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少女漫画と小説の感想ブログです

傷つけ合うことでしか保てない絆があることに、君は気づいているかい?

悪魔とラブソング 6 (マーガレットコミックスDIGITAL)
桃森 ミヨシ(とうもり みよし)
悪魔とラブソング(あくまとらぶそんぐ)
第06巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

マリアが聖カトリア時代の唯一の友達だと思っていたあんな。しかし、あんなの本心は「マリアといると苦しかった」…。辛い事実を受け止めたマリアだが、クリスマスを前にあんなから衝撃の告白が…。マリアの生い立ちと過去に迫る第6巻!!

簡潔完結感想文

  • フェアなラフプレイ。本性を曝け出したから遠慮はいらない。反則上等。
  • 告白。誰かに好きだと伝えられる自分になりたかった。結果は関係ない…。
  • 2巻連続 突き放し。本当の友達の証として聖痕を残しなさい(物理的に)

跡を起こすことでマリアの神性が顕現する 6巻。

今回でマリアは2つ目の「聖痕」を得る。

右の手のひらに続いて、左手にも現れる「聖痕」。
作中では、これは友達の証なのかなぁ。

奇跡ではなく、どちらも同性から受けた暴力ですが…。

右の時は亜由(あゆ)の怒り・暴力から甲坂(こうさか)を守るために(『2巻』)。
そして今回は申利(もうり)あんな の中にある悲しみを わざと引き受けた。
どちらも大切な人を守りたいから ついた傷だ。

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あんな は加害者でありながら、マリアが身を挺して守りたい人でもある。聖痕は その証。

「由」「甲」「申」、永遠につづく きずな を意味するマリアのクロスと同じ字を持つ「申し子」たち。

この2つの傷が彼女と世界の きずなを証明するのだろうか。
人の世の罰・間違いをマリアが一身に引き受ける、という意味だろうか。


本書ではマリアが神のような存在なのか。
だから「申し子」たちは、神の一部の字を持つのかな、などと思っていたが、
この作品には、神そのものがいることを思い出す。

それが神田 優介(かんだ ゆうすけ)。
日本だと一般的な苗字だが、改めて考えると神が名前に入っているって凄いことだ。

そう考えると、神田こそが神っぽい。
人の世を(クラス内を)明るく保つにムードメイカーで、
一瞬で物の見方を変えてしまう「ラブリー変換」という奇跡の力を持つ。
そして、この巻のラストの行動など、まこと慈悲深い。

恋愛に憶病・奥手なのも、俗世に介入しないのも神だからかもしれない。
目黒 伸(めぐろ しん)とマリアの恋愛も一歩引いて
微笑ましく ご覧になっているのかもしれない。

しかし相変わらず神田は表紙になると美化150%って感じですね。
金髪・碧眼が異邦人に見えるのかな。
いや、これが神の神々しさなのかもしれない…。


めて腹を割って話したことで、
新たな関係性へと変化したマリアと あんな。

マリアが信じたかった あんなの姿よりも、
目黒が見抜いていた あんな への不信感は当たっていた。

目黒はマリアの過去に因縁のある人だから、あんな を注視し警戒しており、
だからこそ あんなの表層的な態度や友情を見破っていたのだろうか。
これは目黒の対マリアの特殊能力だ。

もしかしたら本書における能力の源泉は、
他者への愛なのかもしれない。

そこから類推するとマリアは愛をもって人をよく見ているという証拠か。
これは聖(セント)カトリアの時には無かった能力なのかもしれない。
人を知りたいという彼女の欲求が第六感を目覚めさせたのだろうか。


かし肝心のマリアは、人生で初めての友に舞い上がって
あんな との距離感を誤り、それが彼女を苦しめていたことを知る。

そうしてマリアは、その失敗を目黒への想いにも適用してしまう。
独占欲や執着を失くすよう自分に課してしまう。

友情と同じく初めての恋だから分からないことが多すぎる。
でも友情と同じ失敗は繰り返さないよう心に決めてしまい、
初めての恋なのに自制しすぎている。


戦布告をして口火を切った目黒を巡る女性同士の争い。

恋愛漫画としては、目黒の想いも明確になっているので決着はついている。
あんな もそれは重々承知だろう。

だから あんな は目黒に対して貪欲に行動する。

そしてマリアには嫌がらせ工作を遠慮なく駆使する。
自分の遅れを取り戻すために。

それが恋敵に対する報復なのか、
マリアへの個人的な復讐なのかは分からないが。

あんな は どうもマリアの好きな人を好きになっている気がしてならない。


あんなの嫌がらせの一環が、
マリアが目黒に送った「好きです」の言葉が添えられたメールを勝手に返信する。

まるでマリアが目黒にメールを送るタイミングまで分かっているかのような あんな の悪行。
もしかしたら これが あんな の能力なのかもしれない。

マリアへの二律背反な気持ちが彼女に恋愛バトルの優位性をもたらしているのか。


ただ、このメールに関しては納得がいかない。

ここで あんな が叙述トリックを用いた犯行の様子を描くのは分かるんだけど、
んーーー、そもそもマリアってそんな大事なことメールで送るかなぁ?という
根本的で大きな疑問が湧いてくる。

