《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

悪魔の所業 その4。突然 思い立った転居に際し、部下に同行を強制させるブラック上司。

花と悪魔 4 (花とゆめコミックス)
音 久無(おと ひさむ)
花と悪魔(はなとあくま)
第04巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

クラウスにもらった薬で猫さんと姿が入れ替わってしまったはな。寂しくなったはなは元に戻りたいと願うのですが…!? 一方、はなに会いにきた桃は、トーニに見せて貰った昔の写真に違和感を覚え、さらにとんでもない場面を見てしまって――!?

簡潔完結感想文

  • トーニ視点でのビビ10歳の日々。ワガママは甘えられる相手がいてこそ。
  • 遠ざけたい相手でも はな が望むのなら交流を許してしまうダメ親父ビビ。
  • 学校に通う準備を整えていたはずが、なぜか魔王から魔界への招待を受ける。

お前の世界が広がることは、俺の手が届かなくなること、の 4巻。

もしかしたら『4巻』は これまでで初めて1人も新キャラが登場しないかもしれない(相手の本当の姿を初めて見る人はいるが)。それだけ新キャラに頼らず、既存のキャラとの交流が じっくり描かれた巻と言える。

そして『4巻』は自分の存在が相手の行動を制限し、苦しめているかもしれないという問題が はな・ビビ双方で描かれていたように思う。これまで通り、その人の傍にいたい、一緒に暮らしたいという願いは相手の人生を歪めるほどのエゴなのか、彼らは葛藤していた。
煎じ詰めれば それは、やはり2人が住む世界や種族が違うという問題に ぶつかっていく。特に今回はビビが はな の世界の広がりや人間同士の交流を重ねることを目の当たりにして、はな を広い世界に、そして同じ種族で同じ速度の同じ幸福を享受することが彼女の人生の最大の意義なのではないかと悩む。育ててきたものが目の前で枯れてしまう恐怖を選ぶか、満開に咲いた花を見届けて自分の手から誰かに委ねるのか、その決断を近い内にしなければならない。
今回、はな の願望やフェルテンの忠告もあってビビは はな の就学を許可する。それは はな が人間社会に順応するための第一段階にも見える。これまで温室で育てていた花が、これからも強く咲き続けるよう環境を変えるのも一つの愛情である。
そして はな が人間社会を学ぶこと、特に恋愛面では人間の男性を知ることが彼女に選択の自由を与えている。このままビビが はな に手を出したらグルーミング疑惑が消えず、その花は世界の広さを知らないまま摘み取られていくばかりとなってしまう。
ビビが はな にどんな世界を与えるにしろ、違う価値観や世界を見せるのは重要だろう。

はな は本来、悪魔が触れられない人間界で咲く花。本来の場所の方が綺麗に咲き続けるのか?

そして はな は自分がビビの行動の枷になっていることに気づく。まず、この気づきに彼女の成長を感じた。これまでのように自分のワガママが通らないことに泣いて、ビビに助けてもらうのではなく、今回はビビのために はな が行動している場面が目立った。作中の年齢は変わらないままだが、はな の内面や精神年齢は この2巻ぐらいで大きく成長している。

少しずつ変わっていく/変わらざるを得ない 2人の関係を どう繊細に描けるかが今後の評価のポイントになるだろう。

それにしても本書は婚約者とか結婚とかをテーマにし過ぎである。作者の中では悪魔の上流社会は中世ヨーロッパの貴族社会みたいな認識なのだろうが、なぜ本書の中の悪魔は婚姻関係にこだわるのかが謎過ぎて ついていけない。少女漫画読者に分かりやすい展開を狙っているのだろうが、悪魔における結婚の価値や意義が よく分からないから、必然性を感じず、ただただ少女漫画的な話にしか思えない。

魔術が引き起こす騒動や、魔界、そして魔王という存在を出せるのは本書の強みだろう。しかし魔界が紙一枚で出来ているような薄っぺらさで そちらの騒動に意味を感じない。特に今回のラストの展開はクライマックスまで使わない方が良かったのではないか。学校生活が目前だったのに、魔界に引き戻され、そして この辺から話の舞台が あっちこっちに変わるばかり。私は そこに迷走を感じた。本書が面白くなりそうでならなかったのは、この中盤が原因ではないか。


10歳から190年間ビビの お世話をしているトーニが主役の番外編のような お話。この話でビビの子供時代が見られることが読者の嬉しいところ。思った通り、悪魔の10歳は人間の10歳と変わらない。ということは やはり悪魔と人間との初期の成長過程は変わらず、ビビは14歳になった はな が花盛りを迎えようとしているのを察し、その花が枯れるのが怖いのだろう。

ここでビビは魔王の直系の家系と書かれているから、魔界に君臨する魔王は彼にとって父や祖父などに当たる人物なのだろうか。
ビビは その血筋ゆえに小さい頃から重圧があり、その一方で甘やかされて育ってきたビビは、代々 この家に仕えるトーニたちがビビに遠慮なく接してくれることが安らぎになっているようだ。こうしてビビが気まぐれに地上に出る際もトーニは同行を強制される。それは絶対の信頼があってこそだろう。

