《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

真実の愛かもしれないけど、敵役を学校から追放した直後に交際すると ビッチに見えるよ…。

学園王子(9) (別冊フレンドコミックス)
柚月 純(ゆづき じゅん)
学園王子(がくえんおうじ)
第09巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

「アイツが、オレの目の届くところで無事でいないと駄目なんだ」瀬里葉(せりは)の謀略により公開処刑の標的となった沖津(おきつ)リセと赤丸臣(あかまるおみ)。身の危険を顧みず、リセを助けようと奔走する赤丸。一方、リセの交際相手の水谷梓(みずたにあずさ)は不審な行動をとる。リサ、梓、赤丸、瀬里葉……それぞれの想いが絡み合い……。リセと赤丸、二人の「絆」――。その哀しき過去が明らかに!

簡潔完結感想文

  • セリハ編完結。学園が舞台になると話は陰惨になるが、舞台が小さくて演出が同じ。
  • ヒロインも男性も過去を思い出しトラウマから解放されて、恋愛する準備が整った。
  • リセは敵を追放し 男を乗り換えて、結果的にはセリハの嘘が嘘でなくなっている!?

園内の話は もうマンネリにしか見えない 9巻。

本書の学園内の騒ぎの描写は全部、少数 対 大多数という構図なので描き方が似ている。
取り囲まれては監禁され、逃げ出しては捕まり、そして暴行される。

特殊な雰囲気やルールのある学園だからこそ、
狂気が一気に噴き出すのだろうが、
同じ学園内である限り、もう既視感からは逃れられない。

そして思考力も行動力もあるヒロイン・リセを弱体化させる手段も一緒。
過去のトラウマによって、自己肯定感を低下させ、
彼女を心理的に打ちのめせば、ヒロインは身動きも取れず ヒーローの到着を待つだけとなる。

こうすることで男性側の活躍が見込めるのだろうが、
序盤ではヒーロー的な活躍を見せていたリセが、一般的な少女漫画ヒロインになっているのが残念。

つくづく ヒロインは弱くて、その場から動かない方が作者や作品に都合がいいことが分かる。
リセには もうちょっと動いて欲しかった。
まぁ 最強の男性キャラ・赤丸(あかまる)のターンにするためでも あったのだろう。

ただし、彼女を打ちのめしたトラウマは今回 セリハ編の完結をもって克服したと言える。
ここからは らしさ を取り戻したリセに期待できる。
…が、男女交際したら また骨抜きになるのかなぁ。

失意のどん底で抵抗する気力すらない リセ。彼女の これ以上の被害から守るのは水谷だが…。

の『9巻』を最後まで読んで思うのは、この結末で良いのか、ということ。

このセリハ編は赤丸のことを好きなセリハが、
どうにか彼をリセではなく自分の元にいるよう赤丸を鳥籠の中に閉じ込めた。
その一方で、女子生徒にリセが男をたぶらかしている という噂を流し、彼女を標的にしたイジメが始まる。

ネタバレ注意ですが、このセリハ編の結末は、
セリハが学校から追放され、リセに 赤丸との小学校時代の記憶がよみがえり、
赤丸が ずっと自分の事を大事にしてくれていることをリセが知り、交際するという結末である。

この『9巻』で初めて 序盤からずっと赤丸が、
女子生徒の中でリセにだけ気を配っていた理由が明かされるので、
物語的にはハッピーエンドの流れは当然とも言える。

過去2度にわたる セリハという障害もなくなり、赤丸の長年の想いは成就した。
リセや赤丸側からの視点では これは完璧な純愛である。


…が一般生徒側からすると どうだろう。

確かにセリハは整形していたし、彼女の家柄も母の再婚で手に入れた後天的なものであった。
だから彼女たち一般生徒は、噂に踊らされ、そして無辜のリセに手を上げた自分たちの失態を取り繕うために、
学校から追放されたセリハを攻撃の対象として、自分たちの心の安寧を保とうとしている。
本書は そういう一般生徒の心の動きを描く。

だが、問題解決後に騒動を起こさないために、
作者はそこで一般生徒の思考を停止させているが、
起きている事象だけを見れば、リセが ただのビッチに見えやしないか。

セリハがリセを陥れるために嘘を流して女生徒を操っていたのではなく、
本当にリセはセリハや水谷(みずたに)の裏で赤丸と交流を重ねていた策士に見える。

そうしてセリハが学園からいなくなった途端に、赤丸と堂々と交際し、
水谷との「ネクタイ交換」も婚約式も なかったことにした事実だけが明らかになる。

表層上は小学校時代からの小さな恋を実らせた良い話だが、
そんな事情を知らない他生徒からすれば リセに敵意を向けても これは仕方がない。
いきなり交際を見せつけるようなことをしないでも良かったのでは?

