山田 南平(やまだ なんぺい)
紅茶王子(こうちゃおうじ)
第01巻評価:★★★★(8点)
総合評価:★★★★(8点)
奈子(たいこ)、そめこ、美佳(はるか)はお茶会同好会の部員。ある日、月夜の下で開いたお茶会の最中に、紅茶の中から2人の王子様が出現して…!? マジカル学園ロマンス、待望の文庫化!
簡潔完結感想文
- ヒロインが異世界召喚されるのではなく、ヒーローを こちらに召喚し継続される学園生活。
- 序盤は弱小同好会の紹介が多い。そして新入生を歓迎する振りをして排他的な お茶会同好会。
- 第3の召喚でライバル関係にある生徒会長がコメディエンヌに覚醒。同病相憐れんで和解?
白泉社のマスターピースの1つであろう作品の 文庫版1巻(TSP.01~12)。
言わずと知れた有名作品だが、私は生まれて初めて読んで その面白さに驚いた。高い画力も勿論だが、夢見る読者を刺激するような設定を用意しながらも地に足の着いた思考をする登場人物たちの性格の違いを表す的確な筆力に驚かされた。
私が特に驚いたのは『1巻』の段階から、2人の紅茶王子・アッサムとアールグレイの性格の違いである。完読後の読み返しで初めて気づいたが、作者は初めから2人の性格をしっかりと設定・理解しており、それを表すエピソードを用意していた。
主人公・奈子(たいこ)が召喚したアールグレイの方が紅茶王子の名に相応しい外見と性格をしている。西洋の王子様そのままのアールグレイは物腰が柔らかく人当たりが良い。一方、奈子の幼なじみ・美佳(はるか・男性)と主従関係(?)を結ぶのがアッサムである。オリエンタルな容姿をしているアッサムは高慢で口が悪い。常にイライラしているような性格で、一緒にいると苦労しそうである。アッサムが奈子ではなく美佳に召喚されたのは男同士で気の置けない関係性が構築できるからだろう。
だが再読して分かるのは、アッサムの方がアールグレイよりも人に深入りしている という点だ。アッサムが常にイライラしているように見えるのは、奈子が物事を上手く運べないからだ。この後の設定の話だが、奈子よりも長く生きて、そして人の世を見てきた経験の差からアッサムは奈子の不器用さが苛立つ。それは兄姉が弟妹に対して、何でこんなことも出来ないんだ、と思ってしまうのと同様の精神的推移だと思われる。
彼のイライラは起こる物事に対して、自分なら こうする/こう出来る という葛藤が生まれているからなのだろう。それは彼の物事に介入したいという気持ちの表れなのである。決して悪く言うつもりはないが、アールグレイが いつもニコニコしているのは、彼にとって多くの事が他人事だから という点もあるだろう。呼び出した主人のためだけに動き、その他のことには介入し過ぎない という性格が根底にあるから、彼は穏やかでいられる。そういう違いが『1巻』の段階から見て取れて、作者の作品の作り方、想像力に圧倒される思いである。
当時の事情が分からないが掲載号の記載を見る限り、短期連載から長編化した作品。1人1人の読者の声が編集部を動かした、という構造は、作中の弱小同好会と生徒会の関係に相似しているように思われた。
そして紅茶王子が叶える願いの数と範囲が素晴らしい。何百年も昔から使われている様式だが、3つの願いというのが良い。1つ目は簡単に お願いできるが、2つ目は折り返し地点、3つ目は最後となる。だから2つ目の お願いをするかしないか の頃から物語に緊張感が生まれる。召喚された紅茶王子/王女とは期限付きの交流。本書の舞台は少なくとも中高大と展開している恐らく私立の学校。なので彼らには試験も何にもない、状態でモラトリアムが永遠のように続く。これによって試験勉強や進路など俗世にまみれた悩みからは解放される。
その代わりに用意されているのが紅茶王子との別れなのではないだろうか。しかも卒業や転校などとは違い2度と会えない関係性。その別れがあるから一緒に過ごす時間が貴重なものに思える。
