《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

いらっしゃいませ。美味しいケーキとイケメン店員、そして とびきりの笑顔が当店の自慢です。

幸福喫茶3丁目 1 (花とゆめコミックス)
松月 滉(まつづき こう)
幸福喫茶3丁目(シアワセきっさ3ちょうめ)
第01巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

母親の再婚を機に一人暮らし&アルバイトを始めた高村潤(うる)。「誰かを幸せに出来たら…」そんな想いでケーキが評判のカフェ・ボヌールで働き始めるが、そこには超無愛想な店員・一郎くんと進藤さんがいて!? 一見コワそうな二人が潤の中の何かを変えていく…。

簡潔完結感想文

  • そのカフェで紅一点のバイトとなったヒロインは、その笑顔で皆を幸せにしていく。
  • 物語に深みを出そうという試みなのかヒロイン・ヒーローたちに余計な設定が多い。
  • 早々に議題に上がる恋愛要素は その後 10巻以上放置される。日常 ときどき トラウマ。

泉社作品は お早めに お召し上がりください、の 1巻。

どうやら掲載号を見るに、読切短編 → 続編 → 短期連載 → 定期連載と見事に白泉社的な出世魚の過程が見える本書。カフェ・ボヌール(フランス語で「幸せ」)を舞台としている作品で、書名の通り、読むと幸せになる作風である。

決して悪い作品ではない。1つ1つの話は心温まるものだし、寝る前に読んだら良い夢を見られそうな内容である。けど それを10巻以上続けられると その味にも飽きてくる。甘い味が続きすぎて、読了までに何度もギブアップしそうになった。

イケメンだけど変人な2人と楽しいバイトの日々。なぜ一郎くんはクビにならないんだろう…。

本書は全15巻に亘る人気作なのだが、非常に構成のバランスが悪い。初期はギャグテイスト、中盤から ずっと甘めの話が続いて、最終盤で急いで全てのトラウマを解消させて、おまけのように恋愛要素を取り込んだ。望外のヒットだけど、何が売れる原因なのか分からないままで試行錯誤したのだろうか。
私の低めの評価の原因は全て ここにある。長い長い日常回で連載が継続している最中に、作者はラストの展開を何も用意していないように見えた。しかもトラウマの解消と恋愛の解禁は全くリンクしていない。言われるがままに白泉社メソッドを取り入れて急に重い展開にして見たはいいが、それが作中でどんな意味があるかまで考えていないように私には思えた。
長い連載の中で、グラデーションになるよう徐々に色を変えていければ良かったが、最後の2、3巻で急にテイストを変えた。中盤の甘めの感動話も薄いエピソードが気になった部分はあったが、トラウマに関しても それは同じ。ヒロインやヒーロー、子供が最大に不幸になる話を考えただけで、その解決への過程は とんとん拍子で呆気なかった。


う一つ低評価の原因は、作者は描き分けが上手いとはいえないのに、白泉社の流儀を守って、登場人物を いたずらに増やしていった。結局は使いこなせていない人物たちが多く、それならば少数先鋭で勝負した方が潔かったのではないか。初の連載だから仕方ないが、自分の特性を理解しないまま型通りに話を作っている気がした。

話を横に広げるだけ広げて、登場人物たちに一定の結末を迎えさせないままなのも不満点の一つ。脇役たちの恋愛成就も ほどんと見られないし、主要キャラの一人である店長の伏線は回収されないまま終わる。恋愛要素も苦手なら描かなきゃいいのに、愛の種だけ そこらじゅうに撒き散らすから迷惑だ。

6位以下を見た目だけで判断できるのは作者だけ説。ほとんどの人の前髪を切って回りたい。

私の顔認識能力が低下していることは認めるが、黒髪のヒーロー(第2位)と同じく黒髪の当て馬(第4位)の顔ですら同じ見えてしまう現象に悩まされ続けた。その人に名前を名乗ってもらわないと絶対に誰だか分かんない人が多すぎる。
せめて前髪の描き方を変えてみるとか、髪にトーンを張る労力を割くとか作者に読者への気遣いが見られれば良かったが、隔週連載に追われていることもあり、作者の技術や画力の向上、精神的な余裕はなかったのだろう。まだまだ経験不足だった作者には引き出しも少なかっただろうし。

そういえば本書の連載が始まった2005年は、同じ掲載誌で ふじもとゆうき さん『キラメキ☆銀河町商店街』も開始しているが、この頃の「花とゆめ」は庶民ヒロイン、庶民の舞台という新機軸を打ち出そうとしていたのだろうか。


書には もちろん好きな部分もあるのだけど、色々と作品世界、または作者のことが好きになれなかった。読書経験や年数が重なってくると、作者への気持ちも評価に入ってきてしまう。本来は それを除いて評価するべきなのだろうが、本書は なんだかなーと思う部分が多すぎた。

