《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

1997年つまりは20世紀の頃から 白泉社漫画の最初の1年は学校・季節イベントの日常回づくし。

紅茶王子 第2巻 (白泉社文庫 や 4-10)
山田 南平(やまだ なんぺい)
紅茶王子(こうちゃおうじ)
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

風早橋学院・体育祭も後半に突入し、盛り上がりは最高潮! 最大の目玉・学年別対抗リレーで、葉桜生徒会長と対決することになった奈子。果たして勝負の行方は? そして不穏な動きをみせる謎の美形留学生・セイが登場。彼の目的は一体!? 解説/久美沙織 2006年9月刊。

簡潔完結感想文

  • 季節や学校のイベントばかりだが、新キャラの配置が上手く、ずっと面白い。
  • 召喚者と思わせて実は…、というミスリードが痺れる。だがイレギュラーな存在。
  • 紅茶王子・王女の「仕事」の関わり方は三者三様。ペコーの失敗が奇跡を生む。

載が長期化したからこそ奥行きが生まれる 文庫版2巻(TSP.13~26)。

長編化した白泉社漫画の1年目は日常回で やり過ごす、というのは20世紀の時代から確立された手法なのかと感心してしまった。7話に1回ぐらい恋愛要素を微かに挿むが、それ以外はイベント尽くしの日常回となっている。スタートダッシュで確保できた連載期間を どう面白くするのかが作家の正念場となる。
考えてみれば本書も他の作品と同じくイベントと、そして新キャラを大量投入している。後発のキャラクタは読者に馴染まないで1回きりの登場になることが多いが、本書の場合、紅茶王子と その関係者=特別な存在であるため、読者から大いに歓迎されることが違いだろうか。一般人はいらないが、庶民の生活を彩る王子たちなら どんどん来い!というのが白泉社読者の捻じれた選民思想であろう…。

この『2巻』では主人公の奈子(たいこ)以外の登場人物の背景が少しずつ明らかになっていた。例えば幼なじみの美佳(はるか)。高校生にして1人暮らしをしている彼の家庭環境が少し明らかになる。全てを一気に描いてはいないが、再読すると このことだったのか、と分かる部分が たくさんあった。そして そめこ もパチンコ成金の一家だと明かされる。

また生い立ちや性格の違いは紅茶王子たちにも よく出ている。『2巻』の後半からイレギュラーな紅茶王子(ネタバレになるがセイロンである)が登場するのだが、彼の存在によって これまで登場した3人の紅茶王子・王女(以後、紅茶王子に統一)の「仕事」に対する取り組み方の違いが露わになる。誰が正しいとかではなく、それぞれ紅茶王子としての経験から見出していった人生訓だということも分かる。

王子の容姿も3人3様。美青年の2人より背の低い生意気な美少年が好みだという人もいるだろう。

このセイロンはアッサムとオレンジペコー2人それぞれの仕事への取り組み方が間違っていると作中で指摘する。アッサムは願いの内容に こだわりすぎで、ペコーは主人に深入りしすぎている という。逆にセイロンは1人の人間に長く関わるより、多くの人間の願いを叶えたいタイプだという。確かに彼の言う通り、誰かの願いを吟味している間に、紅茶王子を召喚したい別の誰かの呼びかけに応えられない。例え ささやかな願いであっても叶うことを優先するセイロンの気持ちも分かる。

その話を聞いたアールグレイは どっちつかずな自分を情けなく思っている。もしかしたら紅茶王子は人との関わりの中で自分という人間を発見していく自己研鑽の場なのかもしれない。自分の長短を分かることが将来の為政者としての第一歩で、弱ければ克服する、または折り合いをつけるのが成長への道となる。そしてアッサムはアールグレイの性格を過去の経験から来るものだと分かっているらしく彼の中途半端さを責めたりしない。この辺は親友であり、そして やっぱり お兄さんだなぁと思い、増えていく紅茶王子たちの関係性も面白い。

そして彼らは自分たちの役割の無力さを誰よりも分かっているだろう。美佳の言う通り、その人が努力すれば叶う程度の願いごとしか叶えられないことに誰よりも葛藤しているのが王子たちだろう。それでも自分の仕事にプライドを持って挑むから彼らの姿は正しく美しく映る。自分は無力だと人生を投げ出すことは誰であっても許されない。こういう ちょっとした苦みをファンタジーの中に凝縮させて、ほのかに感じさせるから本書は面白い。ただ甘いだけの物語では ここまで長編の物語には ならなかっただろう。同じ味というのは飽きるのである。お茶の葉や飲み方が多種多様だからこそ、紅茶は世界中の人に長い間 愛されるのである。

