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少女漫画と小説の感想ブログです

ご主人様を癒すメイド様、を癒すイケメンがいる という少女漫画の夢は客にとっての地獄。

会長はメイド様! 1 (花とゆめコミックス)
藤原 ヒロ(ふじわら ヒロ)
会長はメイド様!(かいちょうはメイドさま!)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

元男子校・星華高校の生徒会長・美咲は、女子を守り、傍若無人な男子と日々闘っている。そんな彼女の秘密は“メイド喫茶”でバイトをしていること!! しかしそれをモテ男・碓氷に知られてしまい!? 会長とメイドのW生活★御主人様のおかげで初コミックス登場です☆

簡潔完結感想文

  • 表の顔は生徒会長、裏の顔はメイド。学校×メイド喫茶で輝く舞台は2つある。
  • 碓氷は美咲の秘密を脅迫材料にしない点が斬新。あるのは純粋な興味と好意。
  • ヒロインの頑張りがイケメンに見守られ認められるのは、働く女性に刺さる?

暴な言動が気になるなら、おかえり下さいませ ご主人様、の 1巻。

全体的な感想は、00年代前半の白泉社作品の作風が色濃く出た作品だなぁと思った。同じ頃に連載された下記の作品と どこか似た要素を持っており、特に構成がよく似ていて、完結から時間が経ってから読むのなら正直どれか一つを読めばいいかな、と思った。

掲載誌は違ったりするが白泉社系では、私の読んだ中では 2002年 葉鳥ビスコさん『桜蘭高校ホスト部』、2004年 南マキさん『S・A』、2005年 松月滉さん『幸福喫茶3丁目』、そして2006年に本書である。この後 2007年の伊沢玲さん津山冬さん『執事様のお気に入り』と続くだろうか。00年代は登場人物が どんどん増えていく内容が多く、どれも15巻以上続いた作品になったが、当時の白泉社読者は その類似性に辟易しなかったのだろうか。その頃にもインターネットは存在していたが動画を見られるような環境じゃなかったため、漫画は まだまだ娯楽の中心的存在だったのだろうか。2020年代の今は このような、悪く言えば ダラダラと最終目的が見えないような作品は厳しいだろう。そして厳しい言い方をすれば あっという間に売れた作者たちは、世間的には一発屋で終わっている。これは白泉社のヒットの法則に乗っかっただけで作者自身の実力の評価とは少し違ったのだろう。また白泉社作品は よくギャグが面白いと言われるが、そうなのだろうか、と私には共感しづらい。箸が転がっても笑うような年代の若い読者が読んでいる作品だから楽しいのではないか、と思わざるを得ない。


記の中で私が最も本書に似ていると思ったのは『S・A』。努力のヒロインが、天才ヒーローに負け続け、そして恋に落ちていく。どうにも勝気な女性主人公がゴリラヒロインに見えてしまうのも似ている。ただし2作品で良いと思うのはヒロインに ちゃんと上昇志向があるところ。決してイケメンヒーローに愛されることを目的としておらず、自力で頑張って、そんな自分を認めてくれるヒーローに時折 不器用に甘えるという点が良い。地位・権力・金を持つ者に愛される童話のような お話ではなく、その人を目標に努力している現代的な姿が見られる。ヒロインは自分に厳しいから周囲に厳しい言動になってしまう、というフォローも出来よう。

選挙までは したたかだが、生徒会長就任後は男性への嫌悪を丸出しで行動するゴリラヒロイン。

そういう意味ではヒロインと同年代の読者だけでなく、20代以上の働く女性向けの内容だと思った。ヒロイン・美咲(みさき)は学生ではあるけれど、生徒会長として人に支持する働く女性のように見えるし、バイトするメイド喫茶もメンタルが どんな状態でも他者にサービスをする働く厳しさを描いているとも思える。そして美咲の必要以上に頑張りすぎる姿を同じ会社のイケメン碓氷が見守っていて、彼女の努力を誰よりも評価するのは お仕事漫画の典型的な構図にも思えた。もしかしたら そんな面が本書が幅広い年代に支持された理由なのかもしれない。


白いと思ったのは、生徒会長の美咲がメイド喫茶でバイトしているという裏の面を知ったヒーロー・碓氷の その件に対する対応。この秘密の共有が2人の絆になるのだが、碓氷は そこに固執していないのである。

