含まれているのに対し、ヒロインは「色葉(いろは)」という名前であることから、彼女が女王であることは最初から定められていたとも言える。
本書に大きな欠点はない。画力もあるし、話の進め方も上手い。ただし どこを切り取っても既視感があることと、私には最後までキャラクタに人間味が感じられなかった点が残念だった。作者自身の持ち味や、見たことのない展開、印象に残る言葉などがなく、読み終わった途端に記憶から消えていきそうな刹那的な感覚があった。特に『1巻』は、修学旅行の夜のような同じ布団に隠れる危機回避や、お風呂場での遭遇、2人きりでの勉強回など、こういうこと描くと読者は喜ぶんでしょ、という狙った&既視感たっぷりの展開のオンパレードだった。
人間味は特にヒーロー・蒼一郎(そういちろう)に感じられなかった。上述の通り、人に対して無意味に厳しい訳じゃないし、ちゃんと周囲と強調している。私の好きな「赤MEN(赤面)」属性も持っているのに、なんか人工物っぽい。それは彼の置かれている環境が いまいち理解できなかったからかもしれない。1つは学校での立ち位置。どうやら これまでの人生で女性から一方的に言い寄られて不都合が多かったようだが冷淡な対応も辞さず、その一方で抜群の女性人気を保持している。この矛盾が私には よく分からなかった。
そして彼の人生も見えてこない。果たして彼ら兄弟の母親は死別なのか離婚なのか、そして それはいつの話か。彼という人間を理解する手掛かりに乏しく、再婚に対する考えなども全て割愛されている。無感情と人への無理解が彼の特性かと思ったら、割と簡単にヒロインの魅力に弱っていく。少女漫画としては面白いが、彼の頑なな性格が何によって醸成されたのか、そうする理由などが真正面から描かれていないから変な感じの二重人格になってしまっている。
また、これから夫婦となる2人の親にも存在感がない。飽くまで恋愛漫画で家族漫画ではないから仕方ないのかもしれないが、ヒロイン・色葉にとっては学校で囲まれている同級生(や下級生)の男子よりも、いきなり40歳代の男性が家にいる違和感が大きいのではないか。同居生活の微妙な関係を無視して、ヒーローとの関係描写に特化しているから2人の恋愛に禁断感が生まれず、それにより緊張感も散逸している。バラバラだった5人が家族になっていく過程を もう少し描いて欲しかった。そうすれば反対に家族でいなければならない葛藤も生まれただろう。
そもそも色葉の母親が相手の連れ子の年齢を騙して教えるのが不誠実すぎる。新しい父親と色葉は何度も面談し、問題がないことを確認してくれる母親だが、思春期の男女が同居するという一番 重要な情報は娘に隠していた。それだけ好きになった男性と一日でも早く暮らしたいということなのだろうが、女としての業が強すぎて好きになれない。
両親の再婚の問題が、主役2人の恋愛の端緒と障害にしか使われていないのが作品の浅さに繋がってはいないか。
新人作家だから早めに結果を出さなければ という焦り や連載継続への渇望もあるのだろうが、色葉の恋愛以外の悩みを飛ばして、この設定におけるドキドキや胸キュン場面を重視し過ぎている。それもこれも「別フレ」の特徴ではあるのだが…。
橘 色葉(たちばな いろは)は10年前に父親が死別し、それ以後は母親が1人で彼女を育ててくれた。しかし今回、母親が再婚することになり そちらの連れ子2人(息子たち)と同居することになった。
新しい父親とは何度も会っているが、息子たちとは同居をして初めて顔を合わす。当初は4歳と6歳の息子だと聞いていた色葉だったが、それは思春期の男性との同居を娘が嫌がるかと思い、母が嘘をついていたことが発覚する。