まず1話のヒロイン・潤(うる)の設定。彼女は小学生に見えるほど小さいという小柄設定なのだが、そもそも身長154cmの女性なら少なくとも小学生だとは思わない。けれど身長169cmの作者から見れば小さいのだろう。こういう点である。
本書には所々に 作者の我の強さというか、自分中心な部分が見えてくる。生温かい目で見れば、当時の作者は若いからなんだろうなーと思えるが、若くてもバランス感覚のある人はいる。作者は多くの人に届ける創作物ではなく、自分の好きな世界だけを自分基準で描いているように見える。

舞台となるカフェ・ボヌールの設定も疑問が多い。若きパティシエと高校生のバイト2人という、中高生ぐらいの読者からすれば夢のような人の配置。けど これでは開店から夕方までパティシエ1人で店を切り盛りすることになる(『1巻』の段階では)。更には この店、土曜日が定休日になっている(後に判明)。ファミリー層が多いであろう この街で土曜日を定休日にするメリットは少ないだろう。
また、この店では お客さんがいても従業員同士が平気で私語を交わすのも気になる。幸せを押し売りする割に、自分たちが お客さんの幸せを邪魔していることに彼らは気づいていない。格調高い店ではなさそうだが、せめてものマナーは守って欲しいものだ。店に関しては色々な部分で詰めが甘い。

そして潤の生活についても疑問が多い。高校生が借りるには広いマンションで(この間取りなら2人暮らしも余裕)、いくらバイトをしても家賃すら払えなそうである。親が戻って来いと言っても戻らず、余計な生活費をかける彼女を決して良い子だとは思えない。意地を張り続けることが、母の再婚によって最近できた義父を傷つけ続けている可能性を全く考慮しない(作者も)。作中で女神のように扱われる潤だが、自分のわがままを通すことは彼女だけの幸せではないかと私には思える。まぁ読者の憧れの生活(しかも隣人はヒーロー)を演出するためなんだろうけど。


た作者が自分大好きっぽさが見えるのは、良い話で全てをまとめるところである。中盤の甘々な話の連続は、「ぼくの考えた最高に泣ける話」を用意して自己陶酔している印象を受けた。

特に『10巻』はヒロインの手作りクッキーが周囲の人に大変に喜ばれる という内容だけで大半を占めたのには、いよいよ宗教じみて本気で気持ち悪かった。序盤から その気配はあるが、本書は完全なヒロイン至上主義で、女神である彼女は誰にでも愛される天性の資質を持っているという世界観は好きな人は好きだろう(含意)。

笑いやギャグに関しては同時代性が重要な要素だから、発表から15年以上経過した2023年では賞味期限が切れている。別に当時 流行していたギャグが入っている訳ではないのだが、読み手の年齢や最先端のモノを読んでいるという没入感が笑いには大事だろう。売れるべくして売れた というよりは、偶然にも全てが上手く作用して売れたと思われる作品である。


力なヒロイン・高村 潤(たかむら うる)と、不愛想なパティシエ・進藤(しんどう)と、空腹で突然 寝てしまうイケメンバイト・西川 一郎(にしかわ いちろう)の3人で お送りするカフェでの話。

ヒロインの潤は訳あって働きたい。そこで選んだのが出てきた客の反応が良かった このボヌール。店内も商品も見ないで、口コミだけで働こうとするなんて色々と無謀である。初日のバイトはミスも多かったが、接客態度を褒められ2日目以降もバイトを継続できることになる。

1話から潤の笑顔は無敵。まさか この後15巻に亘って笑顔だけで全てを解決していくとは思わなかったが…。

潤がバイトをするのは母が再婚したから。義父を迎えるにあたって問題はなかったのだが、義父の同僚同士が家に遊びに来た際に連れ子が高校生であることに同情する話を聞いてしまい、自分が この家に、新婚夫婦に邪魔だと思ってしまった。そして義父に家を出たいと伝えると止められもしなかったため、そのまま家を出た。自分が身を引くことで両親に幸せになって欲しかったのだろう。

進藤は いつも笑顔の潤が、実は言いたいことを言えないまま溜め込む性格であることを見抜いていた。
また その話を偶然聞いてしまった一郎は、進藤が外出時に彼の話をする。進藤は小さいとき母子家庭だった上、その母親に捨てられ、天涯孤独になり、さみしいという気持ちを訴える相手もいなかった。そんな彼だから、平気なふりをして生きる潤を見抜いたのかもしれない。

1話から準備完了の進藤のトラウマ。これで長編になっても安心☆ 長編になったら かなり放置★

意外にも1話から進藤がストレートに潤を励まし、一郎が両者のフォローやサポートをする役回り。どちらが正ヒーローかは言わずもがなである。

進藤に存在価値を貰ったような気持ちになった潤は実家に連絡する。電話口で母は大変心配してくれた。そして改めて両親に話をすると、義父の側は潤が自分の存在を鬱陶しく思ったから家を出たいと思っていた。そんな彼女を止められないと義父は1人暮らしを許した。義父は その後 泣いて暮らしていたという。お互い言葉が足りなかったようだ。自分が確かに誰かに愛されていることを知った潤は満たされた。

それでも1人暮らしは、「心身共にレベルアップ」を図るために継続する。そして なんと潤の隣人は進藤だった…!


