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少女漫画と小説の感想ブログです

悪魔の所業 その5。少女に必要となった名字を亜久間(あくま)にしちゃう毒親センス。

花と悪魔 5 (花とゆめコミックス)
音 久無(おと ひさむ)
花と悪魔(はなとあくま)
第05巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

怪我から回復し目を覚ましたビビは、自分を助ける為に血を飲ませる代償として、はなが魔王の花嫁になる約束をしたことを知る。魔王のところへ乗り込み、はなを取り戻そうとするビビだったが、一蹴されて無理やり地上へ戻されてしまい、はなと離ればなれになってしまって──!?

簡潔完結感想文

  • 魔王との結婚を阻止してハッピーエンド、でも良かったんじゃないか。
  • 肉体関係の契約を終了して浮気をせず彼女一筋になることを決める。
  • ようやく始まった学校編なのに悪魔が出てきちゃう。悪魔いらんわー。

くまで悪魔が隠棲しているのが良かったのに、の 5巻。

まず引っ掛かったのが、魔王・ルシフェルがビビに言及する際「15年も魔界を留守にしている」と言っていること。これまで作品では悪魔と人間の時間感覚の差に繰り返し言及し、そこに差異あることが物語に切なさを加えていたと思うが、なぜかビビと同族の魔王は この僅かな時間を気にしている。これは魔王の愛の大きさか、それとも作者の不注意か。幼なじみのフェルテンだって50年ぶりの再会だと言っていたのに、親戚のおじさん魔王はビビに会いたくて仕方がないのか。それでいて時間間隔で言えば その直後に人間の寿命を「たった数十年」と言っていて整合性が取れていない。たった一言のことだが、作者の集中力の無さを感じたし、物語が大事に守ってきたものを壊された感覚を受けた。

『5巻』は これまで以上に はな と悪魔のビビの関係が近づいて、それぞれが相手への特別な気持ちを明確にしていく。
特にビビは大人の関係だった菖蒲(あやめ)との契約を終了させて、もう人間への吸血行為をしないことを誓った。これは魔王・ルシフェルから傷を受けたビビが無意識のうちに はな の血を吸って自分の傷の回復エネルギーに変換してしまったことに端を発する。これまで触れれば枯らしてしまうと遠ざけていた はな の血を貰い、彼女が酷い貧血になってしまったことで、ビビは自分が庇護者から加害者になったことを痛感する。おそらく この自分の失態が吸血行為の終了を決意させた。人間の血は悪魔にとっての好物でエネルギー源らしいが、この日から ビビにとって血が苦くなったのではないかと思う。

ビビの吸血行為の禁止は、まるで浮気の終わりのように読める。もちろん上述の理由で血を精神的に受け付けなくなったビビだが、同時に今回の魔界の騒動でビビは自分の はな への特別な気持ちを受け入れざるを得なくなった。はな を女性として見なかった時は菖蒲との関係をビビが問題視することはなかったが、意外に一途なビビは1人の女性のために心を決める。はな を想うことになってビビは菖蒲との関係を清算することと、血を飲まなくなること、その動機が偶然にも重なった。

逆に言えば菖蒲には二重のショックであろう。彼女にとって血を捧げることは生きる理由であったし、自分がビビのために何かが出来るという喜びでもあった。もしかしたら女としての悦びも多少は含まれていたかもしれない。その全てを奪われた彼女の心境やいかに。こういう展開になると菖蒲が はな を逆恨みし、彼女にキツく当たることも起こり得たが、作品は その前に菖蒲と はな の関係性を良好にしている。はな に対し複雑な思いは抱えるが、彼女に着物を渡すなどの行為もまた生きる理由に なり得ることだろう。


だ今回は文句を言いたい部分も多い。
1つが、今回の騒動で最終回で良かったのではないかという気持ちが生まれてしまったこと。魔王という存在を登場させて、彼と はな の結婚の阻止という大きなイベントを終えてハッピーエンドを迎えたような感覚があった。作者としては魔王から親戚の子・ビビへの嫌がらせの内の一つなのかもしれないが、読者としては魔王という存在や、望まない結婚式という大きなイベントが終了の合図のように思えた。

この後に順延されていた はな の学校編入があるから、読者人気によって終了予定が伸びた、ということはないとは思うが、どうして この話を ここに持ってきたのかが謎だ。

そして残念なのは魔王・ルシフェルのデザインである。若く見えるのは仕方ないとして威厳もないし、これまでの悪魔の新キャラとの違いを感じられない。あと作者が男性キャラにも まつげを描くのも何だか苦手。性差別的かもしれないが まつげがあると男性が男性に見えない。

