こうち 楓(こうち かえで)
LOVE SO LIFE(ラブ ソー ライフ)
第05巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★☆(7点)
春になり無事高校2年生に進級した詩春は、明るく楽しい松永家で元気にベビーシッター中☆ 一方、松永さんはホワイトデーのお返しに悩んでいて? さらに迎えた詩春の誕生日でも、松永さんから嬉しい提案が☆ 親友・梨生にも恋の予感!? のハートフルDAYS第5巻!
簡潔完結感想文
- プレゼントに苦手意識のある松永だが友人や本人のガイドがあれば喜ばれる。
- 友人・梨生に新たな友情と恋の予感がするが、友情の方はフェイドアウトする。
- 金は出すが愛情のない双子の祖母と、その金で育児を下請けに出す叔父の構図!?
あなたが側に居てくれる事が最高のプレゼント、の 5巻。
『5巻』も中盤まで『4巻』に引き続き詩春(しはる)と松永(まつなが)、それぞれ または2人の話がメインになっていて双子の出番は少なめ。ただし『4巻』の単行本化作業中に それに気づいた作者によって軌道修正が図られ、双子が多く登場するような お話作りに変わっていっている。
そして今回 初めて松永の母親が電話先で登場している。松永の母親、それは つまり松永兄の母親でもあって、双子にとっては祖母に当たる人である。しかし彼女は孫に対して責任を負い お金は出すが、時間は割かないという主義の人だということが判明する。そして これは父親も同じようだ。
また母親と会話したからか、松永の育った家庭環境が彼の口から初めて語られる。松永は今も両親が健在だが、冷え切った家庭に育ったため家族や家庭の記憶はなく、個々人で活動する人の共同体として家族を捉えていた。つまりは松永もまた詩春と同じで温かい家庭像に飢えており、自分が受けなかった愛情を甥と姪である双子に与えようとしている人だということが分かる。根本的に松永と詩春は同じものを希求し、同じものを双子に与えようとしている。そこが よく似ている2人だから疑似家族が円満に機能しているのだろう。
さて この話に関して気になったのが松永家の双子に関わる家計の お話。てっきり私はテレビのキー局アナウンサーという高給取りの松永が双子を扶養しているのかと思ったが、上述の通り、どうやら母親(または両親)は自分の孫にあたる双子に対して金銭面の援助は惜しんでいないらしい。これは長男の子を育てる義務と責任を感じているからであり、そして次男である松永の不必要な心身の負担を軽減させるためにも思う。冷淡な対応にも見えるが無責任とはまた違う人たちである。
両親、つまり祖父母は孫の生存に関わる お金は捻出するが、彼らがどう育つかまでは関心が無い。松永に送っている お金は施設に入れるための お金であった。
そこへ松永が双子と関わり、彼の半生の影響もあり、松永は双子に愛情を注ごうと努力をした(そして破綻した)。そんな時に出会ったのが有能ベビーシッターの片鱗を見せる詩春で、松永は彼女に倍のバイト代を提示することで詩春のスカウトに成功する。
上述の通り、詩春と松永は根底が似ており、詩春もまた自分と同じく母親を亡くした双子に対して、自分が愛情を注ごうと努める。それは悪く言えば松永と同じく、自分が渇望しても得られなかったものを双子に与える自己満足だし、自分の人生に対してのケアのようにも見える。ただ そんな2人だから とことん双子に尽くせるというのが本書の構造だと思う。
でも考えてみれば双子に対する資金援助を、松永は受け取るだけ受け取って、自分の理想を曲げていない。自力での実現が破綻したので、詩春という安い労働力(しかも訳あり)を買い叩いている、とも考えられる。相場の倍の お金を詩春に払っても松永自体は痛くも痒くもなく、そして良心の苦痛からも逃れられる。詩春という存在は松永にとって理想の実現の道具、のようにも思える。それは詩春が双子を自分の未練のリベンジに使っているように見えるのと少し似ている。
そういう意味では まだ世間を知らない詩春が、お金の流れなどを理解せず働いているように見える。そして詩春は松永を双子のために生活と給料を注ぎ込む善人だと思っているだろう(私も そう思っていた)。ということは詩春の賃金を用意しているのは松永母の可能性が高いのか?
