《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

独占欲が強すぎるヒーローは 彼女からの愛の言葉も独り占めしたいので 続きは いつか。

会長はメイド様! 12 (花とゆめコミックス)
藤原 ヒロ(ふじわら ヒロ)
会長はメイド様!(かいちょうはメイドさま!)
第12巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

碓氷の家を訪れた美咲。しかし、そこに居たのは碓氷とそっくりの異父兄・ジェラルドだった! 彼が残して行った怪しい謎の青年・セディに監視され続ける美咲と碓氷。学園生活を脅かされた二人は、逆にセディを捕まえて、ジェラルドの真意を聞き出そうとするのだが——!?

簡潔完結感想文

  • ヒーローが一歩前に進むために1巻消費。手下との戦いが長いよ…。
  • 追いかけっこの1話とか、なかなか本題に進まない白泉社の中弛み。
  • 家の事情に呑み込まれそうになる碓氷だが三下パンチで目が覚める。

スとは顔合わせ程度で最初のバトルは彼の配下、の 12巻。

いよいよ恋愛の障害に格差があることがハッキリとするのだが、だからと言って碓氷(うすい)の母方の実家であるウォーカー家の問題には手が付けられない。まずは碓氷の異父兄であるジェラルドの側近から対処する。もう この辺は少年漫画のバトルのようである。碓氷とジェラルドは日本で顔を合わせて会話しても お互いの本当の望みを言わないまま。彼らのバトルは最終盤まで持ち越されるのだろう。
この『12巻』は家の事情に巻き込まれた碓氷が、家のことばかり考え目の前の美咲(みさき)のことが見えなくなっていたが、どうにか自分を取り戻すまでを描く。というか それしか描かれない。情報は小出しにされるが何が問題なのか見えないままだし、ジェラルドも日本に不在で、小さなバトルばかりで話が進まない印象を受ける。

碓氷は美咲を守ろうと線引きする。グイグイだった碓氷が方針転換するほど「家」の力は強いのか!?

それは恋愛においても同じで両想いなことは明白だが、まだ素直になれない美咲から碓氷への告白はされていない。その残ったイベントを どう引っ張るかに碓氷のウォーカー家問題は使われ、そして当面の敵ともいえるセドリックを倒さない限り、碓氷が愛の告白を受け入れないという現状維持が採用される。『7巻』の他校の文化祭でのキスから、何かと理由をつけて両想いの阻止に物語は動いているが、そういうマイナス要因で話を継続させるから、白泉社の中盤は面白くないのではないか。本書の場合、家柄という問題が出ていなかった『7巻』で恋愛関係を大きく動かしたのに、そこから美咲は自分の見栄、そして碓氷は どこからか湧いてきた白泉社の格差恋愛に呑み込まれてしまい、身動きが取れなくなる。その不自由さは本書では書かなくても良かったのではないかと思ってしまう。

そして今回、間接的にではあるがメイド喫茶を否定しているのも残念。セドリックは本物の執事の家系に生まれ、彼はジェラルドの屋敷で本物のメイドも熟知している。だから このような真似事は癇に障り、それを美咲の人格否定の一材料にする。これは作品内で日本独自の文化として派生したメイドや執事というジャンルを否定するようで残念だった。美咲が一生懸命隠そうとして作品の核となっているメイド喫茶や、大騒ぎした執事喫茶『5巻』)を、「本場では~」と嫌味なことを言って水を差しているようで不快だった。
というか碓氷の家の問題をクローズアップし過ぎて、もはや美咲がメイド喫茶でのバイトなど作品にとって些事も些事になっていてバランスが崩壊している。今回は申し訳程度にメイドバイトの場面が挿まれるだけで、当初のような作品の二大舞台という意味合いは薄くなるばかり。メイド喫茶の面々はリストラ間近で、結局 庶民は上流社会に首を突っ込むことが出来ず、美咲と碓氷しか作品に必要とされていない感じが残念だ。登場人物は多いのに、あまり活用できていない印象を受ける。


差を自覚したけれど自分の正直な想いを碓氷に伝えようとする美咲。学校では話すタイミングを逸したため、彼の自宅マンションへ赴くが、そこにいたのは碓氷の「兄」だった。ジェラルドという名の異父兄は正真正銘の お坊ちゃん。ジェラルドが帰ってから美咲は碓氷に気持ちを伝えようとするが、碓氷から制止されて その言葉は先延ばしにされてしまう。
これは玄関先にジェラルドの手の者がいて、彼に会話を聞かれることを碓氷が警戒したらしい(室内の盗聴器も)。それに気づく碓氷もすごいが、高級マンションで音をカットできない扉と、その会話を聞こえるジェラルドの側近・セドリックも凄い。『11巻』でも そうだったが、本書において扉は無意味なもので、音を完全に透過させるような代物らしい…。

こうして美咲からの初めての告白は延期される。それは碓氷の独占欲の表れでもある。ジェラルドなど母方の一族側に聞かれるような状況ではなく、美咲の言葉を自分の耳だけに留めておきたい、というのが完璧な両想いの延期の理由として用意される。足踏み状態が続くなぁ…。

碓氷の家の事情が解決するまで美咲からの告白はお預け。それって最終回付近までってこと!?

