《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

世界の中心で 病気を抱える事情を隠したまま周囲の無理解は暴力だと 一方的に不幸を叫ぶ。

きっと愛だから、いらない(1) (フラワーコミックス)
水瀬 藍(みなせ あい)
きっと愛だから、いらない(きっとあいだから、いらない)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★(4点)
 

余命1年の少女の、最初で最後の恋。わたしは恋がしたいです。命の砂が落ちる、その時間まで。
重い病を患う円花(まどか)は、余命宣告されたことをきっかけに「恋がしたい」と願うようになる。円花が恋の相手に選んだのは、学校一のプレイボーイ・光汰(こうた)。恋がなにもわからなかった円花だけど、光汰と一緒にたくさんの「はじめて」を経験するうちに、自分の中にある、今まで知らなかった感情と出会って…? センチメンタル&ドラマチックラブ、第1巻!

簡潔完結感想文

  • 10年選手の人気作家だけど、このジャンルは身の丈に合わなかったのではないか…。
  • 読者が夢中になれないのは内容が重いからではなく、事象に対し表現が軽いからでは?
  • あっという間に好きになるけど、好きになるほど病気の現実と秘密が重く のしかかる。

気という「欠点」があればヒロインは美人でも許される 1巻。

本書が病気を扱った作品と知って嫌な予感はしていた。なぜなら前作『恋降るカラフル』の終盤で作者はサブキャラクターを急に病気持ちにしたからだ。そして その設定を気に入って、今度はヒロインが病気だと一層 切なくない?と描いたのが本書にしか思えなかった。偏見かもしれないが、作者にとって病気がヒロインの特別性を演出するための特徴づけでしかないのではないか。そんな作者の自己愛の強さが所々で作品に滲み出ていて、物語に集中できなかった。

限りある命だが彼女は既に その表情や心は動かずに死んでいる状態。それを動かすのは恋。

そして私が一番 嫌悪するのは、作者が その設定に飽きたのではと思うような終盤の展開である。『恋降る』の終盤で突然 病気を持ち出したように、今回も別のジャンルに横断を画策したかのような展開が待っていた。私なんかでは窺い知れない深い考えがあるのかもしれないが、『恋降る』といい本書といい必要性の感じられない新展開を持ち出すのは作者の悪癖のように思える。作家生活も10年を超えたのに、意外性を重視した序盤の構成以降、話が散らかる傾向が治らないどころか悪化している。良く言えば好奇心旺盛で、読者や自分を飽きさせないようにしているのかもしれないけれど、悪く言えば集中力の欠如が甚だしい。特に今回のように病気をテーマを扱うのならば しっかりと腰を据えて欲しかった。

本書を読んで同じ「Sho-Comi少女コミック)」掲載で心臓に病気を抱えるヒーローを描いた青木琴美さん『僕の初恋をキミに捧ぐ』が どれだけ病気に対して真摯であり続けたのか、再評価したい気持ちが湧いてきた。熱意や集中力、最後まで登場人物に寄り添った若き日の青木さんに、この時点の作者は負けている。

最終巻のコメントでは、もう少し描きたかったと連載が終わることへの作者の恨み節が見え隠れしている。作者は それが病気モノで内容が重すぎたからだと考えていそうだが、真相は逆であろう。本書は軽すぎるのだ。どんな結末であっても読者はヒロインと恋人の恋愛を見届けたかったのに、作者が自分で考えたヒロインの可哀想な設定を放棄したかのような内容に誰も ついてこれなかっただけである。

