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タイム・リミットの無い がんばりなんて 続かないよ『タイム・リミット』

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福山 リョウコ(ふくやま りょうこ)
悩殺ジャンキー(ノーサツジャンキー)
第14巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

ついに千緒に認められ、『碧』の候補に選ばれたウミ。しかし『珠苑』の編集長に男だとバレてしまったウミは、自ら千緒にそのことを告白し、改めて『碧』のオーディションを受けさせて欲しいと懇願する。それを受けて千緒が出した条件は――!?

簡潔完結感想文

  • 目標まであと一歩。しかし女性モデル・ウミが男であることが隠せなくなってしまい…。
  • デザイナーが出した条件は男モデルとして仕事獲得。だが知名度の分だけ悪評は広がり…。
  • ウミとしての仕事は激減、海では連戦連敗。心配を掛けまいとナカには黙っているが…。

隠すものは何もない。あとは裸一貫で勝負をするだけ の14巻。

いよいよ女性モデル・ウミとしての最終目標と定めていた
ブランド「碧(へき)」の最終候補にウミが選ばれた。

一度はブランド側から降ろされた苦い経験があるが、
この1年余りの活躍が認められた。
それはナカと初めて出会った頃のお話でもある。

だが、好事魔多し。
先日、恋の鞘当てから迂闊にスタジオを上半身裸で移動していたところを目撃され、
仕事をした雑誌の編集長から詰問されてしまう。

もう物事から逃げないことにしていた海は、
誤魔化すことも出来る問いに、正直に真実を話す。

そして業界中に情報が伝わる前に、
「碧」のデザイナー・千緒(ちお)の元を訪れる…。

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三者からではなく自分から話すことで男のケジメをつける海。

周囲を騙すような行為、そして露見した時の迷惑を考えていないような行動に
千緒は厳しい言葉を投げかけ、そして候補の話もナシとした。

それでもオーディション参加を望む海に、千緒は一つの条件を課す。
彼女が出した条件は、1か月以内に男モデルとして仕事を獲得すること。

日が経つにつれて、その条件の厳しさを身をもって知る海だった…。


またもタイムリミット方式です。
これまで嫌というほど繰り返されてきたテンプレートですが、
多分これが最後で、そしてこれまでとはレベルが違います。

でも最後の最後までナカには言わないんですね。
これは海がどれだけナカを大事にしているか、ということを描きたいのだろう。

けれど、いつもナカが海の異変に気づかないのは、
彼女を愚鈍にして、海の格好良さを際立たせる戦法に思えてしまう。

次の『15巻』でナカも強さを見せはするのですが、
今回も舞い上がっていて何も察しないナカとのすれ違いを演出するのにはウンザリ。

自分一人で抱え込んで格好つける海は、もはや格好悪いと思ってしまう。
問題の解決の仕方が最後まで一本調子だったなぁ。


海と所属事務所の社長はこれまでの非礼とこれからのかける迷惑を陳謝しに行く。

当然、皆が皆、良い反応を見せてくれるわけもなく、
女モデル・ウミとして、かなり大きな仕事ばかりしてきており、
そこで怒りを買う・手を切られたということは、男モデル・海の前途は多難を意味する。
狭い業界で信用を失えば、かつてのメンズモデル・遊佐(ゆさ)のように悪評が絶えなくなってしまう。


そんな中で、「海」という我が子(のような存在)を信じてくれるのは事務所社長。
いつも事後報告で、ウミの抱えるトラブルを知る社長だが、
海のことを誰よりも理解し、協力してくれているのは、この人だ。

ただ、ここで2つ疑問。

1つは、ウミが行動について反省しないところ。
ウミの賞味期限がもうすぐ切れそうなのは、本書でずっと語られてきたことだが、
自らその命を縮めてしまったことへの言及がまるでないのが変だ。

ナカを巡る嫉妬から遊佐(とスタッフ)に自ら上半身裸で正体をバラしたこと、
普通なら悔恨するのが当然の行動だと思うが、海に反省はない。

後ろを振り向かずに、メンズモデルとしての仕事を希求することが前向きな現在の海という表現かもしれないが、
いつもながら沸点の低い行動で失敗し続けてきたことへの言及が欲しかったところ。

作品内と作者における海=正義みたいな構図が少し気持ち悪く感じます。


そしてもう1つは、事務所の社長。
男が女モデルをするという難易度の高い技に最初に加担した人である。
上述の通り、海にとって良き理解者だとは思うが、
彼女にも反省と、ペナルティがないのが気になるところ。

海と共に謝罪行脚をする中で、責められるのは海の軽率な行動。
だが業界としては、事務所の監督責任が問われるところだろう。

厳しい見方をすればモデル業界の表層をなぞり、時にそれっぽい感じを出してきただけ雰囲気漫画の本書であるから、
そういう周辺事情を割愛しているのかもしれないけれど。

でも、デザイナーの千緒が言う通り、
心血を注いできた服の袖を通すものが、
詐欺師であった時の落胆は計り知れないだろう。

どれだけ仕事に真摯に向き合ってきたとしても、
事務所ぐるみで欺瞞に加担していたとなれば、
関係者が もう二度と表舞台には立てなくなるぐらいの制裁は妥当だと思ってしまう。


感想文が長くなるので、大幅に割愛して、
『14巻』でようやく海様の告白シーンが見られました。
心を裸にするのに随分と掛かりましたね。
このシーンだけでも、終幕が近いことが予感されます。

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悩殺ジャンキー』ならでは、海ならではの、最低で最高の告白。

どうやら「碧」の仕事はカメラマン・堤にとっても一つのゴールらしい。
「碧」で仕事を得ることが出来たら、堤も新天地での挑戦をしようと思っていた。
海と考え方、長所短所が一番近いのは、やっぱりこの人ですね。

しかし、ようやく再交際を始めた美羽(みはね)の気持ちを考えると逡巡してしまう堤。
だが、意向を伝えた後の美羽の反応と選択は意外なもので…。

この身軽な彼女の発言は好感を持つところであり、
堤も多く救われてきたということは分かる。
でも今までの自分のキャリアを簡単に投げ捨てられる彼女はやはり恵まれ過ぎているのかな、とも思ってしまいますね。
本当に早く家庭に入るタイプかもしれません。


苺(いちご)の恋は私はそこまで興味が持てないですね。
相手が千洋(ちひろ)というところが引っ掛かってしまいます。

こんなにすぐに千洋に新しい恋は似合わない。

苺は漁夫の利というか、一番弱っている時に近づいている感があります。

千洋にはもっとゆっくり、良い人を選んでほしい。
苺でも申し分ないとは思うが、もっと時間を置いて欲しい。
物語の終わりに合わせるように滑り込んで欲しくはないなぁ…。

千洋の踏ん切りのため、心境を整理するための、
序盤での堤との2人のシーンだったことは頭では分かっているのですが。