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少女漫画と小説の感想ブログです

彼の浮気を疑う自分が まるで浮気相手のようにクローゼットに放り込まれる屈辱。からの胸キュン。

古屋先生は杏ちゃんのモノ 10 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
香純 裕子(かすみ ゆうこ)
古屋先生は杏ちゃんのモノ(ふるやせんせいはあんちゃんのモノ)
第10巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

古屋先生と順調にお付き合い中の杏。誕生日は先生の部屋で一緒に祝うことになったけど、そこで女物のイヤリングを発見してしまい…!? しかも突然、古屋先生にお見合い話が浮上!! ドレスアップしてホテルに乗り込む杏…無事、先生との愛を守り切れるのか!? 両想いになっても波乱がいっぱい♪ ドタバタ禁断ラブコメ 【同時収録】古屋先生は杏ちゃんのモノ 番外編

簡潔完結感想文

  • 高校3年生で初めて杏の誕生回。先生の友人のお陰で胸キュン&酔った彼を味わえる。
  • アラサー先生の初めての お見合い回。先生と一緒に生きることが全てのモチベーション。
  • 先生が入れない初めての場所は君嶋が保護者役。聖夜にゾンビが昇天する。…したはず。

り切れない想いを抱える君嶋は奇数、割り切れる先生は偶数、の 10巻。

ここ数巻、2大ヒーローは1巻ごとにメインを交代している。君嶋(きみしま)が本気を出しセクハラおやじ化した『7巻』、古屋(ふるや)先生の復権を試みた『8巻』『9巻』は君嶋ゾンビの復活、そして この『10巻』は先生が事実上の婚約者となった。

ただし『10巻』ラストでは君嶋に全てを持っていかれたような気がする。2年以上 片想いしてきた君嶋の別れの儀式が描かれているからだ。この時は、特別な日に相応しい場所で美しい彼の切なすぎる心と、TOP全ての条件が整って忘れられない景色となった。この美しすぎる光景を邪魔する杏(あん)の顔はマフラーに巻かれて隠れているのも良い(笑)

少し残念なのは、君嶋の心境の変化が分かりにくいこと。単純に考えれば杏と君嶋は大学の志望校が京都と東京と離れているため、受験を前に この気持ちに一区切りするためなのだろう。
その4か月ほど前の君嶋の髪色の変化も作中では その理由が明かされていない。黒髪にした理由は「一応 受験生」だから、と本人は言っているが、一般受験であろう彼の髪色が受験に影響するとは思えない。
もしかしたら これは当て馬卒業、セクハラ封印の彼の決意の証だったのかもしれない。タイミングとしては杏が先生から浮気を疑われるようになってしまった『9巻』での自分の強引さを反省し、責任を取ったとも考えられる。
また、その直前に起きたことと言えば、先生が杏を自分の家族に引き合わせ、堂々と交際相手だと伝えたことも影響しているようにも考えられる。相手の家族に挨拶した杏は少女漫画的には既に婚約者の立場である。古屋先生と教え子の君嶋は、年齢を超えたライバル 兼 マブダチなので、先生が君嶋に自分たちの進展を語った、という線は薄いか。でも察しの良い君嶋だから浮かれた杏の様子を見て、一層 濃厚になった自分の敗色を感じ取ったのかもしれない。

恋愛イベントが起こしにくい高校3年生での大事件。髪色1つで読者が ざわめく。なら先生は金髪に!

黒髪が本来の君嶋の色ならば、それが俺様ヒーローやドSやセクハラのようなキャラ付けを辞めたということなのかもしれない。黒髪の君嶋は これまでで一番 素直で純情。杏に対して常に優しく、彼女の幸せを第一に願っている。受験に関して悩む杏にも、『1巻』の時のように心理学を応用して悩みを共感するのではなく、本当に彼女のことを考えて、彼女に前を向かせている。
寝てしまった杏に自分の服を かけてあげたり、別れの儀式の際も彼女をマフラーで ぐるぐる巻きにしている。こうやって間接的に「包み込む」ことで一層 君嶋の真剣な愛が伝わってきた。強引に迫って何度もキスをしようとするよりも、直接 触ることすらも禁じているような許されなさの方が かえって秘められた想いが増幅される。あっけらかんとしている杏と古屋先生の関係より、君嶋(黒髪ver.)の方が禁断の愛を感じた。

あれっ、偶数巻の『10巻』は先生の活躍場面が多かったはずなのに、感想文の大半が君嶋に持っていかれた。恐るべしキミシマン。まぁ 最後だからね。…などと思っていた時期が私にもありました。ゾンビは3度よみがえる。キャー!!