お話として面白かったのは最終盤の生徒会長の選挙戦。候補者の2人が それぞれに過激な公約で注目を集める人になってしまったり、甘いマスクの下で とんでもない下半身スキャンダルが出てきたりと20世紀の時代の作品が20年以上経過した現在(2023年)でも、連想するような政治家がいることに、人の世の中の変わらなさを感じてしまう。本書は普遍的で、内容がしっかりしているから時代の変化にも耐えられるのだろう。

そして この話で暴走しかけたオレンジペコーが主人の言外の願いまで叶えるという展開が良かった。決してスマートとは言えないペコーのやり方で、おそらく他の紅茶王子の願いごとに干渉しない、という約束がなければアッサムなど その不器用さに怒りまくっただろうが、塞翁が馬というか結果的に上手くいって誰もが幸せな結果になったことを嬉しく思う。頭の固かった生徒会長が非現実的な場面に遭遇し、他者への配慮を持ち始めていることもまた嬉しい。それぞれ違う考え方の人を、それぞれに好きにさせてくれる作品である。


育祭後半。奈子はリレーに出場し1位を獲得。そんな絶好調の奈子と生徒会長が対決する混合リレーが迫る中、生徒会長はオレンジペコーを召喚したことの混乱から立ち直っていない上に、峯山の作った お弁当で生徒会内で食中毒が発生する。
責任感の強い生徒会長は自分が出場しないと食中毒の原因となった峯山(みねやま)が気に病むとリレーの出場を決意。そこでペコーに1つ目のお願いをする。召喚から願いまで これまでの最短記録だ。生徒会長らしい決断力で この願いの中にも美佳と同じく その人の性格が よく表れている。願いとは個人を映す鏡なのかもしれない。そして この願いの成就が生徒会長にペコーの存在を認めさせる強い動機となる。これがなければ いつまでも生徒会長は頭痛薬を服薬していただろう。

そして同じく食中毒の高1生徒会メンバーに代わってリレーに出場するのがアッサム。本来、奈子を助けたいであろう美佳は個人が出場できる枠を最大限まで使っているため間接的な支援しか出来ない。美佳は『1巻』での奈子の弟の風邪の時といい、ナイトになれる機会を見逃す運命にある。でも この辺は頑張ってる奈子は助けて当然という少女漫画の嫌な側面も感じる。親友と男性たちは奈子のことが大好きという世界観である。

結局、人の好いアッサムがアンカーとして出場し、魔法なしで1位でゴールイン。アッサムは間接的に何個の奈子の願いを叶えているのか。


いては以前から開催が予告されていた文化祭。昨年に引き続き お茶会同好会は開催場所難民になる。今年も屋上で開催しようと思っていたら園芸部が使用申請を出してしまっていた。園芸部部長に頼み込むのも虫が良すぎると、さすがの奈子も感じているらしい。確かに彼女は「最近 周りの人に甘えすぎている」。奈子は自力で頑張ろうとする話ではあるものの、結局 申請が遅れたのは奈子の責任だし、その上、しなくていい遠回りをしているのも奈子が空回りしているからである。彼女が成長しないヒロインだということがよく分かる話であった。

一方、アールグレイは個人的に打診された演劇部の舞台出演に悩んでいた。その舞台は「眠り姫」なのだが主役が まだ決定していないという。生徒会長に出演を断られ続けたが、演劇部部長は生徒会室でペコーの人間態を見て彼女に主役を依頼する。そこでペコーは相手役がアールグレイという名前の男性だということを知り驚く。いよいよ紅茶王子と王女の対面である。

当日のお茶会同好会の様子は基本的に去年と同じなので ほぼ割愛。今回は やはり演劇が目玉の演目である。
お茶会同好会のメンバーも自分たちの模擬店だというのに、舞台を見るために休憩を取る。協力してくれる部やアッサムが代役を務めてくれる(結局、アッサムも観劇するので、紅茶を淹れられる人がいないのでは…?)。

出番ギリギリでアールグレイが到着したため、舞台に上がるまで相手役は互いに知らないまま。眠り姫に王子が対面してアールグレイは目を丸くする。しかもペコーは いたずら心で兄であるアールグレイにキスをする。こうして舞台の幕が下り、3人の紅茶王子・王女が集合する。ペコーの方は兄の出現に驚かなかったが、アッサムまでいることには驚いている。誰がどこに派遣されているか王子たちは把握できないのだろうか(国王は この世界を見られるみたいだが)

