仲村 佳樹(なかむら よしき)
MVPは譲れない!(エムブイピーはゆずれない!)
第03巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
一堂との交際を父に反対され、家出までした美雪。美雪の父の「夢のない男は認めない」という言葉に対し、一同はLIB選抜大会で頂点に立ってみせると宣言。決意を新たに燃える一堂と美雪は…。
簡潔完結感想文
- ずっと大会編。試合で結果を出すことが2人の関係を認めさせる手段と闘志の源。
- 大会直前に入部した生徒がレギュラー獲得。弱者は徹底的に排除される厳しい世界。
- 強さに憧れ、より高みを目指す。なんだか少年誌みたいな展開。続編も可能だろう。
1990年代の少年漫画誌の影響が強く見える(気がする) 3巻。
正統派の少女漫画として幕を開けたと思われた本書は、
文庫版『1巻』の後半はギャグ漫画の要素が色濃く出ていた。
私は そこに『らんま1/2』っぽさを感じた(私の中でギャグ漫画=高橋留美子先生なのです)。
だが『2巻』の後半からは、一つの大会の様子を描き、それが最終巻まで続く。
トーナメントの抽選会で顔を合わせる有力なライバルたち。
そして予選会、決勝リーグを通して、彼らは戦う意義を見つけ 成長していく。
この様子は まるで少年誌のバトル漫画である。
私が好きだからかもしれないが、特に『幽遊白書』っぽいと思った。
『らんま1/2』も『幽遊白書』も、本書の連載開始前後の大人気作だったはずで、
まだ若い作者が それらを読んで、その影響が色濃く出ていても おかしくない。
決してパクリとかではないが、テイストは頂いているような気がする。
この大会が終わったら、魔界編でも始まるのだろうか。
もし本書が、この大会以後も続いていたら、大学という魔界の話となっていた可能性は高いが。
そうならないのは、本書がやはり少女漫画で、ヒロインがいるからである。
ヒーローである一堂(いちどう)と2歳差の主人公・美雪(よしゆき)がカップルなので、
少女漫画では美雪なしでの話を描くのは難しいだろう。
そして この『3巻』から美雪は戦うヒロインとなる。
これまでもバスケットボールには関わり続けてきた美雪だが、
彼女はプレイヤーとして公式試合にカムバックする。
そうすることで辛うじて少女漫画の体裁を保った、という気がしなくもない。
もし美雪が男子バスケ部のマネージャーという立場のままだったら、完全に少年漫画における女性の立ち位置だもの。
私個人としては、美雪を女子バスケ部に戻す手法や、
彼女が即レギュラーになる展開は好ましいものではないが、
こうなることで美雪に具体的な成長要素が出来た事は作品にとって賢い選択だった。
進路の話はともかく、バスケットで実力を示すことが、
周囲の揶揄や妨害を振り払う事になるという構図も良い。
またバスケットでの課題を克服することで各人の成長が分かりやすいのも親切だ。
『2巻』でのマネージャーでしかなかった美雪は、ウジウジして気持ちが良くなかったですからね。
ただ、気になるのは大会編の長さ。
出場者それぞれに克服するべき壁があるのは分かるが、『3巻』では その壁が新たに生まれるだけで、何も解決しない。
また、この大会の規模が分からないのも良くない。
一堂に関しては、その直前に知名度の高いインターハイでMVPを取っているため、
この大会に賭ける個人的な理由があるにしても、ここでの優勝が達成感には繋がりにくい。
これは、読切の段階で あっという間に時間を進めてしまった本書の瑕疵であろう。
一堂に関しては2回目の3年生の生活だもの…。
また、『3巻』ぐらいから気になるのは、作者の補足が過剰な点。
手書きの文字で、あれこれと説明してくれるのだが、それがクドい。
そういう説明を排除しても伝わるような画面作りを心掛けるべきだろう。
まぁ、まだまだ作者も若く、発展途上だったのだろうが。
美雪を連れ戻しに来た彼女の父を不審者だと勘違いし、威嚇してしまう一堂。
人違い や勘違いは本書のお約束だと言えよう。
この非礼によって ますます美雪の父は一堂を憎むようになる。