特に この学校で穏便に過ごすこと、赤丸がリセを守るというのなら、
もうちょっとやり方は無かったのか、と思わざるを得ない。

幸せに浮かれて、今度は恋愛脳に洗脳されて、周囲が見えなくなっていませんか?
そして当然あるべき反発を敢えて描かない所に作者の小狡さを感じた。


去から ずっと壮絶なイジメに遭っていたという事実はあるが、
本書における リセは魔性の女に見えなくもない。

リセは まだセリハのことを信じているが、当人以外はリセ vs.セリハ の対立構造が完成する。
セリハは女子生徒の大半の人心を掌握していて、下手に動くとリセが陰湿なイジメの標的になるだけ。

ただ、この対立に際して、リセ本人には自覚がないのだけれど、
結局リセには この学園の希少な男子生徒の大半が味方に付いている。

これぞ少女漫画という構造である。
その意味では、リセはやはり魔性の女なのだろう。
本人が望まなくても多くの男子生徒は彼女の信奉者として行動するんだもの。

セリハは そういうリセの特性を小学校時代に嫌というほど見てきたのだろう。
高校生でも、リセは女性に女の敵と思われるような構造なのが残念。


谷は宗近に諭されて、ようやく自分の気持ちで動くことが出来た。
リセを一番近くで守る、それが彼の願い。
だが、おバカな子だからセリハに丸め込まれてしまい…⁉

そしてセリハの標的は赤丸にも及んでいた。

彼が怪我をすることで、リセへの接近が遅れ、リセのイジメは加速する。
そして赤丸がリセに近づくことは、女子生徒たちの反感を増幅するだけ。
よって身動きの取れない赤丸だが、そんな彼に宗近をはじめ、クラスメイト達が協力を約束する。

宗近はアドバイザーとしては万能ですね。
直接的な問題解決能力はあんまりないけど。


セは やはりセリハとは袂を分かつしかないようで、公開処刑にされる寸前。
でも「処刑人」は退学したし、どうやって遂行するのは謎。

結局、彼女たち自身が処刑を遂行する名ばかりの公開処刑となる。
ここでリセは髪を切られるが、「丸坊主」と騒いでいた割には今後の展開を踏まえたような穏当な髪型で済んでいる。

傷つけられ、そして自分もセリハを傷つけたという意識から、リセの自己肯定感は希薄になる。
これは『5巻』で信長(のぶなが)にトラウマをえぐられた時と似ている。
こうしているとヒロインの動きが封じられるのでしょう。

そんなリセの前に現れるのが水谷。
だが水谷もマインドコントロール状態でリセを信じず、彼女を傷つける言葉を吐く。
しかし そんな水谷はリセを気遣う言葉も持っていて…。

今回のMVPは赤丸でも宗近でもなく、水谷だろう。
彼の働きによって、リセへの被害は最小限となり、
そして全てが丸く収まったと言える。
今度は、水谷が自分が傷ついてでもリセを守ろうとしているのだ。


一方で赤丸は完全にセリハの支配から逃れる。
例え それがリセを守る方法ではなくても、彼は自分の心に嘘がつけない。
だが、リセを守りたい心が急いて、リセの偽物に気を取られ、彼はスタンガンで沈黙する。
どうしても学園内だと ちょっと動くと軟禁や監禁される展開ばかりになるなぁ…。

リセの友達・郁(いく)たちはセリハに直談判に行く。
そこで見せつけられたのは、無残な姿になった郁の手作りペンケース。
このペンケース、前日まではリセが持ち歩いていたが、
当日、どうやってセリハの手に渡ったかが描かれてないから、突然 セリハの所有物になっていて少々 面を食らう。
リセの鞄の中に入っていて…、という脳内補完は出来るが、経緯を描いた方が親切だろう。

一番の弱みをもって、人の心を支配するのがセリハの手法。
だが1対1ならいざ知らず、今回は不和(ふわ)も一緒にいるため、
彼女の一喝で郁は、マインドコントロールの魔の手から逃れることが出来た。

