《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

白泉社漫画読者が大好きなエリート集団の話なのに、SAの温室に読者は入れない。

S・A(スペシャル・エー) 1 (花とゆめコミックス)
南 マキ(みなみ まき)
S・A(スペシャル・エー)
第01巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

華園光(はなぞの ひかり)が通う超金持ちエリート校には、S・A(スペシャル・エー)組と呼ばれる成績トップ7名のみの特別クラスがある。光は子供の頃にプロレス勝負で敗れた滝島彗に勝つためだけにSAへ通う努力の女!! 打倒滝島に燃える光の極楽エリート学園ライフ☆

簡潔完結感想文

  • 白泉社特有の特権階級漫画。最初から仲間が出来ていて輪に入れない。
  • 個性ある7人を描きたいのだろうが、明らかに動けていないキャラたち。
  • 1巻収録分は読切4回分なので毎回リセットして自己紹介から始まる。

界二位の人を通して、独走する一位の独創性が分かった 1巻。

本書は努力し続けるヒロイン・花園 光(はなぞの ひかり)が、
いつも学年一位を獲り続ける滝島 彗(たきしま けい)に勝てなくて、
万年二位であることから脱却しようとするラブコメである。

だが悲しいかな本書自体が二位であり続ける現実が突きつけられたと言える。
本書が背中を追い続けた 一位とは葉鳥ビスコさん『桜蘭高校ホスト部』(以下・ホスト部)で、そして最後まで追いつけなかった。

まず、全て根拠のない主観であることを承知して頂きたいのですが、
本書は編集部が『ホスト部』の二番煎じを狙って描かれたのではないだろうか。

まず白泉社らしいエリート校の中のエリート集団という設定。
そして個性豊かな面々が繰り広げるドタバタの日常。
そんな、読者に受けている設定を盛り込んで作られたのが本書ではないか。

その狙いは一定以上に読者に受け入れられ、全17巻の長編になったし、アニメ化もされた。
それだけで大成功と言える結果だろうが、一位は結局 取れなかった。

ホスト部』は全18巻で、本書は全17巻(完結後に番外編が出たので18巻で並んだと言えるか)。
連載開始も『ホスト部』が2002年からで、本書が2004年(同じ白泉社でも掲載誌は違うが)。
だが連載終了は本書の方が早く2009年で、『ホスト部』は翌年 2010年に終わった。
発行部数の詳細な数字は分からないが、『ホスト部』に本書が勝つようなことは絶対にないだろう。


して大事なのは数字だけじゃない。
内容においても、主観ではあるが『ホスト部』に遠く及ばない。
というか、本書を読んで『ホスト部』の素晴らしさを再確認した次第である。

とにかく本書は完読が辛かった。

なぜ この内容が17巻も続く人気を得たのかが私には さっぱり分からない。
ただただ時宜にかなった作品内容だったのだろうか。

便宜上、この感想文では本書を「二位」としているが、当時の人気は2位にもなれていないと思われる。
特定の人の琴線には触れる内容だろうが、誰もが面白いと思うような普遍さはない。

私は本書を読んで『ホスト部』が如何にぶっ飛んでいたか、
内容にバリエーションがあったか、メインのキャラたちの造詣が優れていたか などなど、
ホスト部』の良い所を いくつも再発見できた。
ありがとう、二位さん☆


ぜ本書の読書が楽しくないかと、読書中そればかりを考えていた。
そして辿り着いた結論が、本書には異邦人がいないからという理由であった。

何回も例に出すが、『ホスト部』は主人公で庶民のハルヒ(ただし優等生ではある)が、
お金持ちの子息で頭のおかしい環(たまき)たちがいる「ホスト部」に迷い込むことから世界の入り口が開かれている。

そういう異文化との邂逅が、現実離れした白泉社漫画の楽しい所なのに、
本書においてヒロインの光は大工の娘で、大企業の子息たちばかりのグループ内では異分子ではあるが、異邦人ではない。

