鳥海 ペドロ(とりうみ ペドロ)
百鬼恋乱(ひゃっきこいらん)
第01巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★(4点)
その日、ココが出会ったのは、あまりに美しい鬼の兄弟だった……。「人ではないもの」が見えること以外は、ごくごくフツーの女子高生・卯ノ花ココ。けれど、哀しき黒犬の妖におそわれたとき、眠っていた力が目覚めて!? 和風ファンタジーラブ新感覚、開幕!!
簡潔完結感想文
- 年齢以外は「なかよし」読者と同レベルのヒロインがイケメン鬼と遭遇する。
- 低級の存在の妖(あやかし)が気づくヒロインの能力をスルーする無能な鬼。
- 2話までの和風ファンタジーを早くも見切りをつけて、3話から仕切り直し??
世界を維持する力が神(作者)にはない、の 1巻。
全ての伏線を放棄した かの迷作『甘い悪魔が笑う』の作者が描く和風ファンタジー。掲載誌の読者の年齢に合わせたであろう、とても高校生には見えない 頭が空っぽなヒロインは健在で、前作と同様 平凡なヒロインがイケメンと急接近して特別扱いされることで日常生活が大きく変わっていく。違うのは彼女の前に現れたイケメンが執事ではなく鬼だという点。その鬼の目的にヒロインは巻き込まれていくことになる…。
褒めるところがない『甘い~』の後だったので心配だったけれど、一応 本書は結末らしい結末まで辿り着いている。それだけで安堵した。そのぐらい作者への信用度は低い。ただし それも編集者との二人三脚があって何とか読めるものになったのかな、と思う部分はある。基本的に作者は物語を組み立てるのが あまり得意ではないだろうと思う箇所が幾つもあった。
まず初期の「和風ファンタジーラブ」というコンセプトが2話で消失している気がしてならない。最初の2話だけヒーローが戦闘になると なぜか和服で登場するぐらいで、物語のラストなんて和洋折衷も いいところ。「乱れてやるよ!!」という決め台詞も最初の2話だけ。そして1話ではなく3話から突然 同居が始まったりして、試行錯誤の形跡が見える。
そう考えると3話以降、妖の登場が激減している気がする。これは あまりに不気味に妖を描きすぎて読者に受け入れられなかったための路線変更なのだろうか。最初の2話での読者の反応を分析して、妖や和風ファンタジーは決して受けていないと分かって、さっさとコンセプトを捨てたのかもしれない。
そもそも神であった鬼という設定のヒーローたちが わざわざ高校に入学する意味が分からない。例えば彼らがヒロイン・ココを調査するために潜入したとかの理由があればいいが、そもそも鬼たちはココの能力に気づかない。神であった自分たちと一緒にしないで欲しいと下に見ていた妖(あやかし)の方がココの力を狙う理由がハッキリしている時点で鬼は たいへん無能である。初登場から恰好つかないヒーローに失笑が漏れる。
おそらく作者の脳内では年頃の女性の中から目的の人を探すために学校に入学して、多くの女子生徒と触れ合うことで能力の有無を1人ずつ確かめるという流れなのだろうが、目的の女性が高校生だという確かな情報はない。そもそも彼らに目的の人を探し出すセンスがないのを先に描いちゃってるから、前提が崩壊している。
また、転校後から学園ホラーが始まるのなら学校を舞台とする理由もあるのだが、そういう長期的展望は本書にはない。更に上述の通り3話からヒロインとイケメン2人が同居を始めるので学校という舞台に固執する理由も無くなる。鬼と一緒の学園生活という安易な設定のために、何百年も生きている鬼という存在の彼らの人生の厚みが消えていた。作者が ちゃんと考えていないから鬼たちが まるで格好良く見えない。何百年間も彼らは当てずっぽうで動いているのかとアホみたいな行動になってしまっている。
あと、よくよく考えてみれば鬼たちと妖の関係性が分からない。彼らにとって特別になったココを狙う妖の排除に動くのは分かるが、それ以外に鬼は妖を敵対する理由がない。そもそも鬼は この世界の平和のために戦っている訳ではない。作品的には妖はココのピンチを簡単に演出できる小道具でしかないのが残念。上述の通り、妖が読者に受けなかったのか出番は激減し、一体 何のために この世界に登場しているのか ますます分からなくなる。
