《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

学校の風紀を立て直した女性生徒会長は、努力の末に高収入を得て 実家を建て直す。

会長はメイド様!マリアージュ (花とゆめコミックス)
藤原 ヒロ(ふじわら ヒロ)
会長はメイド様! マリアージュ(かいちょうはメイドさま!)
第19巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

最強のメイド様久々の登場♪ 「ユキは地獄に堕ちるのか」とコラボした読切や、本編最終回後の美咲と碓氷の後日談を含む読切7本を完全収録♪

簡潔完結感想文

  • 美咲が仕事や人生、家庭など背負うべき責任を背負っていて本編より好感を持つ。
  • コラボは2作品既読が大前提。それ以外の者には楽しくない というか意味不明。
  • 何も考えずに発表順に収録しているみたいだが、その構成が正解なのか疑問だ。

者の人生と作者の人生が詰め込まれている 番外編集。

2010年代後半から続々と白泉社の長期連載作品の特別編が刊行されたが今回も その内の一つ。連載終了から10年経った作品があったりする中、本書の場合は連載終了の2013年から5年弱の2018年発売とスパンは やや短め(ちなみに他作品の特別編は田中メカさん『キスよりも早く』南マキさん『S・A』伊沢玲・津山冬さん『執事様のお気に入り』松月滉さん『幸福喫茶3丁目』、仲野えみこ さん『帝の至宝』などである)。

2013年の連載終了からは5年弱だが、連載開始の2006年から考えると12年が経過しており、それは丁度、本編の美咲(みさき)と同じ年齢だった16歳の読者が、最終回に美咲が結婚した28歳になっている。そして この特別編では美咲が39歳の時の姿が少し見られるのだが、それは おそらく当時の作者と同年代であると考えられる。読者と作者のリアルでの時間経過が意図せず閉じ込められた作品と言えよう。

ただし作品の大ファンで いつまでも作品世界を楽しみたい人にとっては この特別編は高校生の美咲や碓氷(うすい)の姿が見られなくて落胆するかもしれない。そもそも彼女たちの登場する話が少ない上に、結婚後や子供がメインの話になっているので当時の空気を楽しむことは難しいかもしれない(本当に高校生当時の話は1編しかない)。

でも私は成長した美咲の姿が好きだと思った。もしかしたら本編の美咲よりも好きかもしれない。それは本編のように彼女が不必要に自分の像を作り上げて そこに縛られていないからかもしれない。作品にとっては生徒会長である美咲がメイドであることが最大の守るべき秘密になっていたが、そのせいで美咲は いつも気を張っていた。だが本編の最終回で美咲は全生徒の前でメイド姿になることで自縄自縛に陥っていた自分像を打破できた。こうしてメイドという呪縛がなくなって身軽になったことが私の美咲への好感なのかもしれない。

28歳の結婚直後の美咲は自分で人生を切り拓いている。その背中には仕事や人生、結婚・家庭など彼女が背負う物だけが残されている。家庭問題や男性嫌い、不本意なバイトなど幼い頃から背負ってきた負の荷物は もうない。最終回で ようやく美咲本来の姿が見られるようになったということなのか。最後にトラウマを克服したのは美咲なのかもしれない。自分の足で凛と立つ彼女は初めて格好いいと思えた。

苦難の末に2人が一緒にいる人生を選んだ高校時代。でも夫婦の歩き方を決めるのは今の自分たち。

作者は こういうリアルな女性の抱える悩みの描写が上手いのではないかと思い、これからは勢いや強気で乗り切るような作品ではなく、女性と人生を描くような作風も読んでみたいと思った。それに挿入される近況報告で作者が すっかり大人になっているような気がした。大人というか意識高い系の人になっていて本編みたいな勢いのある作品は年齢的にも思想的にも描かない・描けないのかなと心配になった。でも多忙すぎる連載が一段落して時間が出来た作者の視野が広がったように、そういう経験を反映した作品が読めるかもしれない。

高校生の美咲のように苛々するばかりでなく、大人になった美咲が自分の長所や短所を理解しながら働きながら、碓氷と歩調を合わせているように自立した女性の恋愛模様も読んでみたいと素直に思った。


「虎の巻」…
五十嵐(いがらし)と、本編中にも登場した政略結婚の婚約者の話。20歳になっても五十嵐が別の女性を想い焦がれていることを婚約者は知っていた。それでも彼女は五十嵐を想い続け、そして彼に芯の強さを見せることで、婚約者には柔らかい雰囲気で接しながらも実際は俺様ヒーローである五十嵐が彼女を「面白い」と思うまでを描く。ちなみに美咲が少し出演するのは舞台が京都で、彼女は この地の大学に通っているからだろう(4編目の「出張!五十嵐不動産」で京都の下宿探しをしている)。

