《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

漢字一文字の植物たちが春の詩(うた)を聞き、芽吹き、やがて それぞれの花を咲かせる。

LIFE SO HAPPY 4 (花とゆめコミックス)
こうち 楓(こうち かえで)
LIFE SO HAPPY(ライフ・ソー・ハッピー)
第04巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

春ちゃんと政ちゃんの結婚の報告を聞いて、家を飛び出した葵くん。納得いかない気持ちを抱えた葵くんに、政ちゃんは結婚を認めてもらえるの!?ハートフル双子ダイアリー、しあわせいっぱいの完結巻!

簡潔完結感想文

  • 本書で2回目の8年間の片想い。彼らが大人になる前に全てを奪う 元ロリコン(笑)
  • 教会での式はないが、近所の公園で葵に対して夫婦は必ず幸せになることを誓う。
  • 命を預かる詩春が、命を授かるまでを描く番外編。詩春と作者が重なっている。

似家族が本物の家族・親族になるまでを描いた シリーズ完結の4巻。

単行本は2019年04月発売の『3巻』から4年以上が経過した2023年06月に この最終巻の発売となった。随分 昔の作品という認識なので あまり実感がわかないが2024年に読了した私は完結後1年の本を読んだということか。この4年の間に作者に何があったかは番外編と あとがき に描かれている。大きな悲しみと喜びと日々の忙しさの中で完結に向けて動いてくれたことに感謝したい。思えば連載化初期に作者は生活のペースが掴めずに荒れていたが、完結への道のりの中でも大変な時期があったようだ。ヒロインの詩春(しはる)だけじゃなく作者の人生も詰め込まれた作品になっている。

これまでも書いてきたが この続編シリーズは本編で宙ぶらりんになっていることを回収するためにある(と思う)。それが2年間 詩春と一緒に過ごした双子の葵(あおい)の恋心の決着である。物語の中盤から彼はガチで詩春に恋をしていた。そして彼女を困らせたくないから詩春と離れる引っ越しに駄々をこねる茜(あかね)の手を引き、別の場所での暮らしに向かった。それからも葵は常に詩春のことだけを考え、彼女のように思考し、彼女に褒められるためだけに日々の努力を重ねた。ある意味で葵は詩春に支配された状況にあり、今回の失恋をキッカケにして初めて葵は自分がなりたい大人になっていくのだと思う。

執着心の強い葵に納得してもらうことは、神への誓いと同義かもしれない。監査の目は鋭い。

茜は祖母と、そして葵は松永や詩春と衝突して 多感な年頃に新しい関係性を作っていく。そうして自分と他者をアップデートしながら家族は形態を少しずつ変えていくのだろう。そういえば双子に対して最も罪の重い父親は反発されずに生きている。まぁ その分、家族からイジられてるし、葵は そもそも あまり父親を信用していないように見える(笑)

形が変わると言えば結婚、そして詩春夫婦の間に子供が生まれたことで、疑似家族だった彼らの関係に正式に名前がついた。それは広い意味で家族であり、この物語の結末に相応しい展開だったと思う。全員が家庭に恵まれない境遇にあった4人が手を取り合った あの頃の「松永家」。その4人が本物の家族になる道は これしかなかった。…いや、葵と詩春が結婚しても戸籍上は問題ないか。そうなると松永は独身のままだけど(笑) 約束の10年後に詩春(27)が出した結論はアラフォーおじさんより、年齢が半分の中学生男子(13)だった!というスキャンダラスな終わり方も面白い。なにせ松永は高校1年生の詩春に抵抗なく恋愛感情を持ったのだから、そうなっても詩春のことを責められまい。