例えばドSヒーローなら その美咲の「弱み」に とことん付け込んで彼女を自分の言いなりにして そこからラブストーリーが始まることだろう。だが碓氷は、もしかしたら作品よりも、美咲の秘密に興味がない。彼にとって美咲がメイドをしていることは脅迫材料でも自分だけの秘密でもない。生徒会長である美咲も、メイドの美咲も彼にとっては自分が興味を持った1人の人間で、その秘密が周囲に知られたからといって美咲の価値が減じない、というのが碓氷の考え方である。

この秘密の保持に躍起になっているのは美咲の方で、彼女がどちらの頑張っている姿も どちらの素顔にも胸を張れるのを碓氷は待っているように見えた。そして美咲が それを明らかにするのは色々と背負い過ぎている自分の肩の荷を下ろせる時だろう。碓氷にとって大事なのは、秘密を巡る攻防ではなく、美咲の成長を見守る、という点であることが良かった。終盤は美咲の公私の問題が解決し、碓氷の助力もあって、どんな自分も美咲は愛せるようになる、という展開だけで良かったのになぁ…。


『1巻』では碓氷は超人的な能力を秘めているだけで、お金も権力も何も持っていない。この学校で一番 強く、成績も美咲よりも良い天才肌の持ち主で狭い範囲では白泉社が好む「トップ」の人間である。私は それ以上の背景が無い碓氷が好きだった。だが結局、本書は白泉社の「文法」に呑み込まれていく。なぜ白泉社は結果的に作品を全部 味付けにしてしまうのだろうか。本書も含めて上記の作品はアニメ化されたものも多く、2000年代は栄華を極めた時期と言えるので白泉社の「文法」は間違ってはいないのだろう。ただ あまりにも同時期に類似作品が多すぎないか、とは思う。

本書も、序盤からヒロインに好意を持つヒーロー、そして鈍感なヒロインが少しずつ恋愛感情を持ち始める中盤となり、そして終盤はヒーローの出自が問題になり海外が舞台になりがち、という白泉社の王道展開を見せる。
毎回 お祭り騒ぎという白泉社の長所もあるが、引っ張れる所まで恋愛成就を阻止する中盤に辟易する短所からは逃れられていない。そして本書の場合、ヒーローの碓氷に どんどん背景を加えていき、白泉社ヒーローの模造品みたいな設定になってしまったのは残念でならない。碓氷がヒロインの美咲が生徒会長であってもバイト先のメイド姿であっても どちらの彼女も本物だと思ったように、読者は碓氷が特徴のないヒーローであっても もう関係なく彼のことを好きになっているのに、わざわざ後付けで(社会的)エリート要素を付与させるのには落胆した。先行作品があって比較されるのは分かっているだろうに、似たクライマックスになるのは、作家側というより出版社側の指導の賜物なのだろうか…。

読み返してみると確かに初期は絵が荒いが、作者の持ち味は序盤の方が出ている気がした。つくづく碓氷の扱い方が違っていればなぁと悔やむばかりである。


容は あらすじ にある通り、男子校だった この学校が共学になったのが数年前。なので未だ男子生徒が8割を占める。その男子校の乗りを引き継ぐ男子生徒たちの風紀の乱れを正すため主人公の鮎沢 美咲(あゆざわ みさき)は生徒会長まで上り詰めた。だが彼女は父親の蒸発により家計を支える役目もあるため、メイド喫茶でバイトをしているという裏の顔があった。この学校の生徒には絶対に知られたくないバイトを碓氷 拓海(うすい たくみ)という男子生徒に知られてしまって…という内容。

ドSや性格の悪さ、秘密のバイトなど裏の顔を知って男女は急接近する。ただし本書は それを弱みにしない。

入学当初から男性社会にウンザリした美咲は文武両道を心掛け、教師たちの信頼を得た後に生徒会長になった。生徒会役員になるためには選挙を経るのだが、男子生徒たちは選挙に無関心なので、おそらく賛成票もなかったが反対票もなかったため、美咲は生徒会長になったということらしい。もしかしたら選挙戦では無害なふりをして、生徒会長になってから圧政を始めたのかもしれない…。

