音 久無（おと ひさむ）
花と悪魔（はなとあくま）
第07巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
魔王の思いつきで始まったペア対抗鬼ごっこ。魔王を追いかけ参加者が走り回る中、突如地底の穴が出現！ 穴に吸い込まれそうになるエリノアを助けたのは婚約者候補のヴェルンハルト男爵ではなく、フェルテンだった！しかし、喜ぶはなの足元にも地底の穴が出現して──!?
簡潔完結感想文
- 大切にしたいから遠ざける、という作者の中の格好いい男性の行動の3回目。
- 恋心のリセット機能は解除されたが、悪魔の囁きで今度は自分で気持ちを封印。
- この胸の高鳴りを知られないように、彼に触れられるのは雷の音が響く時だけ。
最悪の事態に陥るまで動かない意気地なしたち、の 7巻。
どうにも本書は不必要な遠回りをしているだけのように感じられて爽快感がない。作者が丁寧に2人の距離を縮めているのは理解できる。最初は種族の違いからビビが はな に手を伸ばすことが出来なくて、続いては2人で一緒に暮らすことを貫く難しさが描かれている。この『7巻』では はな のビビへの気持ちが父兄的なものではなく、異性への恋心だと明確に自覚し、その想いの成就が難しいため彼女の方から手を引っ込めている。2人が互いを大切に思うからこそ呼吸が合わない切なさが生まれている。
それは分かるのだが、結局 根本に存在するのが彼らの自己愛や自己保身のように見えるから素直に感動できない。初期のビビは自分が はな に冷たくしてから、それをフォローするためにヒーロー行動に出ていた。そこからも なかなか素直な言葉を言えないまま、魔王・ルシフェルなどの介入があって、2人に危機的状況が訪れてから ようやく相手に大切な言葉を伝えている。あっという間に言葉を伝えては物語にならないのは理解できる。特に白泉社は恋愛成就をどれだけ後半に持っていけるか、が勝負みたいになっているから、色々と理由をつけて想いを伝えない状況を工夫する。でも彼らが雑音ばかり気にして、素直にならない時間が長すぎて苛々してくる。ピンチにならなければ動き出さないヒーローは本当に格好いいのだろうか、と思ってしまう。一度ぐらい全力疾走して汗だくになっている格好悪い彼らの姿を見たい。
ワンパターンを強く感じるのは作者の男性の描き方。ビビ・桃（もも）・フェルテンと一番 大切な女性を守るために自分が身を引く、みたいな美学があるのだが、3人とも同じで飽きる。
特に今回のフェルテンは浮気を正当化するために自分の中で純愛を作り上げているようにも見える。そして勇気の出なかった自分を棚に上げて、自分が心を決めたら、エリノアを自分の所有物のように語るのが勘違い男のようで嫌だった。エリノアが自分に惚れているということを担保にした浮気で、結局、彼は同じことを繰り返すに違いない。いわゆる「メリーバッドエンド」に思えた。桃はともかく、身勝手な男に振り回される女性の受難のように思えてならない。
魔王・ルシフェルのビビへの嫌がらせシリーズも辟易する。私は魔王が登場してから物語がつまらなくなった。そもそも魔王登場1回目に最終回みたいなことをしているので、それ以後のイジリが面白くない。ギャグに特化している作品でもないから、どれも似たような話になっている。魔王という上級存在にビビが抑圧される展開が続くから、読者の心にもストレスが生じる。太陽のない魔界の展開はスッキリしない空模様が続く。
ビビに魔王を撃退する力がないため、彼がヒーローとして中途半端な立ち位置になってしまう魔界編は さっさと終わらせて欲しい。この14年間と連載初期は平和だったのに、どうして こんな笑えないパワハラを読ませられなくては ならないのだろう。魔王 嫌いだわー。
学校に通い出したのに、学校に通えていない はな。彼女は再び魔界にいる。初回こそ異世界にきた というワクワクがあったし、人間が入るべき場所じゃないという緊張感もあったが、もう慣れた。はな（人間）に本当に悪意を向ける人はいないので飽きがくる。
魔界では本来の目的であるフェルテンとエリノアの他に、各所で恋の鞘当てと、最高位の悪魔の戯れが見られる。
魔王の考案した鬼ごっこの最中にフェルテンとエリノアの回想が挿まれる。彼らは許婚であり、幼なじみであって、兄妹のように育った。だからフェルテンは彼女を大事にしてきたし、彼女を穢さないように距離を置いてきた。これはビビに対する はな の思いや距離感と似たところがある。プレイボーイは本命の子には手を出さない、という少女漫画のモテモテ男性キャラの純情も見え隠れする。
そしてエリノアを特別視するあまり、フェルテンは彼女からの好意に幻滅する。だから彼女の気持ちを無視して感情を忘れろと言ってしまう。蛙化現象だろうか。
エリノアにとってフェルテンはダメなところ以上に好きなところがある人。彼女は幼い頃からずっとフェルテンに守られて生きてきた。
2人の歩みを聞いた はな から背中を押されてもフェルテンはエリノアに近寄ろうとしない。
その膠着状態を破るのは魔王。鬼ごっこの参加者たちが、最近 魔界で頻発する地底の穴に引き擦り込まれる危機に瀕してると聞き、フェルテンはエリノアのもとに走る。女性が絶体絶命のピンチにならないと動かないのが本書の男性たちである。
