鳥海 ペドロ(とりうみ ペドロ)
百鬼恋乱(ひゃっきこいらん)
第03巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★(4点)
花嫁から選ばれなかった鬼は死ぬ…。いずれ、弟・十(とあ)と奪い合うことになる運命に悩む零(れお)。一方、鬼兄弟との同居生活にドキドキのココは、この「フツー」が続くことを願うけれど、秘められていた強大な力を覚醒! しかしそこにはおそるべき蜜(みつ)の陰謀が!?
簡潔完結感想文
- 文化祭。鬼に守られる姫プレイかと思いきや、単独で妖事件を解決する。
- まともな人間の告白を断って選んだのは、あの人の鬼の花嫁として生きる道。
- 花嫁の浮気心で能力が消滅。妖が見えないはずなのに、妖のムクに乗れる矛盾。
早くも恋の相手が決定する、まだ前半の 3巻。
てっきりイケメン兄弟(しかも鬼)から迫られる三角関係で話を引っ張るのかと思っていたが、早くもヒロイン・ココの心は決定する。ココが どちらを選んだのか、という真相を最後に発表するのだろうか。でも描写が性格ならば、読者にもココの心の動きは分かる。明らかに反応が違う。でも矛盾や強引さが当たり前の本書だから、結末はどうにでもなるような気がしてならない。
『3巻』で気になった矛盾は2つ。1つは後半で能力を失って、妖(あやかし)や霊が全く見えなくなったはずのココが、飼い犬にした妖のムクの姿だけは ずっと見えていること。そしてムクだけは実体化も出来るようで、ココはムクの背中に乗って移動していた。これに対する説明は一切ない。もしかしたら作者が「大っきい獣と それに乗っかる女子」を描きたい気持ちを優先したのかもしれない。本当に作者は物事を深く考えられない人なんだろうなぁ、と思う。こういう矛盾を編集者側は指摘しないのだろうか。メインであろう小中学生読者を舐めんなよ、と言いたい。
矛盾の2つ目は今回のタイトルにしたように、焼き鳥を知らないような鬼の零(れお)と十(とあ)の桐生(きりゅう)兄弟が、メイクアップ技術や服飾用語を熟知していること。1000年以上 生きているらしい兄弟が、現代の10代として生きるために知識をアップデートしているという設定を読者側で脳内補完できるのに、焼き鳥を知らないという どうでもいい設定のせいで台無しになっている。もしかしたら『1巻』で十が「もともとゴハンじたい あんまり食べないし」と言っていたから、鬼には食に関する知識は欠落しているのかもしれないけど。かと言ってメイクの知識と技術は どこで得たんだ、という話になるが…。
そして『3巻』を通じてイライラさせられたのが「鬼の花嫁の力」について。
『3巻』はココの力が増幅して暴走し、そして消失するという目まぐるしい内容になっているのだが、そもそも「花嫁の力」が何を示しているのか分からなくて ずっと隔靴掻痒の感がある。単純に言えば霊力なんだろうけど、何が出来る能力なのかが作品内でハッキリしない。
基本的には鬼を神に戻す力なのだろう。けれど花嫁の力が強くなると鬼に与える力を増すらしい。これまでも桐生兄弟の力をブーストさせていたが、どういう原理で まだ花嫁に選ばれていない鬼が恩恵に与るのか よく分からない。
そして なぜ鬼の花嫁の能力が妖の浄化に繋がるのか、その関連性が全く分からない。鬼の花嫁というのだから鬼にだけ影響を与える存在なのかと思いきや、対 妖の面でも強くなっている。花嫁の力をエサにするのは妖も同じらしい。毛の黒色化もそうだったが、鬼と妖って共通点が多すぎて、違いが曖昧だ。きっと作者は こういう細かい設定を少しも考えない人なのだろう。変な設定の話は絶対に描かない方が良い。
ファンタジーと少女漫画は相性が良いようで、実は作者の力量が如実に反映されるので実は一番 難しいジャンルなのではないかと思う。作品の出来の差は想像力に左右される。200万部のベストセラー・藤間麗さん『黎明のアルカナ』も、話に穴が多くて私には いまいちだった。恋愛要素はないが上橋菜穂子さん の小説『精霊の守り人』を読んで、その歴然たる想像力の違いを知って欲しい。
学校イベント・文化祭。
この頃、恋心という概念を理解したココは急に自分の存在が みすぼらしく思えたりもする。特に零と十がミスコンに出場することを知り、彼らと自分の距離の遠さを考えると情けない。しかも優勝候補で読モをしている女子生徒に嘲笑され惨めな気持ちになる。
