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さすが白泉社ヒロイン! 男性が将来的に得る財産の大きさで 誰を好きになるか決めるよ☆

幸福喫茶3丁目 15 (花とゆめコミックス)
松月 滉(まつづき こう)
幸福喫茶3丁目(シアワセきっさ3ちょうめ)
第15巻評価:★☆(3点)
 総合評価:★★(4点)
 

突然告白してきた萩原さんと話すうちに、だんだんと萩原さんの気持ちがわかってきた潤。しかし、あるアクシデントから忘れていた辛い記憶が蘇り…。一方、留学の準備が整い始めた進藤さんはある事で潤への想いを自覚する。そんな進藤さんに、一郎くんが意外な事実を告げ──!?

簡潔完結感想文

  • 狂気に近い敵意に晒され 赤い封印が解禁。ヒロインの浄化技・笑顔が使用不能のピンチ回。
  • ヒロインの笑顔が復活したらヒーローのトラウマを最終浄化。家庭に恵まれない一族だ。
  • 恋愛要素は ほぼ最終話のみ。恋のスイッチが どこで入ったのか私には全く分からないなぁ。

品世界で一番の権力者を好きになる王道の白泉社ヒロイン爆誕!の 本編最終15巻。

今回はネタバレを前提として感想文を書いていきます。そして この感想文、熱心なファンには絶対に受け入れられない解釈をするので 寛大な心を持って お読み下さい。

さて白泉社ヒロインと言えば、その世界で一番の お金持ちに 金 目当てで近づくことで悪名高い。序盤は鈍感な振りをしているが、実は最初から肉食獣として嗅覚を働かせ、金と権力とイケメンの匂いのする方に狙いを定める。

だが本書では その法則が通用しなかった。まずは序盤。イケメン枠は進藤(しんどう)と一郎(いちろう)の2人。1話から進藤は白泉社ヒロインが大好きなトラウマの匂いを発することによって一歩リード。だが途中で一郎は、父親が医師、母親がデザイナー、しかも自身も超進学校で成績優秀であることが明らかになり、お金に不自由しない暮らしが予感された。
しかも『5巻』からは舞台となるカフェ・ボヌールに店長が復帰する。これによって この世界の最高権力者は店長になり、この時点で進藤は この世界を支配する者ではなくなった。ヒロイン・潤(うる)にとって もはや進藤は金もない、権力もない、ただトラウマがあるだけの小僧である。

恋心に気づくのは、優しくされた時ではなく 彼が御曹司だと発覚し 逃がした魚が大きそうと焦った時だ。

んな困った状況を逆転するのが この最終巻である。なんと最終回直前に進藤が(ある意味で)御曹司であることが発覚する。彼の父親は桜庭(さくらば)。自社ビルを持つ老舗洋菓子チェーンの社長である。ちなみに現会長の ひ孫でもある。俗物的な話になって申し訳ないが、この血脈が明らかになったことで進藤の将来的な遺産相続額は かなりの額になることが予想される。勿論、現会長の資産が進藤まで行き渡る可能性は低く、桜庭が父親と判明しても、現時点のままでは認知されておらず、遺産相続権があるかも微妙だ。

ただ少なくとも桜庭に関しては進藤との関係は明るいと思われる。遅ればせながら今回 初めて進藤が自分の子供であることを知った桜庭は進藤の これまでの人生に対して悔恨の念を持っている。そして潤のアシストもあり、桜庭と 進藤の母親である千年(ちとせ)の関係も20年ぶりに復活しそうである。現在40歳前後の桜庭には子供も結婚相手もいないことから、この老舗洋菓子チェーンが親族経営を続ける限り、進藤に お鉢が回ってくる可能性もゼロではないだろう。都合が良いことに彼はパティシエで、最終回では留学経験も積み、誰からも文句のつけられない経歴を手に入れている。経営者としての資質とは違うだろうが、洋菓子チェーンで力を発揮する準備は整っているのだ。

