音 久無(おと ひさむ)
花と悪魔(はなとあくま)
第06巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
はなに初めて出来た女の子のお友達・田中蘭子の正体は、ビビに勝るとも劣らぬ大悪魔・モーリッツだった! その強大な魔力で呪いをかけられ、はなはビビへの恋心を奪い去られてしまった! 更に、はなの性格が大変化! 女王様キャラ“はな様”は、ビビを冷たくあしらい…!?
簡潔完結感想文
- 記憶改変の副作用で はな の人格が豹変。ビビりのビビ様、勇気を出して!
- 悪魔の新キャラ・結婚や婚約・魔界突入、繰り返されるエンドレスワルツ★
- 逆ハーレム状態を緩和するために用意された女性キャラ、放置されがち。
大悪魔のせいで当て馬すら機能しない 6巻。
この『6巻』で作者の中では第1部と第2部の境界線があるらしい。確かにヒロイン・はな も大悪魔・ビビも、そこで自分の中にあるのが相手への恋心であることを自覚している。そして その気持ちの確定によって、当て馬役に配置された桃(もも)も はな への ほのかな恋心から友達ポジションへと自分を変えている。第1部は、それぞれ相手にとっての自分の役割とは何かを考え、その役割を自覚するまでを描いていると言える。第2部は それを相手に伝える展開が待っているはずだから楽しみである。
ただ三角関係の不発は個人的に残念。三角関係は少女漫画の中盤を支える格好の題材なのだが、本書はビビというヒーローが強すぎるからなのか不成立に終わった。ビビと桃は大人と子供で、桃は成長途中なので身長差も まだまだあって外見面が まず不利(背の高さは絶対的な基準じゃないのだけれど、と炎上回避)。しかもビビは大悪魔という設定で、年齢差も186歳あって、ここも まさに大人と子供で桃に勝てる要素が無い。
男性2人に差がないのは精神の強さだろう。ビビは1話からずっと はな を大事にし過ぎて彼女に向き合うことを恐怖に感じている。しかも今回は自分の告白が彼女に届かない ≒ フラれたら どうしようなどと考えて最後の最後まで勇気を出さない。14歳の思春期少年と変わらないのが大悪魔のメンタルで、この点では桃は勝てるかもしれなかった。
しかし今回、身長差や見た目などを埋めても桃は自分から身を引いてしまう。仮の姿を使って はな に近づいたのが敗因か。思えば もも に対する桃と同じのポジションにあるビビに対する菖蒲(あやめ)も、ビビとの大人の契約を終わらせるのに際して何も言わなかった。優しい世界と言えば そうなのだが、菖蒲はともかく桃は勇気を出しても良かったのではないか。はな は告白後の関係性を気にするようなタイプには見えないし。だから定番、と言われようとも三角関係を引っ張ってくれた方が楽しかったと予想する。
そう思うのも、またまた話の舞台が落ち着かないからである。
学校編が始まったと思ったら悪魔が闖入して いつも通りの話に戻るし、騒動が終わって、学校で再び新キャラが出たのに結局 何度目かの魔界行きになる。本書が悪魔と切っても切れない依存関係にあるのは分かるのだが、もう少し日常回を楽しむ余裕が欲しい。
新キャラの椿(つばき)は出てきたはいいけど深掘りすることなく放置されている。これは悪魔におけるエリノアと同じ扱い。もしかして彼女たちは はな が逆ハーレム状態に見えないようにするためだけの同性の お友達なのではないか。最初に ちょっと はな と心を通わせるだけで あとは彼女たちは その場にいるだけ。テレビのバラエティに数合わせと見た目の華やかさだけで置かれる女性タレントみたいな人格無視を感じる。作者は女性の動かし方が あんまり上手くないのかな。
今回、エリノアのメイン回ともいうべき展開があるのだが、それは魔界再突入の前座に過ぎないのも残念だ。話も結局、結婚だ婚約だと同じような内容だし。
この魔王・ルシフェルによるビビへの嫌がらせシリーズは ハッキリ言って私は全く興味を持てない。そもそも作品内でビビが魔界に戻ることへの意義が分からないから、帰還を命じられる繰り返しに辟易とするばかり。
例えば学園モノであったら、登場人物が増えるのは学校生活の楽しみが増えることで好ましいのだが、悪魔が増えても はな の生活には関係がない。ビビが長寿だから、悪魔も ほぼ全員 顔見知りで、関係性が出来上がっているから話も新しい発展がない。悪魔同士の争いは魔界における日常回なのかもしれないが、それによって地上の日常が破壊されている。悪魔が作品の足を引っ張っていやしないか。
