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少女漫画と小説の感想ブログです

悪魔の所業 その1。 拾った赤ちゃんの性別を確かめる前に名前つけちゃう。

花と悪魔 1 (花とゆめコミックス)
音 久無(おと ひさむ)
花と悪魔(はなとあくま)
第01巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

齢200を越す大悪魔・ビビが人間界に居を構えて二度目の冬。彼が屋敷の前で拾った人間の赤ちゃんは、花のような笑顔を見せることから、“はな”と名づけられ、大切に育てられました。そして、はなは14歳になり、少しずつビビのことが気になるお年頃になったのですが…!?

簡潔完結感想文

  • 雪の日に咲いた笑顔の花。それを枯らさぬよう大切に育てる死神みたいな悪魔。
  • ヒロインが14歳とは思えないほど幼いが、悪魔も200歳とは思えないぐらい未熟。
  • お月見やハロウィンの季節イベントと 運動会的な かくれんぼ で短期連載をお届け。

入り娘は ワガママ娘に育ちましたとさ、の 1巻。

読切短編から何度かの短期連載、そこから長編化した白泉社らしい出世魚コースに乗った作品。ただし作品としては発展性に乏しかったと言わざるを得ない。イケメン悪魔と、彼が14年前に拾った少女との物語なのだが、どうにか恋の成就を遅らせようとする努力しか見えてこなかった。ゴールを遠ざけるばかりで目的地が見えず、同じところを周回しているような印象を受けた。

親がいないこと × 男性の中でただ一人の女性 × 上流階級 で 白泉社ヒロインの完成である。

白泉社らしいファンタジー設定が盛り込まれた作品だが、そのファンタジー世界を作者は上手く構築できていない。連載中に作者が覚醒して、もっと想像力が作品の隅々まで行き渡るような世界観を提示できれば良かったのだが、どこまでも浅い初期設定のままなのが残念だった。最後まで本書における悪魔が どういう存在なのか、人間との関係は どんなものなのか、などが全く見えてこなかった。イケメン悪魔という出オチでしかないのが惜しい。
学園モノではないのでイベントも作れないし、住まいである屋敷の中での日常コメディを始めようにも舞台が同じで飽きがくる。そして舞台を変えて心機一転させても それはそれで迷走している感覚を受けたから どうすれば良かったのか全く分からないけれど。

これは連載の形態が不安定で、作者にも先が見えなかったからだろう。
もし作者が最初から全58話分の連載が出来ると分かっていたら おそらく主人公の はな の年齢を5歳ぐらいから始めたのではないかと思う。そのぐらいに はな は幼く描かれている。そこから はな が成長し、一人の女性として悪魔・ビビを愛するようになるという半生を描くような作品にしたら現実の月日と重なって読者の心を動かしたのではないか。

読切短編で はな が14歳という年齢に設定されたのは、男性にとっての恋愛対象のギリギリの下限を狙ったのと(年齢的にはアウトだが)、読者層の年齢と大きく離れないようにするためだろう。もし読切短編が5歳の設定だったら育児モノだと思われてしまう。はな の気持ちが ちゃんと恋愛感情であることを示すために、ある程度の年齢は必要だったのではないか。


うして設定された はな の14歳という年齢だが、はな は屋敷の中で悪魔に蝶よ花よと育てられたからなのか、実に幼い。子育て初心者の大金持ちが、ワガママ放題に子供を育てたら こうなった、という悪い典型にも見える。
悪魔の中の唯一の人間という無自覚な お姫様ポジションは読者の心を くすぐる。でもビビとの将来が見えない不安に落ち込むのはともかく、ビビが自分の言うことを聞いてくれないから落ち込んで、それを結局 ビビが甘やかして彼女を特別扱いするというのは、読者にとって本当に嬉しいことなのか疑問である。あぁ こうやって何度も何度も はな の願いを叶えてきたから、彼女は精神的に挫折することなく真っ直ぐ育った反面、挫折がないから劣等感や成長も無いのだと分かる。家(うち)は家(うち)、他所は他所ではないが、社会の中で自分には叶わないことがあると分かるのも成長には大事なのに、ビビは はな を大事に育てすぎて、結局 心を枯れさせているように思う。
はな のワガママが大好きな人を振り向いてほしい女性の心理から発するものなら読者も共感できたと思うけれど、どうしても この時点の はな のワガママは自制心の育っていない子供の それである。だから子供のワガママには 付き合ってられない、としか思えないし、それに付き合うビビもダメな親にしか見えない。