またデザインに関しては今回ビビが教師モードになった時も苦手。メガネをかけて、髪を上げているのだが、それによって これまでで一番ビビが格好いいとは思えなかった。またメガネやデコ出しの影響なのか徐々に強くなってきた輪郭の歪みが悪目立ちしているように感じられた。
初期は、ビビは年齢の割に幼い顔をしていたが連載を重ねて、絵も上達したことで男性キャラが目の大きさでバランスを取らなくなってきたのだろう。ただでさえ目が小さくなっていったところに教師モードで見慣れぬ格好をするから違和感が噴出していく。決して絵が下手ではないし、むしろ上手くなっているから起こる弊害なんだろう。でも教師モードは耽美を追求し過ぎて気持ちが悪い。

連載序盤から思っていたが、まつげ の感じなのか この頃の作者の絵は福山リョウコさんの絵に似ている。

もそもビビが教師となる学校編の展開も好きではない。
真面目にツッコんだら負けなのだろうが、ビビの教員免許とかどうなってんだよ と思うし、準備段階が長く、魔王騒動で順延していた学校編に早くもビビが登場してくる展開が残念だった。ここは はな の世界が広がるターンだし、悪魔とか関係なく日常回を重ねて欲しかったところ。悪魔が売りの漫画だから、悪魔の供給不足は人気の低迷に直結すると考えてしまうのも仕方ない。でも悪魔関連でビビが学校に出張ってきていることは理解できるけど、始まったばかりの広がり始めている はな の世界にビビが潜入するのは彼が大人げなく見える。その前の話では自制して はな と距離を置いただけに、不必要な展開に思える。

それに悪魔たちがモブの女子生徒たちから黄色い歓声を受けているのも あまり見たくなかった展開である。ひっそりと暮らしている大悪魔、という物語の前提が崩れていくようで受け入れられない。悪魔の新キャラで物語を延命させていく手法も いよいよ飽きてきた。

恋愛要素は まだまだ見所があると思うが、それを推進するための話の作り方が あまり好きではない。通学準備のはずが魔王編、学校生活のはずが いつもの悪魔の大迷惑という落ち着きの無さを感じる。


ビは自分が無意識で はな の血を吸い、傷を癒したことを知って愕然とする。

そして はな は その血をビビに捧げる代償として魔王の花嫁になることを決めていた。この結婚は魔王にとってビビへの最大の嫌がらせ。魔王とビビは親族で、迷惑系な上に魔界最高権力者の おじさん からビビは数々の嫌がらせを受けていた。挨拶代わりの暴力も日常茶飯事だったが、今回は15年の留守のペナルティとして毒を盛った剣で刺し、治癒力を遅らせた。はな を巻き込んだのは人間に執着するビビの心情を知るためでもあった。

はな の事情を知ったビビは全力で魔王を阻止しようとする。だが逆に魔王によって地上に転送されてしまう。その間際、はな は自分の行動に一切の後悔がないことをビビに告げ、ビビも そう思って欲しいと願う。


一度は帰還させられたがビビはリベンジを誓う。はな のいない世界は無価値だから。

はな はビビに血を与えることが魔王と結婚すること、それが一生をこちらで過ごすことを意味していることを承知していた。魔王は はな への嫌がらせとして自己保身とビビへの愛情の間を行き来して欲しかったのだが、はな は迷いなく後者を優先した。でも もう雷が怖くても、ビビは寄り添ってくれない。
そして結婚に臨むにあたって、他の男=ビビから贈られた装飾品を身につける訳にはいかなかった。そのネックレスを むしり取られて はな は自分の覚悟の無さを痛感する。そうして彼女から涙が溢れるのを見て、魔王は満足する。

ビビは これまで培ってきた周囲の者に協力してもらい はな奪還作戦を決行する。
魔王が はな に、結婚の証となる指輪をはめる直前、エリノアたちが騒ぎを起こし、そしてビビが当女王する。意趣返しとばかりに毒を塗布した剣で魔王を貫き、はな を奪い去る。

魔王の前を去る際、はな は短い期間 咲き誇る花にも価値があることを魔王に告げる。そんな若い2人の行動に魔王も再び興味をそそられる。また退屈しのぎに迷惑系魔王は ちょっかいを出すのだろう。

魔王のデザインは作者の引き出しの少なさを露見させてしまった。性格より見た目が好きじゃない。

うして最終回のような展開が終わる。
ビビは慣れない礼を皆に言い、そして はな に対しての感情が一段 上がったように見える。それは今の彼女が「はな弐號(にごう)」状態であることにも関係するだろう。そして今回は薬による成長促進ではなく魔術であるため時間経過で元に戻らない。

