《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

意地っ張りなヒロインが ようやく告白するのは、彼が正式に名家の後継者になったから疑惑。

会長はメイド様! 13 (花とゆめコミックス)
藤原 ヒロ(ふじわら ヒロ)
会長はメイド様!(かいちょうはメイドさま!)
第13巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

間近に迫ったクリスマス! 美咲は自分の気持ちを伝える決意を固め、クリスマスに碓氷と遊園地デート☆ 当たり前のように付いてくるセディを振り切り、二人きりの観覧車で遂に…!? 修学旅行編もスタート&メイドさんたちの女子話☆ 番外編も収録!!

簡潔完結感想文

  • 有能な恋の邪魔者も少女漫画の一番の聖域である観覧車には乗り込めない。
  • 白泉社ヒロインはトップ オブ トップの一本釣り。異父兄の病気は告白の号砲。
  • 交際が始まっても美咲は自分の都合を優先。交際って2人でするものなんだよ?

泉社ヒロインは資産の大きさで相手を選ぶ、の 13巻。

以前、松月滉さん『幸福喫茶3丁目』の感想文のタイトルに「さすが白泉社ヒロイン! 男性が将来的に得る財産の大きさで 誰を好きになるか決めるよ☆」と付けたことがあったが本書も まさに そんな感じである。

自分の発想に思わず笑ってしまったのが、美咲の告白のタイミング。クリスマスの夜、これまで自分の恋心を素直に伝えられなかったヒロイン・美咲(みさき)がヒーロー・碓氷(うすい)に対して いよいよ告白した。このタイミングになったのはクリスマスという最適な日だからだと思っていたが、実は「碓氷が後継者として正式に認められた瞬間」ではないか、と考えたら合点がいった。

気高き白泉社ヒロインは どこの馬の骨とも分からぬ男には告白しないが、名家の後継者なら喜んで☆

この日、碓氷の母方の一族であるウォーカー家に激震が走った。それは碓氷の異父兄で一族の後継者であるジェラルドが病に倒れたという報せが入ったからだった。1人しかいない後継者の病気という情報は おそらく ウォーカー家のビジネスや株価などに大きく影響するものなのだろう。それだけで莫大な損失が出るような状況になってしまうことを回避したいウォーカー家は碓氷を2人目の後継者に考え、遠ざけることで蓋をしていた彼を 今度は一族に迎え入れるように方針を転換した。

この情報は当然 美咲は知らない。それどころか碓氷も知るのは翌日である。ただ美咲は白泉社ヒロインの特別な嗅覚をもっているため、彼にガッポリお金と地位と権力が入ることを察知したようだ。クリスマス当日も それまで動かなかった美咲が急に駆け出したのは、もしかしたらジェラルドが倒れた瞬間を第六感で感じ取ったからかもしれない(笑) なぜ この日なのか日付的な意味以外には考えても浮かばなかったが、金の匂いを察知したのかと納得がいった。

上述の『幸福喫茶』も ただのパティシエだったヒーローが…、という展開に面食らったが本書も碓氷に中盤から お金持ちという背景が用意された。結果的に庶民が玉の輿に乗るシンデレラストーリーが多い白泉社作品だが、もしかしたら庶民化と思われたヒーローの地位が途中から急速に上がるシンデレラボーイのパターンも多いのかもしれない。


に言えば金の匂いが告白のタイミング、という以外は なぜ この日が告白と正式な両想い、交際の契機となったのかが私には分からない部分が多かった。美咲は まだ会長の面子を優先しているし、碓氷もウォーカー家問題が継続中だが交際を優先した。

どうも作品と私は相性が悪く、2人の気持ちの流れが「分かる!」という部分が少ない。これでは『7巻』での両想いは美咲が会長でもメイドでもない場所だから可能だったという私の推理は、結局 外れていることになる。てっきり美咲が会長でもメイドでもある自分を認められる=碓氷への恋心を隠さない、ということかと思っていたが、これも違った。やっぱりクリスマスで、そして碓氷が後継者になった瞬間ぐらいしか美咲の告白が解禁される理由が浮かばない。私の中でパズルのピースが上手く はまっていない気持ち悪さが残る。これは碓氷の家の問題を2人で、もしくは確たる立場・関係で臨むということも分かるのだけれど。