金銭的な不安のない白泉社らしい浮世離れした生活なのだが、この生活をしているとダメになる、と思うような放蕩な暮らししか見えてこない。

泣き続けているとビビが助けに来るから はな は また泣くんだろうなー。ビビは親としては失格。

して はな も幼いがビビも幼すぎる。
はな が叶えたい願いが最初は叶わなくて落ち込んだところにビビが登場し、胸キュンというのが本書の序盤のワンパターンな話の構造。その最初で はな がビビと すれ違う際の、ビビの思考が よく分からないことが多かった。ビビが ずっと優しくては話に起伏が生まれないのは分かるが、優しくしない理由がちゃんと用意されていない。だからビビがヒーローとして登場しても感動や胸キュンが薄い。しかも上述の通り、それは はな のワガママを叶えるだけだったりするから、2人への共感や応援の気持ちが湧いてこない。

作者が描きたかったのであろう悪魔と人間の時間感覚の違い、という描写もビビ側の感覚を数字でしか描けていないし、それに彼にとっての はな との14年間や、彼女の成長を全く無視しているのも気になる。ビビは この14年で泣くばかりだった はな が歩き、喋り、そしてビビとの時間や関係を慈しんでいることを見てきたはずなのである。あの小さな生物が ここまで大きくなった14年間を無視して、まだ自分の時間感覚しか生きていないのは彼のアップデートの遅さにしか思えず、頭の中は200歳のジジイなのかと思ってしまう。相手のことを考える想像力に欠け、本当にエリート悪魔なのだろうかという疑問が湧く。

作者の頭の中で2人の14年間が点しかなく、そこに起きる(特に はな側の)変化の大きさを想像できていない感じがする。逆にビビは はな と過ごせる時間の短さに怯えているぐらいでなくてはならないのに、悪魔の体感時間を保持しているのには首を傾げる。


魔のビビが人間界で暮らし始めた2年目の冬、彼は門前に赤ちゃんが捨てられているのを発見する。
ビビを見て花のように笑ったことから、赤ちゃんは はな と名付けられる。この時、ビビは この赤ん坊の性別を一切 確かめていない。悪魔に人間の常識は通用しないかもしれないが、男女どちらかも考えずに命名するなんて そんなの悪魔のすることよ!

ちなみに このビビの居城は通常 人間が辿り着くことは出来ないよう結界や術が張られている、という設定が後々 作られる。ということは門前とは言え、はな を捨てた者(親)は その術を破って はな を っこに置いたのではないか、…などと深読みしたが、はな に関しては本当の親が見つかるとか、彼女には秘められた力あるとか悪魔の血が流れていた、などということは一切なかった。

ビビが はな を育てようと思ったのは気まぐれの暇つぶしで、邪魔になれば捨てたり処分すればよいと考えていた。しかし そのまま14年間が経過する。200歳以上であるビビにとっては僅かな時間である14年だから ちょっと悩んでいたぐらいなのかもしれない。ちなみにビビは数千年経っても この姿のまま(老いることなく)生きていくことが出来るらしい。はな が14/80年を生きているとしたら、ビビは200/4000年ぐらいか。そう考えると相対的にはビビの方が若者なのか!?


して この14年で はな はビビにとって恐怖の対象となっていた。14年で はな は大きくなったが、このビビの戸惑いは自覚のないまま父親になってしまった若い男性のそれにも見える。相手に対してどういう感情を持つのが正解か分からないから戸惑うのだろう。

自分の恐怖を優先して相手の気持ちを想像できないビビ。この人を格好いいとは私は思えない。

1話目からビビの親友のフェルテンが登場している。彼らは50年ぶりの再会らしいが、その間にビビは地上に出たりしているのに、会わなかったのだろうか。50年という人間的感覚ではビックリする時間を出したかっただけだろうが、200歳における50年は長すぎる。

このフェルテンはビビ(と読者)に魔界の価値観を押し付けるために存在する。ビビは大悪魔であって魔界に必要な人材。だから「長老」たちは彼を魔界に呼び戻したいらしい。この長老というのも謎の存在で、この後、魔界の階級が語られるが、長老の地位は謎のまま。そして悪魔に仕事があるのか、ビビは戻ると何をするのか、など全ての謎は放置される。


ビは人間の血を吸う。これは作者の中でビビは最初 吸血鬼として設定していた名残だろう。それが ざっくりと悪魔というカテゴリになってしまったらしい。悪魔にとって人間の血は不可欠ではないが、生き血は好物なので吸うという。これは酒や煙草などの嗜好品みたいなものか。
ちなみにビビに血を吸われる女性は、ビビを悪魔だと知ってながら血を提供してくれる希少な人。だから新たに秘密を厳守するような人がいない限り、この女性に定期的に血をもらった方が早いという。

ただしビビは はな の血は飲まない。これは本当に好きな人は抱けないプレイボーイみたいな感覚なのだろうか。


魔が花を触ると その花は枯れてしまう。だからビビは はな と名付けた その少女に触れると枯れてしまうのではないかという恐れが生まれてしまった。
そして その恐怖によってビビは はな との接触を避けるようになる。なんだか これでは悪魔というよりも死神に近い。触れると死んじゃうのにグイグイと接近してくる はな、そんなラブコメを描いても作者は成功したかもしれない。

