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お金持ち学校の設定じゃないのに選挙戦は ド派手。選挙資金は どこから出てるの??

会長はメイド様! 9 (花とゆめコミックス)
藤原 ヒロ(ふじわら ヒロ)
会長はメイド様!(かいちょうはメイドさま!)
第09巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

生徒会選挙で再選を目指す美咲と、叶爽太郎を担ぎ出した1年生男子軍団が全面対決! 選挙期間中は碓氷を遠ざける美咲だったが、その間に碓氷はある人物と会っていて…!? 一方、メイド・ラテで美咲の誕生日イベントが開催☆ 碓氷のお祝いは?

簡潔完結感想文

  • 会長の地位は美咲が独力で掴んだもの。だから選挙戦中は碓氷を排除して自立する。
  • 自分で呼び出しても相手に全部 説明してもらうズルさ。恋愛関係の全てが中途半端。
  • 2人それぞれのカメラに思い出を残すのは、まるで遠ざかるための準備に思える。

編 全18巻の折り返し地点はターニングポイント!? の 9巻。

『9巻』は引き続き選挙戦から始まるのだが、美咲(みさき)は校内で一番 影響力のある碓氷(うすい)の力で有利な選挙戦をしていると思われたくないために、彼を一時的に遠ざける。おそらく これは物語開幕時から美咲は生徒会長で、その最初の当選は彼女一人で成し遂げたものであるから、今回の選挙戦も美咲が自身の力だけで戦い抜くようにするためなのだろう。碓氷が少しでも口を出すと焦点がブレるので、作品としても彼を排除したかったのだろう。

こうして一時的に繋いだ手を離したような状態になった2人だが、その心の距離は最後まで戻らなかったように感じられた。美咲の誕生日の翌日、2人はデートと呼べる行動をし、一日中一緒にいるのだが、どうも碓氷の様子がおかしいように思えてならない。この日、彼はカメラで美咲を撮影し続ける。そして初めて自分から美咲と一緒に映っている写真を撮影するし、最後には自分の携帯電話で美咲の顔を撮っていた。

碓氷が美咲の1日を貰うのは誕生日という理由ではなく、お別れの前にという感じがする…。

碓氷は どんな美咲も好きで、彼女につきまとうストーカ的な部分もあったが、このように形に残るような思い出を欲したことは無かったように思う。それなのに美咲に渡すカメラの中に自分の、自分の携帯電話に美咲の姿を撮影し、まるで確かにあったことをメモリーとして残すような行動をしている。その前後の流れもあって、幸せの中に不幸の予兆を感じるような展開に思えた。その らしくない行動や、忍び寄る影の描き方が上手かった。
そして それが冒頭にも書いたように全18巻の ちょうど折り返し地点として大きな転換点のように思えた。

恋愛においては現状維持だし、美咲は自分を想ってくれる陽向(ひなた)に対してハッキリとした言葉で彼に「お断り」を告げない部分に苛立った。ただ それも碓氷との別れの前の準備のように思えた。
2人は交際している訳ではないから黙って去ることも可能である。そして陽向が当て馬として存在することは、碓氷の不在の後の役目があるからではとも考えられる。色々と中途半端な状況だが、その中途半端が後の展開の伏線のような気もしてきた。


徒会選挙に、1年生男子に擁立され叶(かのう)が立候補する。美咲の連続当選を阻止するため彼らは結束する。でも この選挙戦での叶の当選は、美咲が会長でなくなることを意味しているので、作品側が絶対に実現させないのは明白。ただし美咲と叶が同じ選挙戦で戦うことで、叶にとって得る物は大きく、2人での会話シーンは今回ではなく次を見据えた生徒会長の心得の引継ぎのようにも見える。

そして1年生男子が選挙で不正をすることで作品的には美咲の正義が完成する。それでも叶が選挙戦の継続を望み、選挙戦は盛り上がる。美咲も正々堂々と戦うために、碓氷を遠ざけようとした。それは学校で絶大な人気を誇る碓氷を味方にして美咲は有利になっていると思われたくないからだった。そのために碓氷の罠にハマってキスをしてでも、美咲は碓氷と離別を選ぶ。これは彼女の戦いなのだろう。いつものように碓氷がサポートしていたら話がブレる。そして この別離期間が碓氷の単独行動させる時間となっているのが上手い。美咲が選挙戦に熱中している頃、碓氷は五十嵐(いがらし)と会っている描写があるが、その目的などは『9巻』では明らかにされない。ただ後半の碓氷は様子が変である。


挙戦で叶陣営は美咲につけいる隙がないことを痛感する。碓氷に連敗している印象しかなかったが、どうやら美咲は生徒会長として優秀だということが今更ながらに これでもかというぐらい連発で発表される。ここまで美咲を礼賛すると逆に叶に投票する人がいなくなるんじゃないかと思うが。

そこで起こるのが相手候補の弱点探しである。これは現実の選挙戦でも一緒。良いアピールは伝わりにくいが、悪い部分を あげつらい攻撃してダメージを負わせるのは簡単なのだ。こうして久々に美咲の身辺調査によって、会長=メイド様の危機が到来する。基本的には『1巻』の美咲の弟子たち(どこ行った??)と同じく放課後の尾行が美咲の悩みとなる。いつもなら碓氷が尾行に対して働きかけるが、今は別離中なので今回、美咲の秘密を守るのは陽向と3バカたちが その代役となる。悲しいかな陽向は代役なのである。


