《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

早くもメイド喫茶のコンセプトを逸脱して『ホスト部』や『執事様』の要素が楽しめます☆

会長はメイド様! 2 (花とゆめコミックス)
藤原 ヒロ(ふじわら ヒロ)
会長はメイド様!(かいちょうはメイドさま!)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

カフェ“メイド・ラテ”本日は男装DAY!? スタッフ全員が男装して“お嬢様だけ”をお迎えするその日、美咲の隠れた素質が目覚める!? 一方、生徒会長としての美咲には、超セレブ校・雅ヶ丘学園との間にトラブルが…!? 大人気、会長とメイドのW生活☆

簡潔完結感想文

  • 彼女への好意で2人の関係が不自然になったので興味本位のセクハラでリセット。
  • 白泉社作品に1人はいる御曹司キャラはヒーローではなくライバル校に登場させる。
  • ヒロインの自爆、男性の暴走の後にヒーローが動き出す、大いなるマンネリ開幕。

氷の能力にインフレが起きているのが気になる 2巻。

白泉社作品と その読者は気が長いから、1巻丸ごと同じことの繰り返しでも許されている節があるが、ちょっと『2巻』はワンパターンなのが気になった。そして最も気になるのは最初に書いた通り、ヒーロー・碓氷(うすい)の能力が底なしになっていること。碓氷には他の白泉社ヒーローと違って社会的地位というのが ないから、それをカバーするためなのか全ての能力が高く設定されていく。ここが私は残念に思えた。本書はヒロイン・美咲(みさき)と碓氷の能力が近く、だからこそ切磋琢磨する物語が見られるかと思っていた。しかし この『2巻』で美咲は頭でっかちで、碓氷が全てを見通しているというパターンが出来上がってしまい、私の作品への興味は半減した。内容的にも『1巻』の方が そのルールを破った回があったり工夫が見られたが、『2巻』は安定した面白さを提供しているものの、いかにも白泉社作品のマンネリが始まったとも思った。碓氷に対しての好意や興味がないと、またか と落胆すること必至である。

1回きりとは言えヒロインが男装して接客する内容への当時の『ホスト部』ファンの反応が知りたい。

良かったのは舞台が毎回のように変わっている点。学校内・メイド喫茶・ライバル学校と それぞれの場所で美咲が奮闘しているのが見られて、飽きないようになっている。ライバル学校を出したり、美咲の転校問題を描いたり、作者が展開を重視して最終回のような内容を用意している点に連載にかける意気込みを感じる。まぁ これだけ連載が続くと分かっていれば五十嵐(いがらし)周辺の問題は、美咲の学校イベントが一巡した後でも良かったのかな、と思う。白泉社作品には「サザエさん時空」が存在して、最初の1年間は掲載号に合わせた季節イベントで乗り切るという手法も存在するのだが、作者は それをしていない。敵役の御曹司(五十嵐)や体育祭など大きなイベントを早速消化してしまっているが この後のネタは大丈夫なのだろうかと心配になる。

ただ色々な工夫を凝らしてはいるものの、早くも『2巻』から美咲が碓氷に助けられるというワンパターンが続いていて、彼女の独り相撲が目立ってしまっている。(当時の)少女漫画読者はヒロインが空回りして、ヒーローだけが目立っている内容に違和感はなかったのだろうか。美咲は学校で女性の地位向上など男性主導の社会に負けないよう奮闘しているが、結局 碓氷に助けられ「女」として生きているのが気になる。本書は もう少しヒロインとヒーローの能力に違いが無くても良かったのではないか、と残念に思う。それに作者も当初は2人の恋愛関係を考えていなかった、というのなら、『1巻』にあったような碓氷がヒーローにならないパターンのバリエーションを用意して欲しかった。このような展開は白泉社の文法に沿った内容だけれど、賑やかだけど、その雑音を取り除いたら、大したことが起きていないという印象が拭えない。

舞台が色々動くのは面白いが、そのせいで視点が落ち着かないという面もある。登場人物は早くも学校10人以上、メイド喫茶5人以上、ライバル校2人で10数人いるが、五十嵐を除けば美咲と碓氷の2人だけで成立してしまう。早めに各所の人たちの個人回で彼らの事を知っていかないと、誰が誰だか認識できないまま話が進んでしまう。主役級の自己紹介は終わったので今後は少し周辺の人物を紹介して頂きたい。