ただ、異世界に召喚された紅茶王子たちは、この世界を無双することなくヒマで、衣食住を主人に用意して貰うヒモな生活を送っているだけにも見えるけど(苦笑) 仮にも王子たちが この世界の人間に小間使いのような働きをさせられている。その革命的な逆転現象は考えれば考えるほど面白い。こうやって若い内に苦労を買って出ることが本国に戻った時の役に立つのかな。あちらの世界でスーパーの特売知識が役に立つとは思えないけど(笑)
ただし先に言ってしまうと最終盤の展開は少々 首を傾げざるを得ず、それまで大事にしてきた雰囲気を壊して一気に「少女漫画的」結末に舵を切ったように思えた。メインの人々だけを処理して、急いで物語を閉じた感覚が残る。もうちょっと登場人物全員に優しい世界にならなかったのかな、と優しかった『1巻』からの時間の流れを感じてしまう。
そしてヒロインだけは(それほど)苦しまず、恋愛を成就させるという白泉社的な手法も好みではなかった。父をはじめ大事な人を失ったり悲劇のヒロインにはなるけど、自分が誰かを悲しませる選択をすることは回避する。こういう部分は悪い意味で乙女チックというか、ヒロインと読者に都合の良い世界だなぁと思う。
満月の夜12時につきをカップに映し銀のスプーンでひとまぜすると召喚されるのが紅茶王子である。短期連載ではヒロイン・吉岡 奈子(よしおか たいこ)は中学3年生の15歳となっている。彼女は部員数3名の「お茶同好会」の部長であり、他の2人の部員は染谷 雪子(そめや ゆきこ・通称そめこ)と内山 美佳(うちやま はるか)の2人。今回の召喚は そめこ が雑誌に掲載されていた恋の おまじない を実践しようとしたのがキッカケ。古文書などではなく限りなくミーハーなのが面白い。
ここで呼び出される紅茶王子の配置も見事。どことなく中世的なアールグレイは奈子と、そして乱暴なアッサムが美佳と主従関係となる。ちなみに そめこ には誰も現れないのはプレーンティーではなくミルクを入れてしまったから(砂糖は許容範囲みたい)。
そして紅茶を飲み干しても、まだ飲んでいなくても王子は現れる。飲んでいない場合は紅茶王子は ずぶ濡れである。呼吸は苦しいし、濡れるし王子側にメリットがない方法だなぁ。いや、美佳が一気飲みしたからかアッサムが難を逃れたと考えるのが適当か。
現実を受け止めきれない3人は、紅茶王子を回収し、場所を学校の屋上から奈子の家に移し、彼らと再び対面する。その会話で表面上の性格はアールグレイは優しく、アッサムは高慢だということと、3つの願いを叶えると帰っていくらしいことが分かる。ただし極端な願いごとは他の多くの人に影響が出るので「とびばこ6段跳べたらいーな」ぐらいの ささやかな願い しか叶えられない。
それを知り美佳は努力すれば叶う程度の願いごとを叶えてもらう趣味はないと帰宅する。自分で叶えたほーが気分がいー、というのは美佳らしい考え方。ちなみに美佳は部活魔で文化部は10個、そして運動部も数多く顔を出しているらしい。これは彼が文武両道であることと、精力的なこと、そして副産物として豊かな人脈が構築されていく。政治家向きのタイプかもしれない。
学校の同好会の部室(部じゃないけど)は半地下で5畳半の元物置き。どうやら生徒会から冷遇された結果らしい。
そこで奈子が考えたのは文化祭への出店。文化祭で お客さんアンケートで1位になると実績になり、生徒からの知名度が上がり、部員が増えると部に昇格できる。これが同好会が出世する手段の一つ。
しかし奈子は生徒会から文化祭での出店を不許可とされる。特に他の部活動に押されて場所を確保できないのが問題となる。奔走する奈子だったが失敗続き。そこでアッサムが魔法を使う。どうやら高慢に続いて短気でもあるらしい。アッサムたちの魔法なら文化祭の成功ぐらいは可能らしい。だが奈子も美佳と同じく それをズルだと考える。奈子にとって この文化祭での出店は1年前に交通事故で亡くなった彼女の父がマスターをしていた喫茶店の再現のようだ。だから自分の力で成功させることは父への供養にも繋がるのだろう。
明晰な美佳が提案した場所のは学校の屋上。その見学中、アッサムが身を乗り出したのを見て奈子は身を挺して守ろうとする。最初からアッサムは浮いているのだが、人のために行動できるヒロイン性が奈子にはある。