舞台は県内でもトップを誇るエリート校(私立)。
日本有数の金持ち子息が通う学校がなぜ「都内」ではなく「県内」なのかは謎。

主人公の光は家の経済力とは見合わない この学校に通わせてもらっている。
それもこれも滝島に勝って一位になるためである。

この学校のクラス分けは成績順でA~F組まで。
中でもA組は最も優秀な7名しか入れず学園の憧れの的。
そのAクラスの中でも一年から三年の中で最も優れたAクラスは「S・A(すぺしゃる・えー)」、
通称「S・A(エスエー)」組と呼ばれる。
ちょっと文章が分かりにくいが、校内のSA組は三学年の内、一学年しか選ばれないらしい。
今、この学校のSA組は光たち1年生となっており、上級生がSAになることはないみたい。
(違う学年では判断基準も違うと思うが、どう算出しているのだろうか)。

キャラの特別性を過剰装飾するのは時に下品。肩書や設定が物語の全てではないんだからねッ!

SAは制服も区別され別館の校舎ですごし、そこは学園内の楽園と呼ばれている。
クドいぐらいに最高位 of 最高位を演出している。

ちなみに これだけのエリートでありながら、学費の優遇などはないのが謎。
他生徒と同じ学費で、豪華な施設が使い放題という付加価値が付いているからなのか。

7人のために校舎ごと作って、
そして光以外は出席しない授業で教える教師を雇うなど、学校に無駄が多すぎる。
そこからして とてもエリート校とは思えない。
設定を真面目に考えた人が負けなんだろうけど、もう少し真面目に設定を考えて欲しい。


人公の光をはじめとした7人は、小学校から一緒の、高校1年生の仲良し7人組。
この学校で ずっと変わらないトップ7なのである。

7人の幼なじみをエリート中のエリートにしたはいいが、
そこから生まれるのは憧れではなく閉鎖性であったことが本書 最大の欠点となる。

序盤は ほぼ名前だけの出演のSAメンバー。純は終盤、存在が空気だったような…。

白泉社漫画では上流階級の中に庶民が紛れ込むのがセオリーなのだが、
そのセオリーを避けた結果、発展性が無くなった。
異邦人が、異文化交流して、その人の人となりを知っていくという楽しみが全くない。

だから読者は、クラス内に既に出来上がったグループに入れないような疎外感を覚える。
全員が顔見知りで気の置けない関係で、昨日と同じ日常を過ごしている姿を遠くから眺めるだけ。
私はそこが不快だった。
作品が登場人物と仲良くなるキッカケすら与えてくれない。
人の知らない部分を知り、仲良くなっていく疑似体験を味わわせてくれない。

本書には読者が人格を預けるような人がいないのだ。


にはSA組の7人を作者は ちゃんと動かせていない。
連載初期は仕方ないかな、と思っていたが、最後までキャラに これといった個性が出てこなかった。
これだけ続くと最終巻までにキャラに愛着が湧くものだが、本書の場合はあまりない。
最初に遠くに感じたキャラを読者に近づけるようなエピソードを作者は用意してくれなかった。

作者が頑張ったことといえば、7人の恋愛のカップリングぐらいではないか。
7人を誰と「つがい」にするか にばかり終始して、最初から内輪の話を更に閉鎖的にしていった。
恋愛を優先し、それぞれの人間関係を深める努力すら放棄しているような状況なのは腹立たしい。

過去の話を出して幼なじみ秘話みたいなのは出してくるけど、
高校生になって精神的に成長した彼らの関係性を描いたりはしない。
少なくとも7人もいるんだから、主人公・光に対する距離感の違いなど描けるはずなのに描かない。
友情は既にあるもので変化しないと考えているのだろうか。
だから目に見えて変化する恋愛描写ばかりが続く。
興味の湧かない人の恋愛を見せられても困惑するばかりである。

キャラと作品に厚みを出せなかったのが、本書が「二位」たる所以(ゆえん)であろう。


れだけの長期連載で作品や作者の成長を感じられないのも残念だった。

『1巻』の内容は読切短編として掲載された4回分なので、
いちいち世界観や登場人物の説明が入り、それが原因で興に乗れないのかと思ったが、
最後まで、良くも悪くも 読切短編のような内容が続いていくだけだった。