咲が生徒会長を務める学校の男子生徒が金持ちの集まる学園に暴力行為をしたため、相手方の学校に美咲が呼び出される(教師など存在しない世界なのか…?)。2日以内に問題の生徒が謝罪しなければ個人ではなく学校全体の問題になるというので、学校に悪評が立つことを避けたい美咲は頭を悩ませる。

その問題が発覚した時、碓氷は屋上から落下した影響で さすがに入院していたため、その事実を遅れて知り、美咲の力になろうとする。しかし美咲が『1巻』ラストの碓氷からのキスに過剰に反応して まともに話せる状態ではない。そんな美咲の心境を察した碓氷は、副会長である幸村(ゆきむら)にキスをすることで、碓氷にとってキスが「セクハラ」の一種であると認識させ、彼女の悩みを打ち消す。これ幸村が可哀想で、碓氷の自分勝手さに腹が立つ。まさに幸村こそセクハラや性暴力の被害者で、碓氷の無遠慮な考えに巻き込まれているだけ。作者や一部の読者には面白いシーンなのかもしれないが、私は ここで碓氷を見損なった。あと作者の幸村イジリは少しも面白いと思えない。

そして相手校に謝罪する期限の日、碓氷が美咲たちに同行する。この回でも美咲は自分の学校の男子生徒は悪だと決めつけ、彼らの話を最後まで聞かない。そして ようやく事情を知って自分たちよりも先に謝罪するべき人間がいることを知る。だが その謝罪をして欲しい相手は自分の得意なチェスでの勝負を挑み、美咲は万事休す。だが碓氷が全国4位の相手を下してチェックメイト。もはや典型的なパターンだし、美咲が 事実確認すらしないので見てられない。やはり上司には向かないタイプなんじゃないか…。
しかし この騒動は相手校の大物を召喚してしまう。


6話目からメイド喫茶の脱線が始まる。当初はメイドに限定していたが、この回は女性客を対象とした男装をする。何だか この辺からメイド喫茶内でのコスプレに拍車がかかる。どこから そんな資金が湧いてくるのかという謎と、葉鳥ビスコさん『桜蘭高校ホスト部』との類似性に頭が痛くなる。この回で男嫌いの美咲が女性客相手の方が素質を開花しているのも『ホスト部』のハルヒのようだった。

この回から碓氷は半分このメイド喫茶のスタッフになる。料理も上手で碓氷はどんどん超人になっていく。
だが美咲は自分が「男性」として振る舞うことに浮かれて、本当の異性である碓氷に対しての警戒心を忘れる。碓氷は美咲が女性ではないことに不満を覚えており、同性なら着替えも出来ると彼女の前で服を脱ぐ。だが碓氷によって美咲は自分が女であることを思い出す。メイド喫茶内の美咲は落ち着いており、このぐらいの温度感が私には丁度いい。学校の男子生徒に対しても客に接するような態度が出来るといいのだが…。


頭の騒動によって お金持ち高校の生徒会長・五十嵐 虎(いがらし とら)が登場する。五十嵐は美咲の粗暴さを知っても たじろがず、むしろ優秀な女性生徒会長の彼女を自分の学校にスカウトする。学費を理由に美咲が断ると彼は奨学金を用意することを約束する。こうして美咲の能力と情熱を認める男性が出現し、五十嵐は碓氷にとって初のライバルのような立ち位置になっている。美咲の転校の危機に生徒会のメンバーたちは動揺する。美咲に一番 接してきた彼らは美咲の能力や人柄を認めている。それが分かり碓氷は満足する。

碓氷はメイド公表の時と同じく、美咲の転校を止めない。それは美咲が生徒会長としての誇りと責任感で、本気で転校する気がないと分かっているからかもしれない。またはバイト公表の時と同じく、他人を理由に美咲が自分の行動を決定するという思考を捨てないと分かっているのだろう。美咲という人格は他者の評価によって成立している。

