《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

藤岡ハルヒの憂鬱。2人が恋している自分に気づくまで続く エンドレス1イヤー。

桜蘭高校ホスト部(クラブ) 1 (花とゆめコミックス)
葉鳥 ビスコ(はとり びすこ)
桜蘭高校ホスト部(おうらんこうこうほすとくらぶ)
第01巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

超お金持ち高校・私立桜蘭学院。第三音楽室に迷い込んだ庶民特待生・ハルヒは、「ホスト部」の美麗男子6名と出会う。彼らには関心のないハルヒだったが、部室内の花瓶(800万円!)を割ってしまい、借金返済のためホスト部員になる羽目に…!?

簡潔完結感想文

  • 扉を開けると そこは…。ホスト部に迷い込んだら最後、数年間は外に出られませんよ。
  • 読者の分身である主人公は頭脳も外見もパーフェクト。実は感情移入しにくい漫画。
  • 「バカみたいなノリだけでは飽きられるの」で後半は乙女が大好きなトラウマを(予言)。

版社名を隠されても、一読で どこから出版されているか分かる 1巻。

そのぐらい「ザ・白泉社」といった感じの内容ですね。

ツッコんだら負け の非現実的な設定(ホスト部・男装の女生徒など)に加え、
多すぎるぐらいのレギュラー登場人物でお送りするドタバタコメディ。

同じく白泉社漫画の椿いづみ さん『親指からロマンス』の感想文タイトルで、
白泉社の少女漫画の登場人物は、他社に比べて1.5倍は多い。目と頭を酷使するぜ。」
と書きましたが、まさに その通りで初対面時は疲れる。

白泉社漫画って嫌な気持ちや暗い気持ちになったりすることは少ないのですが、
作品世界にダイブするのに勇気がいるんですよね。

ただ目と頭を酷使した後は、キャラクタに愛着が湧いて作品世界を心から楽しめる。

これは現実の「ホストクラブ」と同じ効用かもしれませんね。
多少の偏見があってハマる人の気が知れないと思っていた人が意外にもハマっていく世界。
漫画なら固定料金で何回でも楽しめます。

本家に比べれば安いものですので、
一度、廊下の つきあたり第三音楽室の扉を開けてみましょう!


本書も読切から連載へと昇格し、その勢いのまま全18巻まで続く。
発行部数も1000万部を超える作品となったらしい。

本来の作者の作風と違う作品を勧めた編集部の審美眼の光ったのか、
それとも白泉社式 勝利の方程式に当てはめた中で当たった作品なだけなのだろうか。

ちなみに本書でも後半の展開は白泉社のお約束といった感じです。
家族問題やトラウマに話が進むのは編集部の意向なんですかね…。

そういえば図らずとも『1巻』で、とある登場人物が
「乙女は美男の『トラウマ』に弱いもの!!」と断言していますが、
白泉社の編集部も この考えに従って、
せっせと(後付けの)トラウマを こしらえているのでしょうか…。

ちなみに この子が出した「ホスト部」の面々のキャラ改革案。
このキャラ設定、後半の お話で大体出てきたような気がしてならない。
色々と設定を考えているらしい作者からの予告の面もあったのかな。
(連載が確約されている訳ではないからアイデアのリサイクルか?)


18巻まで連載を支えたのは作者の力量が第一だろうが、第二はキャラの設定にあると思う。

何と言っても主人公とホスト部6人のバランスが素晴らしい。

主人公の藤岡(ふじおか)ハルヒは学年主席で入学した特待生。
そして「一に家柄 二にお金」の私立 桜蘭(おうらん)学院一の貧乏人である。

そんなハルヒが上のあらすじの通り、「ホスト部」への借金をこしらえたため その活動に協力する、というのが物語の始まり。

ホスト部の面々や物語の異常性が過熱しすぎる前に、
学園の異端児であり、部外者であったハルヒからの視点が差し水となって適度な温度を保っている。

ツッコんだら負けの物語だが、作中にツッコミ役がいなければ、
作者しか楽しめない独り善がりな物語になっていただろう。

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もしかして制服でお出迎えは最初で最後か? 扉を開けたことで時空が歪み始めます。