屋上での出店は部員が1人の園芸部の協力があれば可能かと思われたが、園芸部の部長は それを拒否。アッサムは その頑固な態度に腹を立てるが、アールグレイは彼の人となりを評価する。
そこでアールグレイが園芸部部長と話す際に用いられるのが人間態・成長態(?)である。いや 後の彼らの国での描写を見ると これが彼らの本当の姿と考える方が適当だろう。恐らく召喚時にはカップを通り抜けるために小さくある必要があり、召喚者と同行するにも便利だからミニサイズでいることが多いのか。
アールグレイは言葉を尽くし、部長の園芸愛に敬意を示す。そうして部長の許可を得るが、どうやらアールグレイの美麗さも一因のようだ。いきなり貞操の危機である。美への信奉が美しい植物を育てるのだろうか。
だが生徒会は再び不許可にする。場所の危険性と園芸部の廃部が理由だという。
そこに救済策を出すのが またもや美佳。日曜大工研究会の文化祭に参加できない鬱憤を利用して美佳は屋上に柵を制作してもらっていた。こうして弱小部活・同好会が力を集結して巨悪(でもないが)の生徒会と対抗する。こういう判官びいき、下克上的な構造は日本人の好きなところだろう。そして こういう文化祭の準備を きちんと描くことが読者の達成感の疑似体験に繋がる。早くも この学校に愛着を持ち始めている自分に気づく。
だが文化祭当日になって生徒会が屋上を閉鎖。
彼らが呼んだ業者を阻止しようと そめこ が噛みついた(文字通り)ことで園芸部の鉢植えが屋上から落下しそうになる。落ちそうなものを助けるのは奈子の役割。だが人目もあり魔法も使えない中、彼女は柵を越え転落の危機。それを救うのは本当のヒーロー・アッサム。自分が奈子に助けられたように、アッサムも奈子を助ける。2人とも同質の優しさを持っているのだろう。どうやら奈子の個人的な王子様になる予感が描かれる。だが これは飽くまで短期連載中の一定の恋の方向性を示しただけ。この後は白泉社名物、連載化によるリセット機能が発動して、恋愛感情は長らく封印される。
この危機で初めて人間態になり、奈子を救う。そしてアッサムは歯に衣着せぬ発言で生徒会を批判。彼が口火を切ったことで生徒たちの不満が一気に噴出し、革命とまではいかないが、生徒会を退かせる。
こうして奈子の頑張りもあり、文化祭での出店は叶いそう。そんな奈子の頑張りを見ていた美佳は彼女のご褒美がわりにアッサムに1つ目の願いを願う。その内容は彼女の亡き父の夢を見させるというもの。これはアッサムが化けているのだが、口調や記憶は父親のもの。奈子は泣きながら父のために紅茶を入れる。紅茶王子の願い事の実例を見せるためにも、紅茶王子は複数必要だったのだろう。奈子だけに呼び出されたら1つ目の願いを叶えないまま退屈になってしまう。文庫版『1巻』で早くも3人目が登場したり、新展開が常にあるのが楽しい。
定期連載からは半年が経過し奈子たちは高校1年生に進級する。勉強という世俗と隔絶した ここはパラダイスである。これも多くの読者が この学校に憧れる部分だろう。
この半年で、文化祭の成功により園芸部には入部希望者が現れて部の存続の見通しがついているらしい。反対にお茶会同好会はゼロ。これは文化祭の人気投票に生徒会が介入したから。お茶会同好会は不許可のまま店を出したことになり得票が無効になった。
進級は部員が増えるチャンスだが、紅茶王子の存在もあり、作品的には増やす訳にはいかないのだろう。こういう部分は、結局 本当に気心の知れた人たちしか入部が許されない排他的な雰囲気を感じられる。その特別性が読者の承認欲求を満たすのだろうけど。
ただ初読の時は本気で部員を集める話だと思っていたので、定期連載から登場した峯山(みねやま)は部員候補なのかと思いながら読んでいた。
峯山は生徒会長に憧れ、生徒会に入るが、会長のための お茶も満足に入れられない。そこへ奈子が助言をする。このまま同好会に勧誘すればいいのに、しない/そんな発想がない のが奈子の性格。そして口では文句を言いながらも人に介入してしまうのがアッサムの性格だろう。ここからは人を助ける水戸黄門的な行脚が始まろうとしている。