悪魔の弊害と言えば、今回は悪魔による記憶の操作が目立った。
白泉社作品では ただでさえ鈍感なヒロインがヒーローへの恋心を気のせいだったと片付けるリセットが発動することが多いが、本書はそれを記憶操作で行った。はな が気づいたビビへの大切な気持ちを悪魔は奪ってしまう。これによって作品は延命するのかもしれないが、読者としては そういう手法で彼女の気持ちが奪われるのは気持ちのいいものではなかった。
更に悪魔が記憶を消去することで はな はビビたちが いつか自分や周囲の記憶を全部消して魔界に帰ってしまうという不安が浮かぶ。この不安も本来は不必要なもので、悪魔の魔術が万能すぎて どんな どんでん返しもリセットも起こり得るという余計な心配が増えている。
悪魔のせいで地上での日常回が始まらないし、悪魔のせいで毎度同じような魔界回になっている。作品の伸びしろを感じられなくなってきた。
はな が学校で仲良くなった蘭子(らんこ)は悪魔だった。ビビは蘭子の正体に気づいていた。本当の名はモーリッツ。ビビと並び立つ大悪魔の男性で、次期 魔王の最有力候補である。
学校では気配を薄っすら感じるぐらいだったが、この屋敷はビビのテリトリーだから謎の力で蘭子の正体を見破ったらしい。だが そうなることは相手も承知。それでもモーリッツはビビに近づいてきた。『5巻』の感想文で学校仲間を すぐに屋敷に入れる展開は好きではないと書いたけど、一応 必要な展開だったらしい。
モーリッツの目的は またもビビの魔界への帰還。結局、ビビにとってのアキレス腱が はな であることは変わらず、彼女は狙われ、気づいたばかりのビビへの恋心を奪われてしまう。しかも その恋心の向かう先をモーリッツは自分に設定した。
気を失っていた はな が目を覚ますと、彼女はモーリッツに抱きつく。それに大いにショックを受けるビビ。だが考えてみると、これは対象が違うだけでビビへの恋心が はな を動かしている。ということは熱烈な抱擁も愛の言葉も、はな が抑制してきた言動で、それが解放されているに過ぎないと考えられる。我慢しているけど はな がビビにしたいこと と思うとビビも救われるのではないだろうか。
だが強すぎるビビへの愛は、今の はな にとって、モーリッツ以外の者を興味の外に追いやってしまっている。
しかも予想外の副作用で はな の性格まで変わってしまい、彼女はヤンキー化する。
ビビは はな の記憶を取り戻し、はな にとって自分が一番であるという自信を回復させたいから「はな様」となった彼女にどうにか近づく。こうして史上初めて はな VS ビビの対決となる。はな がビビを蹴りを入れて罵倒するなど こんな状況でないと絶対に見られないので、なかなか楽しい。でも術を解くためにビビが悩み苦しむ、という展開は『5巻』で見たばかりで既視感たっぷり。
そこでビビは はな が好きな物で心を取り戻す作戦に出る。はな が花見をしたいと言っていたことを思い出し、魔術で桜を満開にさせることにする。
はな は翌日の夜には魔界に旅立ってしまうという。翌日は満月の夜で、2人には かつて満月を見上げた思い出があるのだが(『1巻』)、それを別れの記憶に書き換えられてしまう危機となる。
だがビビは 魔術ではなく、はな に素直な心をぶつける方法を試していない。相変わらずビビは格好つけることを優先して、はな への愛の言葉が空振りに終わった時の羞恥を回避するために、はな に優しい言葉を告げない。ビビの名前の由来はビビり から来ているのかもしれない。プライドの高さは悪魔一かもしれない。
迎えた翌日の夜、なぜか はな は地上に残ることになり、悪魔だけが魔界に行くことになる。ビビも はな の記憶のために従うしかない。その前にビビは一度だけ悪あがきをして、育ち過ぎた満開の桜の木の上で、誰にも聞かれないよう はな への愛を囁く。こうして はな の記憶は戻る。序盤から そうだったけど、ビビが動かないことで話の展開を遅らせているだけに見える。これではビビってることばかりが記憶に残り、最後の奮起があってもビビが恰好つかない。
