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少女漫画と小説の感想ブログです

最終盤はヒーロー側の家庭問題が定番なので、唐突にヒロイン側の家族問題を処理。

会長はメイド様! 15 (花とゆめコミックス)
藤原 ヒロ(ふじわら ヒロ)
会長はメイド様!(かいちょうはメイドさま!)
第15巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

碓氷の事を探るべくメイド・ラテに乗り込んだ雅ヶ丘のエリート集団が、美咲&碓氷とかるたで勝負! 近づく碓氷の誕生日。美咲は無事にお祝いできるのか!?さらに星華高校には変態が乱入…!? 人間模様が大きく動く第15巻☆あの人登場の番外編も収録!

簡潔完結感想文

  • 碓氷の お金持ち学校での生活の 出番の余地のない新キャラは蛇足の極み。
  • 誕生回で再度 格差を見せつけるが両想いの無敵の2人には胸キュンの展開。
  • 両親の勝手な判断で美咲は男嫌いになり、そのせいで男子生徒に八つ当たり。

品の勢いを殺すと違和感が悪目立ちする 15巻。

『15巻』後半ではヒロイン・美咲(みさき)の失踪した父親が戻ってくる。もしかして作者は美咲と碓氷(うすい)の2組の家族で、父または母が家族よりも自分の生き方を優先し、その歪みが子供たちの人生に影響を及ぼしたことを描きたかったのだろうか。お互いに何か欠落した環境で育ったことで美咲と碓氷は無意識的に共感し惹かれ合ったとも考えられる。
ただし作者は美咲の家庭問題について、そういう側面を強調して描いていない。親のワガママの被害者であることを2人の共通点とすると恋愛にも一層の意味が出てくるのだが、それをしない。飽くまで美咲の家庭問題は彼女の家庭問題としてしか扱われず、そこから広がりを見せない。そういう構造の単純さが本書の残念なところではないかと思う。もう少し大袈裟に感傷的に2人の恋に意味を見い出しても良かったのではないか。

厳しいことを言うが、やっぱり作者の長編作家としてのバランス感覚は 私には合わないみたいだ。一度 人気に火が点くと どうしても白泉社の「文法」に呑み込まれ、不必要に恋愛成就を後回しにしなければならなかったり、ヒーロー側の家庭問題を創出しなければならなかったり大変なことは たくさんあるだろう。でも人気と実力のある作家さんは それに合わせて全体を構成し、その上で面白くなるアイデアを上乗せできている。しかし本書の場合、どうも なんで ここで この問題を出すの?と首を傾げる構成が多かった。

そして物語が最短距離を進んでいない印象は、読者に読む勢いを殺させ、そうなると これまで勢いで面白かった部分が、テンポを失ったため、急に冷めてしまったのではないか。読者の多くが あれっと思ってしまう展開と内容で終盤の評価は下がっていく一方だ。


れを特に感じるのはヒーロー・碓氷の実家・ウォーカー家の問題である。その問題が初めて出てきたのは『10巻』で、そこから物語は碓氷の背景に焦点が合わさるものだと思った。そして『13巻』では いよいよ碓氷がウォーカー家にとって大事な人となり、そこから一気呵成にクライマックスに突入する雰囲気が出ていた。だが作者は それを棚上げする。そして その影響の一つとして碓氷を他校に転校させ、今回は その環境の変化などを描くのだが、そこは全く読者が期待していない部分である。新キャラを出して一層 騒がしくしても、読者の興味は そこにはない。どうも作者は ことごとく私の予想との呼吸が合わないところで変な話を展開する。こういうのは感覚や相性で、これの合うと思える人が好きな作家さんになっていく。


半の転校話も首を傾げたが、後半の父親が失踪したヒロイン・美咲の家の「父帰る」の話も、中途半端さや不快感が拭えなかった。
そもそも なんで このタイミングで美咲の家の話を持ち出すのかが分からない。例えば中盤で父が帰ったなら、それによって美咲の男性への意識が変化して恋愛解禁の一手になる。そこに男嫌いと父の帰還に意味が出てくる。しかし本書では碓氷との恋愛があったから父親を許せた流れを描いている。それも悪くはないのだが、これだと恋愛で満たされ、自分の幸せによって他者への態度を変化させるように見えてしまう。これでは男嫌いではなく、恋人の有無で美咲は周囲の男性への恨みを募らせているようにも取れる。