ちなみに「ホスト部」の説明をしますと、
ホスト部とは暇をもてあます高等部美麗男子6人が
 同じく暇な女子をもてなし うるおわす」「華麗なる遊戯」らしい。

…はい、ツッコんだら負けです。

部長である2年生・須王 環(すおう たまき)は生来のホスト。部の活動に真剣。
同じく2年生の副部長・鳳 鏡夜(おおとり きょうや)は計算高く、腹黒い。

3年生は身長148センチの埴之塚光邦(はにのづか みつくに)と、
192センチの銛之塚 崇(もりのづか たかし)の凹凸コンビ。

1年生は常陸院光(ひたちいん ひかる)と馨(かおる)の男性の双子。

そこに7人目として入部することになったのが1年生のハルヒ

完璧ですね。
タイプの違う7人の部員を用意して、その中から読者のお気に入りを見つけてもらう。
アイドルのグループ商法と同じです。


しかしハルヒは性別的には女性だったというのがホスト部に勧誘した後の1話のオチ。
これも本書の ツッコんだら負け設定だろう。

この桜蘭学院は共学でありながら、男子校に迷い込んだ女生徒のような設定が出来上がりました。
乙女の大好きを詰め込めるだけ詰め込んだ欲張りな設定です。

ハルヒは性格的なものもあって、女性性を感じる場面は少なく、
ビジュアルとしては見目麗しい男性7人の並びになっている。

ホスト部の他には読者しか知らない秘密を共有しているのも乙女には嬉しいかも。

そして女性性抜きで愛されるハルヒの姿は
読者にコンプレックスを抱かさせずに物語に没入できる装置でもありそうだ。


ホストクラブとしては、真剣にやって人気を得ている環を除いて、
個人というより同学年コンビのセット売りをして指名を稼いでいるいる。

常陸院の双子といい、3年生コンビといい、女生徒たちのBL観賞クラブって感じがしますね。

この辺りが女生徒を本気にさせないで、
かつ楽しんでもらう ホスト部としての いいラインなのでしょうか。


話の構成としては『1巻』では、
学校内のゲストキャラの言動に、時にホスト部が手を差し伸べ、時に巻き込まれ、
その解決までのドタバタをコミカルに描き、最後は水戸黄門的な大団円を目指すという流れ。

いつもは ヘラヘラしたホスト部の人々が、
悪を討つ時には豹変し、時に冷酷な言葉を告げるのも、
ギャップに弱い乙女の胸には突き刺さるのでしょう。

残念ながら、私は メイン登場人物だけが格好付けられれば良ければいいと思っている展開が苦手です。
3話で環が男子生徒に有無を言わさず殴るシーンは ドン引きです。

特にこの学校のように格差が歴然とある学校では、
特権階級による差別的な行動に思えてしまう。

またもやツッコむのもあれですが、この学校のシステム、
家柄 + 成績でクラス分け、って学校外の人に知れたら大問題だ。

そして家柄って生徒本人の努力が全くない時点で、生徒の実績としては無価値ですよね。
ハルヒほどではないが成績優秀なC組(上から3番目のクラス)の生徒は、
本人の努力ではどうにもならない生まれた瞬間からの格差を実感しろ、という教えなのでしょうか…。

この設定って、お金持ち学校内でのホスト部メンバーの格式を更に上げるためなんですかね。

漫画内でも乙女は分かりやすく最高ランクを提示しないと、
心から楽しめないでしょう? と読者が見くびられている気がします。

この辺りは、豪華な物を片っ端から並べた結果、下品になった御殿といった感じがしますね。
ツッコんだら負け、と切り返されたら ぐうの音も出ませんが…。


読すると色々と細かい設定が気になってきます。

まず 1話で語られる、昼間に つれこんでるハルヒ父の愛人って何でしょうか。
この後で ハルヒの父が登場しても、そんな話が全く出てきませんが、
連載化によって、少し健全になったのでしょうか。

そして1話でハルヒをイジメたゲストキャラは、ハルヒの性別を知っていての所業なのか、
本能的に環の特別な存在と嗅ぎ取ったのか。
それとも環に近づくには余りにも下賤だったから容赦がなかったのか不明ですね。