美咲の父親は借金を残して蒸発してしまい、一番 信頼できるはずの男に裏切られた母親と自分は休む間もなく働く毎日を送る。美咲の精神の不安定さは父親の不在と直結していることを中学の同級生男子が碓氷に語っている。家庭問題が解決しない限り、彼女は背負っているものの大きさと責任感で必要以上に頑張ってしまうのだろう。
そしてメイド喫茶でバイトをしているのは、メイド喫茶は精神力は削られるが、体力が不要のため。時給は それほど よくないのだが、肉体労働だと疲弊してしまい学校生活との両立が出来ないので、メイドに落ち着いた。
バイトでのメイド姿を碓氷拓海に見られて、人生オワタ。だが彼は美咲の事情を知り、彼女の秘密を自分だけの秘密にしておく。

ここまでで疑問なのが、生徒会長になるまでのプロセスと、生徒会長になってからのプロセスの矛盾。生徒会長という立場を手に入れるために男性教師に媚びを売っていた描写があるのに、会長就任後、彼女は強権を以て学校の風紀を守ろうとする。

美咲の男嫌いが父親というサンプル一人なのが気になる。美咲は かなり頭でっかちな思考をしているが、父と他の男性を混同して考えるのは ちょっと変。また この学校が共学になって数年経っているということは、現在の生徒たちは全員、男子校時代を知らない訳で、男子校の名残が強く残りすぎているような気もする。そして思春期の男子にとって女性の視線は一番 気になるもので、女性が2割もいれば大人しくなりそうなものである。作者も その点から恋愛による男女対立の消滅が崩れていくのを防ぐためか、終盤までこの学校の男女間の恋愛は事実上禁止されているような状態を作る(女子生徒は碓氷に恋してるが…)。だから この学校の生徒たちは他校の生徒に恋を求めたりしている。


咲の秘密を知った碓氷はメイド喫茶の常連客になる。だが碓氷は直接 美咲をイジったりせず、遠くから観察するだけ。それで精神が削られた上に、模試で碓氷に負けたことでプライドが傷つく。

しかも美咲の方針は女子生徒に甘く、男子生徒に厳しいという糾弾を受け、生徒会長として厳しい局面に立たされる。そこで男女平等のため、美咲は更に自分の仕事量を増やす。それでも美咲は誰の力も借りられず、碓氷の手を振り払い自力で全てを解決しようとする。体力も気力も限界の時に、厳しく接していた男子生徒(後に3バカと名付けられる)たちにメイド姿まで見られて大ピンチになり、そこで美咲は倒れる。

1日学校を休んで登校すると、生徒会の仕事は副会長をはじめとした面々がやってくれており、そして3バカも碓氷の威圧により噂は広まらなかった。美咲が思うほど世界は自分に厳しくなく、周囲には優しい人がいる。そして碓氷は美咲の頑張りはメイドの格好で相殺されるようなものではないと言ってくれる。
それでも美咲の心は それでは揺るがず、自分の前を走る碓氷を目標にする。作者は当初、この2人を恋愛関係にする構想はなかったため、2人は良いライバル関係として描かれている。美咲の生徒会長としての欠点は他者、特に男を信じられない点だろう。個人としての能力は高いが、集団として動くことは苦手で、あまり会長に向いていなさそう。彼女が柔らかく、他人を信じられるようになったら、メイドのことも言えるようになるのだろうか。

その後、碓氷と3バカはメイド喫茶の常連になり、美咲は楽しい二重生活を謳歌する。


2回目からが長期連載の始まりで、1度全てリセットされる。美咲は肩の力が入ったまま、男子生徒を敵視するばかり。またメイドのバイトを秘密にするのも変わらず。

学園祭が間近に迫る。美咲にとって学園祭は女子中学生を、未来の この学校の生徒にするという目標がある。ただし それは美咲の理想である。未来の男子生徒だって この学校にとって大事な存在なのに、男性は敵、女性は味方という偏見が そもそもあって、頭でっかちの活動家にしか見えない。視野が狭くて一方的というのは美咲の欠点で、碓氷はそこを指摘して、敵ばかり作る美咲の限界を見抜く。

そんな碓氷の予感は学園祭当日に当たる。喫茶店を催す碓氷のクラスが学園祭で女性が好まない内容を展開しており、美咲は彼らを怒鳴りつける。だが男子生徒の反発を受け、美咲自身がウエイトレスとして動くことで仕切り直す。そんな美咲の姿を見た碓氷がお客様に対して丁寧に対応し、客が満足する接客をしたことで空気が変わる。男子生徒が碓氷に倣い、誰もが喜ぶ楽しい時間を提供する。こうして美咲も丸くなることを覚える。美咲は頑張っているが余裕がなく、ヒステリックになっている。
この学園祭終了後、碓氷は美咲に顎クイをして責める。少しだけ恋愛関係が動き出しているが、碓氷はストレスから歯ぎしりが聞こえてきそうな美咲の心を救いたいように見える。美咲は強情だから時間がかかりそうだが、凝り固まった思考を柔らかくするのが碓氷の役割だろう。


