《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

またも2人の関係は学校外で進展。修学旅行の最大の土産話は会長の恋愛・交際について。

会長はメイド様! 14 (花とゆめコミックス)
藤原 ヒロ(ふじわら ヒロ)
会長はメイド様!(かいちょうはメイドさま!)
第14巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

修学旅行、真っ只中! 恋愛テンションが上昇した皆の雰囲気に戸惑う美咲。そんな時、碓氷に衝撃の話を聞かされる!いつも一人で物事を決めてしまう碓氷に対し、二人きりの夜、美咲が取った大胆な行動とは…!? 修学旅行にバレンタイン、怒涛の急展開の第14巻!

簡潔完結感想文

  • 学校一のパワーカップルを祝福できるようにモブ生徒たちも恋愛感情が解禁。
  • 1人で答えを出そうとする彼の姿は、同じことをしていた自分の合わせ鏡。
  • 碓氷が行くべきは お金持ち学校ではなく本家。要らないターンが始まる…。

長は碓氷の彼女様! の 14巻。

『7巻』の他校での文化祭に続いて、その倍の『14巻』で ようやくヒロイン・美咲(みさき)が素直になった。白泉社ヒロインは鈍感なことが多いが、その中では美咲は恋心を早々に認めた部類に入る。しかし自分の会長としての責任感から彼女は自分から碓氷に告白せずにいたし、完全な両想いになっても学校で交際は秘密にしていた。
なので『7巻』からずっと美咲の自分本位な考え方を好きになれなかったのですが、今回 美咲は勇気を出して、全校生徒に自分たちの交際を知らしめることとなる。これで美咲の秘密はメイド様であることだけなのだが、以前も書いたが、もはや本書においてメイドであることに特別感はないし、メイド喫茶の場面は物語に必要ではなくなっていて、残された秘密としては弱い。会長がメイドを恥と思うのは美咲のプライドの問題であって、今回の2人の問題よりも秘密のランクが低いのも気になる。学校とメイドという両輪が機能せず、違う問題に話が移行しているのが本書の構成の上手くない部分だろう。

そして碓氷(うすい)の母方の家系、ウォーカー一族問題を棚上げしたまま、彼の お金持ち高校への転校という話の展開も首を傾げるところ。結局、碓氷はウォーカー家との話し合いを避けられない状況なのに、その前に転校で話を引き延ばすのは悪手と思う。読者は そんなことを読みたいのではない。恋愛と同じく、早い段階から碓氷の実家問題を出しておきながら、それを放置して現状維持をする感じが、全体のスピード感を失わせている。


た相変わらず私は本書と歩調が合わないようだ。『13巻』の美咲からの告白のタイミングも唐突といえば唐突で、彼女が何か具体的な意識の変化や、ハードルを越えたとか経験から学んだではなく、クリスマスという日付的な問題に思えた(もしくは玉の輿チャンス到来)。
今回も同じで あれだけ美咲が頑なだった秘密を明かしてもいいと思える心の流れが いまいち理解できなかった。碓氷が学校を去ってしまうこと、そして彼に自分たちが似ていると言われたことで美咲が自省し、そこでようやく素直になった。ここが最後まで碓氷にアシストされてばかりで残念だった。そして自分たちの関係が変化することで ようやく動き出す腰の重さが気になる。

男子生徒という野生のサルたちが恋愛感情を理解し始め、彼らが嘲笑しなさそうだから交際を公開。

どうも美咲の心情をメインとして物語が動いているのではなくて、作品にとっての転機に沿って動いているような印象を受けてしまう。碓氷が家の問題から逃れられなくなるから両想い、彼が一緒にいられないから秘密の解禁と、物語の大きな節目の前にしか美咲は動かない。前回も書いたが、それが幸せになるためというより、不幸やドラマを生み出すための前準備に思えてしまう。

『7巻』でキスはするけど現状維持、『13巻』で両想いになるけど自分本位、そして『14巻』で学校公認カップルになるけど碓氷は転校、と幸せにミソがつくというか、スッキリ晴れ渡る印象にならない。同じイベントを描くにしても全体を再構成した方が、美咲の心の動きや2人の関係の変化が鮮明になるのではないか。私は全体的に作者の構成力を あまり信じられていない。

また、『14巻』前後で気になるのが、顔の歪み。どうも作者の描く斜め顔において、特に口が中心からズレている気がしてならない。口だけ移動して位置を修正したい気持ちが湧いてくる。連載が長期化するにつれ全体的に顔のパーツが直線で構成されるようになってカクカクしている。これにより絵としては見易くなっているのだが、どうも顔の配置が少しずつ左右どちらかに寄っているのが目立っている。


学旅行の続き。大局的に見ると この修学旅行は美咲の学年の生徒たちに恋の嵐を起こさせ、彼らが男女交際に寛容にすることが目的のように思う。
この修学旅行から男子生徒が女子生徒を遠ざけるのではなく、同じ学校の生徒、そして恋愛対象として見ることが解禁されていく。それは女子生徒の方も同様。2年近く一緒にいて、ようやくクラスメイトとしての関係が確立してきた。これは もしかしたら これも美咲が学校外で碓氷との恋愛関係を確立したように、彼らも 「男子校だった学校」という枷がないからかもしれない。だとすると あの学校が風水的に よくないのか!? もしかしたら男子校時代の恋愛に縁がなかった男子生徒たちの怨念が集まっているのだろうか…。