五十嵐が面白いと思うのは美咲に続いて2人目。おそらく彼らは両家の利害以上に真に想い合って寄り添い合う夫婦になるだろう。この話が新鮮なのは本書には珍しく騒がしいだけでない水面下の意地とプライドの戦いが描かれているからだろう。婚約者は五十嵐の変化を見逃さないだろうから彼が浮気や遊びに興じたら、すぐに お灸をすえるだろう。五十嵐は何だかんだで尻に敷かれる夫になるのかもしれない。

婚約者は卑怯なことはしないが したたかな女性。顔も性格も攻略法も美咲の妹に似ているような…。

「ユキ堕ち村にお嬢様!」…
作者の次作『ユキは地獄に堕ちるのか』とのコラボ作品。時間軸は本編終了から約21年後、美咲たちが39歳になった頃の話。主役は彼らの子供、姉・沙羅(さら・10歳)、弟・琉生(るい・8歳)。碓氷に似た長女と、彼女に振り回される美咲似の長男という設定以外、どこが楽しいのか全く分からない作品。これは『ユキ~』を未読だからもあるが、作品を知らない人も楽しめる工夫が作者に足りないからでもあろう。知ってて当然という態度が まず嫌だった。最後に碓氷夫婦をコスプレして出せば許されると思うなよ、と思うぐらい、本当に面白さが分からなかった。

「鬼に××」…
高校2年生の修学旅行前の節分の頃のメイド喫茶の お話。秘密の話らしいが いつも通りの展開。本編でも交際後から思っていたが、作者は2人にキスさせとけば読者が甘い!と喜ぶと思ってはいまいか。

「出張! 五十嵐不動産」…
京都の大学に進学した美咲に、地元である五十嵐が物件を案内するという話。五十嵐は庶民にとっての高級物件しか勧めないが、彼の本当の目的は、イギリス留学する碓氷よりも3時間で京都に来れる自分を美咲に売り込むことだろう。20歳まで恋心を持ち続けるのだから、完全に失恋したとしても18歳の この時も美咲にアピールを忘れない。五十嵐は登場も陽向(ひなた)より早いし、ずっと美咲を想い続けてるしで当て馬っぽい当て馬だなぁ。

「酒と女と泪の3バカ」…
25歳の3バカの話。それぞれに環境が変化して高校時代のように つるめなくなった時に大事なものに気づかされるという お話。お気に入りであろう3バカが3人とも個人回を持てて作者も思い残すことは ないだろう。

「A boy grows...」…
20歳になった葵(あおい)メイドカフェの姉妹店のバーで初めての お酒を飲む。服飾の専門学校に通う彼の人生を導いてきたのは その店の店長となった ほのか だった。
この2人に関しては本編から伏線が張られていたが、それが回収される日の お話。葵は顔は格好いいし、背も高くなった。ただ作者の癖で頭頂部が異常に長いのが気になる。頭が重そうである。それに碓氷の黒髪バージョンに見える。あと掲載順は その前の3バカ回と入れ替えた方が良かった気がするが。

「Happy Honeymoon!」…
結婚式直後の2人の新婚旅行の話。彼らは行き先に しばらく帰って来れてなかった日本を選んだ。これにより美咲はメイド喫茶の2号店に初来店することが出来ている。ちなみに実家は美咲の両親と妹夫婦の二世帯住宅に改築されている。これは美咲の援助によるものらしい。そして父親は料理屋で働いているが、まだ美咲は彼のことを許せないらしい。本編での父親のメイド喫茶のバイトは美咲とメイドの縁を切らせないための方策でしかなかったのか。そして久々の里帰りで妹の妊娠が発表される。また美咲は この10年で料理音痴を努力で克服したらしい。

また高校卒業から10年が経過し、同年代の人々は それぞれに人生の歩く速度が違ってくる。中でも結婚後の美咲にとって大事なのは子供を作るかどうか。この事案については夫婦で話し合ったことが一度もない。なぜなら碓氷にとって「家族」はデリケートな話題で、彼が父親になることを望んでいるという確信が美咲には持てなかった。

日本滞在中、2人は実家には泊まらずホテルに宿泊する。その旅先で出会ったのは五十嵐と その息子。28歳で5歳の息子がいるということは、大学卒業早々に婚約者と結婚したらしい。「面白い」と思ったら一途なのが五十嵐なのか。
この旅で碓氷は これからの家族の将来像を美咲に尋ねる。美咲が碓氷の心情に配慮して言いあぐねていると彼は子供は2人ぐらい欲しいという。こうして宇宙人・碓氷の予言通り、子供を2人授かり彼らは夫婦として家族として人生を歩んでいく。

この辺のリアルな家族計画や、女性の生き方と出産という問題は作者の人生が反映されているのだろうか。作者が無理をせず年相応の問題として考えていて、この路線の作者の作品を読んでみたいと思った。仕事と人生と女性というのは作者に合っているのではないか。