《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

白泉社のように「あそ部」の活動で10巻ぐらい遊んで欲しかった。恋愛要素は むしろ不要。

僕と君とで虹になる(1) (フラワーコミックス)
藤沢 志月(ふじさわ しづき)
僕と君とで 虹になる(ぼくときみとで にじになる)
第01巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★(6点)
 

何事にも白黒ハッキリつけたがる性格の主人公・流衣。安定した人生をおくることが最大の目標である流衣は、無駄なことが大っきらい。けれどあるとき、学校一のモテ男子・富士浪翔がつくった部活「放課後全力であそ部」に、強引に入部させられてしまう。けれど、この出会いが、流衣の毎日を激変させて…!?スーパードライ少女×マイペースすぎモテ男子の、虹色スクールデイズ

簡潔完結感想文

  • 恋愛に目覚めるまでの過程は個性的なのに、恋愛開始で王道展開になるジレンマ。
  • 少女漫画あるある。二卵性双子の男女の双子でも 入れ替われるぐらい顔がそっくり。
  • 友達が1人1人できる過程が秀逸で、そして部活が始まるワクワク感と大満足の『1巻』。

分の中に封印してきた恋も友情への渇望が あっという間に顔を出す 1巻。

白か黒で物事を判断していたヒロインが、1人の男性と出会うことで、世界を虹色 = 人間の可視範囲の全て にしていくという物語。私は この『1巻』が特に好きで、頑なだったヒロイン・桐堂 流衣(とうどう るい)が、周囲の人間1人1人と心を許していくエピソードが どれも良かった。何なら流衣の恋愛感情の解禁は もっと遅くても良いぐらい。彼女の世界がより広く、より虹色になる様子を ずっと見ていたかったなぁ。

真面目すぎて友達がいないヒロインという設定は、これまで読んできた少女漫画でもいくつかあったが、私は どこか白泉社系漫画のような雰囲気を感じた。それはヒーロー・富士浪 翔(ふじなみ しょう)が お坊っちゃん設定でマイペースな上流階級だからだろうか。彼のペースに巻き込まれることで学校生活がより楽しくなるという展開や、ちょっと変わった部活の内容などは葉鳥ビスコさん『桜蘭高校ホスト部』っぽいかもしれない。

富士浪のしていることは宗教への勧誘のようだ。自分の信念とは違うから流衣は富士浪を拒絶する。

富士浪と出会ったことで、流衣は これまでの15年以上の生き方を変えるのだが、その過程も ふんだんに笑いを散りばめていて肩の力が抜けていた。真面目になりそうな一歩手前で富士浪が その場の空気をコントロールしている。彼の柔らかさが作品の方向性を決定づけていると言っても良いだろう。早くも『1巻』で暗い過去やトラウマが見え隠れしていてヒーローの素質は十分。

なので作品の構成も白泉社らしく、恋愛には疎いヒロイン&ヒーローが引っ張れるところまで話を引っ張ってから両想いになる展開が似合う気がしたが、本書は『1巻』のラストでヒロインが恋心を自覚し始めてしまう。まだ確定ではないので、勘違いということにしてリセットすることも可能だろうけど。

流衣の現状を重く捉えれば、もっと作風を暗くすることも可能だが、作者はライトな方向性で話を進める。それも富士浪という太陽によって世界に色彩が生まれ、空には虹がかかるようにしているからだろう。光が無くては虹は生まれない。この作風は いかにも掲載誌「ベツコミ」っぽい。全5巻の中に、恋と友情、そしてトラウマまでテンポよく詰め込まれているのも好印象。それは基本的に人生を楽しく過ごそうとする「放課後全力であそ部」の雰囲気とも とても合っていた。


衣は学校内に友達がいないため、悪い噂(でたらめ)が独り歩きしている状態。更に他生徒から話かけられたとしても客観的な事実を述べてしまい、相手に合わせて空気を読むことが出来ない。自分に嘘をつくような発言が出来ないから流衣の周りからは人がいなくなる。

彼女が そうなったのは自由な父が職を転々とし、家族に迷惑をかける反動だった。持ち家があるため生活は何とか成り立つが、家族のためにも高校卒業後は公務員になるのが流衣の目標である。

そんな彼女が、学校一のイケメン・富士浪に、彼が作った部活に強制的に加入されられそうになることから物語は始まる。全力で遊ぶための部活という、流衣にとって無駄な活動を目指していることもあり、流衣は富士浪の提案を拒絶する。

だが富士浪はしつこく、流衣を追い回す。その状況が女子生徒の反感を買い、流衣は一方的に恨まれ、いわれなき暴力を振るわれる。

それを助けるのが富士浪。流衣の傷の手当てをしながら話し込む2人だが、流衣が周囲を拒絶するような態度を取ることを富士浪は否定しなかった。それも流衣の個性と初めて認めてくれた。そして彼は流衣にほんとの友達ができると予言する。

それは流衣が心の底では願っていたことでもあり、富士浪の言葉に流衣は涙する。そして流衣の心が彼が作ろうとした部活に傾きかけた時、富士浪は流衣を騙して入部届にサインをさせて、あそ部を結成させる。ここは富士浪が実は策士で狡猾という一面を見せながらも、流衣の心が傾いているため嫌な印象を受けず、むしろ背中を押してくれたような爽快感が残る。