それはココの側も同じ。彼女が10年前に妖が見えるようになったのは母の死と関係がありそうだが、その辺は説明されない。そして「鬼の花嫁」であることと妖が見える能力の関連性も特にない。妖が出てくる必要性がない。路線変更の結果なのかもしれないが、それなら『2巻』から始まる鬼同士のバトルロイヤルを最初から持ってくればいいのに。真面目に読めば読むほど展開の意味不明さが際立つ。この辺も作者の世界の創造の仕方が上手いとは思えない部分だ。
厳しいことを言えば想像力不足なのか、世界観が薄っぺらい。これは低年齢向け作品だから作者が読者と視線を合わせる作品作りをしているのではなく、『甘い~』同様に物語を壮大にしても、その世界を作者の想像力が支え切れていない気がした。作者自身の こういう世界が面白いと思う、こういう内容を描きたいという強い意志が見えてこず、取り敢えず読者に受けそうな設定を使っているだけのように思える。あとがき にあったようなセレブ兄弟設定で一度 正統派の物語を完成させて、そこで学んだ経験から次回作の方向性を決めても良かったかも。実力が不足しているのに変わったことを やり過ぎだ。ファンタジー作風でブレイクまで試行錯誤を繰り返したという くまがい杏子さんのように自分の特性を見極めるのが大事なのではないか。
絵も悪い癖が出てきていて、ヒロインは より顔が幼くなり、バランスが崩れている。つぶれた饅頭という表現がぴったり。反対にヒーローたちに群がるモブのJKたちは驚くほど大人びていて色っぽい。それなのにヒーローが綺麗なJKより「ぬいぐるみ体型」のココが選ばれることで まだ未熟な「なかよし」読者を安心させているのだろうけど。
反対に妖のデザインは怖すぎて驚いた。表紙に惹かれて買った読者の中には最後まで読めなかった人もいるのではないか。男性キャラ・ヒロイン・妖が それぞれ違う世界線の存在のようで なかなか目が慣れなかった。
15歳の高校1年生、卯ノ花 ココ(うのはな ココ)が その日の登校時に印象的な出会いをしたイケメン兄弟・桐生 零(きりゅう れお)・十(とあ)が学校に転校してくる。どうやら2人は「力を持つ唯一無二の女の子」を探しているらしい。
桐生兄弟に出会う前に、ココが その日の朝に声を掛けた犬が物語を動かす。この犬の存在がココが町の人から「変わってる」と言われる真実は良かった。ただココの能力なら実体か霊体かは見分けがつくように思うが。
1話ではココが純真な心を持っていることを表す場面が何度かあって、その清き心が悪霊化した犬の霊を鎮める行動に出る。その彼女を守ろうと零も一緒に悪霊の中に入り、零が気を失いながらも涙を流すココの涙にキスをすると秘められしココの力が解放される。その力で悪霊の恨みは消えていき、それを関知した零が「乱れてやるよ」という号令で犬の体内で力を行使する。てっきり爆散したのかと思ったら犬は小型化するだけ。どうやら零は脱出のために格好つけたらしい。「乱れてやるよ」が いかにも書名に合わせた とってつけたセリフで浮いている。その後も決め台詞になれば良かったのに、この決め台詞は2話までしか使われない。和服が彼らの戦闘服というコンセプトも2話まで。
桐生兄弟はの正体は鬼。そして「鬼は もともと神だった」「ひょんなことから地上に降りてきてる」らしい。彼らは「神にもどるために 見つけださなきゃ いけない人間が い」る。そして この一連の行動で零はココに見惚れ、そして彼女に宿る能力でココには「鬼の花嫁」になってもらうと宣言する。
ココは「肉体的にも精神的にも まったく平均以下」、だから十はココが400年 探し求めていた「鬼の花嫁」だとは信じない。本書のような2人のイケメンが登場する場合、黒王子はツンデレ、白王子がジェントルマンなことが多いが、本書では十が最初はココを快く思っていない。