これまでの可愛い系の おバカヒロインは まだ健気さが見えたが、本書のような病気を抱えているため精神年齢が高くならざるを得なかったヒロインは作者の手に負えなくて、彼女の良さが出せていない。いきなり交際を申し込むヒロインのエキセントリックな言動の背景は徐々に明らかになっていくが、衝撃的な幕開け以外に あまりその意義を見い出せなかった。
彼女は長い病気との付き合いで、周囲から不条理な扱いをされたのは理解できる。だが彼女は その諦念から自分の周りの世界は全部同じだと思っている。小学校での周囲の無理解を高校でも同じように適用している。彼女は自分で心のシャッターを閉めて閉じ籠っているのに、それでいて相手に理解されないと感情を乱す。そういうダブルスタンダードが見て取れて あまり好きになれなかった。自分の行動が他者に どんな波紋を呼ぶのか、あまり考えているとは思えない思慮の浅さがヒロインの致命的な欠点だと思う。そういう可愛げがないヒロイン像に徐々に読者は困惑していったように思える。
それは病気に関しても同じ。どういう病気なのか どういう症状が起こるのかを説明しないまま、漠然と病気として扱い続ける。この設定を描くには作者の力が足りなかった。それが読者にも伝わってしまった結果が連載の終了を早めたのではないか。

厳しいことを言えば描けば描くほど下手になっているように思える。特に ここ2作は集中力の散漫さ、キャラクタを同時に動かせないところなど、欠点が多く出てきてしまっている。また過去作で見たような内容も平気で繰り返したり、引き出しの少なさも露呈しているし、そこに疑問を持たない姿勢も残念だ。
特に本書ではサブキャラクタの存在意義が薄いし、エピソードも個別に存在するだけで繋がっていない。単純に言えば期待したほど面白くないというのが読者共通の感想ではないか。


の終わり、高宮 円花(たかみや まどか)は吉良 光汰(きら こうた)に交際を申し込む。だが2人の関係は同じ学校で、それぞれ相手の存在を知る程度で交際を申し込む理由を、受け入れる理由もなかった。吉良にとって円花は学校の高嶺の花だし、円花にとっての吉良は学校一のプレイボーイという認識しかない。

突発的な行動に、いきなりの告白、読者の興味を引くような展開ではあるが、合理性に乏しい。

吉良にとって円花からの告白は意外だったが、プレイボーイの名に恥じず 彼は交際を承諾する。
この時、吉良が円花に声を掛けたのは、彼女が海の上に架かった橋の欄干に上がっていたからなのだが、円花が降りる際の手助けを吉良がしようとしても「あなたの助けはいらないわ」と円花は冷たく あしらう。仮にも交際相手となった吉良に対して失礼なのは、円花の心が吉良にないからだろう。本当に好きな相手だったら人はもっと慎み深くなるはずだ。

この印象的な出会いのシーンで円花は遺書を持っていたことから、彼女が世界に別れを告げようとしていること、そして彼女に吉良への愛への渇望や欲求は見られないことが伝わる。まだ夏の終わりなのに円花の周囲の温度は低く感じられる。
そして再読してみると この時、吉良にとって大事なのは告白よりも円花の遺書を拾っていることなのではないかと思う。それが この後、吉良が不思議なほど彼女に寄り添う動機になっている。円花の告白に嘘があるのと同様に、吉良の彼氏としての働きにも事情があるのだ。
ただ円花が どうして こんな目立つ行動をして、遺書を持って、それを落としても気にしないのかが謎。全ては吉良が円花に興味を持つ動機なのだろうが、円花側の行動に謎が残る。作者の作品の こういう部分が苦手だ。

良との出会いで円花の心は動いたように見えるが、円花は母親と対面すると表情が張り付いたように動かなくなる。どうやら母親は娘の体調を優先するあまり過保護になり、彼女の心のケアまでは出来ていない様子。母親は車での送迎、1人での外出禁止だけでなく、家具や服など家の中の生活にも干渉している。そして この家に父親は最後まで出てこない。登場しないだけなのか そもそもいないのかも分からない。

円花は長いこと医師に お世話になっているようで、自宅にも呼び寄せる。これは円花の実家の財力がなせることなのか。この主治医の男性は無駄に若く、イケメンである。それは読者の興味を得るためもあるだろうが、若く年齢が近いことで序盤における円花の相談相手になるという役割もあるからだろう。彼女が自分の世界を広げるまでは、この医師だけが世界の窓口なのだ。

