《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

駅のホーム、屋上、街中、コートの上。君の姿を見つけるのは いつも放課後。

放課後、恋した。(1) (デザートコミックス)
満井 春香(みつい はるか)
放課後、恋した。(ほうかご、こいした。)
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

個性もなくて学校で打ち込むこともない女子高生の夏生(かお)。ある日、男子バレー部の監督をやっている兄に、「久世渚を入部させる」までマネージャーをやるように命令される。でも、久世くんは夏生の勧誘を完全無視!? そんなある日、真剣な顔でたったひとり自主練する久世くんの姿を目撃してしまって…! 大ヒット作品「あたし、キスした。」の満井春香 初&大型連載!! まぶしすぎる恋と放課後、始まります!

簡潔完結感想文

  • どこまでも高く翔べる彼を見て感じる、憧れと劣等感。彼と過ごす私の青春。
  • 一度の失敗を引きずるナイーブ男子は他者をさり気なく気遣える優しい人。
  • 早くも学校1,2のイケメンと両手に花。ヒロインは個性はないけど魔性はある!?

青春よりも青夏という言葉がピッタリの 1巻。

少女漫画において、運動部の女子マネージャーというのは格好の姫ポジションだと思うけれど、私の読書歴では意外なほど少ない。臨時マネージャーになることはあっても、それはヒーローとの恋愛イベントを起こす目的のため。実際、高校生活の全てを捧げて部活に燃える部員たちを支えるヒロインを描いた作品は数えるほど。これは近年、現実も二次元場も男子高校生たちの部活の加入率は低下する一方という要因もあるだろう。そもそも誰も部活動をやっていないことが多い。また女子マネ=同性からの嫉妬の対象にもなりかねず、ヒロインが きちんと仕事をしている場面を描かないと軽薄な人に見えてしまい、立ち位置が難しそうである。

その点、本書は きちんと部活とマネージャー業を描いている。恋愛漫画としては、作者の初連載だからか読者の心を掴むため展開が早く、ヒロインは あっという間に部員の有望株2人から好かれている状態なのは気になる部分ではあるのだが…。だけどヒロインは夜遅くまで慣れないマネージャー業と格闘し、疲弊しながらも部員のために時間を費やす。何もない自分が何者かになれるよう彼女はマネージャー業に打ち込む。でも例え不本意な始まりとは言え、部員のために全員のために全力で動ける彼女は、もう輝いているように思う。その輝きが部員であるイケメンの心を掴んだとも言える。

誰もが羨むイケメン男子2人との交流もマネージャー業務の一環です、という言い訳が立つ。

者自身が題材となっているバレーボール部出身ということで、バレーへの愛情と熱意が しっかりと作品に込められている。恋愛とのバランスに悩みながらも描きたいことを描いている喜びを ひしひしと感じられて、作品自体が熱を帯びている印象を受けた。

書名にもある通り、メインは部活動の時間帯である「放課後」。遠足などの学校行事や授業風景はなく、学生の本分が終わってからが本番となる。だからクラスが別でも問題ないし、学校のない夏休みでも一緒にいる時間は失われない。

そして季節としては「夏」がメインとなる。物語の開幕も高校1年生の彼らの新入生が落ち着いた頃からで初夏と言えなくもなく、それは気温が少しずつ上昇していく頃でもある。気温の上昇と共に彼らの恋もヒートアップしていく という連動が印象的な作品だった。ヒロインの名前が夏生(かお)で名前に夏の文字が入っているのも絶対に偶然ではないだろう。

また色としては「青」だろう。表紙になっている通り、青い海と青い空、そして青い制服が印象的。舞台となる町は海沿いで、空だけでなく海の青い輝きも作品の一部となっている。背表紙を見ると部活の練習着やジャージも青である。

なので書名も「青夏」でいいじゃないかと思ったけれど既に同じ講談社から南波あつ子さん『青Ao-Natsu夏』が発表されている。同じく講談社作品のアサダニッキさんの作品名を もじって『きみと青い夏のはじまり』でも良い(本当は春)。今の書名も悪くはないが、名作感は全くない。それこそ個性のない書名だと思う。


