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紅茶同好会と お茶会同好会。似て非なる2つの同好会の2つの お茶会イベント と 2つ目の願い。

紅茶王子 第6巻 (白泉社文庫 や 4-14)
山田 南平(やまだ なんぺい)
紅茶王子(こうちゃおうじ)
第06巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

新入部員獲得のための野外お茶会は大盛況で大成功! 部員獲得も夢じゃないと思ったのも束の間、美佳が生徒会執行部に誘われ副会長に立候補!! しかも、入部希望者だと思っていた熊笹くんが謎の動きを見せ始め、お茶会同好会は大ピンチに!? 解説/石堂 藍 2007年1月刊。

簡潔完結感想文

  • 生徒たちは弱小同好会が協力し、紅茶王子たちはペコーやホンも初参加のパーティー開催。
  • 新入部員候補に浮かれていたら敵対勢力で、しかもオリジナルメンバー流出危機で部員減!?
  • 部員を増やすことはリスクを増やすこと。結局 紅茶王子を呼べない人間は作品にも選ばれない。

校2年生の1月で物語の折り返し地点となる 文庫版6巻(TSP.66~78)。

本書は文庫版だと全12巻の長さであるため、この『6巻』終了時点が ちょうど折り返し地点となる。高校2年生の11月を描くのに現実時間では2年費やしたらしい(苦笑) 人気作になればなるほど時間の流れがゆっくりになる「漫画相対性理論」の お手本のような現象が起きている。ここから更に時間の流れは緩やかになっていくのか。

タイトルにもしたが この『6巻』は2つの お茶会イベントで占められている。この時点での見解なので間違っているかもしれないが、何となく新入部員獲得を目指した奈子(たいこ)たち主催の お茶会イベントと、それを諦めることにした第三者の お茶会イベントという印象があった。
これまでも指摘してきたが、本書は弱小同好会である お茶会同好会の ちょっと非日常な毎日を描いたものである。同好会から部への昇進を目指すためには新たな部員が必要で、その獲得のために様々な活動をしてきたが、その実、この作品自体が新入部員を拒否している。新しい紅茶王子の出現は歓迎されても、今更 紅茶王子が見えない一般人の参加など読者も喜ばないだろう。だから受験する気もないのに受験勉強をするふりをするような そんな虚しさが常に まとわりついていた。
その作品が抱える矛盾に上手く決着をつけたのが『6巻』なのかな、と思った。奈子が自分の目指す同好会の形態を明確に定めたことで、これ以上は結果の出ない/出すつもりのない努力をしないのではないか(そうであって欲しい)。

それにしても作者は真面目だと思う。どんなイベントでも(合同体育祭のような大きなイベントでも)必ず お話の中に紅茶を出している。連載も この辺りまで来れば人気は不動で、作品がどんな風に形態を変えても読者は ついてくるだろう。それでも生真面目に紅茶を扱っている所を見ると、作者は紅茶王子なら「ひとくせあるけど誠実な」ホンムータンに似ているのかなと考えた。いや「真面目で繊細な優等生」のダージリンだろうか。アッサムやセイロンではなかろう。

ただ 紅茶や新入部員、イベントに固執するあまり2つの似たようなイベントが続いて既視感を覚えた。人間の新キャラは今後、物語への関与度が低そうというのも興味を引かれない部分である。
勿論、作者は色々と工夫をしている。上述の通り、他者の お茶会を体験することによって奈子の考えが明確になっていた(他者に全部 指摘されていたが…)。そして1つ目の お茶会では同好会の枠を超えて全紅茶王子が初めて主催者側に回るという新しい展開も見えた。部外者になりがちなオレンジペコーや、イベント初参戦のホンムータンなど これまで以上に賑やかな場面となっている。そして2つ目のイベントでは新入部員どころか部員の減少の危機、そして何よりアクシデント的に起こる そめこ の2つ目の願いなど ちゃんと見どころを用意している。

それでもなお、2回の文化祭などで見た内容と重複する部分は多い。何より学校内に舞台が限定されているから代わり映えがない。いよいよ倦怠期に入りかねない状況だ。登場人物も勢ぞろいするような円熟期に入り、居心地が良くなってしまった この世界に紅茶王子も作品も どういう一手を打つのか楽しみである。


庭での お茶会の準備が進む。この辺は文化祭回などで お馴染みの描写である。それでも今回は過去とは違う場所と趣向なので、重複は少なめである。上述の通り、紅茶王子全員が前に出るというのも楽しみの一つで、彼らのコスプレ姿も目で楽しい。

今回は文化祭で交流があった日曜大工研究会や園芸部、演劇部に続いて新しく家庭科部の協力も得る。こういう奈子たちの積極的な活動、そして横の連帯が生まれることで、文句ばかりだった弱小部に変革があったというのが生徒会長の見解。紅茶王子が魔法を使わなかったように、生徒会も弾圧による圧政をしなくなっている。どちらも その中心に奈子がいる。本人は無自覚だろうが。文科系部活の人たちとの交流が広がる展開はアサダニッキさん『青春しょんぼりクラブ』を思い出す。

