鳥海 ペドロ(とりうみ ペドロ)
百鬼恋乱(ひゃっきこいらん)
第02巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★(4点)
乱れる! 鬼の兄弟と天然系女子高生の三角純恋!! 美しすぎる鬼の兄弟、零(れお)と十(とあ)。千年さがした「唯一無二の力」を持つ天然系女子高生・卯ノ花(うのはな)ココを、自分の花嫁にしようとする。甘い同居生活が始まるかと思いきや、襲来する数多の妖。さらに第三の鬼・東雲蜜(しののめ・みつ)が現れ、ココの体を奪おうとして――!?
簡潔完結感想文
- 第3の鬼の襲来で明かされるルールがある一方、最後まで分からないルールもある。
- 暗く染まった蜜は遠ざけたいけど、同じ存在の自分と犬は適用外という謎の線引き。
- 登場して即 敗退する蜜。彼の役目は兄弟をライバルにして三角関係を成立させること。
最初から鬼のバトルロイヤルで良かったのではないか、の 2巻。
『2巻』から第3の鬼・蜜(みつ)が登場する。『2巻』は蜜が一番 活躍していると言っても過言ではない。彼の お陰で鬼同士の迫力の異能力バトルが見られるし、蜜が引っ掻き回すことで三角関係が成立している。そして蜜が観測者にすることでヒロイン・ココと、零(れお)・十(とあ)の桐生(きりゅう)兄弟の現在の状況や「鬼の花嫁」のルールが整理される。
妖(あやかし)は本気で気持ち悪いと苦手意識を持つ私なので、これなら最初から複数の鬼が花嫁を争奪するバトルものを展開して欲しかったと思った。低年齢の少女誌らしく画面がうるさい本書だけれど、その分、戦闘シーンが派手になるので、もうちょっと鬼同士のバトルを見てみたかったな。元・神様によるバトルは、実在の神様をモデルにすれば能力も分かりやすいだろう。ここまでだと蜜は雷、十は水、零は火だろうか。設定は、おとされた神様=鬼なので、作中で鬼ばかり存在すると罪を犯した神様ばかりになってしまうけれど。
そして『2巻』で大事なのは、鬼が神様に戻れるほどの力を発揮する「鬼の花嫁」の能力の発動条件だろう。どうやら鬼の花嫁が、本気で鬼を愛した時、その能力が発動し「奇跡」を呼ぶらしい。そういう設定を用意することで三角関係に意味が出てきて、ただヒロインが意味もなく愛されるモテモテ漫画と一線を画すことが出来ている。
しかも こうやって「奇跡」という大雑把な単語を使うことで、最後は丸く収まることを予言している。こうすることで どんなタイミングでも即座に物語を畳めるという便利な状況が生まれている。細かい伏線や物語の積み重ねが苦手な作者には、このぐらい雑な展開の方が合っているのだろう。
ただ再読すると蜜の言動や、提示するルールに謎が残るのも事実。もうちょっと緻密にルールを設定して欲しい。作者が登場人物の台詞や行動に込められた思いが不足しているように思う。それは作者の作品への集中力や理解力が足りないということでもある。
蜜はココの首に興味を示して、それを食そうとする発言をするのだが、その発言の真意が分からない。首が「鬼の花嫁」の能力に関わってくる訳ではなさそうだし、花嫁の首を食べることが鬼の利益になるのかが不明。
そしてラストで蜜が「嫁奪(と)り」に負けた認定されているのだが、参加の意思を表明していない彼が負けるのが よく分からない。しかも争奪戦に参加することで「罪や穢れ」の象徴である髪の黒化が進むというのも意味不明。
新しいルールが提示されることで、ヒロイン・ココが苦難の道を進む未来が待っていることを示すのは いいけれど、訳の分からない描写や発言を入れるのは 止めてもらいたい。学校を舞台にしながらココと兄弟の3人しか物語に必要じゃないように、ルールにおいても余計な要素が多くて、作者が何となく世界を構築しているのが見て取れる。