魔王の魔術は魔王にしか解けない、というのがフェルテンの見解。だが魔界の再訪を忌避するビビは独力で術を破ろうとする。だが、どうやら本来の術に加えて もう一重 術がかかっていることが分かって事態は打開しない。

自分が弐號であり続けることに はな は不安を覚える。1つはビビが弐號を避けていること、そして はな のために再度ビビが魔界に行くかもしれないことが彼女を不安にさせる。だが どちらもビビは はな が大事だからだということは はな以外には明白。無自覚ヒロインである。

その不安から はな は夜中にビビの部屋を訪ねる。彼女の不安を和らげるためだけでなく、ビビは自分の内なる警告を無視して はな に触れる。そして自分が残した彼女の痕跡に口付けると、術は解除された。これは魔王がビビに羞恥と後悔を覚えさせるために施したもの。術は解けたが、それはビビが はな に対する我慢が利かなかったことを意味する。そして もしその後も弐號状態が続いたら、ビビは はな にそれ以上の行為をしようとしていたことも自覚させる。年の功なのか魔王の方が一枚上手のようだ。


な は『4巻』で約束していた着物を貰い受けに菖蒲の家を訪問する。

この回で菖蒲とビビの出会いが回想される。菖蒲は結婚したばかりだった高級官僚の夫に先立たれ、その機密情報を妻が知っていると思い込んだ連中によって命を狙われていた。その騒動に立ち会ったビビが銃で額を撃たれながらも菖蒲を助けたことが2人の出会いだった。ビビが気まぐれに菖蒲を助けたのは その美しい容姿が一因。つまりナンパであり下心があったということか、それとも悪魔の照れ隠しか。

菖蒲は自分の銃創が治るまでビビの屋敷に滞在し、そこでビビの素顔を見て惹かれていった。この頃に菖蒲は小さい はな とも出会っている。ビビは今回の見返りに菖蒲の血を定期接種する契約を結ぶ。それは菖蒲にとって新しく生きる意味にもなった。

そんな2人の共存関係は、今回で終わる。だが菖蒲は いつか こんな日が来ると分かっていた。なぜなら数年前の出会いで菖蒲が惹かれたビビの笑顔は はな にだけ向けられたものだったから。


1巻以上の寄り道が終わり ようやく はなが通学する。だがビビは はな と離れる時間が長くなることに不満気なのが可愛い。

はな は、以前に仲良くなり自分の周辺事情を理解している桃(もも)と同じクラスになる。ちなみに はな は学校での名前を「亜久間(あくま)はな」とする。桃は その名前にツッコみつつ、人間社会に はな が馴染めるのか心配で気を揉む。だが その一方で、桃は はな との繋がりを隠すように彼女を遠ざける。

そんな桃の態度に悲しむ はな だったがクラスメイトの女子生徒から桃が この学校では不良として名を馳せていて、そんな桃と繋がりがあるように思われた はな が遠巻きにされていたことを知る。つまり桃は はな を守るために、この学校内で新しい友達をすぐに得られるように遠ざけていたのだ。

それを知り はな は周囲の人が桃を良く思うように働きかける。そして桃を捜し出し、桃を切り捨てて得るような友達ならいらない、と彼の存在意義を訴える。そうして はな は思いのほか順調に一日目を過ごしていた。はな が心配で学校まで見に来たビビは物陰で見守るだけで、彼女の前には姿を現さなかった。これは桃と初めて会った時のように、再び はな の世界が広がっていくこと ≒ 自分の手が届かなくなるという寂しさをビビは抱えているように見える。


が はな の学校生活についてビビの心配は もう一つあった。学校内に悪魔の気配を感じるのだった。ほぼ完ぺきに自分の気配を消していることで相手が上級悪魔だと推測したビビは、翌日から教師になって学校へ登場する。

上述の通り、色々と不満の多い展開だけど、ビビが学校内に来ることで、蘭子(らんこ)という生徒にビビを好きになってもらって、彼女というライバルの登場で はな がビビへの気持ちを恋であることを自覚するために必要なのだろう。

作品世界を広げるためなのだろうが、はな が知り合ったばかりの人を屋敷に ほいほいと連れてくるのも、読者としては秘密が秘密でなくなるようで残念に思う。こうして なし崩し的に悪魔の秘密の生活は人間に汚染されていくのだろうか。せめて学校と屋敷は切り離して欲しかった。