それにしても この場面、大変 分かりにくい。2組の男女が同時に互いを繋いでいる鎖を切るのだがエリノアの髪が黒塗りされていないので、はな が突然 穴に落ちているように見える。もっと最適なコマ割りや描き方があったのではないか。
こうしてフェルテンは自縄自縛の鎖を解き放って、エリノアの手を取る決意を固めた。鬼ごっこも魔王が はな のピンチを助け、そのまま はな が魔王を捕まえる形になり終了となる。フェルテンはエリノアの新婚約者を脅迫して、彼らの関係性も決着を見せる。これがエリノアにとって初登場以来の最初で最後の個人回となるだろうか。初期キャラなのだから もうちょっと活躍させてあげて欲しかった。
魔王は はな に褒美を与えようとするが、これもビビへの嫌がらせの一環か。でも彼らは鎖を切っているから失格ではないのか？と思ったが魔王は それをルールの盲点とする。後付けのような気がしてならない。
褒美のために のこのこと魔王の部屋に行き、しかもベッドに座る はな にはイライラする。時代設定もあるし、はな は悪魔に教育を受けたので本当に知らない可能性もあるが、はな を男を振り回す小悪魔のような描き方にしているのには首を傾げる。もしかしたら この後の展開との対比なのかもしれないが。
魔王は褒美としてモーリッツに奪われた はな の恋心と記憶を彼女に戻す。そうして自分の「はな様」としての蛮行を思い出し はな はビビに謝罪する。これでやっと はな は芽吹いた瞬間に刈り取られた恋心を自分の中に取り戻し、ビビに近づく女性たちへのモヤモヤが やきもち だと理解する。
恋心のリセットも終わり、ここから ようやく想いを重ねるターンとなる。だが ここでも差し出された手を掴まない、という作者のいつものパターンが発生する。
はな はビビが自分を女性として見ていないことと婚約者がいることで、恋人になれない未来を確信し、差し出された手を拒絶する。そして自分の気持ちを今度は自分で封印することにしてしまう。
そんな はな の心の推移を見て取った魔王は彼女を連れ、魔界が見渡せる塔の上まで歩く。そこで魔王は はな に近く魔界をビビが統べることを伝える。2人の棲む世界は違い、その恋は叶わないことを告げる。はな は魔王にビビへの気持ちの封印は一緒にいられなくなる恐怖に負けたからだと見抜かれる。こうして臆病になった はな はビビから避けるように魔王の陰に隠れ、それがビビの不興を買うという悪循環が生まれる。全ては魔王の手の上の出来事に思えてならない。
この日は魔界に一泊することになり、ビビは有無を言わさず はな と同室にする。だが恋心に目覚めた はな はビビと同じベッドで寝ることが出来ない。身体の接近は自分の胸の高鳴りを彼に教えてしまう恐れがあるから。
念願だった一緒に寝る、という夢を泣く泣く諦めなくてはならなくなった はな。だが魔界の雷が鳴り、はな は いつものようにベッドの下に避難し、そこをビビに捕獲される。今なら胸のドキドキは雷の恐怖に変換してもらえる。これが最初で最後の一夜だと はな は決めていた。
翌朝の はな は表情が少し大人びて見える。それは諦めることを決めた女性の顔だからだろう。もう はな はビビに無邪気に手を伸ばすことを選ばなくなった。
ビビは はな が自分と距離を取ることに気づき、苛立っていた。周囲は はな の変化が何によるものなのか分かるが、ビビは女心が分からない鈍感ヒーローなので自分の機嫌を悪くするだけ。
しかも はな は休日を利用して学校の仲間たちと旅行に行ったと初めて聞かされる。
いきなり ろくに通っていない学校の友達と旅行回が始まる。新キャラ・椿（つばき）はお金持ちで別荘を持っているという。白泉社作品は別荘持ちの確率が高すぎる。でも椿と仲良くないままだから旅行回のためだけに彼女が利用されているようにも見える。
その旅行では はな と桃の迷子が発生する。更に雨に降られたため2人は近くの教会に避難する。豪雨に加え雷が鳴り、はな は縮こまる。そんな彼女に手を差し出して桃は恐怖を軽減させてあげようとする。ビビの手は握れないが、桃からの手は握れる。この辺に異種族と同族の壁を感じる。ビビへの恋に未来が無くなれば、桃が当て馬復活するのだろうか。
その頃、別荘では2人が帰らないことを心配し、保護者役として同行していた菖蒲（あやめ）がビビの屋敷に電話を掛ける。ビビは それから数分で別荘に到着。豪雨の中、はな のために文字通り、一目散に飛んできた。そしてビビには はな の現在地が分かる。かつて贈ったネックレスに魔術的GPSが搭載されているようだ。
はな と並んで手を繋ぎながら座る桃は、彼女にビビへの想いを聞く。だが はな は気持ちに蓋をすると決めており、ビビを好きじゃないと叫ぶ。それをビビが聞いてしまう。それでもビビは はな を強制連行して屋敷に連れ帰る（飛んでいると雷に打たれそうで怖かった）。しかし はな は事情の説明もビビの接近も全て拒絶する。少しでも彼への好意を見せれば関係性が終焉してしまうと考えての黙秘だった。
だがビビは彼女に近づくことを止めない。はな にキスをして、文句を言うために魔王城に乗り込もうとする。また魔界か…。