固まり切った流衣の信念までも包んでしまう富士浪の包容力。太陽である彼の周りには虹が生まれる。

そ部の部員は4人+顧問1人。メンバーは流衣・富士浪の他に、双子の五郎(ごろう)と六花(ろっか)であった。彼らは男女の双子で、二卵性ではあるはずなのに、見事に そっくりという謎の現象が起きている(少女漫画あるある)。

ふざけた活動内容の部活の創設を認めない校長に許可を貰うまでの過程を描いた2話である。この回は、人探しをしようという富士浪に対し、可能性の低さから無駄だと切り捨てる流衣との価値観の違いが描かれる。

それでも笑顔で何とかしてしまう富士浪。だが人探しの最中に、流衣は富士浪には過去があって、その過去の経験から目の前の事象に全力で取り組むことにしたことを知る。
そして ここでも流衣は自分の中の微かな希望に蓋をしていた。自分には友達が出来ないと思い込んでいたように、最初から人探しを諦めることで、自分や その人が無駄に悲しむ事を避けていた。それは臆病であり、優しさでもあると思う。富士浪のこと、自分のこと、人と関わることで流衣は様々なことを発見していく。

流衣の ちょっとした発言から、人探しは最終的に成功し、そして「放課後全力であそ部」は部活として正式に認められ、部室も充実した。そして流衣は富士浪という初めての友達を得た。その内、流衣が富士浪といると自分が弱くなる、とか言い出さないか心配である。


3話目は、六花と流衣の交流。流衣が一番 苦手とする同性の友達の作り方を学ぶ。

六花は流衣に きつく当たるが、流衣は今の六花が自分が捨てた同性と合わせる生き方をしている人だということを理解する。しかし六花もまた中学時代はいじめられていて、孤立していたらしい。だから六花は ありのままの自分を捨てて、友達と波風を立てないことを最優先していた。

だが六花の表面的な対応は今の友人たちに不信感を与えていた。その話を六花はトイレの個室から聞いてしまう。六花が流衣と友達になることを選んだと誤解する友人に対して六花が動けずにいると、流衣が、それをキッパリ否定した。流衣は自分が選ばなかった道を懸命に進んでいる六花を守るために、自分の方から六花と繋がる橋を崩落させた。

自分が周囲の人に好かれていない。その事実を自分の口で話せる流衣の強さと悲しさが見える場面。

そんな流衣の優しさと強さを知り、六花は自分がありのままでいられる友人は誰なのかを考える。
だから翌日、六花は流衣と一緒にお弁当を食べることを提案する。それは六花が選んだ友達。そして流衣は初めて同性に友達になりたいと選ばれた。六花も流衣も誤解や恐怖心を乗り越えて お互いに歩み寄っている姿が感動的だ。

2話の校長の件といい、今回のマグカップの件といい、ちゃんと伏線を張っているのが良いですね。エピソードの積み重ね方が丁寧で、あそ部が充実した活動内容を見せていくのが心地よい。


衣は恋愛に全く興味がない。それもまた家族の影響だった。その主原因は父ではなく姉。姉は特待生で医学部に入ったのに、恋に生きようとして将来を壊してしまいかねない人だった。
そんな見る目がない姉に加えて、甲斐性なしの父親と結婚した母もまた同じダメ男好きで、祖母も祖父に悩まされたという。この血筋、呪われた遺伝に左右されないようにするため、流衣は恋愛感情を封印している。

姉の海外逃亡騒動で家がバタつき、母が姉を追いかけている間に、流衣の弟・悟(さとし)が高熱を出す。この弟・悟は2人の姉の良い所を併せ持った人で将来が楽しみである。

誰にも連絡がつかない中、パニックになる流衣だったが、渡された富士浪の連絡先を思い出し、彼を呼ぶ。富士浪の冷静な采配のお陰で弟の診断がつき、人心地ついた流衣は涙を流す。自分一人で間違えないで生きていくと思っていた流衣だったが、自分一人では何もできなかった。そんな自分でも優しく認めてくれる富士浪に、流衣は「動悸と胸のしめつけ感」を覚えるのだった。
六花の少女漫画によると、それは「恋」という症状なのだが…。

『1巻』は1話ごとに描きたいテーマが明確にあって、それを表現するエピソードがしっかり描かれているのが良かった。流衣が これまでの人生で構築した鉄壁の覚悟が簡単に崩れているような気がしなくもないが、その分 テンポよく進むから それで良いのかもしれない。『彼女はまだ恋を知らない』が、恋を知った流衣が どう変わっていくのかが今から楽しみである。


「キミのとなりで青春中。 特別番外編」…
全8巻とヒット作となった作者の前作『キミのとなりで青春中。』の読者を誘導しようという商業的な目的で収録された特別編。

バレンタインデーの1日の美羽(みう)と慶太(けいた)を描くが、相変わらず美羽が子供っぽい。絵柄が随分違って作者の器用さに驚いた。