者に印象づけるためもあって、『1巻』ではヒーローの久世(くぜ)が強い印象を残す。彼がイケメンだということを強調する演出には辟易する部分もあるが、チャラいパリピに見えた彼が実は誰よりも熱い心を持っていたり、ちょっとSな部分を持っていて通常運転では意地悪なのだけれど、ちゃんと人と心の距離感を測れる人で、時に優しい一面を見せている。
しかしバレーという情熱の矛先を失った久世が いきなりチャラくなるのは謎。人がグレるのと同じ心理だろうか。部活動関係なく、学校一のモテ男に、地味なヒロインが恋をするという構図を作りたかったのか。そして それでいて久世は本気で恋をした人がいない。その席はヒロインのために空けてあるのだろう。久世という人間が大きいのか、焦点が絞り切れていないのか、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる作戦なのか、判断に困る人物造形である。

そう考えると当て馬っぽい当て馬の桐生(きりゅう)は個性がない。本書はヒロインの夏生(かお)が個性がない自分に悩むのだが、桐生も これといって個性を感じられない気がする。夏生とは似た者同士で合うような気もするが、個性のない人が個性のない人に惹かれる理由もない気がする。久世に比べて過去の後悔や訳ありっぽい雰囲気もないのでヒーローの器ではない。良くも悪くも無色透明で鑑賞物としては重宝されそうだけど。

上述の通り、初長期連載だからか恋愛においては最初から決まっている王道展開のレールの上を進んでいるだけのように思える部分がある。女1男2という三角関係の構図が始まりの合図なく始まっている。もうちょっと自然発生的な感情として描かれ、どの人物も恋心の発芽が追えるようだと良かった。

恋愛パートは ある一部分を除いて予想通りの展開で進んでいく。ただし そんな やや個性に欠ける恋愛パートを補うように、本書は少女漫画では珍しくなった部活動モノとしての側面が強く出ている。打ち込む対象を探していた夏生はバレーボールに懸ける男性たちに惹かれ、自然とサポートしていく。それと同じように読者も、夏生を通して彼女が いつの間にかに没頭するマネージャー業を通して、部活動に打ち込む部員たちの青春の匂いを感じることが出来る。これは本書の立派な個性だ。


う高校で教諭をしている兄が男子バレーの顧問ということもあり、その妹である葉山 夏生(はやま かお)はバレー部の臨時マネージャーを押し付けられる。不本意な彼女がマネージャーを辞める条件は2つ。1つは正式なマネージャーが入部すること、そして もう1つが久世 渚(くぜ なぎさ)という中学バレー界で有名選手だった男子生徒をバレー部に入部させること。

男性の中の紅一点ポジションを自分で志願したのではない、というエクスキューズのための兄先生?

兄の横暴で始めたマネージャー業な上に、コートの中にいる男子部員に比べて自分は輝きを放っていないことが夏生のコンプレックスだった。ただし兄は、中学の3年間ずっと好きだった男子生徒に名前を覚えられない無色透明で光を発さない自分が嫌いで くすぶっていた夏生を更生させるためにバレー部に呼んだ。

久世の勧誘が難航するが、高校ではバレーをやらないと言っていた久世が屋上でバレーの練習をしている場面に遭遇し、夏生は彼のプレイに魅了される。

部の買い出しの最中で夏生は中学時代の好きだった人に遭遇するのだが、彼はまた夏生の名前を忘却している。そこに彼よりスペックの高い久世が現れ、その男子の彼女も魅了してしまうという一種の復讐劇が果たされる。これ、読者としては胸のすく展開として用意しているのかもしれないけれど、あまり趣味がいいとは思えない場面。男を背の高さや顔の良さという容姿でしか判断していないし、夏生は虎の威を借りる狐状態のまま。最終的に成長した夏生が この男子生徒を魅了するなら分かるが、別に夏生が勝ったわけでもない。

いや、そんな うがった見方をしないで単純に夏生の精神的ピンチを久世が救う場面であり、久世は夏生の名前をちゃんと記憶しているという場面なのだろうが、本書はイケメン2人に価値を付与するために周囲の女性たちを便利に使い過ぎている。夏生だけはミーハーではなく、彼らの部活動への情熱や心に惹かれていくという丁寧さとは真逆のルッキズムである。本書では久世や桐生がどこかに行く度に女性から黄色い歓声が上がる。新人作家さんの安直なヒーローの格好良さの演出だと思いたい。これ以降の作品でも同じ演出をしていたら幻滅してしまう。

名前のない私の名前を呼んでくれた、去年の人よりも数段 素敵な今年の彼。

生は久世との会話の中で彼がシューズを学校の ゴミ箱に捨てたことを聞く。そこで彼女は お節介をして彼のシューズを取り戻し、チャラい毎日を送っている久世をバレーの世界に引き戻そうとする。これは既に自分がマネを辞める自己の都合ためでなく、彼のプレイを見てみたいと言う欲求からだろう。