それをイケメンにリベンジしてもらうのが姫ヒロイン。零が読モ女性のプライドをズタズタにした後、鬼の兄弟によるメイクアップでココは見違えるほど生まれ変わる。花嫁が鬼を助けるのではなく、鬼が花嫁を助ける。上述の通り「焼き鳥」という食べ物を知らない2人が、ビスチェドレス、アームライン、チークなどの用語を使っているのに違和感を覚える。作者は こういう部分を どう消化しているのだろうか。
そして桐生兄弟によって色づいたココが挑むミスコン。司会が読モ女性のことを「優勝候補」というのはフェアじゃない。読モ女性はプライドを傷つけられ、その心に妖が入り込んでいるのだが、ココが慈愛の心で妖を浄化する。その美しい心に観客は魅了されて、ココは優勝してしまう。読モ女性は その現実にまた悪霊化しそうだけど…。
この回で重要なのは、ココは単独で妖を浄化できるということ。桐生兄弟に頼らなくても問題は解決できる。この回の前半は助けられてばかりだったが、後半は2人をリストラしかねない活躍ぶり。
彼らがココの成長を促すのは「鬼の花嫁は美しくなるほど 鬼に与える力を増す」「あくまで ぼくらのエサとして 磨いてあげただけ」という桐生兄弟の真の狙いがあるようだ。再読しても最終的に これが何を意味しているのかは最後まで読んでも分からない。一つ一つの言葉が軽すぎて どうしようもない。
ここから桐生兄弟がココの力を増幅させる、「鬼の花嫁修業」編が始まる。
告白されても冷たくあしらう桐生兄弟に乙女心を説教するココ。そんなココにラブレターが届き、それを知った桐生兄弟は告白の対応をココから学ぶとする。兄弟を練習台にして2人からの模擬告白が見られる。しかし これもココの内側を かえて、心を磨き上げたら鬼の花嫁の力が強くなるという。順番的な問題なのか、それとも零から模擬告白されたからなのか、実際にココは その能力を開花させたようだ。
てっきりラブレターは性悪な十の仕込みかと思いきや 本物。しかも相手の男性は申し分なく、ミスコン優勝者だからとかではなく、ココの性格や長所を ちゃんと理解した上で告白してくれている。しかしココの頭に浮かぶのは桐生兄弟。だから自分には恋が早いと お断りする。しかし模擬と本番で、前者の方にドキドキしている自分に気づく。
こうして「力は そろそろ十分みたいだ」。ただし鬼の花嫁の能力は1人限定らしい。そういえば蜜が言っていた、花嫁に選ばれなかった鬼は死ぬというルールは2人は知っているのだろうか。
この告白にまつわる修行を通して、ココは恋をしている自分に気づく。それは能力の開花でもあって、急激に力が強くなる。
やがて力を制御できなくなり、ココは暴走状態となる。それをコントロールする術を兄弟は教える。なんで鬼が鬼の花嫁の能力の理解が こんなに早いのかが分からない。彼らだって初めて会ったんでしょ?? 1000年に1度 会えただけのレアな鬼の花嫁の文献が存在しているのも謎すぎる。だれが本に まとめたんだよ。
ココの能力は妖の最良のエサにもなるらしい。飼い犬のムクが食べれば問題がないが、それ以外の妖が食すと桐生兄弟でも手に負えない力になるようだ。このシャボン玉のような能力の塊は鬼は吸収できないのだろうか。本当に よく分からない。
寝ている間のココの暴走を止めるために一緒に寝る3人。その際に3人の小指同士を糸で結んで行動を制限する。寝相によっては首が締まるような気がするけど…。その糸に能力が伝わることでココは その糸が運命の赤い糸のように感じる。同時に本来は1本であるはずの赤い糸のことを考え、自分が兄弟の どちらかしか選べないことを予感する。だからココは「いまのままが いいな」「ずっと いまのままで」「三人でずっと はなれたくなんかないよ」と願う。
翌朝、ココが目を覚ますと能力の暴走が治まっているどころか、能力自体が消失してしまう。これは花嫁として最悪の願いをしたから。現状維持を願ったココは花嫁の資格を失ったということか。実際、ココが何を願ったかを知り、桐生兄弟は顔面蒼白になっていた。
能力をすべて失うことで、ココは霊が見えなくなる。なぜムクだけが実体化したままなのかは不明。こんな雑な設定ばっかりだな、この漫画。
ココはオレンジ色の雷を見て、そこにいる蜜に会いに行く。そこで蜜からココは自分で能力を封印したことを教えられる。どうやらココが力を操れるようになったことで、その力を無意識に封印する能力まで身につけてしまったらしい。ココが成長することを拒んでいるから能力は発現しない。
そしてココは本当は既に特定の人に恋する気持ちを持っているのに、その気持ちを殺していると蜜は見抜く。前回のヒロインらしい3人で現状維持を望む言葉が嘘なのかよ!と、願いを捏造するココの行動に驚かされるばかりの展開だ。