この学校では5月からが新入生の部活の勧誘シーズン。だがお茶会同好会の掲示物は またも生徒会に無許可と判断され、回収されてしまう。だが一方で同じくマイナーなパソコン同好会をはじめとした幾つかの部活動では掲示が許されている。その謎を追い、真実をお茶会同好会が突き止めるという話になる。
生徒会も学校内に偽造印が出回っていることを突き止める。だが彼らも偽造印と本物の区別がつかない。だからハンコを変更し、旧来のものを使った生徒を捕まえるというワナを用意する。だが すぐに新しいハンコ用意し それを売りさばくブローカーが存在するらしい。
そこで目星をつけたのが美佳も出入りするパソコン同好会。彼らの内情をよく知る美佳は この同好会の羽振りが良いことに気づく。生徒会もパソコンに詳しいメンバーと共にパソコン同好会を家宅捜索するが証拠は出てこなかった。そこで天才ハッカーの美佳が担ぎ出される。美佳は生徒会に協力する見返りとして3つの条件を出す。紅茶王子が善意の行動なら美佳は悪魔の所業だろう(笑)
この回は美佳の個人回とも言える。一人暮らしをする美佳の部屋や、そこに加わったアッサムとの同居生活も見られたり、新しい情報が多い。
そして この話は まるで企業の高度な情報戦のような目まぐるしい展開だ。しっかりとしたパソコン知識は作者のものか。1997年の段階でパソコン用語が こんなに出てくる少女漫画も珍しいだろう。
最後に美佳のスパイ行動が見抜かれそうな時に動くのはアッサム。奈子と そめこ にコスプレさせてパソコン同好会の気を引く。彼らは典型的なオタク描写だなぁ。こうして真犯人と断定されたパソコン同好会は廃部となる。
ただし美佳が出した条件は1つに首謀者以外の減刑があった。部員を切に願っていて悪事に手を染めた人は許される。2つ目がお茶会同好会の勧誘ポスターへの許可。そして3つ目がノートパソコンの没収品の横流し。奈子やアッサムのように私欲なく行動できない所が美佳の天邪鬼な性格だろう。
だがポスターを掲示しても結局 部員はゼロ。これは上述の理由であろう。
部室に問題があると考えた奈子たちは部屋の大掃除を始める。だが家事にうるさいアッサムは奈子の物を捨てられない性格に呆れる。アールグレイは部室に置いた園芸部から分けてもらった植物のために半地下の部室に光が差し込むように魔法を使用する。アールグレイの優しい性格からなんだろうけど、願いと魔法の線引きが良く分からない。奈子も決して魔法に頼ることはしないという訳でもなく、この魔法には喜ぶばかり。
物を無理に収納しようとする奈子が落下物に巻き込まれそうになった時に現れるのがアッサム。そして彼のナイトっぷりにドキドキするのが奈子。それを見て不機嫌になるのが美佳で、何となく関係性が見えてきた。
そしてアッサムは魔法で物を小さくし、奈子のコレクションを大事にしつつ、アッサムの望む住環境の良さを両立させる。まるで夫婦の妥協点の模索のような話であった。
部室を綺麗にしたら運気まで良くなったのか、中学生の3人が入部希望者として現れる。
だが その中の一人は奈子の紅茶に対する考え方に反感を持っている。彼女たちと お茶会を開くが雰囲気が悪くなる。もしかしたら新入部員が入ると こういう事態も想定されますよ、という読者への失敗例なのかもしれない。こうすれば読者も新入部員を期待しないようになる。
この話で登場するのが奈子の おじさん である怜一(れいいち)。亡き父の弟で、父の死後、彼が経営していた喫茶店のマスターをしている人。ここまで読んだ人は喫茶店が閉店しているとばかり思っていただろうが、違うようである。
仕事柄、紅茶の入れるのが上手な怜一から奈子は紅茶の淹れ方だけじゃなく知識、そして紅茶への姿勢を学ぶ。
そこでリベンジを果たそうとする奈子だが失敗続き。この話は まるで奈子が前の話の峯山の立場になっている。奈子のことを心配するのは相談に乗る怜一はもちろん、アッサム、そして奈子を怜一の自宅(喫茶店の2階)まで迎えに来るお茶会同好会のメンバーたちである。ちなみに怜一は霊感がある方らしく、人に見えないように魔法をかけた状態のアールグレイの存在を なんとなく気づく。
