藤原 ヒロ（ふじわら ヒロ）
会長はメイド様！（かいちょうはメイドさま！）
第11巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
碓氷の過去を知り、動揺する美咲。そんな中、さくら＆くぅがとWデート温泉旅行☆ そこで美咲は、碓氷から衝撃の事実を聞かされる!? “美咲たちが男女逆転!?”衝撃の特別編や、美咲の妹・紗奈が主役の特別編も収録！ご主人様も大興奮！
簡潔完結感想文
- WデートはＷツンデレで まさかの2話。この手のキャラはヒロインで十分。
- 会長＆メイドの美咲の素直になれない問題に加えて格差問題で現状維持。
- 格差の壁が確かに恋愛の障害になることを、壁越しに発表して破滅の現状。
素直になれないツンデレヒロインの自業自得、の 11巻。
『11巻』は友人の恋で2話、番外編2話なので本編は実質2話だけという惨状である。
そして この たった2話でヒロイン・美咲（みさき）は自分の羞恥心を優先したがために大きな失敗をする。この段階で彼女は自分の過ちに気づいていないが、ここからの試練は彼女が引き起こしたと言っても過言ではない。果たして彼女が作品中で自分の過ちを認め、改心するのか怪しいところではあるが…。『9巻』ラストから漂っていた2人の離別の雰囲気は、今回の美咲の軽率な発言で決定打になってしまうのだろうか。続きが気になる。
以前も書いたが、庶民ヒロインと金持ちヒーローの恋愛格差は白泉社の王道パターンであり、だから前例や読書経験から その先が予想しやすい（そして大きく外れない）。ただ本書の大きな特徴として、この恋愛をややこしくしているのがヒロインだということが挙げられるだろう。もし今回、美咲が自分を試した五十嵐（いがらし）に対して彼の熱意や自分の羞恥から逃げるような選択肢をせず、しっかりと恋愛に真正面から向き合って自分が誰を好きかを述べれば、この先のルート回避できた。この先、美咲が涙を流すようなことが起きても、それは半分以上 自業自得であり、いつまでも素直になれなかった その性格が問題なのである。
五十嵐が碓氷（うすい）に働きかけをしているのは美咲も聞き及んでいたのだから、五十嵐に対しては 言葉を選んで弱みを見せてはいけなかったのに、ここで美咲が自分の都合を選んだためにバッドエンドが始まる。そこに呆れるばかりである。
碓氷があれだけ正面から愛を囁き、自分もそれを受け入れるような言動をしたのに（『7巻』の他校の文化祭）、自分の会長としての事情を優先したために、その後 恋愛は現状維持になり、素直になれないから碓氷の心まで引き裂くような展開になってしまった。白泉社作品で ここまでヒーローを傷つけ、そして自爆したヒロインも珍しいのではないか。それも自分で作り上げた自分像を保身を優先して、恋愛を二の次にするなんて。だからこそ美咲を好きになれないのだが…。この展開になると作者は美咲を嫌いなんじゃないかとすら思えてくる。ちゃんと美咲が反省して成長するような展開を用意してくれるか心配である。
美咲の意地、という この世で一番つまらないもので作品が停滞していくのが残念である。恋愛の現状維持が白泉社の中盤の命題とはいえ、この手法は読者から美咲が嫌われるだけで上手いとは思えない。これも以前も書いたが、ツンデレは その塩梅が一番 難しいのに作者はツンとしていることが可愛いと思っている節がある。今回のバンドマンとか葵（あおい）とか美咲と類似キャラが増えているのも その証拠のように思う。強がりのキャラを入れれば作品の人気が高まる訳ではない。デレがない美咲は ただのプライドの塊である。ヒロインに全く成長が見られないのは、長編を読んでいてキツいなぁ…。
冒頭にも書いた通り、今回 本編と言えるのは中盤の2話だけ。作者は番外編でも手を抜いている感じは一切なく絵のクオリティは高いのだが私は この作品世界に興味が持てないので友人の恋や番外編は残念ながら全く楽しめない。他作品では番外編の感想を書くのですが、本書は こちらの時間の都合もあって感想を書かなくてもいかな、と一切ノータッチにしている。番外編の内容も しっかりとしていると思うが、感想を書きたいと思うほど面白くはないかなぁ…。
友人・さくら に頼まれて彼女が好きなバンドマン、そして美咲と碓氷での日帰り温泉Wデートが計画される。結論から言うとバンドマンもツンデレという話である。その前の回に碓氷から重大発表があったから ここは箸休め的な回なのかな。でも まさか2話続くとは思わなかったけど。ちょっとスキンシップしてれば読者が喜ぶと思うなよ。
旅の終わりに美咲は これまで聞けなかったマリアや五十嵐が碓氷に近づく理由を聞く。彼らは、碓氷のイギリスの本家の方からの依頼で碓氷の お金持ち学校への転校を画策しているのだった。
続く久々のメイド喫茶内の お話も、美咲が素直になれないだけ。温泉回も素直になれない人の話だったので似た感じが続いて飽きた。
『5巻』で お金持ち学校の副会長がオープンを計画していた執事喫茶が開店1か月となり、メイド喫茶の面々を招待してくれた。美咲は五十嵐から別に招待を受けていることもあり緊張する。
そこに執事オーディションで合格した叶（かのう）が幸村（ゆきむら）と一緒に来ており、美咲は遭遇してしまう。しかし五十嵐の計らいでメイド喫茶メンバーだということは隠され、美咲は五十嵐に通常の招待客とは別フロアに案内される。
そして そのフロアで感じるのは やはり上流階級との身分差だった。
五十嵐に美咲は個室に連れていかれ、そこで彼が美咲に構うのは本気で気に入ってるからだと本気の告白をしてきた。偏見で申し訳ないが、五十嵐の関西弁は信じられないから信じていなかったが、どうやら本気らしい。それを証明するためなのか真摯な態度＝標準語で五十嵐は美咲に想いを告げる。
告白に対し美咲は、自分に好きな人がいるから、ではなく済む世界の違いを理由に断る。そして自分は家柄や血筋が常に つきまとう「そちら側の世界」に踏み込むつもりはないという。五十嵐が庶民側になる覚悟をもっても、それは周囲に迷惑をかけるので、立場と将来を再考するように促す。男性のプライドを傷つけることなく、私には勿体ないお方だということで美咲は五十嵐の告白を かわす。通常なら それも一種の正解だろうが、五十嵐は ここでも美咲が どれだけ「骨のある」人間であるか確かめたかったのだろう。だが まるで一般的な答えで彼は落胆しただろう。
そして五十嵐は美咲に格差のある交際の拒絶に誘導していた。なぜなら その扉の向こうで碓氷が美咲の考えを聞いていたからだった（重厚な扉なのに全部の音が漏れる謎は残るが）。碓氷が五十嵐の在籍する学校への転校、つまり上流階級に行かないのは庶民の学校で美咲という存在に出会ったから。だから五十嵐は美咲の口から2人の未来には先がないことを語らせ、碓氷の翻意を促していた。
その前に碓氷から転校の話を聞いた時に素直になれなかったことに加え、美郷は今回 自分で2人の関係を望まない状況に運んでしまった。彼女が素直になれないことで実害が出たということだ。
この五十嵐の言葉で美咲は2人の関係の現状維持に2人の格差が関わっていることに思い当たる。独占欲の強い碓氷が美咲にハッキリと恋人という地位にしないのは、美咲が碓氷と並ぶことで彼女の方に弊害が起こるから。それを碓氷側の「我慢」だと考えた美咲は2人の関係を清算しようとするのだが、その直後 碓氷に似ている1人の男性が目に入り…。