いての舞台は学校と同じぐらい重要な舞台であるメイド喫茶。バイト中は男性客と接客することが多いので、その分 危険も多くなる。ある日、美咲が閉店準備を1人でしていると、ずっと店内に潜んでいた客が美咲を拘束する。その犯人はオタク特有の自分の理想像を美咲に押しつけるが、それを聞いていた美咲は我慢の限界を超え、彼らを1人で制圧する。碓氷も助けに入るのだが、その前に美咲が終わらせているというのが面白い。

碓氷が本気ではないとはいえ、学校のテストも美咲が1位になり、彼女の努力が際立つ回になっている。ヒロインはいつもヒーローに助けられてばかりじゃないよ、という少女漫画への挑戦が気持ちが良い。こんなに長編になるのなら、もっとパターンが定例化した所で、この意外な展開を用意したら良かったかもしれない。序盤は作者も必至だから変わったことをやりがち、というのも白泉社あるある かもしれない。


咲の学校内の行動が認められ、一部の男子生徒たちが美咲に弟子入りする という展開も連載だからこそ出来るもの。男子生徒に慕われることは良いことなのだが、美咲は四六時中 彼らに監視されるような生き方となり窮屈になる。特にメイド喫茶でのバイト先を知られる訳にはいかず、彼らから逃げるのが大変になる。

ここでも事態の推移を見ていた碓氷は美咲がメイドであることを公開することを進言する。これは碓氷が美咲の「弱み」を握っているという図式にしたくないからだろう。作品的には秘密があるから面白いのだが、碓氷は美咲自身の魅力を見ている。上述の通り、秘密で美咲を縛りたくないのだろう。そういう碓氷のフラットな物の見方は好きだ。

美咲が自分を縛っている生徒会長という役目。どんな自分も受け入れることが彼女の課題か。

やがて美咲も弟子たちに秘密を話そうとする。だがそれは自分から話した方が、どこかからバイト先が漏れるよりも彼らを失望させないという他者のための行動だった。それを碓氷に見抜かれ、美咲は自分自身が軽蔑されることを嫌がっていることを認める。
この後、碓氷は、屋上から落ちたメイド姿の美咲の写真を拾うために屋上から飛び降りる。その決死の行動を前に彼は美咲にキスをし、そして愛を告白して彼女のために死ぬ。死ぬ覚悟をもって屋上から落ちる。屋上から落ちた碓氷は、木の枝の中を通り、そしてプールに落水する。木がスピードを軽減して、水がクッションとなった、と考えればいいのかな。印象的なシーンであるが、誰も写真に注意を向けていないのだから2人が急いで階段を降り、写真を回収できるのではないかと思ってしまう。

それにラストで碓氷が美咲の秘密を保持するというのも いまいちわからない。周囲の反応に怯えるじゃなくて、美咲が自発的に言うまで待つということなのだろう。


「透明な世界」…
写真部の如月 みちる は学園祭で自分の写真を好きだと言ってくれた高橋 真(たかはし まこと)のことを遠くから憧れていた。だが彼は彼の誕生日目前で亡くなってしまう。ある日、高橋に似合うと思う風景の中で如月は彼の姿を見つける。それは成仏できずにいた高橋だった。彼の姿が見えるのは如月と幼なじみの藤城(ふじしろ)だけ。そこから彼が生きる目標にしていた誕生日までの5日間の交流が始まる…。

高橋が藤城に宛てた手紙を如月が代筆する展開が良かった。親友だけど気恥ずかしくて言えないことを如月を通して高橋は伝え、そして如月が文字にすることによって それは この世に確かに残る。藤城にとって それは別れの儀式になったのではないか。
そして如月も もっと生きたかった高橋という人間を通して、臆病な自分を克服する。胸に秘めていた高橋への想いを伝えるのは彼女が踏み出した一歩の証明だろう。
本編がハイテンションだっただけに、この静謐で「透明な世界」が一層 染み渡った気がする。