野切 耀子(のぎり ようこ)
甘くない彼らの日常は。(あまくないかれらのにちじょうは。)
第02巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
…で、3人の中でいったい誰が好きなの!? みんなの恋が動き出す!イケメン問題児3人組とのドキドキ・スクールデイズ第2巻!!
校則で禁止のバイトがみつかったことをきっかけに、女子高生の緑は、一条礼、家入雪之丞、そして五嶋千尋の問題児3人組のお世話係をすることになってしまう。最初は緑のことをうっとうしく思っていた3人だったけど、緑の頑張る姿を見るうちに、学校にも来てくれるようになる。そんななか、自分のことを助けてくれる礼を意識しはじめる緑だったけど…!!?
簡潔完結感想文
- 主人公はヒロインというより こじらせ男子たちのマドンナ。もしくは幼稚園の先生。
- 友達に彼氏を用意することで非ライバル化 & モブ化。女性はヒロインただ一人でいい。
- 早くも『2巻』で最強の こじらせ男子の心の壁を破る。ここから泥沼の四角関係!?
ヒロインにとって ひたすら都合の良い話でストレスがないが読み応えもない 2巻。
こじらせ男子を学校に連れ戻し、社会に適応させる『1巻』に続いて『2巻』は彼らとの個人的な関係を構築していく過程が描かれる。だが、あまりにも簡単に男性たちがヒロイン・緑(みどり)に心を開いていくので呆気なさを感じる。
本書においての お約束は2つ。1つは緑と男性が2人きりになると急にペラペラとお互いの事情を話し始めること。今回、私は ここに失笑してしまった。あれだけ こじらせてる とか排他的な雰囲気を出しておいて、男性たちは自分のことを語りたくてしょうがないみたいだ。3人の内で1番 心を覗かせない雪之丞(ゆきのじょう)も思わせぶりな台詞を吐き、心の傷や家庭環境の悪さを匂わせる。本来、他者と交流が無かったゆえにプライドばかりが高くなり、人を見下したり、心を開く方法を知らないのが こじらせ男子だろう。だが彼らには その欠けているはずの社交性が ほとんど見えない。他者はともかく、緑には早くも心の壁を作らずに何でも話す雰囲気になっている。
それは少女漫画として展開が速くて良い、というよりも、単純に葛藤が上手く描けていないだけのように思う。『2巻』の段階で こんなにも家庭の事情を知っているヒロインは珍しいのではないだろうか。通常、好きになる場合、もっと最初は その人個人の特性や魅力に惹かれていくものだが、本書では「家」や「家族」というものを最初から含めて個性としている。こうして緑も含め、家庭に事情がある人は特別という選民思想が見え隠れする。
幸せな生活を送る人は全員モブ。不幸がある人だけ限定で 寄り集まっている。それが世界観の広がりを感じられない原因ではないか。結局、こじらせ男子たちの世界が3人から4人になっただけで内向きな思考は変わっていない。ヒロインだけが入れる領域というのが確かに存在して、それが読者の承認欲求を満たすのだろうが、私は無自覚に緑だけが「姫」として扱われるに わざとらしさを感じた。結局、彼女も作品も排他的なのである。
それは『2巻』で緑の友人たちに彼氏を用意した点に顕著に表れているような気がする。友人たちは幸せになったが、反面、モブに堕とされている。幸せな人は それなりに幸せな恋をさせて処理して、緑だけが3人のイケメンの特別で あり続ける。あまりにも あからさまなので、ハイハイ読者のために特別な地位を用意してありがとうございます、と冷めた気持ちになってしまった。
お約束の2つ目は緑は彼らの家庭の事情や性格の欠点を否定しないことである。これで緑の聖母力を表現しているのだろうが、私には これが子供の個性を伸ばすのが上手な幼稚園の先生に見えてしまった。どんな乱暴な行動でも その裏にある良いところを見つけて、その人を褒めていく。そうすると こじらせた男子たちは自分を認められて舞い上がる。乙女ゲームなら好感度が上がった効果音がなる所だろう(やったことないので想像ですが)。
それが正しい こじらせ男子の操縦法なのだろうが、3人が あまりにもチョロいので こちらも苦笑してしまう。緑は、20種類の「すごーい」という合いの手だけで相手を上機嫌にさせる やり手のホステスかもしれない。
