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少女漫画と小説の感想ブログです

仮想敵がいる限り いつまでも続けられるけど、映画公開も近いので ここで物語をおわります。

今日、恋をはじめます(15) (フラワーコミックス)
水波 風南(みなみ かなん)
今日、恋をはじめます(きょう、こいをはじめます)
第15巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

距離を置いた後、再会したつばきと京汰。二人の恋の結末は――!?ラストシーンは本誌掲載内容を追加ページで加筆修正!卒業後を描く特別番外編73ページも収録の完結巻です。

簡潔完結感想文

  • 復縁から急ぎ足で父子問題を解決。結局 彼は両親と絶縁した という結論?
  • 受験や遠距離、一緒に居られない時間を埋めるための今日の一枚を撮影。
  • 番外編で最初で最後の当て馬を撃退して永遠の愛と2人だけの世界が完成。

高の幸せを約束した五文字の呪文の効力は3か月、の 最終15巻。

うーん、作者も登場人物も、幸せな幕引きだった最終回の後の番外編でも同じことをしているのが気になる。
めでたい最終回後も2人の側に それぞれ異性がウロチョロしていることを話の軸にしてしまう作者のセンスが私とは徹底的に合わないと思った。これでは最終回の価値を落とすような内容になっていはしまいか。

最終回では4か月の遠距離恋愛を経て、ヒロイン・つばき が恋人の京汰(きょうた)から これまで言われなかった言葉を言われることが彼らの恋愛の終着点となっている。
なのに作者は その幸せが あっという間に壊れるという連載中と同じ手法を番外編に適用している。これでは本編連載中に感じたように、彼らの世界には どんな異性の接近が許されず、恋人を安心させるため2人の世界で完結することの繰り返しである。2人なら遠距離恋愛も大丈夫と一旦 完結したのに同じことのリピート。恋愛は人間関係を破壊する、というのが本書のテーマなのだろうか。
番外編の前から本書で最初で最後の当て馬・花野井(はなのい)の暗躍は予告されていたが、他者を排除することが2人の愛の証明になる、みたいな お話作りで番外編を描いたことに幻滅する。

男と喧嘩して別の男に頼る。でも尊敬する先輩が「男」を見せたら断固 拒絶。

折角、本編は完結したのだから見飽きた愛の試練ではなく、これまで描けなかったコメディとか、京汰が信じられないほど つばき を歓待するとか明るい方向性でも良かったのに、同じ味付けの料理を出されて胃がもたれた。最後の最後まで作者の引き出しの少なさと、最高の幸福を自分で その価値を落とすような短慮に疑問を持った。

そして京汰も京都と東京は距離が近いという割に、会いに来るのは つばき の方で、半年で2回しか会えていない。後悔はしなくていいが、その反省や彼の方の会えないことへの辛さや悲しみを描いて欲しかった。
つばき はプレゼントや言葉の効力が短すぎるのが気になる。束縛を象徴するブレスレットで愛を信じられたのは番外編までの2年ぐらいか(その間も喧嘩や別れがあったし)。そして最終回の京汰の言葉は たった2か月で不信に変わっている。なので番外編で贈られた品で安心できるのは短期間なんだろうな、としか思えなかった。つくづく最終回と番外編の上手くない構成が憎い。
 
こういう番外編なら作者は いくらでも作れるだろう。それで作品が作り上げた幸福感や絆を壊すことになるけれど。気になるのは最終回のタイミング。実写映画化の決定の発表に合わせて物語をダラダラ続けていたのかなと思う部分はあるが、その映画公開の半年も前に最終巻の発売というタイミングが微妙すぎる気がする。もっと映画公開と連動して番外編 即 公開開始とか、単行本発売と映画の公開日を合わせるとかメディアミックスが出来そうなものなのに。本編の雑誌掲載が2011年の最後までだったので、年末で一区切りにしたかったのだろうか。


