《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

少女漫画は同居すれば恋愛成就確率100%。同様に男性が執事になってくれれば全ての恋は叶うよ☆

執事様のお気に入りEncore! (花とゆめコミックス)
伊沢 玲 + ストーリー構成・津山 冬(いざわ れい・つやま ふゆ)
執事様のお気に入り(しつじさまのおきにいり)
第22巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

お嬢様と執事の恋を実らせて、卒業と同時に婚約した良と伯王。しかし良は単身パリへ…!?仙堂&真琴、紗英&恕矢たちの“その後”も収録!お嬢様方ご待望の、ちょっとオトナな「執事様」アフターストーリーです!

簡潔完結感想文

  • 一足飛びになった最終回を補完する内容。ただし恋愛面のみで家の事情は一切ない。
  • 本編はメイン2人の描写に特化していたが、番外編は他のカップル誕生の様子もOK。
  • ただし番外編でもヒロインへの「好き」は禁句である。年下からモテるヒロイン。

間が経過することが許されるから話が進むことの多い、番外編の22冊目。

本書はヒロイン・良(りょう)とヒーロー・伯王(はくおう)が高校卒業後の話が6話収録されている。良たちの話は1話と6話で、他の4話は脇役キャラたちの その後を描いた短編となる。

親切な作者による時系列表。この表を参考に読むと混乱しない。

本編は ほぼ良と伯王のカップルオンリーで、いわゆる「脇役の恋」を展開しないことで純度を維持していたが、番外編では それが解禁される。内輪カップルの多い少女漫画界ですが、本書は、本編の外で2組のカップルを成立させた。それが多くの読者が読みたいと切望していた、伯王に負けないぐらいの執事・仙堂(せんどう)と恕矢(ゆきや)の恋である。そして彼らの想いが時間経過と共に変化していき、口数の少ない執事たちが、自戒を破り、自分の想いを吐露する場面が堪らなかった。仙堂は まだ間に合うギリギリのリミットで動き、恕矢は自分の我慢の限界から鈍感な女性に気持ちを伝える。伯王も片想いから口に出すまで巻数を多く消費したが、彼らは多大な時間を費やしている。

本書では女主人の執事になってくれた男性は100%、女主人を好きになってくれる。これは良の両親の世代からの伝統である。タイトルにもしたが、少女漫画では男女が同居すれば絶対に恋に落ちるが、それに加えて主人と執事になれば恋に落ちるという事例を本書で学んだ。皆さんも この恋の法則を是非 活用して欲しい(笑)


役の恋の解禁とは逆に、番外編でも解禁されないのが、ヒロインへの告白。今回、第3の当て馬が登場するのだが、彼もまた他の2人と同じように告白することが許されないまま、その気持ちを自分で消化しなければならなかった。ヒロイン・良も大人になったのだから、一度ぐらい告白を断る場面があっても良かったように思うが。

そして今回、気が付いたのは3人の当て馬(未遂)たちだけでなく、伯王も全員が良よりも若い または学年が下ということである。伯王とは3ヶ月ほど誕生日が違い、良の方が お姉さん。そして当て馬たち、アルバート・恕矢・理皇(りお)は全員年下、または学年が下。恕矢に関しては留年している可能性があり、誕生日が不明なので、本編では学年が下という確定情報しかないが…。ともかく良は若いイケメンに好かれるというのが共通点であることが番外編で発覚した。理皇を最後に、名前付きのキャラで良よりも年下の男性はいないはずだから、伯王もこれで一安心。全ての年下男性の好意を華麗にスルーして、伯王の妻の座に納まったのである。


外編は本編終了からは10ヵ月後から始まったが、作中時間は それ以上に時間経過が経過し、それによって作中の文明の利器が一気にアップデートされた感がある。携帯電話はスマホになり、SNSなどの用語が出てくるなど、やや古めかしくも映った本書が時代に追いついた。

白泉社は2010年代の半ばぐらいから、ある程度ヒットした長編の番外編を用意することが多いが、それは連載終了から数年~10年経ってからの復活が定番だった。その中で本書は10ヵ月で番外編が発表されたところが異例である。社内の番外編ブームに便乗しようという試みだったのだろうか。ただ この番外編の時間経過を考えると、もうちょっと寝かしてから復活した方が読者のリアルタイムでの時間経過とシンクロして相乗効果が生まれたのではないだろうか。
そして この番外編ブーム、失礼ながらヒット作の後に伸び悩んでいる作家さんに声をかけたのかと思うラインナップである。売れ続けている人や食うに困って無さそうな人の番外編は出てない。利益をもたらした作家さんへの仕事の斡旋、そしてボーナスを渡すための番外編ブームなのだろうか。


第1話。半年 会ってなかった良と伯王は、良の留学先のフランスで再会する。
この回で卒業後の不明な時間が少し埋まる。伯王は大学行きながら会社のお仕事もしていて、ロンドンでの視察の合間に良に会いに来た。良もフランスの製菓学校に通いながらバイトをして忙しくも充実した日々を送っている。フランス語も堪能になり、伯王の心配をよそに良は強くなったように見えた。しかし雨を避けるために寄った良の下宿先では、彼女の苦労の痕跡を見るのであった。

良の作った菓子に伯王が淹れた紅茶が2人の時間を濃密にしていく。二人三脚の幸せの形がここにある。本編の内容が しっかり拾われていたり、相変わらず過保護な伯王が見られたり、読者が望む内容が描かれていて満足度は高い。