小学校時代とは違い、今のリセには、信じてくれる友達がいる。
それがセリハには許せない。


んなリセの現状を思い知らされたセリハは、自ら刑を執行せんと動く。

彼女が選んだのは、小学校時代と同じ泥だんごの刑。
ただし今回は石を入れて、精神と共に肉体を傷つけようとする。

同じことを繰り返すから復讐の意味があるのだろうが、
それはセリハが同じ場所にいるという成長していない証拠でもある。

水谷は気絶した赤丸がセリハの元に連れていかれる前に確保し、彼と共闘する。
そんな水谷は赤丸がハッキリとした態度を示した時のために、
ワザとセリハの洗脳下にあるような冷たい態度をリセに取っていた。
今回の水谷はフラれ役を買って出ているのだ。

そして水谷は、赤丸が本当は誰を好きなのか、
リセを懸命に救出する赤丸の姿を女子生徒たちに見せることで、百聞は一見に如かずを証明する。
こうしてセリハの洗脳は一瞬で解ける。
ここの水谷、自分もツラいのに頑張ってる…。

騒ぎが一通り収まった所で、風紀委員と生徒会が登場し、加害者は全員処分となる。

この終わり方も いつも通り、といった感じですね。
世紀末的混沌の この学園にも、権力者がいるから、騒ぎは終わり、責任の在り処も問える。

誰かのモノになって初めて、その人が誰よりも大切だと気づく。水谷はバカだから自分の気持ちも分からなかった。

リハは学園から、物語から追放され、フランスに行く。
たとえ顔は整形であろうと、そのスタイルは唯一無二なので、モデルとしては活躍し続けるのかな?

リセは日本を発つセリハを追って空港に向かう。
別れの場面でも2人は分かり合うことはなかった。
だが、セリハの中にはいつもリセがいて、
彼女が一番 憧れていたのはリセという人間だったことが分かる。
この甘くし過ぎない塩梅が丁度いいですね。


一連の騒動でリセは記憶の奥底から赤丸との思い出を蘇らせる。

リセは まるで記憶喪失のように小学校時代を忘れているが、
これは ギリギリで ご都合主義ではない気がする。

思い出したくないから記憶に蓋をしたし、
更にはセリハも赤丸も母親の再婚や養子に入ったことで名字が違う。
そして2人とも成長(整形)して別人のようになっているというのも昔の知人だとは思わない点だろう。


そうしてセリハという邪魔者がいなくなり、
そしてリセ、赤丸双方が過去のトラウマ・記憶から解放されたことで、
少女漫画的には、恋愛のGOサインが生まれる。

赤丸はリセとの約束を守れなかった小学校時代の悔恨から、再会しても近づけなかったと言う。
そして守るためとはいえセリハに従い、自分もリセも傷ついた。

赤丸はずっと言えなかったリセへの想いを口にして、リセもまた彼を受け入れる。

その結果、リセは赤丸を通して水谷に彼のネクタイを返却する。
水谷は その前にリセのことが本当に好きだと自覚したばかりなのに…。

それにしても、ネクタイ交換や婚約式の誓いは どうなるのだろうか。
これは新たな学園生徒たちへの裏切りになりはしないのだろうか。
上述の生徒の心の動きや疑いとともに、その辺も有耶無耶である。

しかしリセは水谷に裏切られたと思っているから、赤丸になびいた節もある。
だから水谷の大逆転の可能性をちゃんと残している。

が、今回が水谷の最初の嘘や裏切りだったら まだ分かるが、
最初から ちっとも愛情を感じない2人だから、その匂わせは受け入れられないなぁ。

しかもリセと赤丸には小学校時代からの淡い気持ちもあるのだ。
もう完全に水谷の方が当て馬に堕とされていると言って良い。

赤丸がカレーに飴を溶かし入れるほど好きなのは、
リセとの思い出の逸品だからなのか。
どこまでも純粋なヤツめ…。

リセと赤丸は婚約式はしない。
互いに良い思い出がないからという理由だが、1人の生徒が2回することは許されるのだろうか。

学校を去ったセリハと婚約した赤丸はともかく、
リセは水谷と婚約解消状態になっているのだろうか。

でも、もしここで2人が婚約式で将来を約束していたら、
もっと固い絆で結ばれていたのでは、と思わざるを得ない。

ここで完結していても1つの恋愛としては アリである。
赤丸も1話から参加しているし、今度は水谷との記憶に蓋をしてしまえば誰もがハッピーになれるのに…。