誰かのために動くと そのご褒美として幸せが舞い込む緑に都合の良いに辟易したが、そう考えると3人の性格も薄っぺらく感じられる。結局、彼らは自分のこと(不幸)を語りたいし、自分のことを認めてもらいたい。緑がホステスなら3人は何の実績もない冴えない中年男性である。弱い自分や家庭環境を克服するために何かに打ち込むでもないから自分のすべきことも分からない。そんなモラトリアムな彼らの中の良い点を どうにか発見するのが緑で、それで鼻の下を伸ばすのが3人の男性である。一気に場末感が出てくるなぁ…。
順調に意中の男性・礼(れい)との距離を縮めてきた緑だったが、そこに壁が立ちはだかる。それが雪之丞(ゆきのじょう)。本書に女性ライバルは登場しないが、雪之丞がその立ち位置といっていいだろう(BLではない)。または雪之丞は、礼には もういない母親の役割か。まるで義母や継母のように緑を いびりまくる。
雪之丞の牽制を受け、我が身を顧みてみると確かにグイグイ肉食系の行動に思えてくる。庶民ヒロインを免罪符にしているが、やっていることは どこでも現れる雪之丞にとっての恋のライバルのようである。
ただし体育祭の活躍や交流もあってクラスや学校内の彼ら3人の評判は上々。1番人気やソフトな雪之丞、2番は素直な千尋(ちひろ)。礼は不愛想なので3番手に甘んじているらしい。ただ緑的にはラッキーである。ちなみに この友人たち3人の女子トークの中で他の2人には彼氏が出来たことが発表される。要するに彼女たちは恋のバトルには参加しないというモブ宣言である。やはり本書の「姫」は緑一人だけのようだ。
雪之丞の妨害と自分の恋の自覚で緑は上手く礼と接することが出来なくなる。だが そんな不自然な避け方は逆に礼の気を引く。一度 身を引いて相手が食いつくのを待つという恋愛上級者のテクニックである。礼は他の2人に不自然さを指摘するが雪之丞は それとなく緑がバイト先の確保のため利己的に自分たちと関わっていたと吹聴する。
ここで礼が距離を詰めてくるかと思いきや、教室に一人残る緑の前に現れたのは千尋だった。彼は雪之丞の暗躍を見抜き、緑に これまでの経緯を話す。礼といい千尋といい緑と2人きりになると急に身の上話をし出すなぁ…。こじらせ自慢をすることで母性の強い彼女の気を引きたいのか?
彼らの出会いは幼稚園からになるが、千尋は半年遅れで入園しており、その時には雪之丞は礼とベッタリ。千尋も今回の緑と同じように牽制・威嚇されたらしい。千尋 曰く、雪之丞は礼に依存しているという。その経緯もあるらしいが、それはまた別の機会に別の人から語られるのだろう(2人きりになった時に)。後半で千尋は これを過剰防衛と呼称している。「社交的に見えて一番 拗(こじ)らせて」るのが雪之丞だと言う。
そして千尋は そんな こじらせ雪之丞のことは「図体だけ無駄に育ったガキだと思え」と助言をする。その言葉に笑顔で感謝する緑。それは千尋の胸を打つ。そこから兄弟構成など身の上話は続き、そんな2人の歓談を見た礼は複雑な胸中になる。
そこで弟妹の お迎えがある千尋が退散し、前座の後に真打が登場。そこで礼は すねていることもあって、雪之丞の吹聴をそのまま緑に話すが、緑は礼に駆け寄って全力で否定する。これまでの言動に作意はなく、私は純粋なヒロインなんです!と全力で訴える。まぁ全て礼への好意が原動力で、他の2人は おまけ なのだが…。
そうして誤解が解け、しかも礼は軽い嫉妬を見せる。2人きりで告白の雰囲気が流れる中、雪之丞が教室に現れる。そこで緑は これまで礼を避けていたのは恋心が原因ではなく雪之丞の継母的ないじわるが原因だと彼を貶める。なかなか頭脳プレーの自己保身である。
だが それが雪之丞の鉄壁ブロックを更に厚くしてしまう。緑は一切、礼との接触を断たれた。だが緑が弟のために善行を積むと見返りのように礼と接触できた。
しかし礼の様子がおかしい。雨が降ってきたため傘を持っていた緑が送ろうとすると彼は家に父がいるから帰れないという。礼のような こじらせた男性はプライドが高く、女性に弱みを見せそうもないが、緑だから心を開く、というよりも今後の展開のためにベラベラと喋っている。みんな口が軽すぎじゃない?