ジェラルドは離日前に碓氷の部屋で兄弟としての会話をする。そして これまで碓氷を監視して、碓氷の言う「友情」や「親友」という言葉で結ばれた美咲を警戒していることを隠さない。名家としては美咲のような庶民ではなく、誰からも祝福されるような正しい相手が望ましいのだろう。碓氷とジェラルドの真の対決は、碓氷が美咲を かけがえのない女性と認めてから始まるのだろうか。

結局、この作品も、白泉社でよく見られる王族の結婚のような話になり、結果的にシンデレラストーリーになることを望んでいるようだ。話が大きくなって普通の恋愛譚が見られなくなるのも白泉社の王道展開。特に本書は恋愛格差が降って湧いてきた話になっており彼らの悩みは共感できないし、解決までの道のりも長い割に楽しくない。


氷との関わりが長くなってきた美咲は彼が何か問題を抱えていることを察し、そして それを自分に隠していることを見抜く。だから碓氷に正直に話して欲しい。だが学校内でもセドリックの監視は続いているので、碓氷は正直に話すことが出来ない。セドリックはコメディ要素なのだろうけど、私には上滑りしているように見える。そしてセドリック捕獲のために1話使うとか白泉社らしい。陽向や3バカなど美咲の味方でセドリックとの鬼ごっこのような展開になるのは面白かったが。ここで久々に陽向(ひなた)の特技も発揮されて彼が目立っていた。今回、陽向は碓氷よりも美咲のナイトとしての自覚をハッキリ持っているため、碓氷よりも目的を持って行動できている。そして だからこそ碓氷の目を覚まさせることが出来るのだろう。

学校内で追い回され、精神的にも疲弊させられたセドリックは碓氷にメイド喫茶に連れていかれる。何だかメイド喫茶が舞台になるのは久しぶり。
ここでセドリックがメイドに辱め目を受けるのも、セドリックの人となりが分からない早期の段階でやっているから笑えない。もう2~3話、ジェラルドの堅物の側近としての描写や、彼の本国での有能さが描かれていれば おかしみも増幅しただろうけど、読者にとって よく知らない人がキャラ変しても それは面白いとは思えなかった。しかしセドリックは沈黙を貫き、翌日の学校で美咲が一人になってから彼女に近づき、初めて美咲への挑戦を口にする。それに対して負けず嫌いの美咲の心に火が点き、泥仕合が始まる。美咲が完全に脳筋キャラで もうちょっと落ち着いて欲しいものだと切に願う。


氷はセドリックの美咲に対する挑戦で、彼女が傷つく可能性を考え、美咲から距離を取ろうとしていた。実際にセドリックは美咲への攻撃を始め、美咲も応戦する。

こうして碓氷は2人の戦闘の勃発に頭を悩ませるが、何もしようとしない。そんな碓氷に対し陽向が鉄拳制裁をする。それで碓氷は自分が美咲を守るのではなく、美咲を守るために遠ざけていたことに気づかされる。ここで自分に気合いを入れるために「変態宇宙人」と自称しているのは ちょっと寒い。当初から言っているのなら仕方ないが、連載中に作者が気に入って、自己満足で連発している感じがして受け付けない。

セドリックは閉店直後のメイド喫茶に改めて1人で出向き、そこで自分が美咲を嫌悪する理由を発表する。セドリックはジェラルドのウォーカー家に仕える本物の執事の家柄。その彼から見るとメイドの真似事をしている美咲は許せない。個人的な恨みというよりも、職業柄 許せないことのようだ。
それに加えて、メイドの真似事で家計を支えようとする美咲の家庭環境は碓氷とは不釣り合いというのがセドリックの考え。そして彼からすれば碓氷も2人の未来に悲観的になっているから距離を置こうとしていると告げる。

だが碓氷は陽向に喝を入れられ美咲を手放さないことを決めた。こうして2人の関係を改めて見たセドリックは長期戦を覚悟して今回は引き下がる。ここから2人が手を取り合って大逆転劇が すぐに始まるならいいが、先は長い。

ラストは本編の扱いだが番外編のような葵(あおい)の話。この人も美咲と同じでツンデレなので、葵の話は どれも同じ展開で飽きる。ただ今回、葵は正面から美咲への気持ちを伝え、その上で碓氷との幸せを願う。陽向は撤退しないが、葵の撤退宣言といったところか。メイド喫茶の場面も少なくなって、碓氷家の事情に話が推移すると、一層 葵の場面が減るから、この辺で けり をつけようということなのか。