「愛の告白は相手の目を見て気持ちを込めて言わないと意味がないぞ」
いや、ラブリー変換で、
「告白に照れる顔も可愛いんだぞ♥」だろうか。

…などと思ったら、神田も同じことを言っていた。

しかし直接 想いを伝えようとしないマリアの態度に神田が告白(2度目)。

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芝居の中でも君に好きと言えるのなら…。芝居の中に逃げ場所があるのなら…。

自分の告白に対して、うれしいか?という神田の問いに、
「好きになってもらえて うれしくないわけが…」と答えるマリア。

今回も神田は自分の告白を芝居に変換して、彼はマリアを奮い立たせる。

目黒の気持ち、自分の叶わない想いを痛いほど知っている神田なら尚更だろう。
そして2人が両想いになれば自分の胸の痛みも引くのだろう。

利他的でありながら利己的、神田の神様は苦しい恋をしている。

こういう神田の深層心理の動きも以前のマリアなら一発で見抜いていた気がする。
が、やはり自分の恋愛に関しては能力が発動しないのかな?

マリアが ただの恋する、ちょっぴり臆病な少女漫画の主人公になっているなぁ…。


が、直接目を見た告白にも目黒の答えは同じだった。

ここは読者の予想を裏切る展開ですね。
そして この恋が成就するのはだいぶ先になりそうだ…。

なぜ目黒はマリアの告白を断ったのか。
その裏には、目黒とあんなが交わした ある会話・筆談があった。

それはマリアの過去、マリアの出自に関わるものだった。

なぜ彼女は一人暮らしなのか、その謎の一端が明かされる。
この物語は想像よりだいぶ重いものになりそうだ…。

マリアの過去によって目黒はマリアを抱きしめられない。

自分の気持ちを押し付けて抱きしめればマリアは過去を、
自分の母親の自死に深く関わっていることを思い出してしまう。

だから何も手を出さないようにする。
少し離れて見張るように見守ることが目黒の愛なのだろう。

合唱コンクール編」で恋のベクトルが互いに近づき、
「あんな編」で目黒が偽りのベクトルを反対方向に伸ばし、
最終回までに お互いの方向を修正するという感じでしょうか。


しかし、あんな はなぜ見てきたようにマリアの家庭の事情に詳しいのだろうか。
マリアは記憶を失っているので、彼女から聞いたという線はない。

一応、全てがでっち上げではない証拠はある。

それは当時の雑誌の記事。
相手が米海軍兵ということもあり、その当時事件となったという。


好きな子の本当に汚れた過去を知っても目黒は自分の気持ちが揺らいだりしないんですね。
簡単に人を好きになるけど、簡単に嫌いにもなれる10代の恋愛。

そんな中で目黒は彼女の騎士になることを選んだ。
なんという忠誠心だろうか。さすが「申し子」。

マリアは今回も目黒の中にある隠した気持ちに気が付かない。
恋が彼女の能力を鈍化させているのか。
こういう普通の物語が、切れ味が鈍ったように思わせられてしまう。

もっと建前を一思いに切り裂く言葉のナイフのような鋭さ、
そして そこから本音が出る偽りのない叫びが売りだったのに。

なんだか ずっと隔靴掻痒です。
必殺技を封じられて、決着が付かないバトルを見せられている気もする。


思っていたら、音楽教室の一幕でマリアの能力が久々に発揮される。
音楽教室で あんな と関わる男女の本質を代弁してしまう。

能力自体は失われていないようですね。
ただ書き言葉の あんな と、恋愛が絡む目黒には効力が弱まっている。

その音楽教室の一角で、再びマリアは あんなと本音をぶつけ合う。

そこで初めて語られるマリアの退学理由。
「あんなに対するいじめをシスターが隠蔽しようとしておもわず殴ってしまった」らしい。

だが、そのマリアの行動をあんなは憎んでいた。
なぜならマリアが行動を起こすまであんなは自分がいじめられている認識がなかった。

ここでもマリアは「悪魔の鏡」になってしまったようだ。
彼女があんなのためにした行動で見えてきたのは、孤独で可愛そうな あんなの姿だった。

マリアは露悪的に あんなを罵倒することで謝罪をする。
これは「ラブリー変換」ならぬ「ロンリー変換」だろうか。
「デビルー変換」でもいいわよ♥

『5巻』のラストといい、女性同士に容赦がないことが清々しい。
徹底的に傷つけて、そこから再生する関係に注目したい。


でも何でもかんでも悪魔に例えすぎ。
そして その反対を天使にしすぎ。
ちょっとチープである。