勿論これが松永に対する謂われなき悪評だということを分かってもいるのだが、そう考えてしまう私や直(なお)みたいな意地の悪い見方をする人もいるだろう。そして十中八九、松永は双子のために口座を作って母のお金を そこに入れているだろうけど。
松永家の残念な部分が見えたが、双子が汎用性に乏しい特殊な洋服を買えている理由も見えてきて腑に落ちた部分もある(漫画として視覚的に楽しめるようにするサービスなんだろうけど)。
定期連載まで連載の形態が変化し続けたため少々時間の流れがおかしい点もある本書ですが、どうやら起こったことは全て事実になるらしく、『2巻』のバレンタイン回の後日談が今回 描かれる。単行本読者はもちろん、リアルタイムの雑誌読者からすれば現実時間で1年前のバレンタイン回の お返しを松永が悩みだして どういうことだ!? となる部分だろう。
松永がセンスがないことを自覚しているから返礼品に悩む。そんな時、高校時代からの友人・及川(おいかわ)に遭遇し、悩みを告白。及川は詩春の性格を的確に把握しており、そして彼女が松永の好みのど真ん中であることを指摘する。ちっとも否定しないのが このロリコンおじさんの怖いところである(笑)
何とか お返しを用意した松永だが、今度は渡すタイミングに悩む。この日は双子が早くに寝付いたので詩春は すぐに帰宅することに。そこで松永は詩春を送ることで渡すタイミングを計る。どうにか帰宅途中で品を渡した松永だったが、詩春は予想外&ちゃんとした品に驚き恐縮する。彼女は松永がバレンタインに値の張る品を大量に贈られていることを知っているので、自分の手作りのチョコに お礼が貰えるとは思っていなかったのだ。
加えて まだ寒い日なので くしゃみ をした詩春に松永は自分が巻いていたマフラーを強制的に詩春の首に巻く。彼女が困っているなら助けたい気持ちが松永にはある。それは この日、詩春が困っている時にヒーローとして駆けつけられなかった後悔があるからでもあった。他の男(健・たける)に負けたくない男の対抗心が松永を少し積極的にしている。
いよいよ季節が巡り、永遠の高校1年生だった詩春は2年生へと進級する。今年も親友の梨生(りお)とクラスが一緒のことに安堵する詩春。だが『4巻』で詩春をイジめた田神(たがみ)という女子生徒もクラスが一緒。
登山の課外授業を通じて新しいクラスメイトや田神との交流が描かれる。そこで実は田神は出来の良い妹にコンプレックスがあり、妹と詩春がダブる部分があるため、詩春に優しくなれない。田神が詩春に対して大きなリアクションを取った瞬間に田神が崖に落ちそうになり、詩春が咄嗟に手を伸ばし、彼女を落下から救う。周囲の協力もあって無事だった田神は詩春に八つ当たりするのだが、その姿を見かねた梨生が田神の性根を叩き直す。
こうして梨生の平手打ちによって田神との関係も手打ちとなった。この後、田神が ちょっと辛口の もう一人の親友枠に なるかと思われたが、徐々にフェイドアウトしていくだけなのが意外だった。単純に詩春の学校生活の描写が縮小傾向にあり、その余波を受けただけなのか。
『4巻』のセカンドバースデイ(SB)に続いて、4月18日は詩春の誕生日。そこでSBの時に何も出来なかった松永は彼女をお祝いするために彼女の要望を聞いて、その通りにしてあげようとする。上述の お金の流れはともかく随分、福利厚生のしっかりした職場だなぁ。
この回で初めて松永の母親が登場する。といっても松永の電話の相手として。彼女は仕事が忙しく、自分の孫である双子の面倒は見る気は無い。双子に対して割り切れるのが母親で、割り切れないのが松永なのだろう。