しかし ビビが嫌いな太陽が出ている昼間に、フェルテンが はな を連れ出したことを知ったビビは焦って彼女を必死で探し出す。フェルテンが人間世界に はな を帰してしまうのではないかと思ったからだ。はな のために苦手なこともすることで彼女への愛の大きさを表現している。ビビには はな を避ける精神的な理由があるとはいえ、自作自演の匂いがする。

ラストに口移しでビビが はな に薬を飲ませるのは作品にインパクトを残したい(そして あわよくば読者人気で連載化にこぎ着けたいという気持ち)と、2人の恋愛関係を匂わせるためにあるのだろう。


2話目は読切続編。基本的に初回と同じことの繰り返しで作者は どこに力を入れたのか全く分からない。ここから連載に繋げられたのは奇跡のように思える。そして上述の通り、はな のワガママをビビが許しているだけの甘やかし展開である。

3話目から5話目が短期連載で、雑誌掲載時の季節イベントを取り入れて乗り切ろうという白泉社センスが光る。

最初はお月見イベント。はな は150年に一度の特別な満月をビビと見たい。好きな人と一緒に見ると ずっとずっと一緒にいられるから。だがビビには先約があり、はな の願いを無視する。そんなビビに不満を漏らす はな にビビは魔術で影で鳥を作る。この鳥、しばらくは作品にいたと思うが、その内に出てこなくなった。もうちょっとマスコット的なカワイイ造形なら出番もあったかもしれない。

ビビが自分の吸血=他の女性との時間よりも はな を優先する展開になるのは分かるが、一度は出掛けた彼が帰る理由が いまいち弱い。女性の話を聞いて はな を思い出したからだろうか。しかし ではなぜ はな の願いを最初から聞き入れなかったのかという疑問にぶつかる。

150年に一度の奇跡が、ビビにとってと はな にとっての価値が違うという時間の流れの差異を描きたいのだろうが、上述の通り、ビビが はな の感覚をいつまでも理解しないだけに思える。ビビが、妻の嫌いな物やNG行動を いつまでも学習しない鈍感夫に見えてくる。


4話目はハロウィンイベント。時代設定は1920~30年代前半ぐらいの日本っぽいのに(適当な予想)、この時代にハロウィンとは これいかに。ツッコんだら負けだろう。

ビビの居城に現れるのは悪魔・クラウス。ビビの もう一人の幼なじみ。彼はフェルテンに代わって、ビビが魔界に戻るように遣わされた使者。
クラウスは魔界の縦社会を教えてくれる。魔界は魔王を頂点に爵位が与えられる階級社会だという。どうやら家柄で爵位が与えられるのではなく、実力主義なのか。ビビは公爵で大悪魔と呼ばれる。フェルテンとクラウスは爵位の中では最下位の男爵。彼らの年代で爵位を与えられるだけでもすごいのに、ビビは それを超える逸材というヒーローの権威付けが行われる。

クラウスは努力しているのに、ビビは天才肌で、クラウスは自分の才能や地位に執着しない一方的に怒りを覚えていた。はな は人それぞれの価値観の違いを諭すが、それを許せないクラウスは はな の血を吸うことでビビの愛を試そうとする。

当然、そこにビビは現れる。相手が厄介な相手でも はな のためなら参上する。そして はな がピンチにならないと動かない横着者に見える。クラウスを撃退したビビは数十年、つまりは はな の存命中は魔界には帰らないと宣言する。これは一生一緒にいる宣言である。はな には伝わらないが…。


5話目でもクラウスは諦めずにビビの居城にいる。というか捕縛されて身動きが取れない。そんなビビの敵であるクラウスさえも はな は優しい。が、それでも はな はクラウスの一言で簡単に不安になる。

そんな時、フェルテンの提案で、ビビとクラウスの対決が催される。対決内容は かくれんぼ。といっても2人は「鬼」。はな を先に見つけた方が勝者となるが、はな や屋敷の構造を熟知しているビビが有利になるので、クラウスは2時間、ビビはその最後の5分間の捜索時間となる。

そんなハンデに はな は また不安を増幅させる。ビビは はな を見つけずに、魔界に帰る口実が欲しくて捜索時間を短縮したのではないか、と。だが ビビは簡単に はな を見つける。彼らの14年間の時間は相手のことを知るのに十分な時間なのだ。

出来れば この逆の展開を見たい。ビビは はな の思考回路や苦手な物などを知っているが、はな はビビの癖や弱点を知っているのだろうか。そんな はな から見たビビ像を知りたい。まぁ最大の弱点は はな なんだろうけど。あ、そういえば苦手な物は この後、発表されるか。