だが五十嵐は裏では美咲を嘲笑していた。このままでは美咲が罠にハマる可能性が高い。しかもメイド喫茶の裏口で美咲と碓氷が話している場面に五十嵐が登場する。美咲の万事休すは碓氷の機転によって回避される。後ろ姿しか見られていない美咲を自分の愛しい人に仕立て上げて、五十嵐を間男のような立場にした。これは碓氷にとって役得に見えるが、彼は美咲の肩を抱くのを躊躇していて、理性が働いている。彼女から思われなければ触れもしないということなのか。ここの行動の基準が良く分からなかったが、後半で それが碓氷の我慢であることが発表されている。キスは やり過ぎたから、自重しているようだ。しかも美咲が碓氷の言動を本気にしなくて 全て からかっていると思い込んでいるため碓氷は想いが少しも届いていないことを知る。碓氷も自業自得な面があるから美咲の思考も理解できる。


手く騙せたはずの五十嵐は その情報網で美咲のメイド姿の写真を入手してしまう。やはり本書においてはメイドの秘密は碓氷だけの秘密ではないようだ。「3バカ」や五十嵐など美咲の裏の姿を増える一方。碓氷にとっては秘密に価値があるのではなく美咲が両方の姿で頑張っているのが好きなのだろう。

美咲は転校の件の返答に お金持ち学校に赴くが、そこで五十嵐の術中にハマる。面談の席でオレンジジュースを頭からかぶり、生徒会長室に隣接するシャワールームで身を清める。だが脱いだ制服は見当たらず五十嵐が用意した服を着ざるを得なくなる。その服はメイド服で美咲は いつもの癖で難なく着てしまう。その不自然さを五十嵐にツッコまれるだけでなく、メイドのバイトまで露見していることを知り、美咲は全てが罠であることを痛感する。

五十嵐は美咲が すぐに観念したことに失望した様子。そして五十嵐財閥の次期総帥としての権力で美咲を札束で殴る。どうやら五十嵐は美咲には もうちょっと抵抗して欲しかったらしい。学費のためとはいえ美咲もまた五十嵐の資産を目当てに近づく女性たちと変わらないと思われたようだ。

だが美咲は一味違った。彼女は転校の誘いを断るつもりでここにきた。なぜなら美咲は会長でメイド様なのだから。そのどちらかを失ったら本書の意義は無くなる。こうして美咲が骨のある相手だと分かり、五十嵐も本気で彼女を欲する。この時、テーブルの上で美咲がアクションを起こしているのだが、これが どういう動きなのか私にはイメージ出来なかった。

何度 読んでも何が起こっているのか分からない。なぜ足が溶けたような描写になっているの??

力では敵わない相手に対しての窮地に登場するのは碓氷。会長室周辺の護衛を蹴散らして碓氷が乱入する。そして美咲を奪還し、2人は この学校を出る。碓氷は美咲が会長職を辞めなかったこと=転校の拒絶を褒め、そして美咲は自分では打開できなかった窮地を救った碓氷に感謝する。五十嵐には美咲一人で立ち向かい撃退して欲しかったなぁ。ここで五十嵐が碓氷の存在を知らないと色々と不都合があるのだろうけど、美咲が どんどん中途半端な存在になっていくのが残念。


校イベント・体育祭編は巻を跨ぐ構成になっている。
この学校の体育祭には特別ルールがあって、各種目の1等には多種多様な褒美が用意されている。その中には女子生徒からのキスというセクハラまがいのものもあり、美咲はその女子生徒を守るために奮闘する、という話。これは全校生徒のアンケートによって決まったもので、美咲は数の暴力に屈したらしい。この学校の男子生徒は女子生徒への接し方が分からないから、男子校のような態度に出るのかと思ったら、ちゃんと異性として意識しているらしい。完全にセクハラの対象になっているけれど。

他の競技でも美咲は、男子生徒たちの無茶苦茶な褒美を阻止するために頑張り続ける。
そしてキスを賭けた種目が午前中最後の競技となる。その女子生徒に恋をしている男子生徒は卑怯な手を使って美咲を蹴落とそうとするが、それを碓氷が救出するという いつものパターン。こうして碓氷が1位になり、彼は権利を2位の美咲に譲渡して、事態は丸く収まる。お金持ち高校の設定ではないので、競技の内容は他の白泉社作品よりは大人しめだが、カオスな感じは他と同様である。