庶民派の詩春が誕生日に願ったのはホームセンターでの買い物。そこで松永は電話をしたからか珍しく自分の家族の話を詩春に語り始める。両親は ずっと不仲で家族だけど家族じゃなかったこと。自分の大学入学と同時に子育て終了宣言とばかりに離婚を決めたという。父親は長年の不倫相手と再婚し、母親は海外で夢を追った。こうして完全に一家離散となったらしい。松永は両親の近況を知っているらしい。彼の物言いだと養育費の援助も父親からもあるのだろうか。こうして詩春は松永家の事情を初めて知る。
ホームセンターで松永は詩春に松永家で使うカップを買ってあげようとする。詩春は今度は自分も お返しが出来るようにと松永の誕生日を聞き出すが、松永は2月26日生まれ。あと10か月先。過ぎてしまったこと&遠すぎることにショックを受けた詩春だが、せめて松永の欲しい物を聞き出す。だが松永は詩春が「側に居てくれることがプレゼントみたいなもの」と答える。とても強烈な愛の告白にも思える言葉だが、詩春は恋愛感情よりも大きな愛情を感じたようで、誕生日に自己肯定感が増したことを嬉しく思う。
しかもプレゼント下手な松永がサプライズでカップを回収し、有無を言わせないよう松永家に持ち帰っているのも詩春に喜びをもたらす。ここ3話で2つも松永から贈られたものが増えている。しかし松永はカップの種類や色を間違えなくて良かったね。詩春にまで これじゃない、とガッカリされたら松永は ますます恋愛が苦手になっていたことだろう。
双子を連れて公園の催しに出掛けることにした詩春。松永が仕事で行けないが、最初から当てにしていないので問題はない。作品的にも双子を再びメインに据えるための話だろうから、松永は不必要なのだろう。
そんな時に梨生が同じ催しに誘ってくれて、双子と梨生の4人での初めてのお出掛けとなる。この半年前ぐらいに梨生は文化祭で会っているという設定(『3巻』)は継続中。双子は人見知り気味なので梨生にすぐに懐く訳ではない。梨生は詩春が双子から信頼されていること、そして上手く彼らと関わっていることを知って誇らしい気持ちになる。
そこへ ご近所の健(たける)と真菜(まな)の兄妹が顔を出す。今回のメインの出会いは双子と梨生ではなく、梨生と健である。自分が詩春のように子供の面倒を上手く見られないことに悩む梨生だったが、彼女は詩春が出来ないことで子供たちに興味を覚えてもらい、彼らとも仲良くなれた。そんな梨生の自然体を健は好ましく思い、そして健の笑顔を梨生も好ましく思う。
続いては久しぶりの純粋な双子回。今回は双子の弟・葵(あおい)のメイン回。集中力も凄いが、執着心も凄い葵が乗り物に興味を持ち始めたことで起こる騒動を描く。店頭で見た乗り物のDVDを欲しがる葵だが勝手に お金をかけられない詩春は図書館でのDVDレンタルを利用することにする。だがレンタルの概念が よく分かっていない葵は返却の際にも詩春を困らせる。
双子の個性や成長を感じる部分もあるが、それよりも詩春がベビーシッターとして成長し、彼らの感情に寄り添い、良い方向に導いていることが描かれていたように思えた。詩春、というより作者が「子育て」に慣れてきたのか。
ラストは詩春のクラスメイトの男子の弟が保育所に やってくる話。母親の入院による臨時の来所なのだが、その弟くんはワガママ放題の暴君だった。詩春は彼を責めるのではなく、彼が問題行動をとる理由を考え、彼に合わせた言動で彼を誘導していく。まぁ この程度の事は、家庭の背景などを知っている本職の保育士さんでも分かるだろうが。
やがて詩春を気に入る この弟の登場で双子は詩春への独占欲を燃え上がらせる。双子にとって詩春は家庭内でも一緒に居てくれる人だが、保育所では詩春は「みんなの先生」。この違いを理解できない部分があって、彼らも暴君のように詩春を独り占めしたい。そんな彼らの心情が理解できるから、詩春はプライベートな時間に彼らへの確かな愛情を伝える。自分には甘えられる人がいることは双子の精神を安定させ健やかにするだろう。これから親の不在に苦しむ時が来ても、彼らには松永や詩春からの愛情を思い出して欲しいものだ。