《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

メイド設定よりコスプレが重要となった作品の最終回は ウェディングドレスでノルマ達成。

会長はメイド様! 18 (花とゆめコミックス)
藤原 ヒロ(ふじわら ヒロ)
会長はメイド様!(かいちょうはメイドさま!)
第18巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

帰国後、碓氷との未来の為に難関大学の受験を決めた美咲。誕生日には碓氷からまさかのプレゼント…☆ そしてメイド・ラテには、星華高校の生徒達がやって来てしまい!? それぞれが輝きに満ちた未来へ歩み始める完結巻、美咲と碓氷も幸せいっぱいの明日へ!!

簡潔完結感想文

  • 碓氷の里帰りによって それぞれ次の一歩が決定。華麗なる一族は活用する。
  • メイド様であり続けるために受験直前までバイトする苦労の多いヒロイン。
  • 和解の演出のための英国挙式は周囲の旅費が心配。未遂のヘリ逃亡を完遂。

者の匙加減と私のセンスが最後まで合わない 最終18巻。

『17巻』で碓氷(うすい)の過去や家の呪縛が解放され、2人の意識は将来に向けられる。この最終『18巻』は美咲(みさき)たちが帰国後の高校3年生2学期から卒業までと、10年後の挙式の模様を描く。宇宙人的な才能を持つ碓氷はともかく、努力の人である美咲は受験に大きな重圧を感じている。白泉社作品の中では受験勉強に真正面から向き合っているのは作者が大学進学者だからだろうか。

通常ならヒーローの家庭問題が終わったら恋愛解禁となる流れだが、本書の場合、碓氷の家庭問題を解決しないまま両想いになっていたため、2人の関係は将来を見据えることで一歩進んだことを表現する。蛇足に思えてならないイギリス編だが碓氷が目を背けたルーツの問題に向き合ったことで彼の将来像は鮮明になったという意義を強調している。それでも転校以降、作者が碓氷の動かし方を暗中模索しながら進む物語で、読者としても悪い意味で先の読めない話だったなぁ…。

2人は将来の約束をして幸せのピークを迎えるけれど、同時に お互いに別の道、別の場所に進むことを決めた。それは10代の交際には辛い選択だと思うが、2人は それぞれ自分の能力を最大限に活かすために その選択をする。そして これによって美咲が碓氷なしでも自立、活躍することとなり、男性にサポートされるばかりの序盤の展開との決別となっていて、美咲が真の強さの獲得、意識の変化を見せる。まぁ最後まで碓氷に色々とフォローされている部分が少なくないのだが…。


んな美咲の単独行動は(元)生徒会長である自分がメイド喫茶でバイトしていることをカミングアウトする場面でも同じ。碓氷に促されて生徒の前に立つのではなく、美咲自身が恐怖心を克服し、自立していることが大切なのだろう。ここで碓氷が美咲の横にいたら碓氷に支配されて ようやく動ける弱い人になってしまう。もはや美咲がメイドであることが重要な秘密ではない、という作品の構造的欠陥はさておき、この重要な場面で碓氷を良い意味で排除した作者の判断は良かった。

ただ私が気になるのは その後の碓氷の発言。彼は美咲がメイドである秘密の独占が終わったことを残念がっているが、私の中では碓氷は そのことを重要視していなかったように思う。『2巻』ぐらいまでの、まだ会長=メイドが大きな問題だった序盤では碓氷は美咲の秘密を積極的に公言しようという姿勢だったはず。それを私は碓氷は美咲が公私どちらの面も好きで、美咲が公私を厳格に分けようとする無意味さを説いていた気がした。それなのに碓氷は美咲に秘密を話して欲しくなかったみたいな発言をしていて私は最後まで作者と呼吸が合わないことを痛感した。