低年齢向けの作品だから、深く突っ込まれないだろうという甘い考えが根底にあるような気がしてならない。掲載誌に関わらず どんな年齢層でも楽しめる作品が良い作品だと思う。ここまで齟齬や矛盾が多いと本当に作品に集中しているのかな、と疑問に思う。
『1巻』ラストで妖が「主(あるじ)」と呼んでいた存在が登場する。
名前は東雲 蜜(しののめ みつ)。彼もまた元・神様の鬼。神だったときは黒雷神(くろいかづちのかみ)と呼ばれていた。一応「和風ファンタジー」設定だから日本の神様らしい。彼は零や十よりも年少に見える(単純に背が小さいだけかも)。どうして本書の神様たちは肉体的に まだ成長中といえる10代半ばの姿をしているのだろうか(答えは少女漫画だから、だろうけど)。
学校に通っている様子もないし、家もなさそうだし、蜜もココの家に同居して、着実に逆ハーレムを構築していっても面白かったかも。蜜がココに ちょっかいを出し、桐生兄弟が本気で阻止するという展開だけでも1巻分はページを稼げただろう。
蜜は「鬼の花嫁」になる資格を持つココを攫いにやって来た。蜜の言動からすると花嫁の「首」だけあれば問題ないらしいが、この発言の意図、首の秘密などは明かされない。しかも鬼は花嫁を食べるという発言までしている。食べると何が起きるかも読者には分からない。伏線は もう少し丁寧に張って欲しいものだ。
そこから鬼同士の異能力バトルが始まる。蜜は神様であった頃の名前の通り、雷を操るが、十は水属性らしい。『1巻』でココの能力でブーストした時は それが氷になっていた。十は水神なのだろうか。
蜜は零と十がココを慈しんでいることを知って即座に撤退する。花嫁を狙うのではなく、彼らを つついて遊ぶことにしたらしい。戦闘後、ココは蜜が2人に似ていると分析。蜜にも博愛の精神を見せるのだろうか。
3人目の鬼という新展開以外に、恋愛面では三角関係がクローズアップされていく。零は気付かれないようにココの言動に照れているし、十は すっかりジェントルマンでココに愛の囁きを繰り返す。ココも3人での同居生活を楽しんでいる。
今回の蜜との出会いで大事なのは、彼の髪の一部が「暗く染まって」いたこと。これは罪や穢れがつくと そうなるらしい。いわゆる犯罪者と同じだという。しかも そういう存在に近づくとココまで暗く染まる可能性があるらしい。そして それを語るのは真っ黒な髪をした零なのである。なぜ この場面、零が自分の不幸を匂わせるような発言をするのかが謎。十がココを心配して語った方が自然な気がするが。
髪色は単純な黒王子と白王子というキャラ分けだと思ったが、どうやら2人の兄弟の違いにも意味があるらしい。なぜ何百年も行動を同じにする2人に違いがあるのかは現時点では不明。
ちょっとネタバレになるが この罪というのは少女漫画的に言えばトラウマなのだろう。三角関係モノの少女漫画で、どちらがヒーローを見分ける試金石となるのはトラウマの有無。大抵 トラウマ持ちがヒーローである。なぜならクライマックスにドラマが作りやすいから。という方程式を持ち出せば、本書も どちらがヒーローになるかは自ずと分かってくる。
ちなみにココが飼い始めた悪霊化した犬・ムクも同じように暗く染まっているらしい。元 神様の鬼と、そこら辺の妖(あやかし)に同じルールが適用されているのが ちょっと変だと思うが。黒いものを避けるべきなら零やムクと一緒にいることはココにとって良くない状況。それなのに零はココに それを許しているという矛盾した展開になっている。
零とココが少し良い雰囲気になった後で十が登場。この行動の遅れで十が当て馬っぽく見えてしまう。ただ零よりもストレートにココへの恋情を語るので、ココは十にドキドキを覚える。零は素直になれなくて遅れを取るタイプだろう。