もしかしてヒロイン・潤の恋心が最終回まで動かないのは、進藤の(将来的な)資産が明らかになるのを待っていたのかもしれない(笑)

最後まで読んでも私には、鈍感ヒロインである潤が進藤を好きになるまでの彼女の心の動きが全く分からないのだが、進藤に御曹司ルートが確定したから潤の気持ちが動いた、と考えると非常に納得がいった。白泉社ヒロインが虎視眈々と狙うのは、イケメンかつ その世界で一番の権力と財産を持っている人なのである。

こうして不幸な生い立ちは残るにしても進藤の家族の欠落は補完される。さらには一気に白泉社御曹司まで上り詰める。一方、潤は相対的に庶民ヒロインになり、そして自分は実父を亡くす不幸は変わらず、親の再婚に巻き込まれる健気なヒロインのポジションでい続ける。潤は最高に幸せ者であり、最大の不幸を手にしている。こういう潤中心主義は最初から変わらない本書の特徴である。


ラウマ持ちが優先されるのも白泉社らしいと言えるが、両親が揃っていない、離婚・死別などのトラウマを持っている人が偉いという逆差別が見え隠れした。これは進藤が親御さんと一緒に来店しない子供にだけサービスを過剰にするのと似たような気持ち悪さである。

気になったのが一郎が最後の最後まで告白すら許されないことだった。潤の母親などは序盤から進藤しか目に入っておらず、一郎は蚊帳の外。また大事な場面で一郎は眠ってしまうため、進藤に先を越されることが多かった。そういうような状況が続き、一郎は自分の身を引くことばかり覚えてしまった。最後の自分の告白だって、潤に恋心を自覚させるための燃料として利用しているだけだ。

確かに一郎が最終回の前に告白しても草(そう)の二番煎じでしかなく、一郎を動かす理由がないのも事実。いくら逆ハーレム状態と言っても、次々に潤が告白されるような直接的な表現は作者は望まないのだろう。
ただ ではなぜ草には告白する権利があるのかと言えば、彼が幼い頃に母親を亡くして、その後 父親が再婚したことで複雑な家族構成になっているからのようにも思える。親の死別と再婚という2つの点で草は潤に とても近い。それがアドバンテージになっているように見える。

また潤に ほんのり告白した健志(けんし)は両親は健在(っぽい)が、伯父である潤の父・光志(こうし)が亡くなったりで身内に不幸があると言えよう。これが草には届かないが、一郎よりも恵まれた環境で告白が出来た理由だろうか。

そう考えると全てがナチュラルに恵まれている一郎に本書は冷淡である。進藤は両親や一族が複雑すぎる家庭環境になっているのとは対照的だ。いくら白泉社とはいえ不幸が恋愛する権利みたいになっていて嫌だなぁ。いかにも少女趣味だ。読者からの同情を作品人気の燃料にしているように見え好ましくない。


褄合わせのように潤と進藤の恋愛要素を最終回に ぶっこんだが、明かされない謎も多いままである。

ヒロイン・潤で言えば『11巻』で将来について ほぼ1巻丸々考えさせたのに、その明確な答えは出していない。「先生」という方向性は提示されているので単純に学校の先生でもいいから潤に将来像を持って欲しかった。それが明確になれば進藤の留学期間中に自分がすべき、自分の自立として毎日を大切にシアワセに過ごす目標にしただろうに。

また潤は自分以外の恋愛感情に敏いが、複数のカップルで明確な答えは出ていない。潤の場合もそうだが、作者は両想いを描くことが損になるとでも思っているのだろうか。有本(ありもと)と相沢(あいざわ)や、店長と虹(なないろ)、蜜香(みつか)と鈴木(すずき)も しっかりとした決着をつけていない。両想いの手前のような状態が好きで、その瞬間を維持したいのだろう。
潤に関して言えば、彼女を好きな一郎も草(そう)も健志(けんし)も永遠に その気持ちを保持することを義務付けられているみたいだし。男性たちが次の恋にも進むことを許さない逆ハーレムを維持する。それが作者にとってシアワセな世界観なんだろう。失恋を乗り越えず大人になりきれないピーターパンを量産するだけのような気がする。1つの気持ち、1つのモノの見方を大事にし過ぎると萩原(はぎわら)のような危険分子になりそうで怖い。