連載継続による作者の覚醒も ないまま終わる。
画力の向上もないまま、主人公の顔すら安定しないのはナゼなのか。

本書で目を引いたのは背景だろうか。
有能なアシスタントさんがいるのか、特に構造物が上手いなぁと何度も思った。
なぜか大事な場面で まつ毛が伸びるキャラたちには思わなかった。


そしてヒロインの無邪気さ鈍感さも悪い意味で変わらない部分であった。

主人公の光は成績は学年2位なのだが、
6歳児並の行動原理で動いていて、それでも周囲からも愛される。

6歳というのは、滝島と初めて出会って得意だと思っていたプロレス勝負で初めて負けた歳。
その屈辱を晴らすために、我儘を言って同じ学校に入った。
そこから光は滝島に勝つことだけを考えて生きている。

彼女には恋愛をするという意識もない。
だけど非の打ち所がない一位の滝島から好かれるというのが少女漫画ファンの心を掴む所だろう。

溺愛系ラブコメなんだろうが、こういう鈍感設定は早めに飽きる。
だが その飽きとは反対に、作品はずーーーーっと同じオチを繰り返す。
このバリエーションの少なさも本書の世界観が広がらない一因だろう。


て1話は光がどれだけ努力をしているかが描かれる。
最初からSAは7人いるけど、実質 動いているのは光と滝島の2人だけ。

勧善懲悪で、主人公たちが格好いいので人気が出る内容だというのは分かるが、
まさか1話と同じ内容が何十話も続くとは誰も思うまい…。


2話目は球技大会。
成績下位のクラスとSAメンバーの混成チームとなる。
光は滝島に勝とうと自分の超人的な能力を基準に、庶民を鍛え上げようとするが失敗。

この回で滝島は光に冷たいのだが、そうする理由が最後に語られる。
滝島が必死の形相をする時、それは…、というお話。


3話はSA全員で別荘にお泊り回。
更には最終日は、滝島の誕生回となる。

滝島を慕う彼のいとこの凪(なぎ・女性)が登場。
光は全く意に介さないがライバル的な存在を用意して、
彗の中の光の位置がどれだけ高いかを示す内容になっている。

凪は性格は曲がっているが、滝島家の血統なのか何でも出来るらしい。
光と凪を戦わせたら、同性同士でどっちが勝つか分からない良い勝負になるはず。
が、凪はこの後、1回も出てこない(はず)。

凪の横暴でSA内の雰囲気が悪くなる、
というのも文字上の事だけでエピソードが弱く、そして凪の改心もあっという間で呆気ない。

そして2話目からは完全に滝島が光を溺愛しているが、光は気付かないという設定が出来上がっている。
ここまでで滝島を好きになれれば その恋を応援する気持ちにもなるのだが、
滝島は ただただ万能で人間味がないから好きになる足掛かりがない。


4話目は、昔から父親同士が懇意の光と滝島の家。
そこで滝島家に行くことになり、滝島の弟の翠(すい)と出会う。

少女漫画の連載初期は親族を登場させて話を作ることが多いですが、滝島家から連続登場。

翠の家庭教師をすることになった光。
だが翠とは言い争いになるばかりで授業が進まない。
だが翠はどうやら何でも出来て父からの信頼も厚い兄の彗に対するコンプレックスがあるようで…。
滝島も弟の思いを承知しているようで、弟から好かれていないことを自覚している。

光と滝島はお互いの存在が、やる気を引き出し生きる喜びになっているという話。

光は6歳児並の感性だが、その嘘のない言葉が滝島にとっては温かな光となる。

「未完成コーラス」…
歌う事が大好きだけどあがり症の女子生徒・内田(うちだ)はコーラス部の足を引っ張っていると落ち込む。
だがヴァイオリンの演奏者の梶原(かじわら)くんだけは自分の歌声を信じてくれて…

イケメンに見いだされて、隠れた才能が顔を出すという読者の承認欲求が満たされまくる展開。
何気に部長からも好かれているし、本編よりも この恋の結末を見届けたい。