遠距離恋愛が続くのは、2人が同じ未来を見ていれば大丈夫という高校時代の経験があるから。

第2話。高校卒業後に同居していたはずの庵(いおり)と隼斗(はやと)だったが、大学生活最後の年は別々に暮らすことにした。五月蠅い人間がいなくなった静かすぎる部屋で独りを満喫する庵だったが、その胸には一抹の寂しさもあって…。

彼女は出来るが、すぐに破局してしまうのは隼斗だけじゃなく庵もだった。その原因は彼らの伯王ファーストがあるからだというのが、執事好きの薫子(かおるこ)たちの情報網が出した結論。恐るべし情報網。もはや集団ストーカーではないかと思ってしまうが…。
仄かにBL臭がするのは、そう読めるように描いているから、のはず。


第3話。仙堂と真琴の話。
仙堂は大学、真琴は短大卒業間近で、縁談も増える年頃である。
真琴を傍で守ることを誓う仙堂は、真琴が男性にデートに誘われていることを知るが、止めることも許されない立場があり、真琴はデートに応じてしまう。だが当日、真琴の家に仕える「仙堂家の者として至極当然の行動」として仙堂はデートに随行するのであった…。

仙堂が覚悟を決めて頑張る第1日目の話。良と同じような苦労が予想されるが、想いは重なっただけでも嬉しい限り。同じ黒髪執事の恕矢がいなければ、もっと仙堂と真琴のシーンが見れたんだろうなぁ。せめて恕矢を見分けやすいデザインにしてくれれば、と仙堂の出番を減らしたという一面では恕矢を恨んでしまう。


第4話。伯王の弟・理皇が双星館学園のLクラスのに入学した頃、良と伯王の婚約が決まる。高校生になった理皇は伯王そっくりだが三枚目にしか見えないのは本人の性格の問題か。

待ち合わせ場所に遅れそうだから電車に乗る良と理皇。だが理皇はLクラスだからか、高校時代の伯王と違って電車に乗り慣れてないという。何だかダメな御曹司になりそうな予感…。しかし駅から急ぎ足で40分って、どんな場所に待ち合わせ場所はあるのか。まぁ都会にいながら清閑な場所というのは一つのステータスで、それはそれで高級なのかもしれないが。

この日は理皇の失恋記念日であるが、彼が大人への第一歩を踏み出す記念日でもある気がする。伯王が父の姿を追い求めたように、兄の後ろ姿を追い続けた理皇が、自分だけの道を見つける日が来る、はずだ。


第5話。紗英(さえ)と恕矢の話。紗英は大学3年の時に会社を立ち上げ、もうじき2年。そして恕矢も右腕 兼 執事として紗英の傍にいる。
紗英は恕矢に「ずいぶん前」から片想いをしているらしい。そういえば紗英の関わった指輪盗難事件で 彼女をちゃんと叱ったのは恕矢ぐらいか。育ちが良く、何事もスマートに出来る人が、初めて人から怒られて胸キュンしてしまったのだろうか。

この話はインタビュアーの正体の隠し方が好き。そして紗英は仕事をしているが、伯王の姉・碧織衣(あおい)の現状が気になるところ。
紗英の仕事はウェディングドレスの買い付けで、良は結婚にあたって紗英にドレスをオーダーするという流れが好き。ドレスから始まり、ドレスに続く物語で、紗英が、自分の知らない魅力を開花させた恕矢の能力に舌を巻いた話から続いているのが良い(『16巻』)。

そして執事は大抵 嫉妬深い生き物らしい。他の男が仕事で近づくことすら許されないのなら、良も紗英も何も出来ない。
良や伯王、仙堂や真琴と違い、紗英たちは元カノ・元カレがいても おかしくはない。他の2組では読めない大人の恋愛の仕方も読んでみたかった気がする。「オトナな恋模様」と謳(うた)う割には、年齢や結婚が現実的になるなど以外は特に変わらないように思える。

少女漫画的には純愛だが、世間一般から見たら資産家の娘を捕まえたB(執事)クラスの成功例だろうか。

第6話(最終話)。良の都合(お菓子修行)で先延ばしになっていた結婚式(当人たち25歳)の お話。
最終『21巻』の最後のコマに使われた写真が撮影されるまでの経緯が見られるのが嬉しい。理皇が台に乗ってなかった、と騒ぐのは、その1コマとの整合性を合わせるためだろうか。伯王たちの結婚年齢を具体的に決めたのは今回が最初で、伯王を25歳とすると理皇は19歳前後(何だか高校在学中みたいな描写があるが)。その設定の割には理皇の身長が小さくなってしまったことを誤魔化すための一言のように思える。真相や いかに。

結婚式当日、伯王は何か変。その不安があってからのサプライズという分かりやすい胸キュン展開である。最終回には登場しなかった向坂(さきさか)が登場したり、アルが一足早く結婚している情報があったり初めて触れる内容も多い。

残念なのは結局、伯王父の和解の話は本編が全てだったということ。ここは もうちょっと補完されてほしかった。25歳の良がレディとして、伯王の嫁として成長した姿に伯王父が感心する場面を見せてくれても良かったのではないか。
良が相変わらずの所が好感を持つが、年齢以外は成長を感じられないまま結婚に至っているようで、本編後半の長すぎる すれ違いの意味が薄いように思えてしまう。