その長男・神木 蒼一郎(かみき そういちろう)は色葉と同学年で、学校内で「テストの神様」と呼ばれるほど成績が良く、そして容姿も端麗、加えてスポーツも得意であることから女子生徒から崇められていた。どうやら蒼一郎は、父親の再婚相手の連れ子が色葉であることを認識していたらしい。色葉が勉強が出来ないと知って失望しているということは、姉 もしくは 妹に幻想を抱いていたということなのか。ただクラスメイトの前で色葉の「4点」を暴露したりする意味は不明だ。衝撃的な初対面の演出なのだろうが、蒼一郎の行動としては疑問が残る。これじゃあ蒼一郎が空気を読めないデリカシーのない ヤバい奴でしかない。
同居にあたっても蒼一郎は色葉と各親の前で彼女の「4点」を暴露する。そこで蒼一郎の父親は息子に勉強を教えなさいと命令する。この時、蒼一郎は父親のプレッシャーに圧倒されるのだが、父親は彼にとって唯一 逆らえない人間ということなのか。子供にとってデリケートな再婚という問題を前にして頭ごなしに息子に言うことを聞かせる父親が良い父親には見えない。なのに色葉は新しい父親に父親らしさを認める。話を進めたい方向に進めるため、全体的にチグハグな印象ばかりだ。色々イベントは起こるし、毎回 胸キュンは用意しているんだけど、この人 素敵、この恋を応援したい と思うような芯を食うような描写に出会えない。
勉強回で同じベッドに潜るイベントも必然性がないし、神経質そうな蒼一郎が他人のベッドで寝るようにも思えない。胸キュンのノルマを達成するために話の展開が変なのは「別フレ」の悪しき伝統だと思う。
同居は始めたが、親同士が再婚するのは半年後を目安にするという。最初から禁忌の関係で苦しめたり諦めさせたりせず、半年以内に恋をして、その結果 義兄妹 または 義姉弟になってしまうだけ という順番と時間的猶予が与えられている。
蒼一郎は学校で色葉に同居の話をすることを禁ずる。それは自分の人気を鑑みての発言なのだろうが、作品的に蒼一郎が どこまで人気なのかが描かれないままなので(色葉も それまで蒼一郎神様の存在を知らなかったし)、変に上から目線で自意識過剰に映る。もうちょっと この辺は工夫できなかっただろうか。単純に「俺様」の蒼一郎を嫌いになる人が出てしまう。
色葉が学校での蒼一郎の人気を実体験するのは、色葉が蒼一郎に手作り弁当を持ってきたと誤解された事件で思い知る(母親が子供たちの弁当を間違えたことが発端)。蒼一郎は色葉だけでなく女性全般に誰にでも冷たくすることで、「特別」な存在を作らず、皆に平等に諦めてもらうことで波風を立てないように努めていた。しかし、今回 色葉の お弁当を受け取ったように誤解され、波乱が起きる。
泣き叫ぶ女性を見て蒼一郎は呆然とするが、その窮地を救うのは色葉の機転と自己犠牲だった。この事件が蒼一郎が色葉を見直すキッカケとなる。ドSの仮面をつけて遠ざけようとしても、色葉は それに負けない根性を見せた。ドSは自分にとって「変わったヤツ」「面白い女」が大好物である。色葉も その要素を手に入れたと言える。
色葉の誕生回は、これまでは影が薄かった弟・橙次郎(とうじろう)の出番。これまで加害者・蒼一郎の被害者であった色葉が、橙次郎との関係においては加害者にもなるという お話である。
そして少し胸を押しつけたら あっという間に人を好きになってしまう純粋な橙次郎。そして橙次郎という身近な当て馬の存在があるから、蒼一郎は そこに無自覚にライバル意識を持ち、色葉への気持ちを急速に高めていく。もし同学年の男女2人だけの同居生活なら、もっと恋愛のペースは遅かっただろう。蒼一郎を早めに奮起させてくれたという点で橙次郎は優秀な当て馬である。
そして そんな状態で再び勉強回が始まる。一度すれ違ってから仲直りすると胸キュンが生じるという お手本のような展開。ラストで蒼一郎が自分の部屋=パーソナルスペースに色葉を招き入れているのは、もう彼の陥落を意味するのか。この兄弟、優しい女性のいない環境で育ったからか、身近な母性に弱いと思われる。ここから骨肉の争いになるのだろうか。