この際の会話で、円花の抱える持病は手術も可能なのだが、彼女は手術しても死ぬと考えていることが分かる。


花の余命は あと1年。
同年代の中で誰よりも限りある時間を自覚している円花は、その時間で自分の やりたいことをすることにした。それが吉良との交際、というよりも恋愛なのだろう。
吉良も接点のない円花に選ばれたことに対しての色々と疑問はあるだろうに彼は「彼氏」役に徹しているように見える。そんな完璧な彼氏・吉良の表情に円花の胸は確かに高鳴っていく。この血液の湧き上がる状態こそ円花の望みである。疑似体験でも夢を見させて、という感覚はホストと客のようである。

恋人初日、吉良は一緒に通学から予定を変更して学校をサボってのデートを提案する。ここで意外にも吉良は学校内での円花のことを よく見ていることが判明する。円花の容姿だけじゃなく内面も きちんと見てくれていたから交際を承諾したようだ。
そして決して可愛いとは言えない円花の つんけんした態度にも吉良は自然と笑う。それに釣られて円花は笑顔を取り戻す。すると その円花の笑顔に吉良は惹かれるという循環が起きる。突然の交際だったが交際の後で2人は恋に落ちていく。

だが そのデートも円花の母親によって中断される。娘の話を聞かず強引に連れ帰ろうとする母親だったが、吉良が円花に手を差し伸べる。そして橋の上での初対面の時と違い、今度は円花は吉良の腕の中に飛び込む。

生きる意味を失った円花が吉良との時間を自分の意思で選んだ。この1話はかなり良く出来ている。


の後、母親は車での通学によって円花の一層の行動の制限をしようとするが、円花は自分の意思で籠から飛び出そうとする。

駅で吉良と会い、2人は手を繋いだまま学校内を歩くと、ただでさえ注目度の高い2人の交際に学校中が どよめく。
この時、女子生徒の1人が吉良はプレイボーイであり、女子生徒の共有財産的な発言をしても、円花はそれを承知している様子を見せる。彼に対してドキドキするしモヤモヤもするのだが、その一方で彼への執着が見られない。

一方、吉良は円花との交際で変わりつつある。プレイボーイとして深入りさせないし深入りしない距離感を保っていた彼が、円花のことを知りたがっている。そして円花に夢中になったからか他の女子生徒へのサービスを疎かにする。
そんな吉良の変化を感知するのは吉良の友人の久世 颯真(くぜ そうま)だった。学校の2大王子と称される彼らのルックスは、水瀬作品でよく見られる白黒王子様たちである。ただ この久世は これまでの水瀬作品と ちょっと違う。それが作者の挑戦だったのか妥協だったのか、よく分からないのが辛いところだけど。私としては もっと読者の期待通りの働きをさせて良かったのではないかと思うけど。


良には学校の王子様という付加価値があるが、円花もまた学校では羨望の対象だった。
「きれいで頭よくて お金持ちで なんだって持ってる」。これは これまでの水瀬作品ならライバルキャラに位置するような設定で、逆にヒロインは頭が悪かったり幼かったりする欠点があった。
だが今回は円花は病気というハンデがある。その「欠点」が読者の同情を買い、美女が早々に美男と恋に落ちる展開であっても読者が応援しやすくなっている。でも結局、本書にとって病気は完璧な円花の「欠点」でしかなく、病気を描くというよりも利用しているようにしか思えない。本当に作者は病気を描くことと向き合ったのかな、と思わざるを得ない部分が多い。

円花は吉良ファンの女子生徒から別れるよう促されるが、別れる意思を見せない。そのことに激昂した女子生徒が暴力を振るおうとするが、そこに吉良が いつの間にかに現れる。既存の作品と同様に瞬間移動してきたかのようなヒーロー的な行動だが、このシーンの真意は別にある。

その女子生徒は以前、円花にフラれた男から、円花が好きな人はいないし作る気もないと言っていたという情報を聞いていた。彼女が円花に腹を立てるのは 嘘をついていることと、そして それに吉良を巻き込んでいるからだった。その話を吉良に聞かれて…。

円花の「ずっと好きだった」という告白が嘘なのか問い詰める吉良。円花はそれを首肯する。だが吉良は怒らなかった。やはり彼も この交際には疑問があったらしい。しかし逆に円花の心には しこりが残る。その時の吉良の表情や言葉に どんな意味があるか彼の心情を知りたいと思ったのだ。