蜜が再びココの前に現れるが、今回はココに鬼と人間の三角関係成立の お知らせだけして帰っていく。こうして一層 桐生兄弟を異性として意識し始めるココ。
なぜかテスト後ではなくテスト前に企画される肝試しでイベント回が始まる。ただし学校の生徒たちの存在は丸々無視され、鬼と花嫁の場面ばかりが続く。やっぱり桐生兄弟が学校にいる意味があるとは思えない。
それにしても自宅ならともかく、学校やクラスメイトの前で桐生兄弟とスキンシップするココは嫉妬の対象にならないのだろうか。肝試しの時なんて零に後ろから抱かれる形で座っている。周囲からマスコット扱いされていることは、周囲に女扱いされていないと同義、と藤原(ふじわら)くんは教えてくれたけど(ヒナチなお さん『藤原くんはだいたい正しい』より)。
くじ引きで お化け役となったココは雑木林に入る。そこでココが出会ったのは悪霊、ではなくナンパしてくる悪いお兄さんたち。身体をまさぐられそうになるピンチに現れるのは零。圧倒的な力でナンパ男たちを退散させる。性暴力の恐怖に震えるココを零が優しく抱きしめて安心させる。
そんな2人の前に蜜が現れ、彼らの三角関係を茶化す。しかし蜜の言葉に零が照れ隠しで過剰反応して「こんなの女として見れるかよ」「神にもどるための道具」と小学生男子のような発言をして、同じく小学生レベルのココも「零なんか ぜんぜん 好きじゃないんだからッ」と反論。ショックを受けたココは零から逃げるように離れる。
だが それが蜜の見たかったショーの始まりの合図。1人になったココのもとに悪霊を集め、どちらの騎士(ナイト)が助けに来るかを楽しむ。
おそらく距離的にも近いため零が早く蜜のもとに到着する。
1対1の鬼同士の会話で蜜は、零の中にある十に対する気持ちを見抜く。それが「花嫁を弟にゆずるつもり」という気持ち。なぜ鬼の花嫁を前にして、兄弟が仲良く過ごしている。しかも単純な戦闘力だけでいえば零は十よりも強い。それなのに膠着状態が生まれるのは零の心理的ブレーキが作用していると蜜は一瞬で見抜いた。こうなると十なんかよりも蜜の方が「判断力や分析力」に優れていると思われる。
蜜は それを ゆずられた方は屈辱的だと認定した上で、十が登場する。十は蜜の心理攻撃だと思ったようだが、零の様子を見て それが零の考えであると知る。零はココが十が初めて本気になった女性だから彼に ゆずりたいらしいが、十には それが零の本心じゃないように思う。零はココを他の男に取られることを許容できる訳がないと十は考えている。
兄弟喧嘩はココの近くにいた妖が凶暴化したことで打ち切られる。妖は単純に「鬼の花嫁」の持つ力に引かれるが、鬼の花嫁の力が 本当に力を発揮するのは「好きな男と いっしょになった とき」だという。「人の世の業を超え 過去と未来を うち捨て 魂を捧げて いっしょにいたいと ねがってくれたとき」「奇跡の力が生まれる」という。要するに鬼の花嫁の力で何でも出来るということらしい。確かに最終盤の とんでも展開は奇跡の力としか言えないだろう、などと意地悪く思ってしまう。
零はココが十に抱きかかえられているのを見て、自分の中の独占欲を正直に認める。こうして桐生兄弟は正式にライバル関係となる。鬼の花嫁の力を発揮させるためにもココに「好きな男」と認定されることが彼らの目標となる。
なぜか兄弟2人が正式にライバル関係になっただけで蜜の髪が一段と暗く染まる。別に彼は正式に「嫁奪(と)り」に加わってないのに、負けた鬼と認定されたらしい(誰に?)。そして花嫁に選ばれなかった鬼は死ぬという不吉なルールを発表する(なんで?)。