店長で言えば「颯季(さつき)」という謎の友人は謎のままだし、施設に引き取られた進藤を どうして彼が育てることになったのかも謎。あとは以前から書いているがボヌール開店の経緯なども読んでみたかった。作品の世界を広げようと多角化を目指して全部 上手くいかないような杜撰さを感じる。

桜庭に関しては彼のストレスが解消されていない。彼の社内での立場や祖母である会長との確執、潤に対して愉快犯で嫌がらせをしたストレスが原因の行動など直接的に解決されていない。ただ これに関しては、進藤が息子と分かったこと、そして彼の心残りだった千年との復縁への希望が見えたことで解決すると思われる。出来れば変わっていく彼の心境を しっかり描いて欲しかったが、いかんせんページが足りない。全15巻もあるのにね…。

そして『9巻』での潤の(夢の中での)タイムスリップが完全に現実として語られているのが非常に気持ち悪かった。潤の一方的な思い込みではなく、生前の父にも成長した娘と出会った記憶が残されていることが語られる。そんな過去の改変が出来る能力を持っているなら、潤は父が死ぬ間際に飛べる可能性すら出てくるではないか。作者がタイムスリップ設定を気に入ってしまったことが非常に残念だ。読者を感動させるためだけに作った1話限りの「良い話」としてなら まだしも、人知を超えた力を作品に導入する分別の無さには失望した。潤のためならなんでもやる という偏愛と、自分の生み出した世界が好きでたまらないというナルシシズムを感じてしまう。


終巻の話題は降って湧いたような話ばかり。桜庭によって匂わされた進藤の留学の話も、萩原の光志への敬愛も読者には馴染みのない話。それなのに話は立ち止まることなく進む。ちょっと受け入れる時間をくれないか、と思う。特に「留学は咲月(さつき)くん(=進藤)の夢」と言われましても読者は初耳でして、もう少し早く匂わせられなかったのかと首を傾げる。白泉社作品のクライマックスにトラウマが必須であるように、少女漫画には遠距離恋愛が必要だとでも考えたのでしょうか。

潤は萩原に言い寄られても、彼の気持ちの温度を全く感じられない。ちなみに20代、いや10代に見える萩原は現在31歳。本書には年相応な大人が1人もいないなぁ…。
ちなみに萩原も他の家庭と同じく家庭に問題があるという設定。31歳で無職の彼は戸籍上の「父親」に金を貰って暮らしているという。両親の間で たらい回しにされ、愛情に恵まれなかった萩原。そんな絶望の中で無為に過ごしていた萩原を助けてくれたのが光志だった。だから光志がこの世から去ったら萩原はまた死んだように生きている。光志との交流でも少しも成長しなかったようだ。

光志を尊敬するのは潤も同じ。ちなみに今回も自分の夢の中かもしれない父の言葉を現実として潤は考えている。ここは納得がいかないなぁ。ちなみに過去の光志の中でも、潤が誕生して間もなく将来の潤と会ったことが事実として語られる。自分の死期を悟った彼は、あの時の成長した潤が泣いた理由が分かったようだ。

潤は萩原との間に光志という共通点を見つけたことで、萩原を「いい人」認定する。
だが萩原の中の「狂気にも近い敵意」を、連れ立って歩く2人の姿を見た桜庭は感じた。桜庭は潤を直接 助けないが、ボヌールで状況を話し、進藤の背中を押す。

マンションに戻って潤を捜索しようとする進藤が見たのは、潤を階段から突き落とした萩原だった。そして その直前、萩原は潤が「光志を殺した」と「赤い封印」が解かれてしまった…。