書は2024年現在でも作者の最長長編であるが、作者には長編を維持するような世界観は提示できないかな、というのが私の率直な感想。エピソードが単発で、その後の物語に ほぼ影響していない。代表的なのが深歩(みほ)とハルの それぞれの親友枠だろう。彼らと友情を再締結する話は非常に刺激的で考えられている部分もあって確かに面白いのだが、では彼らが後の世界で何か2人と交流するかというと ほぼない。特にハルは顕著で、転校生の彼が再びアメリカに戻ったと言われても何の違和感もない。深歩も つばき の妹・さくら と立ち位置が似すぎていて代替可能で、彼女の存在で つばき の学校生活が楽しくなったとは言えない。作者の興味が恋愛にしかないのかもしれないが、同じことを繰り返すぐらいなら、長編でしか出来ないような世界観の構築に努めてほしかった。

そして親友枠と同じように単発エピソードに感じられるのが両親(主に母親)の話。それぞれに子供の人生や思考を歪めさせるほどに影響力があった人たちなのだが、その幕引きは呆気ないものに感じられた。特に つばき の母親と京汰の父親は あれだけ暴れたのに、一個人としての背景が見えてこないのが残念。結局、作者は親の洗脳や暴力を主役たちを可哀想にするためだけに用意しているのが透けて見える。彼らは こんなにも可哀想なんです、応援してあげてください、この愛が綺麗に見えるでしょ、と不幸という装飾品で彼らの価値を高めようとしているだけに思えた。

この長編で、作者が主役の2人以外 動かせないことが露呈したのではないか。世界観が広がるとか深まるとか、長編を読む際の楽しみを感じられなかった。長編の割に登場人物の数が少ない、と作者は分析していたが、その少人数すら同時に動かせてないのが力量の限界のように思う。つばき・京汰が今度は自分たちが深歩・ハルを支えたい気持ちが見えるようなエピソードが欲しかった。
恋のライバルだけでなく、役割を終えた人たちが徹底的に排除される、そんな排他的な雰囲気があって この世界に息苦しさを覚えた。時代に即してエロを封印する、という目標は達成できていると思うが、悪い意味での「恋愛至上主義」は変わっていない。残念ながら発行部数や話題になったほど、本書に奥深さは感じられなかった。


れぞれが自立し、自分の道を歩けるまで別れを選んだ2人が再会する。
ここで菜子(なこ)の接近時に つばき が京汰に胸の内を全部さらけ出したように、京汰も つばき と花野井の接近についての自分の心のモヤモヤ・嫉妬を全て話す。
だから つばき はアルバイト先の変更と花野井との接触の断絶を誓う。だけど京汰の方が それを許す。つばき が花野井との接触を無理に断とうとすると必ず失敗が起こるから、というのが彼の理由。京汰の優しさや彼女への信頼感なんだろうけど、女性≒読者の安心のためにヒーローに接近する女性は全員 排除され、ヒロインの側にいるイケメンは許容されるというのは不平等な気がする。そして いつまでも2人が互いの安心のために人との関わりを全部 断絶しようとするのは無謀で彼らと作品世界の世界の狭さを表すもののように思える。つばき は不器用を盾にして、結局 京汰ばかりが我慢する関係になっていないか。

確かに花野井の お気に入り という特権を捨てることはヒロインを業界内で埋没させることになる。コネを無くした つばき は困難ばかりが待ち受ける、という京汰の考えは正しいのだろう。でも つばき の完全な自立には見えないよね…。

京汰は この先に始まる遠距離恋愛で、会えない日や すれ違いがあることは分かっている。だから今回のことも その予行演習として考え、怒りや嫉妬に呑み込まれそうな自分を律した。もう京汰は俺様ヒーローではないが、この京汰は悪くないと思う。

