《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

年下俳優との交流で膨らむ期待がヒロインの胸を大きく成長させているのだろうか…。

お迎え渋谷くん 3 (マーガレットコミックス)
蜜野 まこと(みつの まこと)
お迎え渋谷くん(おむかえしぶやくん)
第03巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

「好き」の気持ちが一方通行。愛花と渋谷くんの恋はモトカレの参戦で渋滞中!!
お互い『好き』同士な保育士の青田愛花(28)とピュアすぎる若手俳優の渋谷大海(21)。だが、距離を縮める二人の前に愛花の元カレ・大崎達也が登場! 一方、渋谷の俳優仲間・神田は渋谷の一挙一動に何故か胸キュン…。愛花と大崎の関係を確認すべく渋谷と神田も交えた温泉旅行が始まる…!

簡潔完結感想文

  • 男ヒロイン×2。勝手に傷ついて、勝手に荒れて、それゆえに両片想いが継続中。
  • 元カレ登場というインパクトより、それによって定まる神田の立ち位置が面白い。
  • 泥酔して起こるのは男性同士のキス。酔わずにしようとするキスが一番 切ない。

谷くんに お姫さまだっこ をされたら誰もが恋に落ちる、の 3巻。

現状維持。ヒロイン・愛花(あいか)と年下俳優・渋谷(しぶや)との恋愛は何も進まない。これまでも書いた通り、進まないのは愛花が何もしないからと、渋谷が空回っているからである。愛花には保育園の保護者であるとか、2人の将来像を描けないとか自分が傷つかないようにする予防線だけを張らせて何も行動させていない。そして渋谷は まるで少女漫画のヒロインのように自分の行動やライバルの登場に悩んで のたうち回るだけ。彼としてはプロポーズまでして お断りされているのに、それでも一縷の望みに託して自分なりに体当たりしている姿が応援できる。ハッキリ言って本書のヒロインは渋谷であり、傷ついているのも悩んでいるのも渋谷の方が多い。なぜだか分からないけど この『3巻』から いよいよ胸がデカくなっていく愛花には応援するような感情の乱高下がないのだ。

そして渋谷以上に「男ヒロイン」なのが同じく俳優の神田(かんだ)である。あんたのことなんて 大っ嫌いなんだからねッ!と思って、意地悪をしていたはずの渋谷に恋に落ちてしまう王道ヒロインとなっていく。

私が『3巻』で最も面白いと思ったのが、神田の役割が明白になる順番。神田の役割は この巻から登場する大崎(おおさき)という愛花の元カレが登場した時に決定したと言っても良い。
初登場時の神田は渋谷の恋路を邪魔しようと、愛花に接近するうちに愛花を好きになってしまう当て馬なのかと思ったが、その椅子に大崎が座ったことで、彼は当て馬の座から落選。こうして神田の本来の役割は当て馬ではなく、「愛花」の恋のライバルだということが分かる。愛花を好きになる予想と同じように木乃伊取りが木乃伊になるパターンではあるが、神田が恋の罠にハマったのは渋谷という意外な展開を見せる。

そして神田も愛花と同じく渋谷に優しくされて彼を好きになっていく。『3巻』では病弱な神田がロケ休憩中に倒れ、渋谷が彼を お姫さまだっこ するシーンがあった。これは『1巻』1話の愛花と全く同じ状況で、渋谷の お姫さまだっこ は百発百中なのであった。更にここで効いてくるのが『1巻』での神田の初登場シーン。「おまえさぁ 俺のこと好きなんだろ?」という演技中の渋谷が神田に言った台詞は間違いなく予言だったことが分かる。
神田が渋谷に突っかかるのは、好きな子をイジメたくなる小学生男子と同じメンタルだったのではないか。身長も演技力も渋谷の方が高いのは、少女漫画における王子様役が自分よりも何事も優れているという設定に思える。神田は もう完全に乙女の立場なのである(笑)
基本的に優しい渋谷は、意識し過ぎなければ、天然ジゴロ。こんなに優しいのは自分が特別だからなの⁉と人の胸をざわつかせてしまう罪な人。その罠に はまったのが神田なのである。

この巻で誰よりも心の動きが大きいのは神田である。「好きな人」と認識した渋谷との自発的なキスが未遂に終わるのもヒロインならではの展開である。何もしないで、男たちのアプローチを無自覚にスルーするだけの愛花よりも、願いのために行動している男性たちの方がヒロイン力が高いと思わざるを得ない。

