《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

庶民がお金持ち学校に入学するのではなく、お金持ちが庶民の学校に入学する逆転の発想。

会長はメイド様! 10 (花とゆめコミックス)
藤原 ヒロ(ふじわら ヒロ)
会長はメイド様!(かいちょうはメイドさま!)
第10巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

生徒会長再選を果たした美咲の前に、再びあの五十嵐虎が! 生徒会長交流会で雅ヶ丘学園を訪れるが、馴れないセレブなもてなしに四苦八苦する美咲たち。そんな時、食事の席でフットマンとして碓氷が現れて…!? そして、星華高校に臨時教師としてやってきたマリアの正体は!?

簡潔完結感想文

  • 両想いの雰囲気が流れる中、階級の違いを感じる美咲。答えは触れ合いの後で。
  • 学校イベントは恒例の男女不平等。こういうイベント内容を会長は改善してよ。
  • トップ オブ トップしか狙い白泉社ヒロインだから、五十嵐より格上は想定内。

を聞いて十を知るのは ちょうど 10巻。

『10巻』で いよいよ明かされるのがヒーロー・碓氷(うすい)の出自。ここで面白いと思ったのが、今回のタイトルにもしたが、庶民がお金持ち学校に入学する白泉社の王道を裏返しにしている点。碓氷は複雑な生い立ちから これまで学校に通ったことがなく、だが堅実に暮らすためには学歴が必要だと考え、彼は適当に進学先を選んだ。それが舞台となる庶民の学校である。ヒロインがお金持ち学校でセレブ中のセレブを摑まえる玉の輿ストーリーが白泉社の王道だが、本書の場合は、お金持ちが庶民学校に入学したことで その縁が生まれている。そこが本書最大の特徴で(結果的に)工夫された部分となっている。
ここまでで碓氷を好きになったヒロイン・美咲(みさき)や読者は、決して お金に目が眩んだのではなく、彼の本質を好きになったと言える。別に他の白泉社ヒロインを悪く言う意図はないが、その意味において美咲は お金や背景・地位ではなく純粋に彼に惹かれたと言えよう。

外国人の血、海外の母方の本家、疎まれているヒーロー、同時期の『ホスト部』でやったヤーツ。

しかし碓氷に お金持ち設定が出てきたことで、この先の展開が見えてしまったのも事実。それが冒頭の一文「一を聞いて十を知る」である。碓氷の背景が複雑だと分かった時点で、白泉社作品の熱心な読者は その先が見えたし、事実 その予想から大きく外れることなく物語は動く。折角 お金持ちが庶民学校に入学するという特殊な導入部が際立ったのに、それが判明した時点で、その先の凡庸な展開が運命づけられたと言えよう。こうして本書もまた白泉社の「文法」に呑み込まれて、つまらなくはないが どこかで見た、誰かの敷いたレールの上を走っている感覚を覚えることになる。

ただし碓氷の家庭の事情という問題が出てきたことで2人が両想いながら交際に発展しなかった理由もわかるような気がした。いつだってヒーローのトラウマや家庭問題の解消があって、恋愛は解禁される。明らかに両想いになった『7巻』以降、美咲も碓氷も煮え切らない態度に終始したのは、この問題が待ち受けていたからとも言える。

そして碓氷が お金持ち設定なのは、五十嵐という存在が出てきた時から予見されて当然だったかもしれない。上述の通り、白泉社ヒロインは欲深く、漫画世界で一番の男性しか選ばない。大財閥の五十嵐が登場したのに美咲が少しも揺るがないのは、碓氷も五十嵐の格に絶対に負けない家柄を持っていると本能的に理解したからかもしれない。世界最強の男性しか愛せないのが白泉社ヒロインなのである。

ここからは予想の範囲内で物語が進むと思うと読書意欲が失われる。何だかんだ文句を言いながらも『10巻』までが『メイド様!』のオリジナルストーリーだったと言えるかもしれない。ここからは作者のオリジナルの味付けは薄れ、白泉社風味が作品に漂う。