つばき は京汰の全人間関係に干渉し、時に排除を望むが、その逆はないのが不平等に思える。

校3年生の夏休み、京汰は怪我が原因で夏期補習を受けることになっており、その上 入院費で貯金が減って、京都進学のための資金がなくなったため、アルバイトにも精を出す。その連日の忙しさは さすがの京汰も体調を崩す。2つの物を持とうとして自分が壊れてしまうのは かつての つばき のようである。
それでも京汰は父親に頼らない。父は家庭を崩壊させ、そして母の次に自分に暴力を振るった人。その父に頭を下げてまで進学するのは京汰は良しとしないからだ。

事情を知った つばき は、よくいる少女漫画ヒロインのように彼の家庭に介入したりしない。つばき に出来るのは資金援助や、奨学金を利用した進学への具体的な道筋をかんがえること。これは最終回まで時間がなく、つばき に介入させるとページが浪費されてしまうからだろう。

なので京汰の父子問題は単独で解決する。いや父親も作品も解決を放棄したというのが正しいか。京汰が自宅で倒れた時に帰宅した父親は、息子に京汰の預金通帳を返却する。本来は入院費の支払いで少なくなっているはずの貯金額は変わっておらず、父親は一刻も早く京汰に家から出て欲しいから手切れ金のように入院費を立て替えたようだ。これはツンデレで息子への愛情なのか とも思ってしまうが、結局 京汰の進学資金は一銭も払わないつもりのようだから、本当に息子に出て行って欲しいのだろう。こうして京汰は両親から捨てられたことになる。父親に入院費を返すつもりはあるだろうが、関係性は それで終わるだろう。京汰が心を許せるのは本当に つばき だけになってしまった。ここも世界がまた狭くなった感覚を覚える。こうして妻と子に暴力を振るっていた父親に対する罰もなく、ただただ冷淡な親子関係で終わった。


れから別れの日までの日々を彼らは普通の恋人のように送る。これまでは胸に溜めるばかりだった想いも不安や悲しみも全部 伝え合って、その上で より良い関係を築こうとしている。
あっという間に大学受験の時期になり、そして京汰は志望校に合格する。しかし2012年の連載なのに合否が代理人による確認というのが謎だ。この時代に合わない内容と作者の知識を誰か指摘しなかったのだろうか。

そして最終回。1話が高校最初の1日を描いたものなら、最終話は高校最後の1日を描く。入学式、新入生代表の挨拶は入試首位の京汰が務め、卒業式の答辞は生徒会長が務める。つばき は3年生の成績は1位。母は つばき に答辞の大役を果たして欲しい気持ちもあったが、それよりも娘の頑張りを認め、彼女を褒める。これに母親の良い変化が見える。

卒業式後のクラス内の挨拶で それぞれの進路が発表される。深歩(みほ)は体育の教師、西希(にしき)は自動車の整備士、ハルは獣医になる夢を持っている。登場が少なすぎて彼ら(の夢)に思い入れはないけれど。深歩との友情の再確認も中身が無さすぎて寒々しさを感じる。作者は もうちょっと深歩を親友として育ててあげられなかったものか。そして つばき は自分の夢以外に、不本意だった この高校での3年が実り多いものであったことを伝える。クラスメイトを見下し、反感を買った つばき も変化しているのだが、主に京汰との思い出しかないだろう。


んな京汰は3年前と変わらない挨拶をする。モテモテの彼は女子生徒たちに囲まれてしまい、つばき は一人で思い出巡りをし、京汰にファーストキスを奪われた校舎裏で、身ぐるみ剥がされた京汰と再会し、そして3年前とは違い、幸せなキスを交わす。

その後、京汰は京都へ旅立つ。一緒に行きたい気持ちは消えないが、一緒に行かないで ここで成長することが つばき の優先すべきこと。恋愛だけでなく、京汰だけでなく、自分と将来を見据えたバランスの取れた考えが出来るようになっている。
そして遠距離恋愛が始まって数か月後の夏休み、つばき は京汰に会いに京都へ赴く。そこで京汰は、これまで言ってこなかった つばき への気持ちを的確に表す言葉を初めて使う。かなりドラマチックな恋愛を経験した2人だが、素直になれなかったり照れたりで愛の言葉は多くは無いのが本書の特徴だろう。それを言えるまでに成長した2人を感じた。…のだが、番外編では結局いつも通りの すれ違いをやっているから信用ならない。