だが これはモーリッツにとって軽い手合わせ。ここからが大悪魔同士の本当の戦いになる。はずだったが、それを魔王の側近が制止する。なぜ魔王の配下が出現するかといえば、モーリッツは魔王の勅命でビビをいじりに来たのだった。バカ真面目のモーリッツが役に入り込み過ぎて迷惑になったので、魔王側が止めに来たという。
こうして騒動は終わる。だが はな の中から恋心は戻っていない。リセット機能だけは働いたらしい。どうでもいいが、この辺から この屋敷のペットが鳥から猫に完全に移行している気がする。あの鳥さん はどこにいったのだろうか…。
せっかくの桜の木があるので、彼らは はな のために お花見パーティーを企画する。
はな は被害者ではあるものの騒動で周囲に迷惑をかけたことを謝罪する。そして何でも償うという はな の言質を取ってビビは自分へのキスを要求する。モーリッツにした頬へのキスを取り返すためなのだろうが、なんと はな はビビの口にキスをしたのだった。それは忘れるように術をかけられても溢れ出す彼への恋心の表現だったのかもしれない。
お花見なのだが仮装パーティーでもあって、彼らは『不思議の国のアリス』のコスプレをする。でもアリスの世界観を出すためとはいえ、ビビの執事・トーニが主人の嫌いな猫に扮するのはいかがなものか。
騒動が終わったので当然、ビビも教師を演じるのを止める。
こうして ようやく人間だけの学校生活が始まる。「蘭子」の代わりに登場するのが、西島 椿(にしじま つばき)という女生徒。彼女は風邪をこじらせて学校を休んでいたが、ようやく治って復学した。その間に転入してきた はな と初めて会う。椿は桃の 幼なじみで、不良として名高い桃の悪い噂も気にしない女性である。なかなか人として素敵な人だと思うが、今回は顔見せ程度で終わってしまう。学校編は永遠に始まらないのか…。
ビビたちは自分たちが教師をしていた痕跡を全て消したことに はな は気づく。はな と桃以外の生徒はビビと接触した記憶が消されており、はな は その現実を目の当たりにすることでビビが自分の前から消えてしまうのではないかという不安に さいなまれる。
序盤は、人種間の違いで寿命が違い、その切なさを前面に出していたが、この中盤は記憶の操作が続く。これは読者としては あまりスッキリしない。ただし これは はな の恋愛感情がリセットしていることや、ビビが記憶を戻してくれた際に言ってくれた言葉などを思い出せない彼女の足場の不安定さを増幅させるためでもあろう。
ビビは はな が先に消えゆく不安を抱えていて、はな はビビに記憶を消される不安を抱えている。
でも学校を早退して一目散に会いに行ったビビが、もう一度 あの言葉を言ってくれたので はな の混乱は収まる。ビビも1回目はビビっていたが、2回目は もう言うのに慣れたのだろうか。
はな とビビの関係に一応の決着がついて、残された桃の恋心を成仏させるような話が用意される。町で出会ったクラウスに桃は はな が「はな弐號」になるのに用いた成長促進剤を譲り受ける。
こうして桃は「桃弐號」として はな の前に立つ。だが本人ではなく従兄弟という設定に逃げる。背が高くなり、成長すれば はな をこちらに向かせられると考えていた桃だが、精神力までは鍛えられずヘタレのまま。だから せめて はな を喜ばすために、彼は自分が知る花の咲く場所に彼女を案内する。それが今の桃の精一杯。当て馬として奮い立たないまま、彼は友達ポジションへと帰っていった。
エリノアに新しい婚約者候補が出現する。作者はネタに困ったら婚約者とか結婚とか出すのか?
浮気ばかりのフェルテンに愛想を尽かしたエリノアが望んでもいない婚約者に会いに行ってしまう。だがフェルテンはエリノアを大事にしているからこそ、自分みたいな浮気癖のある男ではなく誠実な男と結婚して欲しいと思っていた。これは『5巻』で転入してきた はな に わざと冷たくした桃と同じ考え方かな。似たような話ばかり読まされている気がする。
だが身辺調査によって新しい婚約者も自分と同種の人間だと分かり、フェルテンは動揺する。はな がエリノアを心配して魔界に行くついで という言い訳を用意してフェルテンは魔界行きを決意する。
でもエリノアの婚約話は前座で、結局 魔王によるビビいじりの再放送である。ため息が出ちゃう。魔界に行くたび、私の心は暗くなる。ただの人間の私は あまり魔界の空気と相性が良くないみたいだ。