かし学校イベントは相変わらず悪い意味で歪んでいる。女子生徒の参加できない球技大会なんて美咲が最も嫌う不平等だと思うが、それを無視して物語は進む。学校イベントの度、美咲の生徒会長としての力の及ばなさが強調され、私は面白いとは思えない。

また作者のコメントで美咲によって「ツンデレ」という概念を認識して、それを意識して描いているというような記述があるが、美咲は いわゆるツンデレキャラが持っている可愛げが致命的に欠落しているように思えてならない。彼女は ただの意地っ張りで、作者がツンデレを理解しないまま、塩梅を間違えて ツンばかりを強調しているように思えてならない。本当、美咲って可愛げがない。碓氷は違う意見みたいですが…。


徒会選挙後に近隣の お金持ち学校に両校の生徒会の顔合わせ目的の交流会が持ち掛けられた。これは過去に無かったイベントで美咲は相手の学校の生徒会長が五十嵐であることから嫌な予感を覚える。

お金持ち学校で行われる交流会は美咲の予想に反して和気藹々とした雰囲気の中で進む。だが会長同士の話し合いとして五十嵐とのサシでの場が設けられ、五十嵐は底意地の悪さを見せる。そして その後の席は会食マナーを試されるようになっており、庶民高校の大ピンチ。美咲はわざと目立つ席を用意され、嘲笑される準備が整う。それを助けるのは碓氷。食事を運ぶウエイターとして登場し、庶民の食べ物を用意することでマナーから解放する。

こうして交流会自体は無事に終わるが、美咲は「上流階級」の雰囲気をまざまざと見せつけられる。そして それは碓氷との世界の違いも意味していた。これまで考えてこなかった2人の格差だが、美咲は碓氷に好意を持ったことで世界の違いは2人の未来に大きく関わることを痛感した。だが それを問い質そうとしても碓氷は美咲を からかっているとしか思えない言葉を発する。だが それが碓氷の切実な願いだということを美咲が知るのは後になってからだった…。


んな時に登場するのが英語教師で碓氷のクラスの副担任として赴任した宮園(みやぞの)マリア。生徒間では男女の交流や恋愛模様はタブーかのように ほとんど見られないが、マリアは男子生徒のアイドルとして君臨する。男子生徒たちの鼻息の荒い熱烈な歓迎からマリアを守るのは生徒会長の美咲。しかしマリアは何か目的があって この「低俗」な学校に潜り込んでいるらしい。

そんなマリア人気によって球技大会の優勝特典が、4か月後の修学旅行時のマリア先生との同行という内容になる。これは『3巻』の体育祭との重複を感じざるを得ない。そして修学旅行が予告されたということは本書は そこまで終わらないという宣言でもある。アニメ化といい乗りに乗っている時期だから こういう未来の約束が出来るのだろう。

もちろん美咲は その内容を阻止するために自分のクラスの球技大会での優勝を目的とする。ちなみに女子生徒は安全の為に出場できないという。こういう性別による不利益こそ美咲が改革すべきなのに、そこを話の都合で無視するから本書の世界観が好きになれない。そして なんで美咲のクラスは彼女の横暴とも言える特訓に付き合うのかという動機の面でも説明が不十分。こういう行動が男子生徒の反発を買って、生徒会選挙の苦戦に繋がったのではないのか。

その大会前日、美咲は碓氷とマリアが親し気に話している場面に遭遇する。そこで生まれたのは やきもち。だが初めての感情ゆえ美咲は それを理解できない。その苛立ちをクラスメイトにぶつける美咲はヒステリックな女性そのもので、かなり迷惑な存在である。

そういえば碓氷に近づく女性は初めてか? やきもちの概念に無知な美咲は八つ当たり開始。

校内でも碓氷とマリアがカップルなのではないかと噂され始めた頃、球技大会が開催される。
陽向の活躍もあり順調に勝ち進む美咲のクラス。だが それだけでなく美咲も監督として競技の理解を深めたことでチームとして完成したようだ。メイドの企画もそうだが何事も全力で取り組み、短期間でマスターするのが美咲という人なのだ。