生徒間で この雰囲気が生まれたことを、学校外の人間である五十嵐()いがらしは、美咲の頑張りだと珍しく誉める。えー、でも美咲は 修学旅行直前でも男子生徒をバカな人間だと思って鎖で抑圧しようとしていたけどなぁ…。何だか作者の描くことに説得力がない。モブ生徒たちの恋愛感情解禁も唐突だし、もう少し学校内の変化をグラデーションで描いて欲しい。


が その五十嵐の言葉など簡単に吹っ飛んでしまう爆弾発言を その直後に碓氷がする。それが碓氷のお金持ち学校への転校宣言だった。

彼の決意に美咲は放心するが、その夜、碓氷と2人きりの時間を持つ。美咲も いつかは碓氷がウォーカー家の問題に手を付けなければならないことを予感していた。そして それが美咲を放さない為だという碓氷の思考も理解できる。ただ1人で決めたことが悔しくて悲しい。ここも美咲だって学校での交際を自分で勝手に秘密にして、碓氷を寄せ付けなかったのに?と思う。こういう時だけ被害者面するのは卑怯というか、自分本位が過ぎる。他者を上手く頼れないのは美咲も同じではないか(と思ったら、これが作者の描きたいことだと後に判明する)。

こうして美咲は有限の時間の中で交際していることを自覚し、この先の問題を2人で乗り越える前準備は出来た。


日の行動では美咲は親切心で人を助け、それを碓氷が発見したため、意図せず2人きりでの行動となる。最初に美咲が人助けすることによって、決して恋人と2人で回りたくて班のメンバーを まいたんじゃないんだからねッ!というエクスキューズが成立している。作品的には2人きりにさせたかったのは明白だけど。

こうして2人は これからの学校が違う生活を2人で考える。毎日 会いに行くし、自分1人で どこかに行かないことを碓氷は約束する。そして転校を決めたのは自分の抱える問題を見直すため。あちらの家が用意するルートに乗って、その上で自由を見つけるのが碓氷の考えだった。
ここで碓氷と本音で話して分かってきたのは、自分たちの共通点。自分1人で戦おうとするところや、感情を上手く伝えられないところ、意地っ張りなところ、言い訳をして大事なものを見失うところに美咲は思い当たる。

だから美咲は自分たちの関係の秘密を解禁する。こうして『7巻』と同じように再び学校の外で一歩を踏み出す勇気を持った美咲は次のステージに進む。


学旅行後の学校では2人の交際の話で持ち切り。ただし半信半疑の生徒もいるため、ほぼ美咲のための公開告白イベントが用意される(イベント成立の流れが全く理解できない)。

そこで美咲はバレンタイン回に、マフラーに続いて今度は手作りチョコに挑戦する。美咲以外の挑戦者が続々と散っていき、ラストの美咲は注目を浴びる中、勇気を出す必要性があった。この学校でのラストチャンスなこともあり、美咲は無事に勇気を爆発させる。この回は改めて学校中に2人の交際を示す場となった。

この日、当て馬の陽向(ひなた)はバイトで この場面を見ていないが、彼は修学旅行中から2人の交際を認識している。ここから少しずつ陽向も美咲から距離を置くようになっていく。そして葵(あおい)と同じく、恋に破れた人に新しい恋が用意されているように見える。


年末、おそらく2人が同じテストを受ける最後の機会も碓氷が1位、美咲が2位となる。

そして碓氷は学校を去る。黙って去ろうとした碓氷だが、美咲を始め碓氷を慕う人たちが彼を見送る。ここで碓氷は自分の心配事を軽減するために美咲とのキスを見せつけ、周囲を牽制する。陽向は さすがに声を上げるが、もう本気で碓氷に勝とうとはしていないように見える。

碓氷の転校する お金持ち学校の描写が少年漫画のように、五十嵐を頂点とした7人組みたいな構図になっている。終盤だというのに新キャラを出して、あちらの学校でも一騒動 起こそうということか。でも読者は早急にウォーカー家問題の解決を願っている。ここでワンクッション置く意味が私には分からない。

五十嵐の配下の6人衆は絶対に雑魚。ここまできた碓氷や美咲に勝てる未来が見えない。

うして碓氷のいない3年生が始まる。クラスメイト達は ほぼバラバラに散る。碓氷は約束通り、美咲に会いに来る。さも自分の学校のように、この学校に入り込む碓氷を美咲は叱る。

そして進級での大きな変化は美咲の妹・紗奈(すずな)が この学校に入学したことだろう。作中の時間が経過すると こういう展開も見せられるのか。

一方、碓氷は お金持ち学校の中でも更にエリート集団と お近づきになる。これは五十嵐の采配によるもの。彼らによって美咲は電話口で嫌がらせを受けるが、それで揺らぐような美咲ではない。そういう「骨のある」美咲の態度は五十嵐を興奮させるのであった…。