し残念なのは上述の通り続編の連載中には作者のプライベートが大きく変化したこともあり、様々な面で作品が簡素になったように思えた。やはり ずっと続けてきた連載が終わり、しかも続編は毎月発表されるという訳ではなく間が空いていて、それが作品の密度や集中力の低下に繋がっているように思えた。時間が経過するごとに絵柄が変化していき(毎日 筆を動かしている人の絵じゃなくなったような気がする)、そしてコマ割りが大きく、話は悪くはないのだが どこか表面を なぞっているだけのように感じられた。本編での全体の構想が固まった連載中盤以降の、最後まで描き上げるぞという集中力とは ちょっと違うのかな、と思う部分が少なくなかった。

あとは出てきて欲しかった人が続編には出てこなかったのも残念。まずは直(なお)なのだが、彼は作中に出すには難しすぎることは理解できる。なので彼の おまけ漫画でも作って欲しかったが、この辺は作者に余力がなかったのが悔やまれるところか。あまり描かれなかった名ばかりの高校時代の友人を出すぐらいなら、直をと思ってしまった。
健(たける)も自由人設定のまま何を食い扶持にしているのか分からないままアラサー突入である。梨生(りお)はこれで幸せなのか疑問。大団円のためにもレギュラー同士のカップルは別れる訳にも いかないのだろうから、せめて続編中に健を落ち着かせる方向に向かって欲しかった。

そういえば親戚関係でいえば、亡き母のイトコの子供、つまり双子にとってハトコにあたる兄妹は続編では出てこなかったなぁ。あちらの地で彼らとも仲良くなったという描写が見たかったところ。


は3歳の時の詩春との別れに続いて、10歳で詩春に失恋して精神的に打ちのめされる。いつだって自分は大人の事情に振り回される側なのだ。だから早く大人になりたかったのに、現実は それを待ってくれずに詩春は松永と結婚すると言う。

しかし そのショックで詩春の話も聞かず飛び出したことに気づき、葵は自分が やっぱり大人になれていないことに気づく。そんな彼を追ってきたのが松永。葵から詩春を奪った張本人である。葵は松永は大人だから詩春と離れて暮らすこともなく、彼女の近くにいられたことをズルいと思う(実際は そうでもないのだが)。松永は葵が受けてきたショックを痛感するからこそ、誠実に言葉を重ね、詩春への愛と これからの幸せを彼に約束する。


永家の男たちを心配した詩春も遅れて家を出て葵を探そうとするのだが、茜が地図を描き、その地図が分かりにくいため かなり遅れての到着になる。そのお陰で同じ人を好きになった男同士の会話が一段落するまで続けられるのだけれど。

到着した詩春に葵は今度は ちゃんと話し合いをしようと聞きたいことを真正面から聞く。いつから松永を好きだったのか、そして自分と松永のどっちと結婚したいと願うのか。その返答で葵は自分が3歳だった頃から詩春が松永に好きだった事実を知る。

詩春は、葵が本気で自分のことが好きだった という予想外の事実を受け止めながら、彼を傷つけても松永との結婚が自分の願いであることを伝える。この お断りの仕方は約8年前の直(なお)の時も同じような感じだったなぁ(『12巻』)。でも直と同じように8年間片想いし続けた葵も、その失恋から自力で立ち直り、そして歩き出した時に成長していくのだろう。本書では『1巻』~『12巻』が第一の当て馬・直、そしてその前後からシリーズ最終巻の今回まで葵が第二の当て馬を担当していた。作中に常に1人以上いた当て馬を敗退させて、結婚という完璧なハッピーエンドとなった。

こうしてキッパリ振られることで葵は詩春を松永に託す。そして葵の真剣な気持ちを裏切らないよう、再度 松永は詩春を幸せにすることを誓う。まるで結婚式で神様や神父様に誓うかのような言葉である。しかし葵は結婚は認めたものの、自分の恋心は消さない。詩春が離婚したら彼女を貰い受けるつもりらしい。虎視眈々と詩春を狙う者がいると分かっていると、実は独占欲の強い松永は本当に全力で生涯をかけて詩春を幸せにするだろう。監視役がいるのも悪くない。