そして作中で最後まで この問題が残ったのではなく、作者が意図的に それを無視し続けたという強引な展開も気になる。さすがに美咲は帰国後の高校3年生2学期以降は会長職でい続けることが出来なくなり代替わりしてタイトルと内容が合致しなくなった。けれど どうにか作者は美咲にメイドでい続けて もらおうと受験前後までバイトを続けさせ、首の皮一枚繋がった状態をキープする。でも この作品では なぜか先に美咲と碓氷の交際の発表を済ませているため、もはや美咲がメイドであることは学校の生徒にとって それほど重要ではなかろう。なのでカミングアウトの場面も もはや美咲の意識の問題でしかなく、あまり盛り上がらない。美咲がメイドであることは読切では重要な秘密だったが、全18巻を支えるほどの内容ではなく、恋愛の公表・碓氷の後継者問題など別の要素が入り込んだ後だと、尚更ネタとして弱い。タイトル的にも作品が このネタを最後にせざるを得なかったのは分かるが、既に機を逸していることは否定できない。

こうして美咲にバイトを続けさせる割に受験の苦労を しっかりと描くからスピード感が失われ、その中での卒業式でのカミングアウトなので盛り上がりに欠けた。また最後に美咲の学校改革が成功しているような描写を入れているが、敵対関係にあった男女の生徒たちの距離の接近は もうちょっと丁寧に描けたのではないか。10年後の多数の内輪カップルもそうだが、途中経過なく結果だけ示されても いまいち胸に迫らない。全て結果報告にせず、あと1組2組ぐらいは本編中でカップルを成立させても良かったかも。

全体を俯瞰して見た時に優れた構成だと言い難いのが本書の欠点だろう。特に碓氷の転校、渡英、美咲の淑女の特訓、そして家庭問題の消極的な解決は褒める部分が少ない。美咲の特訓に関しては最終話で10年間に努力を怠らなかった彼女が、流暢な会話で来賓の方々に挨拶をするとか、結婚式でダンスを踊るとか その成果を出して欲しかった。作品が自分で勢いを殺して、その割に雑に問題を解決したことに怒りすら覚える。美咲のメイド問題の軸を ちゃんと守れなかったことも含め、作者が何を大切にして物語を描いてきたのかが分からなかった。


ギリスから帰ってきて2学期が始まり、美咲は生徒会長ではなくなった。新しい生徒会長は叶(かのう)。『9巻』で早くも美咲に後継者候補に指名されていた人なので実質的に美咲の院政とも考えられる。

そして碓氷も五十嵐(いがらし)財閥のウォーカー家への献身の必要がなくなったからか元の学校に復学。その経緯や説明は一切 放棄している。作者の中でも転校は なかったことにしたいのかと邪推してしまう。碓氷の(処遇の)迷走は作品の大きな欠点である。そして『17巻』でも書いたが、渡英しても目的が縁切りで後ろ向きだからカタルシスに乏しい。

帰国後、何もかもが日常に戻ったように見えるが、碓氷の養父母が登場したり、高校3年生である2人が進路を確定したりと変化も見られる。そして碓氷はメイド喫茶で美咲の父親に改めて挨拶をして、頭を下げる。養父母や相手の家族と向き合って、碓氷は次の道に進む。それがイギリス留学である。そう決意できるのは美咲が隣にいるからで、実際 彼女が碓氷の再度のイギリス行きを提案した。そして碓氷も実際のイギリスでの見聞があるから、当地で誰か(一族)のために動くことを決意する。それなら碓氷が もうちょっと異父兄・ジェラルドに心を動かされる描写が欲しい。どうも碓氷の行動が中途半端に見えてしまう。

碓氷の決断は これから会えない日々が続くことを意味している。だが2人は遠い将来を見据えて行動する。それでも将来を確かなものにするために碓氷は美咲の左手の薬指に指輪をはめる。

美咲はヒロインらしく自分勝手な部分が多く、謝ったり態度を改めたりせず、彼女のやることは不器用な正しさとして描かれる。それは父親への態度も同じ。最後まで軟化することなく冷たい態度を取り続けているばかりで解決が見いだせない。そんな中、碓氷だけが美咲の父親を父親として扱い、彼に頭を下げている。父親も帰還したはいいが、作者が匙加減を間違えて、家に帰れない状況にしてしまったような気がする。もうちょっと話を上手にコントロール出来ないものか…。

