《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

白泉社恒例の連載1年目の季節イベントだが、季節感を大切すれば情操も学力も育つ。

LOVE SO LIFE 3 (花とゆめコミックス)
こうち 楓(こうち かえで)
LOVE SO LIFE(ラブ ソー ライフ)
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

子ども大好きな保育士志望の高校生・詩春は、天使双子&優しい松永さんに囲まれ、元気にベビーシッター中☆ 夏休みも終わり、文化祭で喫茶店をやることになった詩春。松永一家が来てくれることになり嬉しい半面、心配も…。

簡潔完結感想文

  • 冒頭で詩春が母を思い出すことなく、双子の個人回が始まり良い傾向が見られる。
  • キャンプ回で詩春は松永の気遣いや男性的な魅力を発見し、恋愛解禁は もうすぐ!?
  • 文化祭回で詩春の高校での様子が見られ、その次回では松永の高校時代が見られる。

節イベントの中に友情フラグや恋愛フラグを潜ませる、の 3巻。

『2巻』に引き続き、今回の収録分も3回の短期連載の繰り返しなので季節ネタを盛り込んだ お話で構成されている。『3巻』は七夕から始まりハロウィーン回まで。もうすぐ白泉社作品恒例の最初の1年間を季節イベントで乗り切る期間が終わるので、そこからが作品の本番となる。
どの作品でも そうだが、本書では特に、後半で もう二度と戻ることはない時間を意識することになるので、作品内に不可逆の時間の流れが生じることが とても意味のあることのように思える。赤ちゃんから幼児に日々 成長していく双子たちの様子を どれだけ見過ごさずにいられるか、その変化に どれだけ気づけるかという温かくも鋭い視線が必要となっていくのではないか。

そういえば白泉社作品で、しかも これだけの長編の割に本書は登場人物が少ない気がする。本書の場合 この『3巻』までで主要なキャラは ほとんど登場しているように見える。1年目の季節イベントに加え、新キャラで どうにか物語に起伏を付けようとする白泉社作品において これは非常に珍しい。それは本書が学園ラブコメではなく、ドラマ性の高い物語だからだろう。基本的に疑似家族の4人がいれば話は成立してしまう(それでは作者はネタに困るだろうけど)。

ここまでの間で既に友情フラグは成立し、三角関係の準備も整っている。そして この『3巻』ではヒロイン・詩春(しはる)と松永(まつなが)の恋愛フラグが初めて顔を出したような気がする。いや これまでも25歳の松永が平気で高校1年生の詩春に想いを寄せるような描写はあったが、今回は詩春が松永を男性として意識するような場面が多く見られた気がする。これは季節イベントで縛られた1年間が終わりに近づき、新しい季節には新しい関係が芽生えるという準備だろうか。

家ではオフモードの松永だが、外出先ではヒーローになる。疑似家族の お出掛けは恋の近道!?

そして『3巻』では松永家ではなく詩春の学校生活が見られたのも これまでと違う点だ。勿論 双子は登場するのだけれど、詩春の世界に軸足を移したことで世界観が少し広がった気がする。続く話で松永の高校時代の様子が見られたのはファンには嬉しいところだろう。

作中で1年が経過するということは現実も連動していて、そろそろ連載も長くなってきたので詩春の境遇を語らずに各話が始まるのも良かった。どうしても これまでは母親を亡くした不幸話から始まり、その母との思い出と双子を関連付けようという構成になってしまっていた。だが ようやく物語が不幸の呪縛から解放され、詩春が純粋に双子と向き合っているようになったのではないか。

1年間の季節イベント、そして お試しとも言える数回の短期連載が終わると、定期連載が待っている。どうやら定期連載初期は作者は大変だったみたいだが、ここからは自己紹介も必要なく、物語に大きな流れを生むことが可能となり、いよいよ作品としての出発となる。私は中盤以降の本書が好きなので、早く読みたい。


頭は『2巻』の梅雨回に続く七夕回。双子の姉・茜(あかね)は織姫と彦星が会えることを楽しみにしているが、当日の天気予報は雨予報。楽しみにしている行事が悲しい思い出になるのではと詩春は気を揉む。てるてる坊主を作ったり、雨予報を事前に伝えたのだが現実は思い通りに行かず当日は朝から雨となる。