『1巻』から ずっと撮影している この作中作をスピンオフ漫画として連載してくれないか。なかなか面白そう。

回は渋谷が愛花の家にやって来る(実家)。だが今回も2人きりにはならず、近所の中学生男子・ポンちゃん もいる。愛花との相談事を神田にするように、神田が渋谷に怒った事を今度は愛花に相談する。自分で解決する術(すべ)を彼は持っていない。愛花の家に来たのも彼女の顔を見たくなったとか そういうロマンチックな動機ではなく、神田の顔を見られないから泣きついてきただけ。

そうして愛花にも助言をもらい仲直りするために神田の役に立とうとする渋谷。病弱なため体調を崩した神田に渋谷が看病する風邪回です。神田は渋谷と2人きりで緊張(笑) 愛課と渋谷の2人だけの空間よりも よっぽど緊張感が伝わる。


して愛花の元カレ・大崎 達也(おおさき たつや)が体操指導の先生として愛花と同じ職場で働くことになる。大崎は愛花に既婚か確認したり、未婚なことに安堵したりと好意を隠し切れない。
だが、自分への好意に無自覚でいるヒロインの愛花は それをスルー。これ以降も大崎の あからさまなアプローチを深い意味はない、と考えない。本書はとことんヒロインが物を考えない作品なのである。

大学を卒業して遠距離恋愛になって環境が変わったから2人の恋愛は自然消滅していったという。愛花の女友達は それぞれが人生の岐路に立ち、段々と話が合わなくなっていったが、大崎は同じ職場・同じ立場(独身)、そして同じ過去を共有しているから話が すれ違ったりしない。愛花は渋谷との将来は描けないが、大崎との将来像は詳細に描けるのは2人が同じ種類だからだろう。
愛花は そこに渋谷との格差を感じるが、これは過ごした時間の長さや、その男性への情報量の違いでしかない。渋谷とも時間を多く共有すれば なんとかなる、かもしれない。

愛花も恋のかけひき が全く分からない設定なのか。だが そうなると28歳という年齢が痛々しく思える。

谷は送迎で立ち寄った保育園で、愛花と大崎の関係が怪しいと話す保育士の噂話を聞いてしまい落ち込む。相変わらず間接的な話を真に受けてしまう男である。
その話を相談するのは、渋谷が信頼するマネージャーの品川と神田。行動が迅速な品川は大崎を巻き込んで またもや旅行を計画する。愛花には誰が参加するのか言わずに温泉旅行を提案し、参加を決めてもらい、大崎には愛花をエサにして参加させる。

愛花と渋谷、自分が近しい人に好かれているとは知らない者たちの四角関係の お泊り回が始まる。
アーチェリーの場面は、それぞれの男の特性が出ているような気がする。渋谷は愛花が非力だと知ると自分が彼女をカバーし、ほぼ全てを自分が補佐し、彼女にはタイミングだけを任せる。一方、大崎は、愛花に合った道具を見つけ出し、独力で弓を引かせて、助言だけで的に当てさせる。渋谷は愛花を喜ばせたい、助けたいという気持ちはあるのだが、柔軟さがなく、不器用にしか接することが出来ない。この視野の広さの違いは重ねた年齢の違いだろうか。
ここで神田が一人で風に当たるのは、彼は自分の気持ちに向き合いたくない、渋谷のそばにいたくないという せめてもの抵抗だろう。


んな男性3人は温泉で男子会トーク。彼らが元交際相手だと知った渋谷は、今でも愛花を好きかと大崎に問う。
自分で聞いておきながら大崎の気持ちを知った渋谷は荒れる。お酒を がぶ飲みして、珍しく苛立ちを露わにする。酒乱というか お酒でストレスを発散してしまうタイプなのだろうか。
大崎という絶対的に有利な人間が近くにいることが、渋谷には毒のようだ。ダメージを負った渋谷を介抱するのは神田。泥酔した渋谷は神田を愛花だと思ってキスをする。これは『2巻』の遊園地の時と全く逆の立場ですね。

渋谷からのキスに感情を昂らせた神田は自分からキスをしたいという気持ちを明確に自覚した。もう自分の気持ちを騙せないだろう。好きになるはずのない人を好きになってしまったヒロイン(男)。神田が その気持ちとどう向き合うのかが今は一番 気になる。それに比べると愛花と渋谷は あんまりである。