そして こういうイベント初参戦のホンムータンの活躍の場も作られている。怜一が差し入れた中国茶器を使ってホンムータンが お茶をいれることになる。怜一の中ではホンムータンは中国からの帰国子女という認識らしい。こうして本格的な中国茶をいれるシーンは作品内で初めてか。


茶会同好会の宣伝が第一で人を呼び込むのが目的の割にテーブルは1つの1組限定。作ったテント型の広さが限られているということもあるだろうが、これでは効果は低いような気がする。ただ これが奈子の目指す お茶会のスタイルであることが後半で明らかになる。

この回ではアッサムが奈子のメイド服姿を何度も褒めている。遊園地でのリップも褒めてたし着飾れば可愛いのだから着飾ってよ、というエール&お願いにも聞こえる。

当日の忙しさに文句の多いセイロンに対し、アッサムは本国に帰れという。イレギュラーな存在で本来はアッサムの帰還を目的としていたのに、それを失敗しても居座っている。こちらの世界にいる限り、セイロンは人間から呼び出されることはない。アッサムが美佳(はるか)のヒモなら、セイロンはニートだろうか(笑) そして本来は仕事を効率的にこなす「仕事好き」のセイロンが こちらの世界に居続けるのは居心地がよくなっているからだとアッサムは指摘する。
だがアールグレイはアッサムに居心地の良さに慣れ、2つの国を分けて考えなくなると抜け出せなくなることを忠告する。どんなに楽しくても別れが潜んでいるから本書は いつも夕暮れ時のような切なさがある。

この回で生徒会長と元・園芸部部長のヒゲゴリラ がイトコだということが判明する。前から顔見知りっぽい雰囲気と、時には恋愛感情とも読み取れる雰囲気があったが、今現在の関係性としてはイトコだという。『6巻』では彼らの過去や関係性に焦点を当てた番外編のような話が用意されているが、この2人の関係は もうちょっと描いて欲しかった。多くの登場人物で、色々と伏線や気になる部分があるのに、それを無視して一定の結末に持っていくばかりの最終盤になってしまったからなぁ…。特に先に卒業しちゃった この2人は描くタイミングが難しかったのだろう。

最後のお客さんはケビン先生、そして怜一、さらにはアッサムの父親まで登場する。アッサムの父親は、過去の息子の派遣先のことを覚えていたらしく、ケビンとの別れの際はアッサムが泣いて帰ってきたと暴露する。

この3人の紅茶は怜一の身内である奈子がいれるようにアッサムが指示する。緊張で硬直する奈子に対し、アッサムは久々に魔法を使う。そして以前 奈子自身が言っていたことを繰り返し、彼女の緊張を解く。久々の魔法の発動だが これにも意味があることが公判で判明する。

主人でなくても願いごとでなくても 目の前の人間の悩みや悲しみを少しでも軽くしたいのがアッサム。

うして一つのイベントを終えた奈子たち。休日に片付けのために登校する。片付けにも協力してくれた部活・同好会の人が参加してくれる。この時、奈子が語ることは本書を通しての作者の考えに通じるのではないか。「色んな人に紅茶って おいしくて簡単で楽しいよって知ってもらえたらなって」。

その片付けの現場に現れるのが この学校の高校1年生・熊笹(くまざさ)。彼は半月前に茶道部副部長をやめたという。これは新入部員としての加入が期待されるが、美佳もアッサムも彼への印象が良くない。そしてオレンジペコーも彼への印象が悪い。あのセクハラ男の朝比奈(あさひな)と一緒で、紅茶王子組が直感で嫌な印象を持った人間は作品の敵となるのか。この辺は ちょっと紅茶王子の好き嫌いを神のジャッジのように使用している感じを受ける(セイロンの新入部員候補の排除なども)。そして神に選ばれたのは奈子たちという特別待遇が鮮明になっていく。
作品としては熊笹が どういうスタンスなのかを見極めるのも読者を引っ張る力となっている。

この回では非力なアッサムが奈子をベッドに連れていくために魔法を使用して、やっぱり奈子のための魔法が解禁されている。


んな話題の人物・熊笹は講堂を使って野点(のだて)風の紅茶イベントを開催しようとしていた。そして もう1つ、彼は独自に同好会を発足させようとしていた。しかも それが紅茶同好会。その発足を前にして紅茶イベントをしようとしていたのだ。

一方、美佳は生徒会の副会長に推薦されようとしていた。ただし お茶会同好会が部への昇格を見届けてからでいい、というのが生徒会長に立候補しようとしている堀内(ほりうち)の美佳の都合を優先する考えだった。堀内が見込んだのは美佳の顔の広さや実務力だろう。

こうして入部希望者だと思っていた熊笹は敵対するような行動を取り、そして その上、お茶会同好会は発足メンバーの美佳が離脱の危機を迎えていた。どちらも同好会への大ダメージは必至である。