は病院に運ばれる。萩原も進藤に捕まれて病院まで連れてこられるが沈黙を守る。潤の意向で、この件は警察沙汰にはならない。だが彼女は外傷よりも深い傷を心に負っていた。

萩原は潤がまだ小さい頃(14~5年前)、彼が今の潤と同じ年齢の頃、光志に会った。一瞬で光志に魅了された萩原は、それから潤の実家に頻繁に顔を出すようになった。
だが些細なことで光志と すれ違い萩原は顔を出さなくなった。そんな彼を迎えに行こうと潤は萩原の家の方向の坂道を上る。だが同行した光志の目の前で斜面に落ちそうになり、娘を庇い、光志は命を落とした。

その日、「遺族」となった母親たちは、潤に事実を隠そうとするが、萩原は子供の潤にも「お前が殺した」と容赦がない。自分にとって大切な光志を奪った潤を彼は許さない。そして潤が子供ではなく、自分と同じ年齢になって分別がついた時に再び悪意を持って近づき、自分と同じ傷を負わせることを誓う。10代後半で こう言い切っちゃうのもなんだが、そこから10余年が経過しても憎しみを保持する萩原が怖い。

進藤は萩原と自分の状況の類似性を感じたからこそ、彼の これまでの無益な生き方を否定する。萩原は本当に誰とも接触することなく、客観性を持つことなく、ローンウルフ型の犯罪者のように憎しみだけを募らせてきたのだろう。萩原には潤という明確な標的がいたが、もしかしたら「父親」を困らせるためだけに全く無関係な人を巻き込んだかもしれない。


い封印が解かれることは、潤の笑顔が封印されることと同義であった。娘の混乱を察した母は、身体的に無事であることを確認して、すぐに帰る。そして一郎も潤に響く言葉が見つからない、と身を引く。ここでも不幸量による選別が行われている。

こうして潤の笑顔を取り戻すのは進藤に託された。彼がしたのは、笑顔にすることではなく、まず潤に涙を流させること。抑圧された感情が笑顔を奪っているなら、まずボトルネックとなっている悲しみを発現させようとしたのか。

そして そんな自分の行動によって進藤は自分が潤を好きだということに気づく(進藤の気持ちは唐突で あまり共感できない)。だが自分が側にいることが潤を無理させることだと分かっている進藤は、潤を自宅まで送り届けて別れる。潤が本当の笑顔を取り戻すには、彼女自身の回復が必要だ。

潤の母親を自宅に送っていた一郎がボヌールに戻り、進藤と2人きりの男同士の会話となる。進藤に恋心が宿ったことを察した一郎は、進藤に彼の母親が生きていることを告げる。どうやら潤の次は進藤が過去と向き合う番だと考えたようだ。うーん、進藤の母親に対するトラウマは、ある程度 もう解消しているし、一郎が この問題に首を突っ込む理由も曖昧だなぁ。大団円に向けて性急に話が進む。

萩原に接するのは、店長の役目になる。罪に対する後悔もなく自暴自棄な供述をする萩原に対して、光志のためにも立ち直ることを要請する。親に捨てられた絶望を抱える進藤を引き取った店長には、光志の萩原への気持ちが理解しやすいのではないか。この2人のカウンセリングとなる会話は もっと丁寧に長く読んでみたかった。


分の罪を意識し、これまで無邪気だった自分に後悔と反省する潤。

そんな潤の家ををボヌールのケーキを持った さくら と二郎(じろう)が訪問する。これは一郎の差配。一緒にボヌールのケーキを食べ、そこに自分の周囲にあるシアワセを感じる潤。それが復活の狼煙となる。

潤は萩原ともう一度 向き合う。萩原の大事な人を奪ったことを謝罪する潤に対し萩原は まだ その死を望む。だが潤は自分の命は光志が守ってくれた命だと笑顔で拒絶する。こうして最大の敵である萩原も抱擁し、彼女は許す。この時、萩原は潤の中に光志と同じ光を見たのではないか。そうして許し許された2人は抱き合ったまま眠る。

