鳥海 ペドロ(とりうみ ペドロ)
百鬼恋乱(ひゃっきこいらん)
第06巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
千年もの間、かぐやを想い続ける零(れお)のせつない恋心…。それでも鬼の花嫁として、そばにいることを決意したココ。しかし、刻々と迫りくる運命の時――。“三人”の時間は、もうあとわずかしかなくて……。
簡潔完結感想文
- おそらく三者三様の つらい恋を描きたいのだろうが、最終盤まで報われなさすぎ。
- 1年で2回目の文化祭。さらには消滅危機に対し同じことを繰り返すバカヒロイン。
- 残酷な運命を散々 提示したのに、全員が助かるルートに入る ご都合主義のはじまり。
鬼の花嫁とは何か、作者も きっと分かっていない 6巻。
まず唖然としたのは1年で2回 開催される文化祭である。夏休み前の1学期中の『3巻』でやったのに、夏休み明けの2学期でも開催。まさか学年が変わった訳じゃないから、そういう学校という設定なのだろう。そう思おう。
これは おそらく連載中に担当編集者が変わったことが原因で、編集者も そして作者も疑問に思わなかったから2回目の文化祭が開催されたのだろう。こういう部分が本書のレベルの低さを如実に表していると思う。雑誌の掲載がハロウィーンの時期だからと言って、それに合わせてしまう。リアルな読者は小中学生だからと言って子供騙しを繰り返すのは失礼だ。集中力の問題なのか、それとも作品にかけるプライドの欠如なのか分からないが、この読者にはミスとしか思えない事態を引き起こした原因は作者にある。
また、散々 ヒロイン・ココに待ち受ける残酷な運命を提示させておいて、それを回避させる気満々なのが見えるのも残念。「鬼の花嫁」という立場と設定を用意しているのに、それを使わないルートに入った。もう終盤と言って間違いのない『6巻』になっても、花嫁の全容が明らかになっていないのも読者としてはフラストレーションが溜まる一方だが、結局、その能力を使わないまま最終決戦に臨むのも肩透かしとしか言いようがない。死ぬ死ぬ詐欺が何回も繰り返される作品だった。
そして「嫁奪(と)り」「羽衣」など用語だけは増やしていったが、結局それを使わないことは作者には分かっていたのだろう。全てを奇跡で片付けることは途中から予想されていることだし。
こういう壮大な話だと作者が ようやく この場面を描けました、みたいな力の入った場面が続くことが多いが、作者の場合は最終盤も大きな構想がないまま描いているように見える。編集者に「道」を作ってもらって、どうにか話が成立しているギリギリなレベルに思える。
三角関係にだけ注目すれば本書は かなり切ない。
・ココは零(れお)に惹かれながらも、彼の心は決して自分に向かないことを知っている。
・零は昔 愛した女性の復讐を果たすためだけに生きており、彼の想いは絶対に成就しない。
・十(とあ)はココを愛しながらも、ココは兄の姿ばかりを見て自分を視界に入れない。
究極に切ない三角関係が完成しているのは分かるのだが、『6巻』ラストで天界に上る その時までココの気持ちが零に届かないのが気になる。最後の最後まで零が昔の女性を引きずり過ぎていて、一緒に手を取り合って最終決戦に臨むのではなく、報われなくてもココが零への想いを捨てきれないという辛さばかりが印象に残る。そして『6巻』まできても零の心に昔の女性=かぐや がいるとなると、ハッピーエンドになっても急な心変わりに思えてしまう。せめて最終決戦前に零がココに惹かれていく様子が段階を経て描かれていればいいのだが、それもないまま。
これは鬼の花嫁の設定と同じく、恋愛成就も最後の最後でどうにかしてしまおうという意図なのだろう。色々 残酷な運命を匂わせたり、切ない恋心を演出してきたが、それを一切 整理することなく最終決戦に入ってしまった。なんだか引っ越しの際に物を全部捨てるから一切掃除をしない、みたいな乱暴な論理を感じる。
そして切ないけれど十が過去も現在も徹底的に部外者で当て馬にもなれていない。そういえば『前作』も当て馬が機能していなかったが、これは作者の能力の問題なのか。以前も書いたけれど1回 普通の恋愛モノを描いてみて欲しい。話はそれからだ。
いよいよ零に告白したココ。零が望むなら彼以外の全てを捨てられる覚悟があると言う。しかしココの愛情は零の中で勝手に博愛に変換されて、ココは怒る。零がココの気持ちを茶化したのは自分にはココ以上に大切なものがあるから。だからココは願望成就の道具に過ぎない。それでもいいのか、と零は問う。こうしてココの一世一代の告白は絶望に突き落とされて終わる。
この零の発言「捨てる」の意図が全く分からなくて困る。巻を跨ぐための思わせぶりな発言なのだろうか。鬼の花嫁になるとココが何かを捨てるようで、作者の脳内では意味のある言葉なのかもしれないが、読者にそれは伝わっていない。っ
そして鬼の花嫁になる意味を改めて考えるココに、十が花嫁の知識を教える。しかし ココでの説明も相変わらず あやふやで、今回の説明では これまで出てきた「羽衣」というワードが出てこない。連載が予想以上に長くなっているみたいだが、その間に設定を固めることは出来ただろう。なんで こんな終盤にまで来て、ぼんやりとした話しか出来ないのだろうか。