そして こういう水戸黄門的に退治された生徒は 明日から学校生活を どうするのでしょうか。
このまま意地悪な生徒や、ホスト部に恨みを持つ生徒が増え続けたら、ホスト部ピンチですね。

一応、ホスト部の顧客には男性もなれるらしいが、当初は女性客のみ。
男子生徒が、意中の女子生徒を取られたと醜く嫉妬して恋愛トラブルで刃傷沙汰になりそうである。


というか、考えてみれば、校内ホスト部って新規顧客が見込めないということと同義である。
リピーターがいないと存続できないシステムは早晩、滅びそうな気がする

しかも生徒たちのお金は、ほぼ その家庭のお金だろう。
1人また1人と親からホスト通いを禁止されてリピーターすらも激減。
ホスト部部室に閑古鳥が鳴いて、予算も不足して、制服で体育座りしている7人。
もはや本当に暇になった彼らは選ばれた者ではなく ニートである。

そういう夢回も見てみたかったかも(笑)

あとは、連載終盤に現実で起きたリーマンショックなどで誰かの家が急激に没落していく展開とか(笑)

大邸宅からハルヒの家のアパートの隣に越してきたことで、急激に仲が深まりラブに発展。
そして自分がいかに親の庇護のもとで余興に勤しんでいたか に気づく。
自分の力で お金を稼ぐべく努力をし始めるのだった…。めでたし めでたし。

そんなアンチホスト部漫画も面白かったかもしれない。


あと、ハルヒは最初から双子を見分けられてるんですね。

そして環のハルヒの父親役という疑似家族設定は1話から出てるんですね。
まさか これが伏線になるとは作者本人も気がつくめぇ。


2話目は早くも12月のクリスマス回の設定。
本来なら3年生コンビもあと3か月でお別れです。

ただし本書はある時点までエンドレス1イヤーなので、問題ない。
ハルヒなど何度 新入生として4月を迎えることやら…。

ハルヒホスト部の扉を開けたことから時空が歪んだんでしょうね。
そしてモラトリアムな少年たちが大人になりたくないパワーが同じ時を繰り返させる。
もはや学校の片隅に巣食う霊的存在になっているのでは…(笑)


そんな読切2回目の始まりは半裸でスタート。
南国風な設定とはいえ半裸は本物のホストクラブより過激だ。

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作者もホスト部も人気の獲得のためなら一肌 脱ぎます。乙女の大好きを狙い撃ち。

これは作者としてホスト部存続のための新規顧客(読者)獲得の作戦だったんでしょうか。
1話目も環が無駄に上半身裸になってたし、あざとい接客が垣間見られます。

しかし鏡夜先輩が半裸って、全体を通しても珍しいような。
ヒョロヒョロだろうから何かしら理由を付けて着衣に持ち込もうとしそうだけどなぁ。

細かいところでは環がコタツをバカにしている。
タツで縮こまるなどナンセンス だった 庶民の感覚 だけど、
ハルヒとの精神的距離の接近 が彼を変えたのだろうか。


あと、他6人の男性部員からチヤホヤされるハルヒだが、
ハルヒハルヒとして愛されているのか、庶民だから愛されているのか、
この時点では判別が付きませんね。

結局、ハルヒは成績主席だけじゃなく、学校一かわいいということなのでしょうか。
男性だけじゃなく、女性も見た目が100%の世界か。

読者の分身であるはずのハルヒまで選ばれし者だったのか…。

現実に即して世界観を考えれば考えるほど楽しめなくなりますね、本書は。

純粋な夢物語として楽しむのが一番 健全でしょう。


にしてもハルヒの女装モード(語弊あり)がちっとも可愛くないのが難点ですね。

作者の改良もあって、作品の後半には女装も可愛く思えてくるのですが、
1巻の時点では男装しているノーマル状態の方が、着飾った時より よっぽど可愛い。

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学校一の貧乏人も世界で一番 可愛くなるシンデレラの魔法。これで学年主席の最強ヒロイン。

しかしハニー先輩の身長は もうちょっと高くても良かったのではないか(160センチ台)。

おそらくショタ属性を強めるためにもハルヒよりも低く設定して、
最小にしたかったんだろうけど、やり過ぎた感じがある。

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