本書の初キスシーンは兄妹間の禁断キッス! この劇、生徒会長は観劇なさらなかったのかしら…。

の頃、学校内では体育祭・文化祭と目立ち過ぎたアールグレイとアッサムの存在が話題になっていた。ちなみに文化祭の人気投票の1位は演劇部、お茶会同好会は2位らしい。そして2位は実績にならないから生徒会からの評価も部員も増えず現状維持となる。

紅茶王子が学校内に徘徊している問題に生徒会長が乗り出す。そして紅茶王子の役割を知った生徒会長は文化祭での不正を疑うが、奈子は魔法を使ったら楽しくないと反論する。そう言い切る奈子のことを生徒会長は評価したのではないか。本来、生徒会長の性格なら生徒ではない紅茶王子の存在を許すはずがないのだが、その前に彼女のもとにペコーを召喚させているので強く動けない現状を作り出すのが上手い。
そして作品的には、ここまで連載が長期化した結果、アールグレイたちに一定の居場所を作る必要が出来たのだろう。これは作中の問題でもあり、メタ的な問題でもある。これからずっと彼らが学校に登場しても違和感のない設定を作り出すための話になっている。

奈子はここで自分の1つ目の願い事を2人を学校の生徒にすることを思いつくが、それはアールグレイたちのための願いごとであると一度は却下されるが、奈子のたっての希望であり、学校内で収拾がつかないほど2人が人気のため、その願いは叶えられる。これも実に奈子らしい願いで その願いを叶えるために周囲が甘い対応を取るというのも彼女らしい。

こうして奈子たちと同じ学校の生徒という身分を手に入れた紅茶王子たち。この話では奈子がアッサムに恋をしかけているという久々の恋愛要素が出てくるが、これ以後 急速に話が進むわけではない。王子と庶民の身分差のある恋から、同級生の恋へと変化したということなのだろうか。


晦日の夜、奈子が1つ目の願いを叶えたことで、早くも お別れを意識する。確かに願い事が3つ残っている状態と、1つ叶えてしまった状態では心境が違うだろう。そして奈子は父との死別があるから、別れに敏感で、以降は少々センチメンタルになっている。同じ境遇である美佳に電話で相談するが、その時の会話をアールグレイは聞いてしまった。出会いと別れを繰り返すのが仕事である紅茶王子は どれだけ辛い思いをするのだろうか。ここでは その年が終わるという感傷的な気分が奈子の悲観を増幅させているような気もする。

どうやら彼らは この仕事を始めて何十年と経過しているらしい。そしてアッサムは最長10年間 同じ主人に仕えていた経験もある。アールグレイたちは何十歳か分からないが、あちらの世界と こちらでは時間の流れ方が違うらしいので奈子たちよりも少し年上ぐらいという計算だろうか。そして紅茶王子たちが いつも何かを食べている気がするのは、時間の流れの違いや魔法でエネルギーを消費するからなのだろうか。


いては初詣回。ここで美佳の家庭の事情が明らかになる。

美佳の両親は海外に転勤中。日本には兄がいて、弟に そこそこ優しい。もうすぐ両親が日本に戻るらしく、その際に美佳は同居するかの選択を迫られる。彼が同居を渋るには訳があるらしい。幼なじみの奈子は事情を知っているが、美佳の口から語られないことをアッサムには教えられない。アッサムも美佳に聞いて教えてくれなかった時のショックが大きそうだから、聞くにきけない。この辺はナイーブな王子である。

初詣では生徒会長・ペコー組と遭遇し、ここでアッサムとペコーが婚約者同士ということが明らかになる。せっかく奈子がアッサムへの気持ちを自覚したと思ったら前途多難である。というか恋愛沙汰を面白くするための この設定と前準備だったのだろう。

この婚約話から紅茶王子の世界が語られる。「カメリス・シネンシア」という世界の名で、何人も王様がいて それぞれの国を治めているという。つまりはアールグレイもアッサムも本物の王子(皇太子)みたいだ。さすが庶民と特権階級の恋を描く白泉社である。

