こうち 楓(こうち かえで)
LOVE SO LIFE(ラブ ソー ライフ)
第04巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★☆(7点)
簡潔完結感想文
- 風邪回でヒーローのトラウマが解消し、25歳が未成年JKに手を出す準備が整う。
- 私の孤独が始まった第二誕生日。でも今年は私が孤独ではないと気づいた日。
- 俺が一番 知っている彼女の俺が知らない表情。オトナ男子? ふざけるな!
ラブライフバランスの取り方が難しい 4巻。
この辺りから いよいよ連載が定期となり、単発で終わる話だけでなく回を跨ぐ話も可能になった。『4巻』は大雑把に言うと松永(まつなが)の風邪回で2話、詩春(しはる)の学校生活と友情で2話、詩春と同じ施設で育つ同年齢の直(なお・男性)の秘恋もしくは悲恋で2話の計6話で構成されている。
このように『4巻』は全て大人組(といっても詩春たちは高校2年生だけど)で占められていて、2歳児の双子の出番が激減している。作者も『4巻』収録分の話を読み直して それに気づいたようだが(「あとがき」より)、初めてで不慣れな連載でバランス感覚が難しい部分があるのだろう。
意地悪な見方をすれば、ヒロインの詩春を聖女に仕立て上げる双子という道具が この辺りで不必要になったから切り捨てたのか思った(笑) ここから直と読者だけが成立したことを知っている三角関係をメインにしても それなりに人気は維持できただろう。
ただ今回のバランスの悪さに気づいてからは ちゃんと修正していて、これ以降、松永とのLOVEと双子とのLIFEのバランスが偏ることは無かったように思う。連載の重圧やストレス、体調の変化、そしてシリーズの最終盤には人生の転機などがあり、それでも作者が四苦八苦しながらも作品と向き合ったことに感謝したい。作者は本当に このシリーズの単行本しか出版がないが、生活が落ち着いたら また新しい作品に挑んで欲しいなぁ。ギャグと勢いで人気を獲得したような作品ではないから、2作目のヒットも実力で狙えそうだけど。
連載の長期化で陽の目を見たのが直だろう。彼は『1巻』から詩春が暮らす児童福祉施設の住人として登場していたが、この『4巻』で詩春への恋心を明確に表現されており、これで三角関係が成立した。直と詩春の関係性は複雑だが、単純に言えば幼なじみ枠だろう。そして年の差モノの作品に登場する同級生は間違いなく当て馬である…。
思えば巻頭の松永の風邪回で、詩春ではなく松永側の抱いていた孤独やトラウマが詩春の存在によって解消されており、これで松永が恋愛をする準備は整ったと言えよう。まぁ その前から松永は平気で未成年に恋心を抱くような危ないヤツなのだけど…。ただし これで松永にとって詩春が手に入れられなかった「温かな家族」という認識になったことは間違いなく、そして それは直が詩春に抱く将来像と同じものであると思われる。直と松永の対面や、その時 松永が直に どういう感情を抱くのかなど楽しみが広がる。
考えてみると詩春は松永とは「通い妻」のような関係だし、単純化しては申し訳ないが直とは半同居と言えなくもない関係性だ。2人の男性と それぞれ生活の半分を一緒に過ごし、彼らに2つの家族像を抱かせる詩春は無自覚な最強ヒロインではないか。ただし本人が気づかないだけで、彼女に8年間 恋をする直は詩春の恋心の萌芽に早くも気づいている。
双子の可愛さも本書の魅力だが、いよいよ恋愛も面白くなってきた。このままLOVEもLIFEも充実すれば本書は無敵なんじゃないか。
寒くなってきて風邪が流行し始める。ロケ先で池に落ちた松永は 元から引いていた風邪を悪化させてしまう。松永は双子たちを保育所に預けて1人で療養しようとするが、心配した詩春は その意向を無視して、双子も自分も家で松永を待つ。もちろん部屋を分けるなど対策はした上で、ではあるが。
松永は それに反論する元気もなく、帰宅 即 倒れてしまう。風邪で弱った心身は松永に過去の風邪の記憶を呼び起こす。それは小学生の頃、両親と兄の誰も看病してくれず、独りでベッドに伏せるしかなかった時の記憶。
今回、双子と別に過ごすために松永は かつての自室を使用する。詩春も初めて入る松永の部屋。個室への侵入は2人の距離感が縮まるエピソードでもある。そして かつての記憶とは違い、今は詩春が看病してくれる。過去の記憶と同じ部屋で眠りながら松永は その安心感の違いを身をもって知る。
詩春は松永が成人男性だということを意識しながらも、彼のために自分の照れや恥を捨て去り、看病に没頭する。風邪回は、松永が面倒を見られる回となった。風邪回ならではの密着ハプニングもある。ただし白泉社の風邪回なので、高熱の方は一切の記憶がリセットされるが。
松永は詩春に助けられるばかりではいけないと何とか自分の知り合いを招集する。近所に住む健(たける)と真菜(まな)の兄妹、そして元同級生の及川(おいかわ)が一つの家に集まる。健と及川は面識があるが、面識があるからこそ遠慮がなく騒がしい。
今回の彼らの役目は詩春に松永の過去を知らせることだろう。詩春は松永が過去に高熱を出した時にペットのハムスターを死なせてしまったという悲しい過去を知る。それだけ知れたら彼らは お役御免で、騒がしさに堪忍袋の緒が切れた詩春から帰宅を命じられる。真菜もまた双子に迷惑を掛けるためだけに登場しているのが可哀想…。