2話は学校の怪談というテイストで、全生徒から嫌われている教頭に悪霊が憑依する。ココは何の解決策も能力も持たないまま教頭を助けたい一心で接触し、当たり前のようにピンチ到来。そこに十が現れる。ここで十がタイミングよく登場するのはヒーロー特権ではなく、この騒動を仕組んだのが十だから。彼は教頭を利用してココの能力を試したのだ。しかも試験結果は不合格。「力もない頭も弱い」「おまけにバカが つくくらいのお人よし」なだけのココは十にとって完全なハズレ。
だが十が仕組んだ以上の霊に囲まれて十とココはピンチ。絶体絶命だったはずが十が秘められた力を発揮する。これはココを抱きかかえた十の能力がブーストされているから。1話の零と同じく、ココとの肉体的な接触が鬼の能力を引き出すらしい。
十は自分でもココの能力を実体験することで彼女が特別であることを認める。そして妖たちは「この力をもとめて あつまってき」ているらしい。ということは零や十なんかより、下級存在の妖の方がココの能力を理解しているってことではないか…?? 外見だけのイケメン鬼の方がハズレである。この2話まで和服+乱れてやるよ、のコンセプトは守られている。
助けた教頭の計らいで桐生兄弟はココと同じクラスになる。
彼らの学校生活は順風満帆。2人とも女子生徒に囲まれ、零は友人関係や運動、十は頭脳と芸術面で優れた活躍を見せる。何百年も生きている鬼にとって学校生活なんて退屈ではないか、という疑問が湧くけれど。
そんな不思議な鬼の兄弟にココは興味を示して、尾行する。だが彼らは煙のように姿を消し、逆にココが帰宅したら家の中に彼らがいて驚く。そんな彼らをココは得意な料理でもてなしながら この物語の設定を学んでいく。早くも3話は総集編といった感じで、これまでの状況を整理するために使われる。
基本的に1話で開示された情報の繰り返しが多いが、この会話の中で地上に「おちた」桐生兄弟は もう一度「神様の世界」に戻る決意を固めていることが読み取れる。天界と呼べる場所で2人が何の神様だったかは今は秘密。
そして同時にココの背景も語られ、5歳の時に母を亡くしたこと、料理が得意なのは母に教わったからということが語られる。5歳児に揚げ物であるエビフライを教える親というのも なかなか どうかと思うが。ちなみに父親は存命なはずなのだが、存在は無視される。
ココが悪霊でも嫌われている人間でも助けるように、彼ら兄弟、特に零は割と単純に情に ほだされるタイプであることが見て取れる。この日、桐生兄弟と一緒に食卓を囲むことでココは桐生兄弟との交流で かつてあった温かい家庭を思い出し、彼らのことを「神様よりもだーーいスキッ!」と発言をする。そう思う根拠も薄弱で、この発言は不自然 極まりない。たとえ桐生兄弟が神から鬼になっても大好き、ということなのだろうが、神と比べる意味が分からない。
しかし単純な零は そんなココを気に入り、豪邸と呼んで差支えのないココの家に住むことを決める。同級生の鬼というコンセプトから早くも同居モノに いきなり舞台が移る。
零の同居発言は、ヒモ生活を満喫したい鬼の自堕落だけではなく、ココに迫る魔の手から一番 近い距離で彼女を守りたいという意図があった。最近 ココの周辺を嗅ぎまわっている存在に桐生兄弟は気付いていた。
そして恋愛関係では最初にココへの特別な想いを口にするのは十だった。この時の十の台詞、普通の男子高校生ならいざ知らず、とても数百年生きている者とは思えない台詞だった。
一方、零は ここ最近、ココの周辺を探っていた妖と戦闘する。この妖には「主(あるじ)」が いるようで黒幕の存在が匂わされる。零もまた言わないけれどココを特別に感じており、他の誰かが彼女を侮蔑することを許さない。
ラストが漫画表現として分かりにくいが、戦闘後の零がココに触れられて ぴくっ と動いたのは戦闘で受けた傷の痛みという解釈でいいのかな。そして ますます力が強くなったココとの肉体的な接触(抱擁)で回復していく、ということなのだろうか。もうちょっとココの能力について分かりやすい説明が欲しい。