そして十は零の目的を伝える。零は、ココの力を利用して天界に行く道を確保し、その上で最愛だった かぐや という女性の復讐を果たすのが目的。ココは零に一歩も近づけていないのだ。
それでも結局、最初から最後まで両手に花の姫ポジションであるココは女性たちの嫉妬の対象となる。特に十に守られるココを目撃して ゆのん は彼女の心を壊すことを決意する。
その実行に ゆのん が選んだのが本書2回目の文化祭。秋開催となった謎の2回目は掲載号に合わせてハロウィーン回にも なっている。ハロウィーンは死者が よみがえる日。その情報をココに伝えて暗示にかけやすくした ゆのん は、彼女の前に亡き母親を登場させる。その姿を見てココは駆け寄りそうになるが、それを零が止める。そして ゆのん の能力が妖ではなく天界由来のものであることを見抜く。
だが今度は零が ゆのん の精神攻撃を受け、ココが かぐや に見える。ココは現実的に零に守られながら、零が必死に守っているのは自分以外の女性だということを思い知らされる。ゆのん の聖なる力に圧倒される桐生兄弟(なぜか十も あっという間にやられている)。そしてココも零を守ろうと傷つく。
彼らを倒した ゆのん はゼウスに褒めてもらえると彼の名を出す。それに反応したのが零。彼は精神攻撃を受けたふりして沈黙し、ゆのん のバックにいる者の名を聞き出そうとしていた。そこで自分が かぐや と混同されていなかったことを知り、ココのプライドは回復し、鬼の花嫁の力で零を回復する。
一気に形勢は逆転し、ゆのん が追い詰められるが、聖なる力によって零は深くダメージを受け、かつての蜜のように消滅間近だと ゆのん は予言する。
蜜(みつ)の場合は大昔の嫁奪りに負けたことで消滅の危機を迎えていたが、零は髪が黒く染まり過ぎて消滅危機らしい。染まる暗さに身体が耐えられなくなって消えるらしい。終盤だというのに新情報が多い。切ない未来を匂わせるためなら、新ルールを作っちゃう。
でも蜜の時と同じく、人に目の前で消えて欲しくないから、ココは花嫁になると言い出す。またか、という感じで辟易する。ココが相変わらずルールを熟知していない状況が続くのも読者は もどかしい。
また、ここで ゆのん が改めて零が選ばれた際には十が消えるという情報を ドドンと発表するが、そんなの読者は『2巻』から知っている。最近 読みだした人への配慮なのか、これもまた編集者が変わったことの弊害か。
こうしてココが初めて兄弟の口から命の選択を迫られるが、嫁奪りの敗者である蜜の前例から考えれば、思い当たって当然の内容。単純にココの頭が鈍いとしか思えないシーンである。
その後、センチメンタルになったココが日常の素晴らしさを語った時の、「いま思うと それは 鬼と妖と人と まるで一夜限りの夢のような毎日でした」というモノローグを呟くのだが、一夜限りの毎日って何??? おそらく一夜限りという言葉は夢にかかっていて、その瞬間しか味わえないとか儚いとかいう意味で使っているんだろうけど、意味が通りにくいのは否めない。
その夜、ココは桐生(きりゅう)兄弟の会話を聞く。十は自分が消える前提でココを悲しませたくないと言い、零は全員が なんとかなる道を模索していた。その言葉でココは自分のことばかり考えていたことに気づかされる。自分が彼らの希望となれるように光を放つことを決意する。鬼の花嫁より前に少女漫画ヒロインとして正しく覚醒したようだ。
だが零に残された時間が少ないと察知した十は勝手な行動を取る。ゆのん に色仕掛けにも似た交渉を持ち掛け、彼女に自分を天界に連れていくように願う。
一方、十は自分の不在を気取らせないためなのか、ココと零にも仕掛けをしていて、彼らの放課後デートを仕組んでいた。これはクライマックス前の最後の日常で、最後の幸福になってしまうのか。
でも零は この前にココを道具としてしか見ていないと発言しているから、そんなに幸せな光景にならないのが残念。ココは こんなデートでも満足しているみたいで、その証拠に恋心が溢れたココは能力を暴走させる。その力は天に伸び、ココは能力の洪水を誰かが上から引っ張ているのを感じる。
これが十の真の狙い。ココが鬼の花嫁にならないまま、デートによって力を暴走させ、先に天界付近に潜んでいた十が、その力を利用して天界と地上を結ぶ道をつくる。
零は人のままのココを連れていけないと同行を願うココを拒絶するが、彼女の愛とキスに ほだされ3人で地上に戻ることを約束させて、ココと一緒に天に上り始める。
『6巻』での零の感情の流れが全く分からない。私には零がココを道具として見ているところまでしか感情を追えない。なんで零はラストでキスを受け入れ、ココを愛しているような行動を取るのだろうか。そして十は前半で「鬼には見えない道」と言っていたのに、鬼にも道が見えているのが気になる。これは道の種類が違うのだろうか。これも作者の中で設定が固まっていないから こんなことが起きるのだろう。読者には いい迷惑である。