朝、吉良が一緒に登校してくれないことを知ると、今度は円花の方から彼の居る場所まで駆け寄る。それぐらいに円花の心は動き、彼を求めて必死になっている。それこそ生きるエネルギーだろう。

吉良が居たのは出会いの場所でもある橋の上。そこで彼はギターを弾いていた。
2人きりになり円花は自分たちの現状について聞く。だが逆に吉良は なぜ円花が自分に告白したかを聞く。そこで円花は吉良が命を大切にしている人だからというエピソードを話す。そこから吉良の事は気になっていたが、橋の上での出会いまで話す機会がなかった。機械的な告白であったけれど彼女は無自覚に吉良に惹かれていたのだ。
それを知って吉良は円花にデートを提案する。


デート回。
円花は少なくとも小学生の頃から重い病気を抱えていた。周囲との違い、反感、そして担任も円花の登校や彼女への配慮を歓迎していないことが分かり心を殺して生きてきた。そんな彼女が、母親に内緒で出掛け、倒れたりしないよう体調に気を遣ってデートに出掛ける。彼女の心は生きている。

小学生から世界に絶望している円花。だからといって自分の事情に他人を巻き込むのは高慢な思考だ。

これまでは母親と一緒にしか行動しなかった円花だが、着飾って1人で出掛ければ周囲の注目の的になる。そこにナンパ男が登場して、それをヒーローが撃退するのも少女漫画の お約束。作者は絶対 以前の作品でも似たようなシーンを描いていると思うのだが、こういう同じネタの繰り返しに疑問を持たないのだろうか。

この日一日、円花は吉良に たくさん笑わせてもらって、知らないことを いっぱい経験する。そんな円花に対し吉良は、これまでの周囲の人のように彼女を奇異に思ったりしない。円花が気にする自分の環境へのコンプレックスを見事に反転してくれる。

知らないことがあることは、これから初めての感動が待っているということ。そう言ってくれた吉良の言葉に円花は これまで自分で蓋をしていた「普通」への渇望が溢れ、それが涙となって身体から排出される。そんな円花を吉良は抱きしめ、恋をしようと提案する。それは遺書に書かれていた円花の願いである。

円花は吉良から初めて好きだと言われる。彼女にとっての初めての経験で赤面するほどの感動が待っていた。その表情を吉良に見られ、そこに吉良の事が好きだと書いてあるようだと言われ、円花は この気持ちの名前を知るのだった。


れから2人は吉良のバンド活動の練習場所に向かう。円花が本来の吉良の予定を知り、サボることを許さなかったからだ。

こうして円花は、吉良と久世、そして来栖 結愛(くるす ゆあ)に出会う。彼らの練習曲は円花でも知っている曲。そのメロディーに合わせて円花が歌うと吉良が絶賛してくれた。そして吉良は円花に このバンドのボーカルを依頼する。彼の目標は来年の夏フェス。だが その時には円花は この世にいない。だから円花は急激に温度を下げ、興味がないと冷静に断ってしまう。

その後、久世と2人きりになった際、学校で見せるような冷静さと無関心を指摘され、その誤解に円花は激昂し、彼にポーチを投げる。その中身は大量の薬。円花が立ち去った後、ポーチから薬が顔を覗かせているのを発見し、久世は何かを予感するのだった…。

円花が生きる時間は着実に少なくなっている。だから彼女は生き急ぐ。恋をじっくり育てている時間は彼女にはない。


「恋降るカラフル 特別編」…
前作『恋降るカラフル』の10数年後を描いた作品。ヒロインの麻白(ましろ)と青人(あおと)は結婚し、一人息子の彩人(あやと)も10歳に成長していた。恋を知らない息子は ずっと恋愛をしているような状態の両親が理解できない。そんな彼が初めての恋に出会う話が描かれる。

息子は「カラフル」だから彩(いろどり)の人なのか。白と青で水色関係で良かったんじゃないか? 2組の同級生の夫婦の子供たちが出会うというのは、いかにもSho-Comiの甘い作風である。病気設定なんて無かったことになっているように見える姫乃(ひめの)が出産しているのを見ると、本編の円花の未来も明るいように見える。