このオジと甥がライバル関係になる展開で思い出したのが師走ゆき さん『高嶺と花』。そういえば師走さんは(おそらく)本編連載時でアシスタントをされていたんですよね。いつか この2組の親族ライバルコラボ漫画、描いてくれないだろうか・・。

続編を描いたことで参列者全員から祝福されて結婚することが出来た詩春たち。幸せな扉絵だ。

2人が結婚すると言うことは、詩春と茜と葵に戸籍上の繋がりが生まれ(広い意味で)家族になるということである。

詩春は結婚式は挙げずレストランウェディングだけ開く予定。それは自分の側に招待客があまりいないのと、会場の広さが心の距離に感じられるから。特に茜と葵とは一番近い距離でいたいから、身内と ごく親しい人だけを招待する予定。そこで双子たちとも面識がある梨生(りお)と健(たける)も招待する。松永側からは及川(おいかわ)が参列し、彼は司会を務める。さすがに招待客の中に直はいないか。彼は続編での出番が全くなかったなぁ。

2人は6月1日には婚姻届を提出したらしい。なぜ この日だったのだろうか。ゴールデンウィークに年内に結婚予定と言っていた割に展開が早い。

そして最後はまた2年が経過し、双子は中学生になり、彼らは詩春と松永の夫婦、そして彼らの子供に会いに行く。詩春は男女の双子を生んでいた。あの小さかった茜が今度は赤ちゃんを抱きあげる側に回っているのが本当に感慨深い。大袈裟に言えば太古の昔から人間の営みは こうやって繰り返されてきたのだろうと思った。
子供の名前は菫(すみれ)と蓮(れん)。彼らの名前が草冠の漢字一文字植物の名前であることは、イトコであり大切な存在の茜と葵に あやかったのだろう。そんな2人との繋がりも嬉しいところだ。イトコ同士は結婚可能だから、男女のイトコが恋に落ちたりして…。ここは本編とは逆で蓮が12歳年上の茜に猛アタックする20年後の物語に期待したいところかな。

彼らの間柄は正真正銘イトコである。これから2家族で集まる機会もさらに増え「これから もーーっと楽しくなる」予感を含んだまま物語は終わる。

「LIFE SO HAPPY 番外編」…
「LIFE~」の『3巻』は2人が結婚に至るまでの道のりを描いた話だったが、この番外編は2人のもとに赤ちゃんが生まれるまでの紆余曲折を描いたものになっている。この番外編は明るいだけじゃない悲しい出来事が描かれているが、それは作者の実体験をもとにしたものらしい。こうして作品に昇華できるまで作者の心が落ち着いたということだろうし、作品に残すことで会えなかった人に思いを伝えられたのではないか。こうやって描くこと自体がセラピーのように自己回復を促すのだろう。

詩春は結婚後しばらくすると周囲から子どものことを聞かれるようになる。それは詩春が保育士で年度途中の産休は保護者などに説明の必要があるからでもあった。その話題を夫婦ですることで2人とも将来的には子供を授かりたいという意思が合致し、のんびり妊活を始めることになる。
間もなく妊娠が発覚し、詩春は驚き、松永は喜ぶ。しかし お腹に違和感を感じた詩春が病院に行くと流産の可能性を指摘され、夫婦の願いも虚しく新しい命は消えてしまった。

詩春のリアルな心の動きや、医学的に大きな間違いがないように資料にあたり、台詞を考える時の作者の気持ちを考えると胸が痛い。当然この事実は双子たちに伝えられず、その後 再び妊娠し、安定期に入ってから詩春の妊娠を知らされた。誰よりも喜びを真っ先に伝えたい彼らに報告が遅かったのは、流産という悲しみがあったからなのだろう。

『LIFE~』の最終話で私が ちっとも詩春の悲しみに気づけなかったが、例え子供に恵まれても、その裏に悲しみが潜んでいるかもしれないことを考えなくてはならないのか。これまで無遠慮な言葉で誰かを傷つけていなかったかヒヤリとした。