だが、父の言動は美雪の態度を硬化させるばかりだった。
しかし一堂の方は、美雪の父親の、
「向上心も果たしたい夢も希望も持たん様な つまらん男」という言葉が胸に棘となって刺さる。
なので一堂は、美雪の父親に自分たちの関係を認めてもらうためにも、
自分の実力や志を認めてもらうためにも、大会への出場を決意する。
これは よりよい環境を目指して(関東の大学からのオファーを求めて)のことではない。
美雪の傍で、堂々と胸を張っていられる自分でいるためだ。
一堂は その決意をテレビの生中継を通して、彼女の父に伝える。
しかも予選トップ通過、優勝まで約束して。
こうして一堂の高校は大会への参加を決める。
大会への出場を決意するまでも長い。
トーナメントの抽選会には、ライバル校が続々と集まり、
新しいライバルキャラも登場する。
既に ここで後の県代表スタメンの用意をしていたと思われる。
顔も名前も知らないキャラがスタメンに選ばれても誰??と、余計な混乱を起こすだけですからね。
ちゃんと顔見せして、印象付けなければならない。
この辺りの因縁の付け方なども『幽遊白書』など少年漫画っぽい。
女子の方も抽選会で顔合わせがあり、こちらも新キャラが登場する。
木南と同じ高校の女子バスケ部のキャプテンなのだが、
その高校の人を出すなら『1巻』で登場した美栄奈(みえな)も部員として出して欲しかったなぁ。
そこで一番 注目されるのは女子バスケ部のキャプテンの付き添いをしていた美雪。
中学MVP(作中だと獲得して1年未満なのか?)だった彼女は否が応でも注目の的となる。
バスケ部関係者は、美雪が男を追ってバスケを捨てたと噂されていた。
この世界の有名人だからこそ、あることないこと囁かれて美雪は参ってしまう。
そんな中、女子バスケ部部長は美雪に内緒で、スタメン表の中に美雪の名前を書き込んでいた…。
抽選会前後で、美雪も一堂に手が届く場所にいる、そんな存在になりたい、と願い始めていた。
それに必要なのは、他者からにも言われなくなる自分になることと美雪は考え始める。
これが美雪が女子バスケ部に参加する大きな動機となる。
同じ頃、いつの間にか美雪の幼なじみの磨己(まこ)も東京から、
木南(こみなみ)のいる高校に転校していた。
しかも彼は転校して即、1年生で いきなりレギュラーを獲得する。
この辺の展開は正直 なんだかなぁ、と思わざるを得ない。
作者も一応、それに関してのエクスキューズを用意している。
美雪への風当たりは、部内で快く思わない人がいる描写を入れることで、ガス抜きをしている。
彼女に関して言えば男子バスケ部の中でバスケをしていたから、ブランクはない。
しかし女子バスケ部との連携などは全く無いのに、肩書だけで入ったと言える。
だから設定として、美雪は男子部員に混ざって、それはそれは大変なメニューをこなしている、という設定を用意する。
実際の作中では、男子部員に囲まれた逆ハーレム状態で、バスケを趣味程度にしかやっているようにしか見えなかったが…。
彼女の働きの描写があるのはマネージャー業だけだったし、
女子部員たちの不平・不満も当然だと思わざるを得ないなぁ。
美雪の登場によって確実に1人は涙を呑んだ人間がいるのに。
そういえば美雪(よしゆき)が女子バスケ部に移ることを見越して、
先に美雪(みゆき)は男子部のマネージャーに配置しておいたのだろうか。
しかも これによって美雪(みゆき)が物語に無理なく登場させられていると感心する。
磨己に関しては、実力とやる気と、中心的存在の木南のバックアップで部員は納得している様子。
だが、タバコを吸い、ここまでバスケから離れていた人間が他の部員を押しのけている印象は否めない。
大会間際の転校生というのも引き抜きのようで心証が悪かろう。
(磨己には別の、卓越したバスケの師匠がいるという設定があり、実力は折り紙付き、としているが)
この大会では、2人は互いに独占欲や不安を発揮している。
美雪は、一堂が大会に出場することで、彼の言葉とは裏腹に彼が遠くへ行ってしまうのではないかと、不安でならない。
そして一堂も、美雪が男子バスケ部マネージャーから女子バスケ部の選手になることで、