翌日、潤が目を覚ました時には自宅におり、萩原は家に鍵を残し出ていった後だった。ちなみに潤を運んだのは進藤。他の男と並んで眠っているのが許せなかったらしい。

行方をくらませた萩原だが、光志の墓前に花が添えられており、少なからず自分の心に決着をつけたようだ。

ヒロインの大事な話だが、問題の大きさに対して解決が淡白すぎる。この話を本当に最初から描きたかったのなら時間をかけて描くべきだった。そして後付けならば、この話を描かない勇気を持って欲しかった。以前も書いたが役割が桜庭と一緒だし、この話があってもなくても、恋愛模様は問題なく進んだだろう(実質、最終話でまとめるだけだし)。ヒロインを不幸にして最も悦に入っているのは作者じゃないだろうか。萩原よりも性質が悪いように思える。


の頃、進藤は一郎をメッセンジャーに千年とコンタクトを取っていた。一郎は千年の過去の過失を脅迫材料のように使い、嫌がる千年をしっかりと誘導している。彼の静かな怒りが伝わってくるようだった。

千年は約束の時間から30分ほど経過して やって来る。10数年ぶりの母子の対面だ。口下手同士の対面で最初に口火を切ったのは母親。何でも話すし聞く、受け止めると進藤の存在を認める。
そして母は当時の状況を語る。母子で暮らしていた日々に、昔 男と出ていった千年の母親が登場し、金を無心し、そして やがて借金取りも周辺に姿を現した。追い詰められてしまった母親は、自分が母親の資格がない、息子を幸せにできないと彼を1人部屋に残し出ていった。そして すぐに施設に電話して、彼の生存だけは確保したようだ。

そんな母の独白に対し、進藤は自分が支えになれなかったことを詫びる。そして産んでくれたことに感謝を述べる。これは進藤が「愛」を知ったことと関連しているのだろうか。進藤が母親と対峙できたのは、潤が ここまで お膳立てをしてくれたから。支えられているという安心感が彼の中にあるから冷静に話し合うことが出来たようだ。

そして「また」の来店を促すような言葉を告げ、進藤は立ち去る(留学して不在なのでは…?)。


うして2つの大きな問題が片付き、同窓会のように次々に登場人物に会う回が始まる。

蜜香の誘いでホテルでのパーティーに招待される一行。なんと このホテルには同日 同時刻、千年まで出版社のパーティーに参加するため姿を見せていた。千年は潤に対し、進藤と会ったこと、そして もう会わないことがケジメだと伝える。

そんな2人は、進藤と桜庭が会話をしている場面に遭遇する。そこで桜庭と千年という2人の人物に過去があることが発覚し、一気に彼らが進藤の両親であることまで判明する。進藤は両親だと判明した2人に彼らが互いに事情を呑み込んでから話を聞くと、その場を立ち去る。そこから1人にしてくれ、という進藤だったが、またも一郎は潤に進藤のもとに行くように背中を押す。


藤の問題の全てが片付きそうな予感がするので、2人きりになったら恋愛モードになるかと思いきや、進藤は初めて潤に留学の話を切り出す。

唐突に聞かされた留学話に心の整理がつかないままの潤。
そこに全ての事情を知った桜庭がボヌールに顔を出す。この時、再度 気を利かせて一郎が店長と外に買い物に行くが、他に店内にいる客にとっては店員が重い話をし出すのは耐え難いように思う。進藤と桜庭を店から出すべきだったのではないかとは思うが。桜庭がボヌールで席に座る、という一定の決着を付けたかったのだろうが。

桜庭は千年のこと、そして進藤の人生に責任を感じているようだ。
ここから2人が18歳の時の回想に入る。ちなみに桜庭は18歳当時から副社長という謎の設定。どうしても作者は親世代の年齢を若く設定したいようだ。そうするために色々な人が とんでもない経歴になっている。18歳の副社長って…(苦笑)