そして父親の失踪の理由と両親の判断も私には受け入れ難い。両親は共に子供のことを優先できない人たちなのに、母親は善、父親は悪という扱い方に疑問を持つ。そして母親の勝手な判断により美咲は父親への憎悪を募らせ、これが彼女の男嫌いに繋がった。そして その男嫌いを自分の中に留めておければよかったのだが、美咲はヒステリー全開で学校の男子生徒に当たり散らすという実害を生んでいる。

子供の影響を考えた母親の嘘で美咲は性格が歪み、言動が乱暴になり、男子生徒たちは恐怖政治に怯えた。

この八つ当たりの言動が私の美咲嫌いの根源なのに、それに対しての美咲の両親の罪(特に母親)は お咎めなしなのが腑に落ちない。碓氷と会うまでの美咲の大きな影響を与える出来事なのに、扱いが軽く、そして そこから派生する話がない。父への憎しみが薄れることで美咲が会長として より柔らかくなるなどの影響があればいいが、特に そういう描写もない。これによって結局、美咲は碓氷への恋心だけで自分の心持ちを変える「恋愛脳」でしかないように映る。男が精神安定剤で、それがないと精神的に荒れるヒロインを どう好きになればいいのか。

また この話がここで挿入されるのは、この後のスケジュールがパンパンだから、という打算的な理由もあるだろう。ここからは碓氷のウォーカー家に集中せざるを得ない為、美咲の家の問題を手早く解決する必要があった。だから美咲にとって特に影響のない意味の分からないタイミングで父親が物語に登場する。こうするぐらいなら本当に最後に、ウォーカー家の問題が解決してから ひょっこりと帰ってきた方が良かったように思う。転校も含めて この後の展開に何の影響もない話を読んで読者が喜ぶと思うのか。

私には作者の意図が分からない構成が、本書の低い評価に繋がっている。


校した碓氷の お金持ち学校での生活が始まる。彼の周囲には この学校で選ばれし7人が接触を図る。といっても善意ではなく7人のボス・五十嵐(いがらし)は碓氷の一族・ウォーカー家とのビジネス関係発展のため、そして6人の手下たちは五十嵐財閥に恩を売るために彼の意向に沿って行動しているだけ。上流階級であっても その中に上位存在がいたりパートナーシップのために動くという世知辛い世の中の縮図である。

冒頭の話は彼らの紹介第1弾で、手下6人の内の3人を紹介する。でも ここまできて覚える気もないし、覚えなくても問題が無さそうなのが辛い(2024年に読んだので全18巻と知っているから尚更)。せめて五十嵐の初登場の頃から あちらの学校に登場していれば良いが、いかにも追加キャラで、そして雑魚である。あちらの副会長レベルに長期の出番がないなら切り捨てて構わないだろう。そして彼らがメイド喫茶に来る理由も弱く、メイド喫茶で1話作ろうという魂胆が丸見え。もう終盤になってメイド喫茶は用済みなのは明らかなのに、そこに固執しているのが痛々しく映った。


いては碓氷の誕生回。碓氷が美咲のバイトを優先してくれたため、夕方から会うはずだったが、誕生日を知ったメイド喫茶の店長から休みを強制され、彼のマンションに向かう。その日は碓氷は予定がないはずだが、お金持ち学校の面々に連れていかれた碓氷が気になる美咲は彼を尾行する。

碓氷が到着したのは彼の誕生日パーティーの会場。その主催者は五十嵐。美咲は副会長に発見され、彼からボーイの衣装借り、会場に潜入した。そこで見せつけられるのは碓氷との距離。副会長は善意で美咲に接している訳ではなく、自分の仕える五十嵐会長が碓氷の実家のウォーカー家の要請を受け東奔西走するのが嫌だから、その当てつけに美咲に格差を思い知らせた。

美咲はさすがに落ち込むが、そんな彼女の前に本来の約束を守って碓氷が現れる。美咲は碓氷に彼女の学校の生徒たちが碓氷を祝福する写真を収めたアルバムをプレゼントして碓氷を喜ばせる。そして彼から まるで格差など関係ないように会いたい時には会いに来ると言われ安心する。本書には珍しく、分かりやすい少女漫画の胸キュン展開の1話だった。

交際前なら美咲は碓氷への気持ちを封印するような展開だが、交際後なので胸キュンのスパイス。

の次は お金持ち高校の新キャラ紹介第2弾。ただ第1弾と同じく、このキャラを覚える必要性は薄いので割愛。変なキャラ付けをしているが、これが楽しめるのは熱心な読者か、作品自体に勢いがあった序盤だけだろう。大騒ぎの この回の中で一番 大事なのは陽向(ひなた)と、美咲の妹・紗奈(すずな)のフラグぐらいだろう。