7月22日は杏の誕生日。高校2年生は1年間すべて描いていたのに誕生日はスルーされていたので、本書で初の杏の誕生日である。去年は修学旅行回が随分と長く、夏のイベントを夏祭りに取られてしまって誕生日を描く余裕が無かったのだろうか。

杏は「何でも ええで」という古屋先生の言葉を言質に、古屋先生の家で新婚生活のリハーサルを満喫する。さらに杏は婚姻届も用意していてリハーサルを現実にする気まんまん。この日で18歳の誕生日なので、2022年の民法改正後も結婚できる年齢である。

一緒にご飯を作った後は…、一緒にお勉強。だが杏は目標がないため受験勉強に身が入らない。そこで先生が なぜ教師という職業を選んだかを聞く。ここで話を出した古屋の同級生が、噂をすればで突然 現れる。


屋先生がケーキを取りに出た間、杏は彼の部屋の掃除をする。そこで発見したのは女物のイヤリング。それを浮気の証拠だと疑う杏は、実家に帰ると言い出す。

玄関先で言い争いをしていると、話題に出した古屋の元同級生が部屋を訪ねてきて大ピンチ。なぜなら以前の夏祭りで その友人は杏と出会っており、古屋の生徒として紹介されているから。公言できないというよりも、ただただ説明と後処理が面倒くさいのだろう。もしかしたら本書で最大の交際発見のピンチかもしれない。

こうして なぜか浮気疑惑に激おこだった杏が浮気相手のようにクローゼットに押し込まれる。

そこで始まるのは不自然な胸キュン劇場である。この古屋の友人が「女物のイヤリング」について、一から十まで説明ゼリフを長々と喋り出す。杏はイヤリングが自分のものだと分かり、自分が古屋先生から どれだけ愛されているかを知る。長らく居座る予定だっただろうに友人は、必要な情報だけ喋ったら帰らされる。
杏が どこかに隠れると、先生の隠していた事情や本音が出てくるというのはパターン化してますね。年齢差もあって なかなか素直になれない先生の恥ずかしい事情や本音が判明するには、こういう不自然な状況が必要なのだろうか。

ただ友人が来たお陰で古屋先生が酔っ払い、素直になる。まるで催眠術にかかったような状態で、杏の言うことを何でも聞くことが判明し、杏は婚姻届にサインさせる。こういう自失した状況で婚姻届に記入させるのは罪にならないのだろうか…。
この場面、杏が肉食系女子だったら、遼平くんを押し倒している所であろう。守りに守った25歳の純潔の大ピンチである。


が婚姻届を書いたはずの古屋先生に別の結婚話が持ち込まれる。なんと古屋先生が お見合いをするというのだ。

その情報が古屋の姉から持ち込まれ、杏はドレスアップしてホテルに潜入する。ちなみに この時、姉が勝手に買った¥78,000の服。杏は その後 自費で返済しているらしい。杏に最高の服を用意したいという気持ちなのだろうが、杏の経済状況を悪化させていて、困った お姉さまである。姉に甘えず返済している杏が偉いが、受験生でバイトも出来ない彼女には痛すぎる出費だろう。けど高級な服を着てたからこそ、古屋の母親に好印象を与えたのかもしれない、…ということにしておこう。

姉が甲斐甲斐しいのは、自分が古屋の母親に古屋がJKと交際していると口を滑らせたからだった。その犯罪的な情報に激怒した母親は息子を年相応の女性と お見合いの席を設けてしまったのだ。

「古屋」の家は相当な格なのだろうか。確かに先生は良くも悪くも ぼんぼんっぽい。あほぼん?

お見合いには古屋の母親も同席する(相手はなぜか単独の出席。話の都合だろう)。お見合い相手は めっちゃ美人らしいが、作者は女性の描き方のバリエーションが少ないので、杏や友達に似ているとしか思えない。なので容姿は大差ないが、社長令嬢という地位や趣味など杏とは違い過ぎる。杏からして見れば大いに焦るようなライバル出現だが、相手の社長令嬢からすれば たかが一教師(失礼ながら)と なぜ自分が お見合いをしなければならないんだ、とお怒りになる場面ではないか。


揺した杏の粗相を、彼女とは知らずに古屋が助ける。古屋先生はナチュラルに優しいところにキュンとするが、直後、古屋は自分のキャパをオーバーする情報量にパニックになる器の小ささを露呈する。