そして地上に出て翌年、ビビは はな を拾い、魔界にいたころよりも伸び伸びと暮らしているというのがビビの人生を見てきたトーニの感想であった。


たもクラウスが登場し、彼の いたずらで はな と黒猫が入れ替わってしまう。ビビの一番 嫌いなものになってしまった、はなの運命やいかに。

はな になった猫は思う存分ビビに甘えられるのに、猫になった はな は邪険にされる。クラウスにとっては、ビビが大嫌いな猫を溺愛し、はな を遠ざけるという場面が面白いらしい。もはや はな への嫌がらせとしか思えない。
はな はビビたちと会話を交わすことも出来なくなったことを悲観して泣くが、彼女の気持ちが最底辺まで落ち込んだら、ビビの出番となる。ビビはクラウスの嫌がらせに気が付いていた。最初に結界が作動しているし、ビビは はな と猫を見間違えることはないという。こうして騒動は無事 収束したかと思いきや、屋敷に来ていた桃に魔術や悪魔の姿を見られてしまう。クラウスは前座である。

これまでは読者の憧れの的であった特殊な家庭環境が、一転して桃との友情を壊す一因となる。

ビたちが悪魔であること、彼が はな の兄ではないことが桃に発覚してしまう。混乱する桃だったが、まず はな に嘘をつかれていたことを怒る。

ビビは桃の記憶を消そうとするが桃が抵抗する。他言無用を約束させて、桃を信用したビビは彼に何もせず屋敷から出させる。だが桃は帰り際、屋敷には もう二度と来ないと言い残したため、はな は初めての人間の友達を失ってしまう。

こうして はな は落ち込む。そしてビビも桃に「悪魔と人間は馴れ合えない」と言った言葉がブーメランとなって刺さっていた。桃を牽制したはずが、自分が傷ついている。また桃も はな の周辺の事情を どう処理すればいいか分からず苛立ち、荒れていた。

そんな時、菖蒲の家で吸血に訪問していたビビと、花を配達した桃が再会する。そしてビビは はな のために、桃が屋敷を再訪する理由を作る。桃は相手が悪魔であっても構わないし、そもそも はな は悪魔ではないと気づき、屋敷に入るのだった。自分が惹かれた相手が どんな環境で育っても桃は気にしない。そう思えるぐらい桃は はな のことが好きなのだろう。

桃との再会を泣いて喜ぶ はな だったが、彼の前で転んで事故チューをしてしまう…。


ビは自分が はな から頬であってもキスされたことがないことを気に病んでいる200歳である。それが事故とはいえ口と口のキスなど許せない。桃の登場で はな の交友関係は広がったが、ビビの穏やかな日々は破壊された。

そんな時、桃から学校への通学を提案される。だがビビは反対。何より桃からの提案を今は呑みたくないからだ。だが はな が前向きなため、彼女に甘いビビは見学に向かう。ここで はな のことを初めて見る生徒たちは彼女を美少女と表現する。やっぱり はな は世間的に見ても可愛いのか。
休み時間になると外国人風のフェルテンと黒いオーラを発するビビに生徒たちの注目が集まる。こうして たまに外界からの評価を得ないと彼らは ただの呑気な悪魔に見えてしまう。特にビビは このところ大人げなくて本当に大悪魔なのか疑わしい。

学校内でフェルテンはビビに はな を手放す準備を勧める。人間としての彼女の幸せを願うなら、人間社会に慣れ、そして伴侶を見つけることが重要になってくる。ビビが はな を屋敷に閉じ込めておくのはエゴであるとフェルテンは指摘する。

はな の広がった世界は、2人の距離の広がりでもあった。ビビが怖れを抱きながら育ててきた はな は、人間の男に気軽に触れるし触れられている。ビビは はな が自分よりも大切な物を見つける日が怖い。
そんな自分を認め、ビビは はな の事故チューで出来た傷にキスをする。成長した弐號(にごう)の姿ではなく14歳の はな への自分の意思での接近である。ビビは もう はな への気持ちに気が付いたのだろうか。こうして この唇の痛みはビビへと上書きされた。


願の学校の前にした準備で、ビビは菖蒲を着物購入のアドバイザーとして屋敷に呼んでいた。
吸血行為の後に、楽しみにしていた買い物に菖蒲も同行すると知って はな の気持ちは曇る。だが菖蒲に嫌な態度を取った自分にも彼女が優しいことで はな は新品の着物ではなく、拒んでいた菖蒲のお下がりを所望する。
これまでも菖蒲は はな の存在を許容してきたが、今回は はな が菖蒲の人格を認める。これが菖蒲との最終的な和解になるのだろうか。

そうして整い始める はな の入学を前に、屋敷に異様な気配が漂う。それが魔王の降臨である。

魔王の名前はルシフェル。登場してすぐにビビを串刺しにした魔王は彼を魔界に連れていく。本来なら悪魔の治癒力で大怪我も一瞬で治るが、ビビを刺した剣には毒が塗布されており治癒速度は人間並みになってしまった。こうして無力化されたビビはルシフェルに連行され、はな はビビの救出を願うなら2回目の魔界への招待を受ける。

そしてビビが無力だったのは、魔王からの不意の一撃を受けた後、近くにいた はな の存在があったためビビは反撃しなかったからだ。そのことを はな は理解している。だから自分の存在がビビの苦しみを大きくしてしまったことに はな は苦しむ。

魔王が はな を魔界に呼ぶのは、はな の血をビビに飲ませたいから。そして はな を思い通りに行動させて、同時に自分の願望を叶えさせようとしていた。
人間の血は悪魔にとって強力なエネルギー源であるため、早期の回復を願うなら はな の血は役に立つ。それを知った はな は当然、魔界行きを選ぶ。
魔界に到着した後、はな は1回目の魔界訪問時に会った少年が実は魔王の化けた姿であることを知る(『3巻』)。

そして はな はビビに血を捧げようとするが、その前に魔王は はな に ひとつ約束をしてもらうのだが…。