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少女漫画と小説の感想ブログです

当て馬にもなれない実況・解説の鬼は、秘密の過去を教えたら お役御免で消滅危機。

百鬼恋乱(4) (なかよしコミックス)
鳥海 ペドロ(とりうみ ペドロ)
百鬼恋乱(ひゃっきこいらん)
第04巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

鬼の花嫁の力を失ってしまったココ。フツーの同居生活を続けたいあまり、零(れお)と十(とあ)の鬼兄弟のどちらか一人を選ぶことができず、ココは自分で自分の力を封印したのだ。何も知らないココにあきれて、千年前に起きた悲劇を教えてくれた蜜(みつ)。いまココが零と十のためにできることって!?

簡潔完結感想文

  • 少しずつ明らかになる兄弟の過去。数百年前の元カノみたいな女性ライバル。
  • 零の目的は復讐。そしてココは道具。片想い初心者のココには切ない展開。
  • 学校の蛇口から出た水道水で作った特別な刀を君にプレゼントしたいんだ☆

れで零エンドじゃなかったら大どんでん返し、の 4巻。

鬼の桐生(きりゅう)兄弟がニコイチで行動している上に、ヒロイン・ココにも言っていないことが多くて彼らの心の距離は広がる。ココの情報の欠落や不安を埋めるのが、兄弟と同じように鬼に堕ちた神様・蜜(みつ)である。『4巻』は彼が大いに物語を動かしている。これまでも実況・解説として現状を報告してくれていた蜜だが、今回も謎の能力を使って、桐生兄弟しか知らないような過去をココに見せる。
そして過去の情報をココに渡すという作品上の役割を果たしたら蜜は いよいよ消滅するようだ。現在の三角関係を盛り上げ、過去の元カノ(のような存在)との三角関係を成立させて、十分に恋に波乱を起こしたら蜜は お役御免のようだ。最期まで「鬼の花嫁」に選ばれなかったら死ぬ実例を示すなんて、どれだけ便利な脇役なのだろか。

この場面、何で蜜が直接 知り得ない情報をココの脳内に見せられるのかが引っ掛かる。過去の重要人物である かぐや の顔なんて蜜が知る術はないだろうに。百歩 譲って鬼の特殊能力に過去の映像の再現が可能だとしても、かぐや にまつわる過去をココに見せるのは零(れお)か十(とあ)でなくてはならない。それなのに蜜に その役目を担わせて、ココに自分と かぐや が似ていると言わせてしまっている。零にとって大事な女性2人が似ているというのなら、当事者が映像を見せなくてはならないのに、そういう大事な部分でミスを犯しているのが、作者の残念でならない部分である。

蜜は狂言回しとして優秀なのは分かるが、彼が知り得ない情報を見せる展開は疑問。

去を知る過程こそ残念ではあるが、ココが過去を知ることで、自分もまた零と十にとって、特別な女性などではなく、存在価値はその能力があってこそ、という残酷な現実が見えるのは良かった。ココは零への特別な気持ちを抱き始めているが、それを封印し、その上 零にとって復讐の道具でしかないことが判明する。単純な恋愛作品として考えると、このココの望みの無さは他の作品以上に絶望的で、心が壊れてしまいそうな状況である。

このように零に完全に望みがなくなった状況だから、十エンドのルートが見えるということを作者は描きたかったのだろうか。いまいち読者に伝わり辛い描き方なのが惜しいと思うが、そう考えると、十ルートが急に復活したのも分かる気がした。ココは元カノ的存在の かぐや が忘れられない零よりも、自分を大切にしてくれる十と一緒にいることを選ぶというのは寂しさに負けたヒロインが採るような行動だと思う。まぁ 結局、十は当て馬ポジションには変わりなく、通常作品なら一度は交際してみるも、キスもしないまま別れるような展開が待ち受けているだろう。

ただ現在においても過去においても十は零のおまけでしかない。過去の描き方も零だけが かぐや に深い思慕を抱いていた。もう少し十を上手く使ってあげられるようなバランス感覚が欲しかった。これでは現在過去の2回とも三角関係が成立していない。

そして相変わらず残念な設定が多くて、「鬼の花嫁」が作るという羽衣の話は終盤で活用されることがなかったし、終盤で活用された刀の作り方は笑ってしまうほど雑だった。十が作った刀はココにとって大切な品になるのに、それは1コマで生み出され、しかも その材料は学校の水道水という残念な設定。もし最初から重要なアイテムとして考えているなら、十がココのことを想って時間と場所を選んで作ったなどのエピソードが欲しい。なのに作者は それを水道水で終わらせてしまう。話の組み立て方とか演出とか本当に下手すぎないかと、物語の良い部分を相殺してしまいかねないツッコミどころが多すぎる。


コが蜜から見せられたのは、神が黒色に染まる以前の天界にいた零。彼は おそらく「神殺し」という大罪を犯して神から鬼へ堕ちたことがリアルな映像でココの脳内に繰り広げられる。

しかし なぜ蜜には自分が見てもいないであろうシーンを他者に見せる能力があるのか。能力の使い方が いちいち引っ掛かる。そして映像を見せられてもココは零を信じるという。
続いて蜜に見せられたのは、かぐや という女性の最期の姿。彼女のアクセサリーは桐生兄弟が身につけている物と同じ品。かぐや が息を引き取り零が慟哭している場面を見て、ココは目を覚ます。