席を外し、2人きりで喋ると、古屋は杏が自分の年齢や立場に問題があるから、胸を張って母親の前に立てないのだと自分を責めていることを知る。彼女に悲しい思いをさせないために、古屋は杏の手を取り、母親に自分の交際相手だと杏を紹介する。お見合い相手にしてみれば面子が丸潰れで、古屋家に慰謝料請求されそうなところであるが、相手の女性も本意ではないということで ギリギリセーフ。

姉と同じように、古屋を溺愛するからこそ厳しく育てた母親は、杏に冷たい。だが杏は母親の嫌味に対して古屋に寄りかかって幸せにしてもらうのではなく、自分が彼を幸せにすると切り返す。

こうして古屋の本気が母親にも伝わり、彼女は折れる。こうして姉だけでなく、母親にも少し認められた杏は事実上の婚約者と言えよう。ただし古屋と釣り合うために、良い大学に入り、お見合い相手のような作法を身に着けることを提示される。
大きな試練のようだが、杏は逆に それだけで古屋との交際が認められるなら お安いものだと喜ぶ。これぞ杏の気質だと嬉しくなる。まぁ 大学入学はともかく この後に、杏が 華道や茶道、料理教室に英会話に励む場面は見当たらなかったが。

この一件を経て、杏は大学受験に目的が出来た。そして古屋はますます杏との結婚を視野に入れ始める。どうやら作品のゴールが見えてきましたね。


同志社 大学を目指す。これは古屋の母の母校だから。

ただ成績が芳しくない杏には相当難しい志望校。ようやく夏休みに入ってから予備校に通い出す。しかし君嶋の志望校・慶應といい、こんなに具体的な、現実にある大学名を出す作品も珍しい。

その君嶋は、杏と同じ予備校に通い始める。ストーカーかよ。いや、君嶋のことだから古屋先生が出入りできない場所では自分が騎士(ナイト)になって杏を守るという義務感からの行動なのかもしれない。黒髪にしたのは騎士であることの誓いなのかも。

でも杏も難関校を目指すとはいえ、現時点での成績が違うであろう2人が同じ授業を受けるのは不自然かと。ただ授業は高すぎるレベルで、身近な君嶋との差も実感する効果はあったようだ。

こうして杏は先生との接触や連絡を絶って勉強に集中する。だが過剰な無理は学校での居眠りを引き起こし、教師に叱責され、その現場を古屋先生に見られる。先生は杏の受験勉強が、半分は自分との交際や結婚のためだということが分かっているので、志望校のランクを下げることを提案する。だが杏は彼の母親に認めてもらうための高いハードルだから、それを下げることは自分に許さない。古屋先生は杏のことを想って、自分との交際や結婚を優先してほしくないと思ってのことだろう。

だが君嶋は、杏の挑戦を応援する。君嶋の方が格好いい立場に描いているのは作者の贔屓か。それでも偶数巻の君嶋は当て馬ではなく、恋人たちのアシスト役に徹する。

君嶋は雨の中、予備校の玄関で立ちすくむ杏を気遣って、古屋先生を召喚する。車で迎えに来た先生は、杏の気持ちに寄り添わず、先生としての立場で物を言ったことを謝罪する。
自分との交際のために無理をする杏を気遣うが、自分を奮い立たせるものがあることに幸せを杏は感じていた。いつでもポジティブなのが杏という女性の魅力だろう。


くも冬休みに突入し、受験も間近。杏と君嶋は、受験生同士として助言をし合う。君嶋の隠れた努力も杏には お見通しで、君嶋は杏を ますます忘れられない。

予備校で寝てしまった杏を優しく見つめる君嶋。風邪ひくから 起こしてあげた方が良かったのでは…。
こうして杏が寝ている間に外は吹雪。先生は電話で心配するが、車は危険だと君嶋は古屋の介入を遠ざけ、杏と2人で歩いて帰る。

そこで君嶋は杏をある場所に連れていく。それが巨大なクリスマスツリー。この日はクリスマスイヴ。君嶋が杏と見たかったから連れてきた、と彼は珍しく本心を話す。隠しても自分をよく見てくれている杏には お見通しだから素直になったのかもしれない。
そして このクリスマスは、彼の最後のわがままだという。そこから君嶋にとって別れの儀式が行われる。杏をマフラーでぐるぐる巻きにして、その上から彼は優しくキスをして、そして「…好きやったよ」と過去形の決別を述べる。以前の2回の強引なキスよりも魅力的で悲しい場面になっている。三角関係も いよいよ終わりか。

君嶋が黒髪から元の色に戻ると どうなってしまうのか考えるのが怖い。