その上、交際開始後の美咲にも苛々した。彼女は自分の都合ばかりで碓氷の心情を全く考えていない点が目に余る。頑張り屋さんだけど視野が狭いのが美咲で、それを碓氷にフォローされるのが序盤の展開だった。しかし その たった一人の大切な人の気持ちすらも考えられないのは残念な流れに思う。会長としての責任感なのだろうけど、『9巻』の選挙戦でも判明した通り、そこまで男子生徒は貴方に興味ないんじゃない?と美咲の自意識過剰っぷりが痛々しく感じられた。

やっぱり自意識の問題は恋愛とリンクした方が物語はスッキリしたのではないか。せっかくの交際シーンも納得のいかない部分が多くて楽しめなかった。私が この作品に対して楽しもうとせずに ずっと冷ややかだからという理由もあるのだろうけれど…。


リスマス回。美咲は碓氷のために手編みのマフラーを制作しようと葵(あおい)に力を借りていた。葵は完全に自分の気持ちを封印し、美咲の応援団に回ったようだ。

そしてクリスマスに美咲は碓氷を遊園地に誘う。これはメイド喫茶のプレゼント交換での賞品をバイト仲間と交換して遊園地チケットを入手したからだった。『11巻』の温泉回と同じように、第三者から行くように仕向けないと なかなか こういうデートとはならない。2人きりで目的地を決めると また近所の公園になってしまうだろう(『9巻』)。

遊園地でも異父兄・ジェラルドの側近・セドリックの監視は付いたまま。この日の美咲の最大ミッションはプレゼントの手編みのマフラーを渡すことである。散々 遊んで最後に少女漫画で一番大切な遊園地の乗り物・観覧車に乗って2人きりになったところで、美咲は告白をしようとする(セドリックは次のゴンドラで監視)。これによって碓氷の独占欲を満たす、声の届かない密閉空間が完成した。

だが まだ恥ずかしさや不安が勝って好意は口に出来ない。そんな逡巡の中で碓氷が動き、まず美咲にプレゼントをくれる。だが その高そうなマフラーを見たら美咲は自分の手作りの品を出せなくなった。もしかしたらマフラーの出来の違いが2人の格差を如実に表していると思えたのかもしれない。
碓氷の周辺が慌ただしくなり、2人でいる時間も貴重になる中でも美咲の不甲斐なさは相変わらず。千載一遇のチャンスで見逃し三振。遊園地の後はファミレスで食事をする。ここでも美咲は話を切り出そうとするが同じことへの繰り返し。


んな自分に嫌気が差したまま美咲は自宅前まで来てしまい、彼女の気もそぞろな様子を見て碓氷はセドリックの監視で心から楽しめなかったのだと詫びを入れる。
その碓氷からの誤解を解くためにも、今度こそ美咲は碓氷に駆け寄って動き出す。マフラーを彼の首にかけ、そして その勢いでキスをして「好きだ」と初めて碓氷への気持ちを口にする。こうして2人は恋人になる。

上述の通り、美咲が どうして碓氷への気持ちを口に出来るようになったかが私には理解しがたかった。どうも この交際開始が、2人の募る恋心の結果ではなく、このクリスマスで碓氷の立場がガラッと変わり、そこに恋人となった2人が どう立ち向かうのかという話の流れのための前準備に思える。これからの波乱のための交際開始であって、美咲の捨てられない自意識の問題を放棄してはいないか。永続的な幸福の始まりというよりも不幸のための一時的な幸福に思えてしまい、2人の様子を心から楽しめない。


してメイド喫茶で大掃除をする頃には、美咲はバイト仲間たちに自分たちの関係が恋人になったことを発表する。これは やはり会長という責務がなく、碓氷とも自然に接していたメイド喫茶だから話せるのだろう。
この時、美咲は葵にマフラーの編み方を教えてもらい、その時間の中で自分がどれだけ碓氷を想っているかを自覚したと彼に感謝する。だが それを無邪気に葵本人に言って彼を傷つけていることを美咲は知らない。美咲は この先も男性たちの恋情に気づかないことが多そうだ。