緑は礼の部屋で折られた父親の写真を目撃していることもあり、訳ありな雰囲気を察して彼を家に招待する。でも犬を理由に自宅に上げ距離を縮めようとするのも肉食女子っぽいなぁ…。
そこで弟の紺(こん)と礼が初対面となる。緑が犬のトイレに付き添うため外に出た後は男性2人の会話となる。年齢差は逆だが、まるで娘の彼氏と その父親との会話である。紺は姉のことを良い子だけど頑張りすぎると評価する。そんな紺の姿は、かつて弟を褒める緑に重なる。1人っ子の礼にとっては羨ましい関係性。そのことを素直に口にした礼を紺は意外な表情で見つめる。親族の心証は悪くないみたいだ。
その後、雨も止み、父親も退去したという雪之丞からの連絡を受け、礼を帰宅。緑は見送りに出る。2人きりになると またも身の上話タイムが始まる。どうやら父親は息子の1月前の不登校の情報を得て現れたらしい。危うく全寮制の学校に入れられそうになる礼だったが、今は緑が居場所を作ってくれたから この学校も悪くないと思っている。自分が評価され緑は思わず感謝を述べる。その変なリアクションに礼も破顔する。
一方、千尋は雪之丞に緑への間接的な嫌がらせを注意する。雪之丞としては緑が自分の生活(バイト)を確保すれば、もう自分に関わらないと思い、最初に彼女を受け入れる態度を取った。しかし緑は それ以後も自分たちに関わり続けた。だが雪之丞から見ても緑が いい奴だから厄介に思えるのだ。自分たち3人の心に入り込みかねないからこそ、今度は早く排除の方向に動く。雪之丞は基本的に3人の世界を守りたいという動機で動いている。
続いては学校イベント・宿泊研修。男女各3人のグループで班を作るが、当然 緑はモブの友達2人と礼たち3人。これは緑や礼の意思ではなく理事長の権限によるもの。引き続き彼らの お世話係を任命させられただけで、私欲は ないんだからねッ!という感じが逆に言い訳に聞こえる。
だが この宿泊研修で緑には心配事が一つあった。それが弟・紺の風邪。自分が不在で母も夜勤で夜には弟が一人になることが心配。そんな家族思いのヒロインである。
2日目は班ごとの遠足。前日に緑が景色の良い場所で弟のために写真を撮ろうとしていることを知っている礼が、厳しくも美しい景色の待つルートに行けるよう さり気なく誘導しているのか。この場面では他の女子生徒は撮影も許されない、イケメンたちとの写真撮影が出来るところで承認欲求が満たされる。
緑は雪之丞のブロックに阻まれ続けるが、野外炊飯の際に雪之丞と同じ担当になり2人で行動すると、彼は身の上話を少しだけ ほのめかす。何なんだよ、このシステムは…。
学校の女子生徒から人気は上がったが、その反面、男子生徒からの逆恨みも買うイケメン3人組。横で緑と雪之丞が聞いているにもかかわらず、男子生徒たちは彼らを退学処分にさせる架空の話で盛り上がる。自分たちに害をなす者は何人たりとも許さない雪之丞は冷静にキレながら男子生徒に近づくが、その剣呑な雰囲気に緑が介入し、事態を収める。
緑は雪之丞の喧嘩っ早さを怒るのではなく、彼が他の2人のために怒ることを褒める。本当、その人の個性や良い人を褒めることに長けた幼稚園の先生みたいである。そして そんな緑に まだ過剰防衛をする雪之丞に対しても、礼にとって雪之丞の存在は必要で大切だと彼らの関係を認める。
どこまでも自分を否定しない寛容な緑を雪之丞は「嫌い」と評する。これは礼と千尋における「へんな奴」という言葉と同じ使用法だろう。雪之丞は どうでもいい人に嫌いとは言わない。好きの反対は無関心なのである。だから「嫌い」は彼に一目置かれたことを意味する。事実、礼から見れば雪之丞の緑への態度は軟化もしくは自然体になっている。その辺、無自覚なのがヒロイン様ではあるが。
ただ この男子生徒の いざこざ で緑はスマホを落としてしまう。それに気づいたのは夜になってから。その捜索に出るが、彼女のピンチに現れるのはヒーロー様。事情を話すと彼は当然のように捜索に協力してくれた。モブの友達が彼氏との時間に自由時間を使う中、緑も また好きな人との貴重な時間になる。
自由時間が終わり点呼の時間が迫る中、礼は緑にとって大切な弟のためであることを知っているので協力を続ける。無事、スマホを発見し紺に連絡をすると彼は通常通り表面上の塩対応を見せる。でも今日は その塩対応が かえって緑を安心させる。
そして2人で並んで星空を眺めると、また身の上話が始まる。本当、1度 気になると作品が嫌いになりそうな特徴である。彼らの思い出話を優しく包み込むのは、優しくて皆が大好きな緑せんせい なのでした…。
そして そんな神対応が男性陣に好感を生む。3人も それぞれ緑への好意を自覚し始め…。いよいよモテモテヒロイン様の本領発揮である。