目覚めた彼女の前にいるのは零と十。ココが説明を求めて蜜を頼ったと知り、零は鬼と「鬼の花嫁」の関係について話す。「鬼は花嫁から力を与えられることで羽衣を作る」らしい。うーん、終盤で羽衣って出てきた?? 零が真面目に話している内容なのに、作者が伏線を回収しないから適当な説明にしてしまっている。前作でも伏線や布石を並べるだけ並べて使用しなかったのに、今回も同じことをしている。これでは ちゃんとした話を作れない人なんだろうという烙印を押されても仕方がない。

かぐや という女性は かつて神だった頃の桐生兄弟に興味本位で近づいてきて とばっちりで「削除された」女だという。そして零たちは けがれた人間に近づく というタブーを破ったから神さまじゃいられなくなった、と説明する。これは いまいち しっくり来ない説明で、しかも零たちは自分たちの願望のために花嫁としてのココを必要としている。ココは桐生兄弟から新情報を与えられ、自分の力が必要とされることで承認欲求を満足させられたみたいだが、結局 零たちはココではなく彼女の能力に固執し、利用しようとしていることを強調しているだけではなか。


は千年前の かぐや への想いをココに聞かれても正直に語らない。花嫁としてのココの機嫌を取ろうとするが、同じ立場で真実を語ってくれない不誠実な鬼だ。
それをココは見抜く。それは今 ココ自身が零に恋をしているから分かることなのだろう。彼らの間にあった感情は紛れもなく、今 自分が抱いている想いと同じ種類のもの。

零には忘れられない女性がいることに気づき、ココは 同居していても自分もまた周囲の女の子と同じように 零にとって特別じゃない存在だと思い知らされる。そのことがココに大人びた表情を浮かび上がらせ、その表情に兄弟は魅了される。
その痛切な思いからココは十に対して零のことを もっと知りたいと伝える。それは十の心を引き裂くような発言で、十はココを力強く抱きしめ、自分の存在を見てほしいと訴える。もう この時点で三角関係の答えが出ている。


は誠意がない。ココはデリカシーがない。そして十には余裕がない。
そんな十の前に蜜が現れる。その蜜に零に後れを取っている現実を突かれて十の心は痛むばかり。

ちなみに この時、十は水から一太刀の刀を作り出していて、これが最終盤に使われる道具になるのだが、学校の蛇口から出てきた水道水で作った刀というのが なんとも間抜けだ。しかも十の力が こもっている様子もない。道具の使い方ひとつでも物語の作り方が下手だなぁと思ってしまう。

焦燥の中 一瞬で作った刀を「ココを護ってくれるように祈りをこめた」とエピソードを捏造。

焦った十は蜜の囁きに乗って、ココと一緒に出掛ける。ココが向かった先は自分の母親が眠る墓所。蜜は墓という物を知らないという描写があるが、焼き鳥を知らないと同じように鬼は知識に偏りがあるという表現なんだろうか。蜜が墓を知らないことで何を表現したいのか分からないが。あと『3巻』から蜜が行動を共にしている二千歳の猫股(ねこまた)の存在意義が全く分からない。これから見せ場があるのだろうか。


コの周りに妖が集まったところで、十は豹変する。生み出したばかりの刀の刃をココに向け、動きを封じた上で、彼女の首筋に傷をつけ、舐める。

だが そこから十はココの手を取り、彼女と一緒に刀を一振りして、周囲の妖を消滅させる。どうやら蜜の計画に乗る振りをして十は彼を騙していたらしい。
わー、驚いた。ってかこの時 そもそも十が何を狙っていたのかが いまいち分からないから展開にポカンとするばかり。零に奪われるぐらいならココを殺してしまおうというミスリードを作者は描きたかったのだろうか。そもそも十の心の動きや蜜の狙いが理解できないから、起こってることに戸惑うばかりで展開を面白いと思えない。漫画が伝わってこない。まず首筋を切ったことの意味も分からない。ここで花嫁の血を摂取することで力のブーストにしたかったのか。でもココは今 無能力者状態なんでしょ? ちゃんと読者に分かるように描いてよ、と感想を書いていると苛々してくる。

そして十はココを護ってくれるように祈りをこめたという水道水の刀を彼女に渡す。特別な刀なら もっと霊脈の通り道から力を抽出したとか由来が欲しいところなのに水道水。

ここで十が覚醒することで、これから三角関係が混迷を極めるという実況・解説の蜜の見立て。だけど明らかにココの気持ちは決まっていて、作品的にも結論を出しているのに、十にも勝機があるというのは無理がある。


回が十の個人回だったからか、今度は零回。産休明けの教諭の赤ちゃんとベビーシッター体験をする。意外にも赤ちゃんに好かれる零。悪ぶっていても さすが元・神様なのだろうか。

ココも赤ちゃんも寝てしまってから零は過去を回想する。零は神殺しをして復讐を果たしたが、最後に かぐや の殺害を指示した者が名乗り出て、零は天界から堕ちても また戻る必要が出てきたようだ。ちなみに この天界、完全に洋風建築で、復讐相手も洋服を着ている。和服も すっかり着なくなったし、やっぱり和風ファンタジーというコンセプトは捨てたのか。

そんな零の個人回のラストで、髪が全て黒く染まった蜜が登場する。参加もしていない嫁奪(と)りに敗れてから加速度的に黒髪の進行は進んでいるようだ。そして彼は間もなく消滅するという。蜜は兄弟の前哨戦・前例としてココに過酷な運命を教えるのが最後の役割になるのだろうか。