だが松永が家に帰る頃には雨が上がり始め、4人は高台に星空を探しに行く。まだ雲が多く星空が見えなくても、詩春のアドリブ演技で茜の心は晴れ渡ったという お話となる。この回は茜の優しさや、実は心に抱える寂しさを感じさせる お話で、逆に葵(あおい)は いるのか分からないぐらい存在感がない。作中で初めて双子というユニットではなく、茜の個人回という印象を受けた。

また七夕回は連載で初めて詩春が母親を思い出さなかった回ではないか。この回では会いたい人に会えない悲しみは茜が背負っている。


いては8月の お盆。詩春は母の お墓参りをするために この日は松永家でのバイトは お休み。前回の ぶり返しか詩春と母の思い出が これでもかと語られる。死者と向かい合う お墓参りをしていても、周囲の人たちは家族で来ていて詩春は孤独を感じる。そして母との別れを経て、施設で暮らすことになった当初の思い出が よみがえる。

母にしてもらったことを他の誰かに してあげたい。それが詩春が保育士を目指す動機となる。その感情が溢れたため、詩春は墓参りの後に双子たちを見ようと こっそりと帰り道で待つ。渡された合鍵を使わず、松永が声を掛けるまで自分からは近づかないのが詩春の慎ましいところだろう。


だ夏は続いてキャンプ回となる。バイトの発注ミスで肉を大量に買い取らされた健(たける)。その肉を消費するために企画されたのがキャンプなのであった。

キャンプは詩春の息抜きも松永の目的の一つで、彼女に休んでもらおうと松永が色々と気を遣っている。普段なら詩春の担当であろうバーベキューの準備も松永が担当し、彼が包丁を持っている姿が見られる。そして いつもより詩春が松永の気遣いに気づき、彼の中に男性を発見する場面が多かったように思う。


校は2学期になり詩春は高校で文化祭準備に入る。
松永も週末に時間が作れるらしく、双子を連れて訪問するという。小学校入学前に母親を亡くした詩春にとって自分を見に誰かが来てくれるのは初めての経験。松永家は詩春の思い出リベンジの道具じゃないんだよ、とは毎回 思うが。

高校が舞台となるため この回では詩春と親友・梨生(りお)の友情も描かれる。彼女たちの出会いが描かれ、詩春は梨生には施設育ちだということを明かしている。詩春が苦労していることを知っている梨生は、何も知らないクラスメイトたちからの誹謗中傷も身を挺して守る。
また今回、梨生が以前 詩春と一緒にいるところを見かけた松永がアナウンサーであることに気づき、詩春は彼女に言えなかったことを話せるようになる。自分の不幸を自分で抱えようとして、かえって周囲を羨んだりすることの多い詩春だが、梨生のように何でも話すことが出来る人の存在は彼女の心を軽くするのではないか。母のことなど過去のことを振り返らなくなったのは、松永家の人々の他に梨生の存在も大きいだろう。

失われた過去の幸せを数えてばかりだが、目の前にある友情は詩春自身が獲得したもの。

梨生は松永が ちょっとした有名人であることを気遣い、来校した松永に被り物を装着させる。こうして4人で並んで歩いても松永だとはバレないようになり、彼らは一緒に学校内を歩く。
その後、お祭り回では恒例とも言える松永のヒーロータイムが挿まれ、文化祭は終了。これまで松永がイケメンだと言うことは何度も演出されてきたが、学校内の様子を描くことで詩春は かなり可愛く、男子生徒から人気があることが描かれている。アラサーおじさん が若いライバルたちに対抗心を燃やすのであった。


後はハロウィーン回。
『1巻』で登場した及川(おいかわ)が松永家に初訪問して、詩春と ゆっくり話す。及川は松永と高校から一緒という設定。以前も書いたが、ご近所の健が青年期の松永を知る存在として及川はいるのだろう。

詩春の高校の様子を描いたからか、今度は及川の口を借りて松永の高校時代の話が語られる。松永の高校時代の好きな人は先生だったらしい。詩春は松永に明確な恋心を抱いていない状態だから、彼の昔話として恋バナを すんなり受け入れている。ただし松永本人から過去の恋を話されるのは少し嫌、という詩春の恋愛における現在地が見える。