しかし決勝戦の相手は碓氷のクラスで、彼が初めて試合に参加し、得点差の大きい一方的な試合運びとなる。それを阻止するために陽向が立ちはだかり、時に碓氷を圧倒する。少女漫画のスポーツにおける男性同士の戦いってバスケットボールであることが多い。手近で個人戦のようなプレイシーンが描けるからなのだろう。
この時、美咲は碓氷が急に参加したのはマリアという賞品のためだと考える。あれだけ本気で告白されて、どうして彼を信じられないのか謎である。まぁ確かに ここ最近は ちょっと不穏な空気が流れていて2人に精神的距離があるが。でも あんなに真剣に告白してくれた碓氷が本気かどうか分からないなら、恋愛に向いてないから止めなよ、と言いたくなる。白泉社ヒロインは不器用や鈍感を通り越して、共感しづらいところにヒロインを配置しがちである。

そして この回のラストでマリアの意外な想い人が発覚する…。


リアの告白は教職員間でも問題になり、彼女の婚約者が出てきて穏当な幕引きが画策される。
そしてマリアの告白によって碓氷は美咲に忠告するとともに、彼女との関係を発表する。それが遠い親戚というもの。だから碓氷はマリアの性格を熟知していて、マリアを美咲に近づけたくなくて球技大会も奮闘したのだろう。美咲は碓氷の愛を疑った自分を恥じるとよい。
けどマリアの同性愛的感情はネタとして消化されているように見える。それは幸村(ゆきむら)の女の子っぽさ強調と同種のネタ感だ。時代が進むと共に こういう事柄をネタとして消費するのは問題視されるだろう。白泉社は同性愛を一種のネタにするような風潮が多く見られる気がする。そういう点も2024年に読むと面白いとは思えない部分である(もちろん私の年齢的なものも関係するが…)。

この時、マリアが あっという間に美咲のメイド姿を見るのは本書において美咲に恋する資格があるのは会長とメイドの2つの姿を見た者という条件があるからなのだろうか。でも陽向はメイドを知る前から恋してるし、その条件自体が怪しい部分が多いか。


咲は碓氷の間にある見えない壁を壊すために、彼に歩み寄り、そして本気で知りたいと思う心を身体的接触によって証明しようとする。

そこで美咲は碓氷が、自分の予想通り お金持ちの坊っちゃんであることを知る。やはり白泉社ヒーローは この世界のトップでなければならなかったか。五十嵐という財閥の息子が出てきた時点で、碓氷が それに負けない格になるのは予想できたか。ただ こうなることで本書が白泉社の「文法」に則ったことを意味し、事実 この後の展開は他の類似作品とまさに類似な展開を見せて既視感を覚えずにはいられなくなる。

碓氷は両親に一度も会った事がないという。名家の生まれの母親は碓氷が生まれてすぐに亡くなり、父親は存命らしいが、碓氷が金持ちの母方の縁者に引き取られたため会った事はない。そして碓氷は奔放な母親と不倫相手の子だという。だから父親とは完全に断絶している。母方の名家というのがイギリスにあり、碓氷はイギリス人の祖父と日本人の母の血を引いており、両親はハーフと日本人のためクォーターだという。そして祖父は碓氷の存在を恥と考え、祖母の実家の碓氷家に養子として引き取られることになった。碓氷には日本人の養父母がいる。

幼少期から家庭教師を何人もつけられたため その能力は開花したが、碓氷は地味に自活するためには学歴も必要だと考え、適当に選んだ今の学校に進学したという。こうして通常の白泉社作品とは逆で、お金持ち学校に庶民が来るのではなく、庶民の学校に お金持ちが来校することになった。そして庶民の学校だから碓氷家のことなど知らず、逆に お金持ち学校の五十嵐だから碓氷の名に反応したみたいだ。

なぜ養父母の元を離れて一人暮らしなのかは分からないが、碓氷は十分すぎる援助を受けて生活している。多すぎる情報量に混乱する美咲は、家に帰ってから、過去に碓氷が兄がいると言っていたことを思い出す…。