愛、そして その公表によって美咲は不必要に背負っていた物が軽くなり、男子生徒たちにも敵意ではなく笑顔を見せるようになった。

そんな頃、メイド喫茶に新しいキッチンスタッフが雇われる。陽向に少し似ている大人の男性である。大方の予想通り、その人は失踪した美咲の父親。彼の正体を暴くのは紗奈。メイド喫茶に初めて来店し、そして その日に入ったばかりの父親の おにぎり を食べて、作り手が誰だか分かった。紗奈が料理が好きなのは、父親の影を追っていたからで、そのファザコンが陽向に繋がるのだろうか。紗奈は美咲の男嫌いと別方向で父親の存在と不在が色濃く影響しているようだ。

父に厳しい美咲は「消えて下さい」と彼の存在を許さない。読者としては美咲の家の事情が分からないから父親に「消えて」というのは言葉が強すぎるような気がする。それでなくても美咲は人に対しての言葉遣いが乱暴である。

しかも これでも美咲は我慢をしているらしい。この日の帰り道、碓氷と出会ったから父親を殴らずに済んだと言っている。けれど美咲だけでなく、母親も自宅の前に帰ってきた父親を無視して話を進めている。大変な思いをしたのは分かるが、それがちゃんと描かれないまま存在を抹消・抹殺しているので不快感の方が強い。
そうして存在を無視される父親は碓氷が預かることになる…。


咲の家の女性たちと陽向で囲む食卓で、美咲は初めて父親の失踪の原因を知る。借金苦で海外に飛んだ親友を、父親は捜しに出た。母親は そうすると決めたら譲らない夫のことを理解しているから送り出したのだが、彼女の予想を遥かに超えて父親は帰って来なかった。母は出発したことではなく不在の長さに怒っているようだ。

そして母親は娘たちに父親がどれだけいい加減な人間かを植えつけた。これは父親を憎ませることで、子供たちが父親の帰宅を期待して裏切られ、傷つくことを回避するためだった。そして これは母親が出した父の出発の条件だった。娘に死ぬほど嫌われてもいいのなら、出発を許す。それぐらい親友の存在は大切だったらしい。ただ物語的には「親友」の二文字で片付けられているため、釣り合いが取れていないように感じられる。

母親が言う通り、娘たちのためには無理に引き止めるべきだったと思うし、父親だけを憎ませて、自分の責任を放棄しているような母親もバランスを欠いているように思う。そして美咲は父親を憎むあまり、男性を憎み、そして学校で男子生徒に当たり散らして生きていたのだから、迷惑の範囲はかなり広い。父親の人情噺に まとめているが、人として優しくても親として失格で、不快感が残る。


一方、碓氷は父親から捜索旅の結末が知らされる。父親は自分の財産で その人の借金を返し、親友が日本に帰れば万事解決だったが、長い年月をかけ発見した時にはその人は遠い異国で家族を作っていた。父親は何の当てもなく出発したのか。どうして10年(?)もかかったのかが いまいち理解できない。父親が帰るという大きなイベントなのに雑な設定と嫌な部分ばかりが目に付く。

そして このタイミングでの帰国も、碓氷の実家問題という大きな動きの前に、些末な問題を片付けておこうという順番の問題でしかないのが残念だ。本当に作者の話の運び方とか、構成力の欠如は残念すぎる。勢いに任せられた序盤はともかく、少なくとも『7巻』辺りから私は作者の話の作り方に疑問を持ち始めている。


むに憎めない存在となった父親に居場所を与えるためか、正社員化を賭けてメイド喫茶で料理対決が行われる。対戦相手は碓氷。一流の料理センスを持つ碓氷に父親が勝つことで、美咲に文句を言わせないという店長の心遣いの表れでもある。

だが父親は惨敗する。元・寿司職人だけあって和食が得意な父親は メイド喫茶とは相性が悪かったと言える。しかし美咲は父親の事情を知って彼を憎み切れない。義理を重んじ、筋を通す彼の生き方は美咲にも通じるところがあるからだろう。そして男が嫌いという感情も碓氷との出会いで薄らいでいる。だから正社員としてではなくバイトでの採用は譲歩する。良いお話に思えるが、収入面とか現実的なことを考えると別の店に行けば、と思う。一般的な会社員と違って、キャリアに穴があっても職人はカムバックしやすいだろう。

そして相変わらず美咲たち女性陣が父親に厳しいのも よく分からない。特に母親は共犯関係にある訳で、父に冷たく接しているのが私には意味不明に思える。