最終話で詰め込まれる進藤の両親の秘話。ずーーーっと 千年の覚悟が不足しているように思う。

千年は桜庭の会社の社内清掃の仕事として出会った。どうやら桜庭自身も家庭に問題があるらしい。13歳で母を亡くし、父方の祖母の元で育つ(現 会長か)。そこで血縁によって社内では偉くなったが、孤独だった桜庭。そこで千年に出会い惚れたらしい。
祖母である会長は『13巻』で桜庭のことを「母親に似て ふてぶてしい」などと姑の立場から嫁への嫌悪を滲ませていたが、ここでも一族で結婚に対する反対などが出たのだろうか。これも残された謎だ。そういえば会長は桜庭の祖母ということは、進藤の曾祖母に当たるのか。一気に進藤の親族が増えたなぁ。しかも御曹司。グフフ。

だが2人の純愛は、社内での桜庭の立場を快く思わない祖母に邪魔をされる。そして千年は将来的に、自分が桜庭の弱みになると考え身を引いたようだ。こういう自己犠牲の精神は本書では繰り返し見られる。そして自分の本心も妊娠の事実を隠して千年は桜庭の前から姿を消す。

私は千年が好きじゃないから、どうしても彼女に批判的になってしまうが、そもそも千年は、桜庭が18歳の副社長という認識がありながら近づいた。それなのに予想されうる反対勢力に直面すると、まるで考えていなかったかのように当惑し すぐ身を引いた。いくら18歳でも相手との身分差ぐらいは分かるだろう。子供を身ごもるという脇の甘さもそうだし、それを育てきれなかったことといい、その偉そうな態度の割に何も貫徹できていない彼女の人生の見通しの甘さと身勝手さに腹が立つ。どうして この人を まるで格好いい人のように描けるのだろうか。

桜庭は進藤を見た時、千年の子だと直感したらしい。だが それを自分の子だとは思わなかった。でも桜庭が進藤を千年の子だと考え、千年の幻影を追うような真似をするなら、桜庭は進藤の年齢を聞き、自分の子である可能性を検証するのが最優先ではないか。どうも この辺は後付けの両親設定なので無視されているが…。

店を去る桜庭の背中に進藤は千年のことを託す。これは自身の留学も関係しているだろうか。そして潤は、以前 千年から聞いた「自分が惚れた 最初で最後の男」の子が進藤だという話を桜庭に伝える。こうしてヒロインのナイスアシスト(もしくは下心)でヒーローの家族は再生される道筋が立った。一方で『14巻』で登場した千年の10年来の仕事のパートナーの男性は失恋が確定したと言えよう。一方的な片想いなのだろうけど、恋心がある設定にされて、そして静かにフラれ、消えていく。彼の気持ちを思うと哀れでならない。


は夢を追う進藤の留学を応援するが、進藤は潤に黙って出発してしまった。

それを潤に知らせた一郎は、その際に潤に気持ちを伝える。だが それは再度、潤の背中を押すための言葉でもあった。どうやら潤の中にいる進藤の姿を一郎は感じ取っていたようだ(読者である私には全く理解できないが)。

こうして潤は進藤を追いかける。そして追いついた進藤にバイトをやめないで帰りを待つと伝える。進藤が「好きな男 作らずに待ってろ」というのに対し潤は「(好きな人は)目の前にいます」と彼に自分の気持ちを伝える。

こうして潤の気持ちを知った進藤は潤にデコチューをする。それは潤が進藤の気持ちを知る行為となった。

それから3年後、進藤は留学から帰ってくる日が やってきた。一郎は今でも潤を虎視眈々と狙っている。草や健志も同じらしい。逆ハーレムのボヌールという聖域は守られ続けているようだ。

いよいよ2人が再会する場面で本編は終わる。数々の謎や伏線を残してね…☆