こうして2人の中は変化したが、その日、運命の歯車も動き出していた。
ウォーカー家の跡取りである異父兄・ジェラルドが病に倒れた。元々 身体が弱く病弱な彼は跡取りとして不安視されるようになったため、そのスペアとして異父弟である碓氷を呼び戻す動きが活発になった。碓氷は いよいよ御曹司という白泉社ヒーローらしい立場になったと言える。そして それは碓氷と美咲の関係への風当たりが強くなったと言える。交際開始から暗雲が立ちこめているのだ。


学期が始まるが、学校内では2人の関係は秘密という方針の美咲。メイド喫茶はOKで学校はNGというのは美咲が生徒会長だから。

でも、それって美咲の都合100%だよねという考えがちらついて 彼女の言い分が勝手に思えた。碓氷はウォーカー家のことがあっても美咲を受け入れたのに、美咲は自分の保身のために勝手に秘密を優先する。交際しても碓氷の気持ちを考えたり、2人の関係を2人で構築するということをしない美咲に呆れる。恋愛初心者で、彼女の振る舞いも分からないからなのだろうけど、それでも相手に対して少しも配慮しない部分が見えず失望した。本書に それほど思い入れがモテないのは、こういう自分ばっかりな部分を様々な場面で感じるからだ。同じ場面でも美咲に好感を持っていれば、それが彼女の頑張りに見えるのだが、フラットもしくはマイナス感情を持ちながら見ると どうも配慮の足りない部分に思えてしまう。

ただし仲の良い女子生徒には それを話す。これも友情というより美咲の打算的な部分に見えてしまう。後のトラブルを回避するために言っただけで、別に この2人はメイド喫茶のメンバーと違って、碓氷との関係に協力していないよね、と思ってしまう。

2人の交際を発表する範囲は美咲が一方的に設定する。そういう自分勝手な行動は絶交されるよ…。

して修学旅行回がやって来る。『10巻』のマリア先生初登場から4か月後に修学旅行があることは発表されていたが、いよいよ その日が近づく。

修学旅行を前にしての美咲の頑張りも空回っているように見える。生徒会長というより学級委員長的な厳しい視線で叱られ、行動を縛られまくる男子生徒たちは楽しいのだろうか、と初期と変わらない疑問が湧いてくる。
自分の安心のためだけに前日まで生徒会を動かすのも謎である。

そして交際直後からの碓氷の自重しない行動にも いちいち言い訳をして遠ざける。碓氷にとって交際とは何だろうと不憫に思えてならないし、美咲にとっての交際は どこが変わったのか、何を目的にしているのか疑問に思う。美咲の せめてもの抵抗を可愛く思う場面なのかもしれないが、相変わらず自分本位な行動にしか見えない。


学旅行はコスプレ祭り。シリアス展開でコスプレの入る余地が無かったし、もはや登場しなくても問題ないメイド喫茶のイベントも行われないので、修学旅行で生徒と作品がコスプレを堪能する、というところか。

そして この修学旅行で美咲は陽向(ひなた)に 碓氷との交際を告げる。ただし陽向は それでも諦めない。満を持して登場した割に美咲の心を少しも揺るがせられなかった陽向だが、それなのに当て馬のポジションは最後まで放棄しないようだ。

修学旅行は恋の一大イベントでもあり、友人たちの恋模様があったり、碓氷に告白する生徒が久々に現れたりする。そして美咲は彼女として、碓氷が告白を断る理由の一つに自分の存在があることを自覚し胸を痛める。それでも美咲が2人の関係を秘密にし続けることで碓氷は、自分の背景にウォーカー家の問題があるからではと悩んでいた。そうやって碓氷を苦しめていることを知った美咲は それを否定する。だからと言って自分の主義は変えないままで交際は秘匿される。

やっぱり勝手に思えるが碓氷にとっては美咲が会長ではなく一人の女性になるのが自分の前だけという特別感が独占欲に変換されるようである。修学旅行よりウォーカー家問題の解決を早期に、と残された問題ばかりが気になる交際編である。