うしてイケメン2人に挟まれ、両手に花状態で働くことになった潤。

進藤が隣人だと判明しても彼とマンション内で会わない。そんな彼との距離感を掴むのが第2話である。

潤は進藤が自分と遭遇しないように時間をずらしていると考え、自分は嫌われていると思い込む。更に偶然、買い物帰りの潤の前に進藤が歩いており、勇気を出して声をかけても反応が鈍い。そんな進藤に対し潤は怒りと悲しみの感情が湧くが、進藤は自分の態度をどうすればいいか迷っていただけ。口下手で不愛想な自分が潤と遭遇しても楽しませることが出来ないなら、狙って避ける方が良いと判断したらしい。下げて上げるのが胸キュン。進藤の赤面が見られるだけでも眼福な お話である。


ストが近づく第3話。潤は平均点以下を一教科でも取ったら実家に戻されると母に言われていた。

そこで進藤が自分の部屋で勉強を見てくれるという勉強回の始まりである。ここでも進藤は自分だけで頑張ろうとする潤の肩の力を抜いてくれる。どうやら現在20歳の進藤は、飛び級して15歳で高校卒業して、その後 製菓の専門学校に入ってパティシエの道に入ったらしいことが一郎の口から語られる。
どうやら親に捨てられてから、育ての親(ボヌール店長)に迷惑をかけないように自分に負荷をかけて優秀であろうとした結果らしい。ほぼ この回以外では不必要な設定なのが残念。14歳が大学じゃなく高校で勉強すると、何かいいことあるの??

そこに かつての進藤の同級生(何歳年上なんだろう)が現れ、進藤を認めると 小バカにした態度を取る。横暴であっても お客に対して失礼な態度は取れない進藤は冷静に対応するが、やがて堪忍袋の緒が切れるのは潤。かつて自分の良いところを見てくれたように、潤も進藤の良い部分を褒める。

序盤では進藤が潤にとっての特別なのではなく、潤が進藤の特別になっていく描写が多い。

一郎も居合わせた客も味方になり、元同級生は退散する(客が相手を見た目でディスってるのは気になる。こういうの男女逆なら絶対に許されないのに)。

ちなみに この回のラストで一郎は超進学校の生徒だが、居眠りが原因で高校3年生を2回していることが発覚する。キャラ設定を極端にするのが白泉社系の新人作家にとってのキャラ作りなのだろう。


4話で登場するのがモデルの蜜香(みつか)。潤が彼女をナンパ男から守ったことで縁が出来る。

蜜香は潤同様に家を飛び出して行くところがないと言う。彼女もバイトを希望するが中学生のため却下される。ってか進藤が、蜜香が着ていた制服で中学生かどうかを見極めているのが ちょっと怖い。なぜ ご存じで??

蜜香は進藤と同じようにモデルの仕事を語る時、表情が輝いている。だが家出をしたのは、父親が出世のために得意先の息子と見合いをさせるつもりだから。中学生でバイトは法律で禁じられているが、強制的に見合いをさせるのは親が罰せられたりしないだろうか。

更に蜜香はモデルの仕事も親に取り上げられる寸前。そんな彼女の窮状を知ったら お節介ヒロイン・潤は黙っていられない。彼女と自分の父親を対話させようとする。ページの都合もあるだろうが あっという間に問題は解決。こうして潤は蜜香からの絶対的な信頼を受けることになる。

最後に蜜香からのメールで、潤は男性店員2人への恋を考えることになる。こんなに早い段階から恋愛について悩んでたんですね、潤は(白泉社特有のリセット機能が発動して最終盤まで鈍感ヒロインになるが)。


一郎が風邪のため、店には進藤と潤の2人きり。蜜香のメールで自分の色恋について考えたため妙に進藤を意識してしまう潤。

そこで潤は常々気になっていた進藤の下の名前を聞こうとする。だが進藤は拒否。一郎を通して知ろうとする潤に対して、お前にはカンケーねーだろ、と一線を引かれてしまい、潤はショックを受ける。そうして失意のもと帰路につくが、進藤が後から追いかけてくれた。

進藤は自分の名前が恥ずかしくて誰にも教えていないらしい。そんな一郎でも知らない名前が発覚するのが、進藤の義父でもある店長からのFAX(もはや時代を感じるアイテム)。

進藤の名前は咲月(さつき)。本人は女みたいな名前だから嫌いらしいが、潤の笑顔で そのコンプレックスは薄まる。更には咲月という名前に込められた意味まで潤にはお見通しで、進藤は彼女の不思議な魅力を感じ始める。この分だと、先に恋に落ちるのは進藤の方かもしれない。