して1話につき1コスプレのノルマを消費したいのか選挙戦もコスプレ戦になっていく。不必要でウンザリ。コスプレをすると どの層が喜ぶのだろうか。コスプレの衣装が演劇部の備品という理由ならまだしも、今回は どこから こんな服(和服)を用意してきたのか全く分からない。いや漫画だからツッコんだら負けなのだけど、人数が多すぎるし不必要だし作画が大変そうだね ぐらいにしか思えない。また こういうバトルのお約束として男子生徒は汚い手段を使うし、男子生徒だけが暴力や威圧をするという偏見が描かれるのも気になる。

選挙の結果は1票差で美咲の勝利。男子生徒が8割の この学校で、美咲は男子生徒の票を切り崩した ということになるが、その描写が弱い。美咲が強さを見せつけ、心を動かしたのは叶の陣営だけであって、他の男子生徒が美咲を再評価したり、認めていたような描写はなかった。叶陣営が美咲に鞍替えするのも変だ。選挙に関心がない3年生、叶陣営の1年生だあるならば、2年生は美咲を評価する描写が欲しかったところ。それがないから浮動票が動く理由も見当たらない。コスプレじゃなくて その辺をもうちょっと詳細に描けば面白くなったのに…。


向が少ない生活費の中からメイド喫茶の自分に会うことは彼の好意の証であることを改めて美咲は痛感する。そんな真剣な陽向に美咲は碓氷への気持ちを話すため、彼を放課後の教室に呼び出す。どう説明すればいいか逡巡する美咲だったが、代わりに陽向が自分の推理を話し、美咲は それを大筋で認めるだけで良い。しかも陽向は諦めないということで美咲は彼を振るという役目から逃れている。これは上述の通り現状維持が この時の最優先事項だったからなのか。美咲と碓氷が交際している訳ではない。そこが葵(あおい)に非難され、そして陽向が諦めない根拠になっているのも、現状維持のためか。

その後、美咲は碓氷と久々に話す。そこでも勇気が出ず現状維持のまま。葵や陽向に対して誠意を見せるなら ここで勇気を出すべきなのだが、白泉社ヒロインは意外に他者のヒロイン以上に臆病である。他校で中途半端に恋愛解禁したけど、そこから先には行けない足踏み状態。次に進むための理由が欲しいところだが、会長職は継続することになったし手詰まり感がある。そういえば ここ最近は碓氷との抱擁がやけに劇画チックというか大人っぽすぎるような気がする。そんな強調しなくても、と思う。そして『9巻』はポッキーとか飴とか食べ物を2人の距離を近づける道具にしている。碓氷とはいえ舐めていた飴は ちょっと気持ち悪いなぁ、と私は思うけど。

舐めてた飴を舐めるって好きな人のでも出来ない人も多いだろう。漂う昭和感は目が隠れてるから?

9月28日は美咲の誕生回。メイド喫茶の営業中もイベントが行われるが、終業後、メンバーは美咲をカラオケに誘う。これは店長が滅多に遊ばない美咲を誘って皆で一緒に遊ぶのが目的。
この回で葵は自分で作った服をプレゼントしているが、これは最上級に気持ちのこもったプレゼントだろう。だが碓氷と一緒にいる美咲を見ることで彼は見たくないものを見てしまう。そして完結してから読み返すと、ここで、というシーンも用意されている。

そしてメイド喫茶のメンバーそれぞれからも美咲はプレゼントを受け取る。中身は後日 判明する。美咲だけ特別視されているのは何なんだろうか。この日までに碓氷はプレゼントを思いつかなかった。大切だから、大事な人だから何を渡せば良いか悩み、結論が出なかったのだろう。これは いつも美咲の先回りをしている碓氷には珍しいことである。
美咲は自分もプレゼントをしたことがないからと遠慮するが、碓氷は美咲からのプレゼントとして彼女の1日を貰うことを願う。碓氷にしては踏み込んだ約束で、美咲に何かを望むのは彼らしくない。まるで お別れ前の最後のワガママにも見える。


して翌日、美咲は碓氷との待ち合わせ場所に赴く。この日の格好は誕生日にメイド仲間から貰ったプレゼント一式で完成するコーディネイトだった。

そして碓氷は この日の美咲を写真に撮る。そしてデジカメごと美咲に渡すのが碓氷からのプレゼントだった。たった1日でプレゼントを思いついたということなのか。そして思いついてから翌日までの間にカメラを購入したということなのか。前日の夜は遅かったし、翌日の朝は早いのだけれど…。

デートと言っていい一日だが2人は気取った場所ではなく日常の延長線上の過ごし方をする。その美咲の表情一つ一つを碓氷はカメラで撮影する。そして最後に1枚だけタイマーを設定して2人で並んで写真を撮る。
日が沈んだ後は碓氷の部屋で彼の手料理を堪能する。そして この日の最後に碓氷は自分の携帯電話で美咲の写真を撮る。これで美咲に渡すデジカメ、そして碓氷の携帯電話の両方に相手の姿が収められている。やっぱり碓氷が形あるものとして思い出を残すのは らしくないなぁ…とラストの展開といい、嫌な予感がする。