彼女が目の届かない場所に行ってしまう不安に駆られる。
互いに、自分の相手を離したくない気持ちがワガママかどうか悩む。
だが、一堂は美雪が周囲から陰口を言われていることを知り、
彼女の実力を学校内外の人に知らしめるために、彼女の大会参加を勧める。
こうして美雪は久しぶりに公式試合に出場する事となるが、その緊張から動けない美雪。
だが、一堂が見守ってくれる時は彼女は無敵となる。
試合を通して成長していくのは磨己も同じ。
一堂を倒したいという気負いから、別のチームとの対戦でファウルを連発。
それを上手くコントロールするのが、同じチームの木南。
打倒・一堂という目標が同じ2人は、チームプレイで彼を打破しようと志を同じにする。
そんな彼らを成長させるのが、大会期間中に登場するの美雪の兄・美文(よしふみ)であった。
一堂は父の時と同じく、兄もまた美雪につく悪い虫だと思って牽制する。
だが父と違い、兄は寛大な心でその言動を許してくれるが。
心も広い兄・美文は関東の大学でのバスケのトップ選手。
ちなみに彼らの父も元バスケ選手で、怪我をして引退したが優秀な選手であったらしい。
美雪のバスケセンスは一堂によって高められたが、遺伝子そのものが才能の塊とも言えるのだ。
美文は、妹を自宅に返すために父によって呼び寄せられた。
だが一堂が本当に妹を大切にしていることが分かり、一応、形ばかりの説得はするが、彼は妹に判断を任せる。
一方で、妹の試合を見た彼は、妹が一堂と一緒にいるデメリットを感じる。
それは一堂が美雪にとって、あまりにも精神的支柱であり過ぎるという点である。
逆もまた然り。
見える範囲にいなければ、実力を発揮できない、そうして共依存しているように見えるから、
美文は、妹たちに関係を見直すことを助言する。
それは進路に関しても言えることだろう。
目の届く範囲にいる安心感で、彼の選手としての才能を殺すかもしれない。
また兄・美文は磨己の指導もしていた。
美雪がプレイスタイルで一堂の遺伝子を受け継いでいるとすれば、磨己は美文の遺伝子を強く受け継ぐ。
真の勝負は、彼女の最強の兄との間接的な戦いともなる。
決して衝突しない一堂と美文だが、
一堂にとって真のライバルは、この美文といえるのではないか。
そんな折、早くも試合会場が別で、お互いに試合が見られない状態がやってくる。
ここでは女子バスケ部の部長が恋心によって上手くプレーできないという状況を描くことで、
恋愛とバスケに対する美雪の答えを導き出している点が上手い。
美雪が真にヒロイン的な成長を遂げた。
これによって兄の心配が杞憂に終わったことになる。
そして これは2人の別離の準備とも言えよう。
一堂は、全く眼中になかったために知らなかった美文の実力を聞き及ぶにあたって、
彼とプレーをすること、関東最強の彼の大学を倒す事への意欲が生まれてくる。
大会中も、彼らも そしてライバルたちも成長していく。
磨己と木南は、美文に指導を受け、自分たちのスキルを磨く。
その練習風景の中で、一堂は初めて美文のバスケを見る。
そこに生まれるのはライバル心。
一堂もまたアスリートなのである。
美文という圧倒的な存在が、一堂の心のギアを更に上げる。
それは美雪も追いつけない速度での成長と言える。
こうして各人の決意と共に、決勝リーグが開催される。
この時点で、一堂は ある決意を胸に秘めている。
決勝リーグの開幕時に、『1巻』で一堂の中学時代の過去回で登場した女性・近藤(こんどう)さんが再登場する。
(彼女が出てくるなら美栄奈も…(しつこい))
大病を克服した近藤は、美雪に、
自分には立てない立場、なれない役割を話す。
美雪は自分と同じように一堂を想う彼女の、人生経験から裏打ちされた言葉だから素直に聞ける。
近藤は美雪の中の不安を増幅させる。
だが、これは彼女が悪意だからではない。
一堂を昔から知る彼女だからこそ、美雪が意識的に見ようとしない一堂の変化を指摘できるのだ。
こうして一堂から聞けていない言葉を確かめに走る美雪だったが、
そこで聞いてしまうのは、最も聞きたくなかった言葉であった…。