そうして奈子は「自分」を取り戻し、暴言を吐いた彼女のために紅茶を入れる。すると それまでの自分の態度を反省していた彼女は泣きながら謝罪する。彼女は自分に紅茶のことを教えてくれた姉との交流が近頃 少なくなって紅茶に嫌悪感を募らせていたらしい。ちなみに その姉というのが生徒会長である。そうして彼女は姉との関係も修復。というより、姉は妹のことが心配で たまらなくなるから お茶会同好会への入部を阻止した。紅茶は人と人を結ぶが、お茶会同好会は どこまでも受け入れられない。
水泳大会直前に盗撮者のストーカーが出現する騒動が起こる。
90年代からストーカーという言葉を使っていることに驚くが、この水泳大会での騎馬戦では女性が騎手、男子が馬になるというのは時代を感じる(作者もツッコんでいるから時代とかの問題でも なさそうだが…)。また美佳がの水着がブーメラン型なのも古い。女性陣は水泳大会のために水着を買う。どうなってんだ この学校は。こういう風紀を乱すような学校イベントや習慣を生徒会は嫌いそうなのに(眉をしかめてはいたが)。
あと やっぱり写真を現像しないと何が撮影されているか分からないというのも最近の少女漫画では見ない時代の産物だろう。だが現像された写真には思わぬモノが映っていた。その意外な真実と共に次の部活の お話に続く。
夏休み。アールグレイは演劇部に駆り出されていた。彼こそがストーカーの被害者で、アールグレイを狙う演劇部によって文化祭での劇の王子役に抜擢された。てっきり次は文化祭の話になるかと思いきや、その前に体育祭が用意されていた。もう この辺に来ると不動の人気を獲得し、長期連載が視野に入っているのか。
この回で登場するのが奈子の弟・健太(けんた)。名前は登場していたが実物は初めてか。そして母親は お料理研究家としてメディア出演をしていることが発表される。この母が多忙や不在の時だけだが、奈子はヤングケアラー状態となる。まだ おしめ も取れていない状況の子供を置いて海外出張をする母親というのは21世紀では白い目で見られても おかしくない。そして この健太は、時々 作中に いるんだかいないんだか よく分からない状態になる。
だが健太が発熱し出してしまう。どうにか対処しようとする奈子だったが、薬を吐いたりするまで熱が上がる。助けを求めるために美佳に連絡を入れるが来たのはアッサム。美佳はバイトで多忙という設定で、肝心な時に来られない。ヒマでヒモな紅茶王子が登場するのは必然か。2人が協力して子供のトラブルに対処する様は、まるで夫婦のようである。いつか見られる光景なのだろうか。
続いてのイベントは体育祭。
体育祭では奈子が元陸上部だということが明かされる。父の死後から走る気が失せて、陸上が苦痛になってしまったから彼女は走るのを止めた。気力を失った1年間は何もしなかったが、その後 お茶会同好会を立ち上げる。彼女の回復の証拠が同行会なのかもしれない。だが そめこ が奈子の走る姿が好きだという話を聞き、彼女はリレーへの挑戦を決意する。人助けの側面もあるが、他に居場所を作れたことが喪失感から抜け出せた理由でもあろう。
多くの生徒が準備で遅くまで学校に残っていた頃、生徒会室では生徒会長が満月の日に紅茶を飲んでいた。そこで出てきたのが第3の紅茶王子・オレンジペコー。正確には紅茶王子ではなく初の紅茶王女である。
なので体育祭当日、生徒会長は疲れていた。なぜならペコーの姿が見えるから。それを幻覚だと思いたい生徒会長の錯乱が見どころ。それまで厳格な生徒会長だっただけに そのギャップが面白さに変換されている。彼女が取り乱す姿を見られる日が来ようとは(笑)
この時の お昼ご飯は これまで出会った文化部の人たちも集合する。こうやって人の輪が広がっていく感覚が良い。そして ここではアールグレイが1滴の お酒が飲めない/飲んではいけないことが発覚する。手作りシャーベットの中のアルコール分で「酒乱の見本市」となってしまう。生徒会長といい意外な一面が見られる回である。
奈子と生徒会長の直接対決となる混合リレーのある午後の部を残してページが尽きる。何よりも奈子たちと新しい紅茶王女の対面はあるのかが気になって仕方ない終わり方だ。