アールグレイとアッサムの父親は幼なじみ同士。仲良しだが好きになった女性も同じであった。だが その女性はアッサムの父親と結婚後、死んでしまう。遺されたのはアッサムと国王。ふさぎ込んだ幼なじみを見かねて、自分に王女が生まれたらアッサムと結婚させると約束した。ちなみに第1子は男児アールグレイ)だったため親友になった。
こうしてアッサムとペコーは、ペコーが生まれる前からの婚約者なのである。アッサムでも父親たちの結託を崩せないから苦労しているらしい。


んな時、奈子のクラスに転校生がやって来る。セイ=ケニルワースという男の子で、本来は留学生の集まる特別クラスに入るのだが、滞在期間が「比較的」短期という理由と本人の希望で奈子のいる普通クラスに入って来た。一体、最初は どのぐらいの期間での留学を申請していたのだろうか。「比較的」という言葉の中に「決まっていない」という意味が潜んでいる気がする。
この「セイ君」は何か小さい生き物(しかも喋る)を携帯している描写が実に上手い。通常なら彼は第4の紅茶王子(順番的には違うかもしれないが)を召喚している者だと考えるのが普通だろう。だが事実は違う。

ペコーの召喚時と同じく、アールグレイたちと セイ君の出会いは先延ばしにされる。だがセイ君は生徒会長には積極的に話しかけ、ペコーの存在を知っていることをほのめかし、彼女を早く国に帰してあげてほしいと願い出る。その後もセイ君は生徒会室で生徒の名簿を暗躍。その情報を得た生徒会長は奈子に話を聞く。
またセイ君は美佳にも当たりが強い。彼のコンプレックスを刺激して怒らせるが、精神を乱したのはセイの方。アッサムのことを知っていることを自白してしまう。

その話をアッサムたちと共有する際、紅茶王子召喚のルールが1つ判明する。それは1回 願いを叶えてもらった者は他の紅茶王子を呼び出せないということ。同じ紅茶王子もである。つまり3回の願い事を叶える間だけの一期一会の関係なのである。そして誰かを主人にしている紅茶王子は誰かが満月の夜に紅茶を飲んでも召喚されない。そして奈子と美佳の同時召喚は極めてレアだし、3人も紅茶王子が地球の、しかも日本の1つの学校に集まるのは異常事態なのだろう。


アッサムの提案で、そめこ がセイ君にバレンタインに渡すチョコに偽装して、アールグレイとアッサムがチョコの箱に入り、セイの周囲にいると推測される紅茶王子探しをすることになる。ちなみに この学校でバレンタインデーが緩和されるのは生徒会長の お達しがあったから。色々と理由をつけてはいるが公私混同には違いない。

そこで判明するのが、シャリマーとベルガモットという名と、セイがセイロンであるという事実だった。実はセイ=セイロンこそ紅茶王子で、残りの2人は お付きの者だった(しかも猫とカエルの姿)。
その後、美佳が生徒会長とペコーを連れてきて、関係者が一堂に会す。セイロンはアールグレイとアッサムの父親の名を受け、この世界にやって来たという。紅茶王子は召喚だけでなく、こうして派遣で来ることは可能らしい。

セイロンの目的はアッサムとペコーの帰国。ペコーの成人の祝いと共に、2人の婚約を正式なものにするという。
そしてセイロンは個人的にアッサムが召喚されると長期間不在なことが不満だったようだ(最長10年だもんね)。察するに おそらくアッサムは その性格から何だかんだ親身になりすぎて、願いごとを使う前に自分で動いてしまい、召喚者との関わりが長くなるのだろう。


校内では次期生徒会長選挙が始まろうとしている。会長候補は2人。現在高校2年生で もうすぐ3年になる現会長は立候補しない方針。だがペコーは会長の抱える淋しさを察していた。
そこにセイロンの囁きもあり、ペコーは選挙の成功を2つ目の願いごとにしてはどうかと会長に打診する。今後の生徒会が心配な会長は それに乗る。だが飽くまでもフェアに、魔法は控えるという条件を出す。

だが生徒たちの選挙への盛り上がりは想像以上に低い。そこで生徒を扇動してもらおうと新聞部に掛け合うが、彼らの興味を引くネタではない。諦めきれないペコーは約束を破って魔法を使ってしまう。しかしペコーが思っているよりも成果は低い。それでも彼女の働きを きちんと労う生徒会長が優しい。まるで姉妹のようである。