こうして今回の風邪回は詩春が松永の側に居続けることによって、彼の悲しい過去や記憶から解き放つ話へとシフトする。一種のトラウマの解消で、詩春の存在は家族愛が欠乏していた松永に温かさを与える、という通常とは逆の感情の補完が成立している。詩春に面倒を見られるのも双子じゃなくて松永なのも通常回とは違う点である。
さすがに深夜になった詩春は施設に帰る。だけど考えてみれば今の松永家には二階で動けなくなっている松永と、詩春の独断で保育所ではなく一階で寝かせられた双子である。翌朝まで8時間ぐらいは双子は管理者の居ないような状況の中、放置されている。これは危険だろう。眠りから起きた双子が詩春も松永もいないことにパニックになる可能性だってある。こういう部分は作品初期の考えの甘い部分だろう。明らかに詩春の判断ミスだが、何もなかったことで看過される。何かあったら訴訟モノである。
詩春の育った施設では入所した日を「セカンド バースデイ」と呼称していて、この日は誕生日と同じようにお祝いされるのが恒例となっている。子供の頃は おめでたいように感じていたが、18歳で施設を対処しなければならない詩春が この日を迎えるのは あと2回。自然と詩春は残りの時間を考えるようになった。
『3巻』の文化祭の頃から、手仕事を何でも器用にこなす詩春を逆恨みするクラスメイトの女子生徒。その子が最近、詩春に あからさまに冷たい態度を取ることで、詩春はクラス内での悩みを抱えることとなる。やがて女子生徒の逆恨みはエスカレートし、イジメのような仕打ちを受ける詩春だったが、このことを松永には相談できない。施設を出たら一人で生きていかなければならない、とい詩春の強い思い込みが誰かに相談しようという気持ちを打ち消しているのだ。
だが詩春は自分へのイジメが親友の梨生(りお)にも及んでいる場面を目撃してしまう。梨生が自分に何も話さないのを見て、詩春はイジメの主犯格と話し合いの場を持つ。彼女が出した条件は梨生との絶交。そこで詩春は梨生を守るために孤独の道を選ぶ。
それを許さないのは梨生。彼女から離れようとする詩春に近づき、詩春の存在意義は学校生活と同義であると言ってくれる。梨生は詩春のセカンドバースデイの話を聞き、自分もお祝いをしようとしていた。それなのに詩春と距離が生まれたことが悲しくて仕方がない。
2人が絶交どころか絆を深めたのを見て主犯格は一層 イジメに力を入れるが、彼女の動機が薄弱なため時間の経過とともにイジメは止む。こうして謝罪することなく終わることはモヤモヤするが、終わってくれたことに安堵する。
こうして少しネガティブになっていた詩春の気持ちは、温かなセカンドバースデイを迎えることで前向きになる。当日まで何も知らなかった松永もヒーロータイムとして珍しく施設にいる彼女に電話をして この日を祝福する。松永の優しい言葉を貰えば、いつだって全ては温かく楽しい思い出に変わる。さすがアナウンサー、彼の言葉には そういう力が宿っているのかもしれない。
続いても施設関連の話で、『1巻』から登場していた施設育ちで唯一の同級生・早見 直(はやみ なお)の話。彼は、詩春と違い両親と死別ではなく親の育児放棄により施設に来た人間。詩春とは違う苦しみを抱き、そして詩春が5歳まで与えられた愛情すらも受けることがなかった人である。だから性格が少し こじれており、言動は乱暴。だが根底には優しさが垣間見れる。
子供の頃、直は辛い時も悲しい時も施設内で笑顔を見せる詩春が理解できなかった。ただ段々と詩春が泣かないようになればいいと願い始めた。相手の泣き顔ではなく笑顔を見たいという気持ちは好意の始まりである。子供の頃、直は子供ながらに精一杯 詩春にプロポーズした時もあったが、それは上手く伝わらなかった。
直が詩春に好意を抱く経緯を抱いた過去回想で、詩春が変態に連れて行かれそうになったことが描かれる。その時 変態から詩春を助けたのが大学生ぐらいの松永だった。前半で松永が柔道経験者だという話が健たちの間で出ていたが、彼は その力で変態を制圧する(あまり柔道とは関係ない技であるが)。この時、松永の隣にいたのは当時の恋人だろうか。
詩春のピンチに直は力不足を痛感し、ここで松永がヒーローになるという立ち位置は彼らの恋愛の結末を予感させるものである。
共通の恐怖体験を味わった詩春と直。詩春は相変わらず笑おうとするのだが、直は その手が震えており、いつも平気な顔をしている詩春は精神力で感情をコントロールしていることに初めて気づく。だから今回は彼女の手を握り、その恐怖を共有し、軽減する。
そして詩春をずっと見守ってきたからこそ直は、松永家と関わってからの彼女の変化に逐一 気づいていた。8年近く一緒に過ごしてきた詩春が、初めて見せる表情に戸惑う直。そして詩春に変化をもたらしたのが「大人の男」であることが彼の焦燥を膨れ上がらせる。彼女を守れる力、それは体力だけでなく経済力もある。変態に遭遇して以降、それを詩春を守れる力を身につけたくて焦っていた直の前に、それを持っている男が詩春の前に現れた。
自分は成長途上で、まだまだ現実的に詩春と一緒に居られない という焦燥もあって、直は会った事のない松永を貶める発言をしてしまうが、自分の言葉が詩春から笑顔を奪ったことを知り、すぐに撤回する。こういう部分に直の優しい性格が出ている。直は同じ男として松永に嫉妬しているのだが、詩春にとっては直の言葉は家族としての厳しい意見としか受け取られていない。その歯がゆさを感じながらも、直は あの日と同じように詩春の手を取り、一緒に暮らす施設へと帰る。直の長い長い戦いが幕を開けようとしている。