碓氷だけが父親に誠実に接する。美咲家の問題は父親も悪いが、女性たちの態度も酷くて悲しい。

咲は法学部に進もうとしている。そして碓氷の隣に立てるよう国際的な活動を視野に入れている。その目標があるのでクリスマス回も美咲は受験勉強に専念するために碓氷を遠ざける。その割に冬のイベントをしっかりこなしてコスプレやエピソード作りに貢献しているけど。本書は 早々にメイドよりキャラにコスプレそのものを重視していたように思う。

続く大晦日、好きな人と離れるという共通点を持つ紗奈(すずな)は碓氷と結託して、姉を初詣に誘う。お金持ち高校で着物を着付けしてもらい、紗奈は陽向(ひなた)らと初詣に向かい、タイムリミットが設けられた彼との関係を変えていく。これは陽向が農業を学ぶために転校前にいた地元に再び帰ると言い出し、それまで長い目で計画を立てていた紗奈だが短期決戦のために戦略を変えた。この肉食感は碓氷と共通するところがある。


始も美咲はバイトを続けていた。会長でなくなった美咲の最後の防衛ラインがメイドのバイトなのだろう。

しかも共通テスト当日も学校の生徒たちのトラブル解決に奔走したため、美咲は自己最低点を取ってしまう。碓氷は試験を間近に控え、自分で重圧を抱え込む美咲の姿勢を指摘するが、共通テストの結果が美咲に恐怖心を与え、より勉強にのめり込ませ、そして彼女は限界を迎えることになる。これは読切短編だった1話と意図的に同じ展開を用意しているのだろう。あの時と違うのは美咲は自分の弱さと碓氷への気持ちを認めていることだろう。

そして碓氷は五十嵐が何らかのトラブルに巻き込まれ、そして それが五十嵐が接触する美咲へ波及することを阻止するために動く。2人が お金持ち学校での会談中に何者かに襲撃される。あっという間に鎮圧した後、碓氷と五十嵐は それぞれの想いを拳に秘めて乱闘を始める。美咲を巡る最終決戦といったところか。結果は碓氷の勝利。これで五十嵐も完全に負けを認めるだろう。
碓氷のライバルになり得るのは五十嵐しかいないのに、作者は それを無視して陽向を用意した。幼なじみもライバルとして重要な要素だけど、白泉社作品で しかも碓氷に あんな背景を作った時点で陽向は機能しなくなった。五十嵐が真のライバルになるのなら陽向のターンは不必要だったか。本書はフラフラとした作者の迷いが感じられ色々と無駄が多い。

碓氷は陽向にも殴られていたが、本書は結局 熱血(というか脳筋)な解決が お似合いである。

そこに情報を得た美咲が入ってきて、放課後の約束を碓氷に破られた怒りを乗せて、彼を一喝して事態を鎮める。そして この怒りで美咲はオーバーヒートして強制的に休養し、これで勉強への過度な没頭・暴走が終了する。

この騒動の黒幕は『2巻』で登場した お金持ち高校のヒール役。彼が どうして こんな犯罪としか言えない行為に走るのかが不明で、最終回間際の展開としては いまいちすぎる。前半の展開を もう一度という狙いなんだろうけど、胸糞の悪い展開になるぐらいなら、単純に富裕層に恨みを持つ者の突発的な犯行にしてくれた方がマシだ。五十嵐を含めて完全なる悪者のいない世界だったのに、なんで最後に笑えない犯罪者、嫌な人間を出したのだろうか。作者の考えは私には意味不明だ。


験の日程が終わった学校の生徒たちは男女混合で遊びに出る。入学時、物語の開幕時には考えられなかった男女の交流は、美咲が生徒会長となって学校改革を進め続けた成果である。