一方、美佳は機嫌が悪い。親の帰国が間近に迫っているのと関係しているのだろうか。それともアッサムとの同居生活の終わりが名残惜しいのだろうか(笑) 機嫌の悪い美佳はアッサムの「仕事」まで侮辱してしまう。
そうして男同士の冷戦が始まるが、そこへ介入するのが奈子となる。幼なじみの家に料理を持っていき美佳の ご機嫌を窺う。だが美佳は同じことを繰り返すだけ。
それは どうやら美佳の人生が影響しているらしい。過去、自分の力でどうしようもなく、自分から はなれてしまったものに対して、自分には必要ないものだと思い込むことで乗り越えてきた。そうして自分で克服してきたことが多いから、アッサムの魔法に頼る局面が少なくなるし、彼らの魔法の便利さが癪に障るのだろう。それぞれの背景が それぞれの性格を作っている点にが者の確かな筆力を感じる。


うして生徒会長は早くも2つ目の願いを使った訳だが、その影響は奈子に来る。彼女は王子たちとの別れに一層ナイーブになっている。しかも今回はペコーの帰還命令、それが叶えばアッサムも それに続くだろう。そうして現状が壊れてしまうことが怖いのだろう。彼女は突然 何かが終わる/変わる体験を もう二度と したくないのか。
ここで奈子が涙を見せることで、男性たちは休戦する。ヒロインの涙は戦争だって止めさせられるのだ(ちょっと皮肉)。そしてアッサムは、美佳の自虐的な人生観を変えることを宣言。彼の性格を変えることで願いごとを出しやすくするという遠大な目的だ。

ペコーの介入が失敗に終わりそうな生徒会選挙だったが、今度はセイロンが魔法を使い 波乱を起こす。本来なら大人しいはずの候補者の1人に魔法をかけ やる気のある候補者に仕立て上げる。
そして もう1人の候補者はナルシスト。しかも彼には近隣の女子校内で良くない噂が飛び交っているという。そこで新聞部が取材をすることになり、女子校の生徒会長の花村がそれに応じる。彼に手を出され涙を落とす女子生徒を守りたいという大義名分はあるが、この花村には実は私欲があった。それは後の話で明らかになる。こういう隠された繋がりや設定を最初から用意できる点に作者の頭の良さを感じる。

こうして候補者2人は、1人は過激な公約を口にして注目を集めるタイプに、そして もう1人は私生活の乱れを週刊誌に撮られる どちらも お騒がせ候補になってしまった。本命候補がいない選挙戦は こういうことになりがち、という社会派の内容である。

アッサムは この混乱の陰にセイロンがいることに気づき、ペコーの仕事だと彼を責める。だがペコーは自分が悪いと殴りかからんとばかりのアッサムを制する。まるで三角関係のような愁嘆場である。


うして加熱する選挙戦。全校生徒の注目が集まった中、権力を敵とみなす候補者の1人が生徒会の弱小部への弾圧について生徒会長に質問する。その質問に対し冷静に理知的に返答する姿は生徒会長に誰が相応しいか全生徒に知らしめることになる。そして弱小部の当事者である奈子たちも生徒会長が この1年で緩めるところは緩めた結果だと実感している。

だが もう1人のスキャンダラス候補が根も葉もない噂で生徒会長を侮辱する。それに耐えられなくなってペコーが出てきてしまい、上がりかけた生徒会長への信頼は失われてしまう。会長自身も続投はないと明言するが…。

そして投票日当日。自主投票にもかかわらず多くの生徒が投票所に集まり、ペコーの願いは叶えられたことになる。
奈子たちが記入した名前は本来 候補者名簿には載っていない現会長の名前。それはいいのだが、白紙投票にすると言っていたアールグレイとアッサムの投票用紙に奈子が名前を書いてしまうのは公の選挙だったら選挙法に触れるだろう。ここまで何が正しいか分からない、という哲学的な話題だったはずなのに、奈子の こういう独善的な態度が全てをダメにしてしまった気がしてならない。奈子に甘い世界だなぁ…。

こうして8割の生徒が投票に参加した結果、投票者全体の9割が無効票になる。無効票の内3割は白紙投票、そして7割近くは現会長の名前が記名されていた。
そこで現会長を含めた3人の選挙戦となる。これは会長が本心で願っていた「できることなら卒業するまで この仕事=会長職を続けたい」という思いまで叶えてくれた満点の願望成就であった。数々の失敗や ちょっとした不正行為はあったものの、ペコーが主人を誰よりも大切に思う気持ちは時に こういう奇跡を生むという実例となった。

選挙戦を勝ち抜いた会長は3年連続 その座に就く。そして奈子たちは早くも高校2年生になろうとしている。