「番外編」…
美容師の専門学校で抜群の成績を収めていた つばき は花野井の出張に同行することで京都行きの機会を得る。しかも京汰の誕生日の日に到着するミラクル。そして今回の誕生日は本編で3年かけた京汰の誕生日プレゼントが完了する年でもあった。
高校を卒業し それぞれの進路に進学してから会うのは2回目。1回目は本編ラストの夏休み、そして今回の10月の終わり。京汰は京都など遠くないと言っていたが、彼の方から会いに行っていない現状を どう思っているのだろうか。

そこで本編と同じような小さなすれ違いが重なって久々の再会から つばき が逃げ、花野井の宿泊先に向かう、という いつものパターンである。不安が募ったうえで嫌な現実を見させられた つばき の心情は理解できる。京汰も この日だけは絶対に そうならないように努めるべきなのに脇が甘い。

番外編でも2人の恋愛の支配者気取りの花野井は、京汰から つばき への電話連絡を勝手に取り、彼女が自分の宿泊先の部屋でシャワーを浴びていることを京汰に伝える。そしてホテルの部屋番号だけ彼に伝え、京汰が京都の数多のホテルから つばき の居場所に辿り着けるかを試す。ホテルに連絡して宿泊者の名前を聞き出すのは個人情報の保護のため出来ない。なので京汰は自分の足で つばき の居場所を しらみ潰しに あたらなくてはならない。

つばき は花野井の口車に全部 乗って、携帯電話に京汰からの着信があるかを確かめられず、彼の不安を煽るような囁きに呑み込まれる。ただし最後の最後で「男性」として花野井に寄りかかることはしない。美容師の技術を持つ彼を尊敬しているが、それは男性としての好意ではない。そうハッキリ告げ、花野井の面子を潰す。この態度の急変には初期の京汰を思い出した。母親などのトラウマがあって彼は女性たちが「女」を見せた途端に その女性を拒絶していたが、つばき も自分が頼った相手なのに「男」を見せたら笑顔で部屋を出て行く。じゃあ最初から寄りかかろうとするな、と思っちゃうけど。
しかし これ以降、つばき が花野井のお気に入りとして重宝されるか微妙なところ。逆に花野井の男の嫉妬で美容師としての道を閉ざされそうな気もする。失恋状態の花野井が この後も つばき に従来通り優しく接する未来が見えないなぁ…。なぜなら本書の男たちは非常に器が小さいから。番外編の後に つばき に不幸が起きそうな予感をさせているのも あまり良くないことだろう。

今回の一件で つばき は花野井を男性として考え、そして きちんと彼を拒絶する。京汰もまた つばき への愛の試練を見事 突破し当て馬に引導を渡した。こうして それぞれに互いの愛を証明した2人は当初の予定通り、京汰の下宿先で一夜を過ごす。そして翌日に京汰は新たなアクセサリを つばき に贈り、それを将来の約束の代わりにする。

現実的には この後も色々と不安は尽きないのだろうが、遠距離を乗り越えた2人は その後 結婚し(結婚式は写真の中の1枚だけ)、NASAで仕事をしているらしい京汰の関係でアメリカで生活を送っている。そして つばき は妊娠初期であることを京汰に告げ、2人は子供の名前を決める。どうも娘前提の名前のように思えるが。

私の勝手な思い込みですが、花野井は既婚設定だとばかり思い込んでいて、だから彼は若い2人を振り回す遊びで やっているのかと思っていた。でも再読によって既婚設定なんて出てこないから驚いていたら、それは最近 読んだ別漫画の話だという勘違いが判明。似たような設定(カリスマ美容師と誘導されやすいヒロインに彼氏との遠距離恋愛)だったので混同してしまった。花野井は独身です!