その日の最後、彼らは偶然メイド喫茶に立ち寄る。学校生活も終わりなのに最後の最後で友人の さくら や元副会長の幸村(ゆきむら)が来店したことで美咲は大いに焦る。だが父親から隠れる理由を指摘され、美咲は もう会長ではない自分には守るべき威厳が存在しないことに気づき、美咲はメイド姿で彼らの前に登場する。
上述の通り、物語にとって重要な場面なのに、読者の心理的には もう それが重要とは思えなくなっているのが残念だ。話を引っ張りすぎてネタの鮮度が落ちた。タイトル詐欺になるのを覚悟で中盤に この設定を放棄しても良かったかもしれない。やっぱり受験中もバイトしているのは無理が目立つ。


業式では美咲のバイトが話題になっていた。そして式の後は一部生徒とメイド喫茶のメンバーが合同でサプライズの催しを用意していた。そして さくら は そこで美咲に学校内でメイドの衣装を着てもらう。こうして美咲は全生徒の前で自分の(元)生徒会長とメイドの顔の両方を見せる。こうして最後に秘密をバラし、美咲の高校生活は嘘も悔いもなく終了する。その後に碓氷と2人で生徒会室にいる場面は久々に初期の雰囲気が戻って来たように思う。ただし全体的に『14巻』の交際公表と類似し過ぎていて目新しさがない。

そして2人は それぞれの進路に進む。
ラストは10年後。美咲は外交官として国際的に働き、そして碓氷はウォーカー家の お抱えの医師になった。祖父や異父兄の病を治して、一族からの信頼を取り戻したらしい。兄・ジェラルドはともかく、祖父は10年前で81歳、今は91歳だと思うのだが、これも碓氷のお陰の長寿なのか。死なせるわけにはいかなかったのは分かるが、ちょっと無理がある。そして碓氷と祖父との交流は結局 描かれないまま。後継者にならないまでも碓氷には もう少し一族に踏み込む場面が必要だったのではないか。ウォーカー家は碓氷に出自を与えただけでエピソードが薄っぺらい。

碓氷が この一族に迎え入れられた証拠として彼は一族の居城で式を挙げる。元同級生たちの他にメイド喫茶のメンバーと葵(あおい)も出席。これは周囲の旅費が大変だ。さすがにメイドではないメンバーも いるみたいだけれど、メイド喫茶のメンバーは10年経っても変わらない。幸村と叶の同居は狙い過ぎだなぁ…。

そして城内で迷った陽向は、なぜか城の構造に詳しい人に(横文字ではないので)日本語で話しかけられる。彼から式の様子を聞かれ、陽向は幸せそうだと答える。パトリシアという碓氷の実母に話し掛ける彼は、おそらく碓氷の実父であろう。彼が挙式の情報を掴んでいるということは案外 近くに住んでいるということなのだろうか。

ちなみに陽向は紗奈と入籍済み。その他にも内輪カップルが多数 成立している。紗奈や葵は本編でも伏線が張ってあったが、いきなり結果だけ示されるパターンもある。ツッコんではいけないのだろうけど、2人の招待客に大学の友人や同僚などおらず、世界はまるで10年前から広がっていないように感じる。

この結婚式は、碓氷の新薬によって病気が治ったらしいジェラルドが取り仕切るが、碓氷は とことん彼の計画に乗らない。五十嵐らの乗るヘリで城から逃亡する。これは『17巻』の脱出劇のリベンジなのだろうか。ちなみにジェラルドは既婚で後継者もいる。だから碓氷がどう行動しようとも、たとえ祖父や異父兄に何かあってもウォーカー家は安泰なのだろう。

作者は悪役も含めて自分の生み出したキャラを最終巻で1回出すことを目的にしたのだろうか。ただ最終話は明らかにキャラ数とページ数が合っていない。頑張ってはいるが、結婚式に顔を出すのは五十嵐ぐらいまでのメンバーで抑え、高校組・メイド喫茶組はリストラした方がスッキリしただろう。とても白泉社らしい最終回が 詰め込み過ぎて読むのがツラい。