これは単純な お節介ではなく夏生はバレーをやりたいという彼の心の声を聞いた気がするから動いた。バレーに夢中になっている久世だから自分を魅了できる。そういうものが自分にはないから、彼にそれを大事にして欲しい。それに わざわざシューズを捨てたというのが、構ってちゃんというか、自己憐憫型の心理状態な気もする(笑)

夏生の説得の涙に ほだされた訳ではないだろうが、久世はバレー部への入部届を夏生に渡す。そして夏生もまた正式なマネージャーになるように彼は もう1枚入部届を用意していた。人から羨ましがられるほどの青春が 夏生の前には広がっている。


が久世は入部届だけ出して、部活に顔を出さない。ヒーローは望まれた頃に遅れてやってくるということか。真面目に最初から部活動している桐生が可哀想だ。

一方、夏生は正式なマネージャーとして大忙し。そして久世に遊ばれているだけかと夏生は疑い始める。
だが久世は中学の最後の試合を引きずっていた。そんな彼を再びコートに上げるのは、中学時代からの彼の戦友である桐生、そしてマネージャー業に全精力を傾けていた夏生の姿だった。そんな夏生に久世はバレーボール人生での悔いや心残りを素直に話せる。自分を信じてくれる夏生のためにも、久世は正式に活動を始める。この場面で壁ドンならぬネットドンをしているのが本書ならでは。

しかし夏生と桐生の説得で、くすぶっていた久世が立ち直るのだろうけど、桐生は この時まで久世に何も働き掛けなかったのだろうか。人一倍ナイーブなところのある久世だから自分からは動けないけど、桐生が声をかけて熱い友情を確かめれば簡単に動いたような気がする。桐生の心理状態と これまでの不動が謎だ。

何はともあれ、こうしてバレー部1年生に久世と桐生のいう2大王子様が揃い、少女漫画の基本形が整う。


れて入部した久世のジャージを取りに、夏生は久世と桐生と街に出る。こういう部分はマネージャーの役得だが、作者はちゃんと それ以外の夏生の活動や苦労を描くことで、飽くまでも久世(や桐生)と一緒にいられるのは部活動の副産物であることを強調し、そこは間違えない。

ジャージを取得後、3人は桐生の実家である定食屋に赴く。そこで夏生は2人の過去を垣間見る。桐生とのバレーボール歴、そして久世が お兄さんに影響されてバレーボールを始めたことが明かされる。そして早くも桐生は夏生のことが気になる様子。あっという間に学校の2大王子を虜にする自称・個性のないマネージャー。

桐生は実家なので、帰り道は久世との2人。そこで雨に降られるイベント発生。寒がる夏生に久世は新品のジャージを着せて、彼女の頑張りを称える。自己肯定感の低い夏生を励ますことは通常の何倍も効果があるだろう。女性の扱いが上手すぎる。

そして もう1つ明かされる久世の過去として、彼には本気で好きになった人は まだいないことが明かされる。遊んだ女性はいたとしても、元カノは いないということか。2人とも過去は潔白だと判明し、純愛の準備が整った。


3年生の引退まで1か月、夏生は自分の出来ることをしようと務める。一度やると決めたらフル回転で頑張るのが夏生の長所だろう。そんな彼女の頑張りを桐生も久世も温かく見つめている。

だが夏生はミスをしてしまい、体育館での練習が出来なくなる。そのミスを直接 言葉でフォローしてくれるのが桐生で、間接的にフォローしてくれるのが久世である。久世は夏生に嘘をついて自分のペースに巻き込むような迷惑なところがある(2度目)。頭の回転数が夏生よりも速いのだろう。だから夏生は彼のペースに乗せられて、彼が仕掛ける気分転換の効果が簡単に出る。
この日、ミスをして落ち込んでいる夏生を久世は兄との思い出の場所に彼女を連れて行った。自分の個人的な思い出を彼女に披露したいぐらいに久世は夏生のことを大事に想っているのだろう。何かが変わる夏の到来が予感される。

ただし このシーン、ミスした夏生を更に落ち込ますために、わざと部長の言葉を嫌味ったらしくしているのが気になった。1話目の元同級生男子へのリベンジと同じく、久世と桐生のためならチームメイトの性格も悪く描く感じが苦手だ。