熊笹は政治力を発揮し同好会の発足、そして活動場所や顧問の教師も既に確保していた。そのためには人によって態度を使い分けるし、そして朝比奈のように母が死にそうだとか死んだとか嘘をついて人の同情を買おうとする。やっぱり悪い人のように描かれている。奈子は自分の信念と似ているようで違うという熊笹の理念を確かめるため、彼のイベントへの参加を決意する。


佳が生徒会入りを考えているのは猪突猛進タイプの奈子を広い視野で見守るためだった。これまでは ほんの少し同好会に肩入れしてくれる生徒会長がいて、その横にはペコーがいたので情報が漏洩しやすかった。でも来期からは生徒会長は確実に交代する。そこに美佳が副会長として潜入し、奈子に不利な事態が起きないか監視、対策を練るというのが彼の考えだった。
そして同好会内で奈子の軌道修正するのはアッサムの役目だと美佳は言う。内側と外側、2つの視点で1人のヒロインを守るという特別体制である。もしかして美佳は奈子の人生に直接かかわらないつもりなのだろうか。これは奈子のそばにいる役目を美佳からアッサムにバトンタッチしているようにも思える。想いを告げずに外側から見守ろうというのか。当て馬としての活躍も させてもらえないのか。

だがセイロンが本国への帰還を考え始め、それに乗じてアッサムの父親が本来の目的であったアッサムの帰還も画策しようとしていた。美佳が身を引いて、アッサムが送還されたら奈子はヒロインじゃいられなくなってしまうではないか…。


月の夜、熊笹紅茶王子を呼び出す儀式をしようとしていた。葛藤の末、自分の同好会を守るために それを阻止しようと熊笹のもとに駆け寄る奈子。夜中の紅茶への奈子の疑問に彼は この儀式は奈子の父親から教えてもらったという。奈子の父親が健在の頃に、熊笹は彼がマスターをしていた喫茶店の常連だったらしい。そこで紅茶の精の呼び出し方をレクチャーされた。その頃は永久欠番らしいダージリンを呼び出そうとして失敗。そして今回は人間界にいるセイロンで呼び出せなかった。それでも紅茶の精を想像し、そして奈子の父の教えを考えることで、彼の心は穏やかに保てているという。

しかし そんな彼が部室で気を抜いて姿が見えるモードのセイロンたちを目撃してしまう。その直後に部室に入ったホンムータンによって一時的に眠らされた熊笹。そこでホンムータンは そめこ に この記憶の消去を2つ目の願いごとにするかの選択を迫る。
近頃 忘れられていた願いごと制度が意外な所で顔を出す。そして そめこ にとっては2つ目というターニングポイントになってしまった。様々な思いが駆け巡っただろうが そめこ は2つ目の願いごと として熊笹の記憶を消す。それは この同好会・紅茶王子の現状維持を願ったからだろう。それは自分だけの願いではなく公共性の高いものである。

そして これはホンムータンの「仕事」に対する姿勢でもあった。『6巻』で見られた通りアッサムやアールグレイは奈子たちのために、願いごとの外で魔法を使う。だがホンムータンは魔法は願いごとの中で使うべきだと思っている。確かに召喚されてからホンムータンがパチンと気軽に魔法を使う場面は ここまでなかった。
だがホンムータンのやり方は時に主人に心からの願いではなく、今回のような緊急事態で自分にメリットが あまりない願いごとも使わせてしまう。そめこ は不測の事態に混乱する。特に彼女は叶えたい願いを夢見心地で考えるような人だろうから、大事な願いの一つを奪われた形になったことに涙を流す。

セイロンも自分の責任は認めつつ、部員が増えると これまでのように紅茶王子と一緒の空間に過ごすことは限定されていくことを知らせる。皮肉屋の彼が戻って来たようだ。これは本国への帰還を決めた彼が同好会の人々と再び距離を取ろうとしているという心境の表れか。

本書で初のホンムータンの魔法。しかし これは催眠術のようなもの。これ以上は「願いごと」が必要。

間をおいての後日、奈子は そめこ と2人だけで出掛ける。同行しようとするホンムータンを押しとどめ、昔のように2人きりで女同士の時間を過ごす。そして お互い何かに怯えながら幸せな時間を過ごしている。献身的なアッサムや、寛容なアールグレイに比べるとホンムータンは誠実すぎる。その違いが2人の違いにならないように寄り添うことを確認した。

そめこ が この日の最後に熊笹の お茶会のためにプレゼントを選ぶのは、彼女の中で心の整理がついたこと、熊笹を責めないという心境の象徴なのだろう。


うやら予想以上の来客が見込まれるため熊笹は奈子に助けを求める。だが来客が2つの同好会を混同しないように奈子は一線を引く。それが黒子。紅茶王子に黒子の衣装を着せて、彼らの容姿を隠す。そして女王様の奈子は優雅にお茶を飲むという理不尽な身分格差が生まれている…。

この お茶会で熊笹は自分の考えと奈子の考えの違いを発表する。簡単に言えば熊笹は不特定多数に、そして奈子は特定の少人数での お茶会を目指すというもの。熊笹は その違いを理解しているから奈子たちの同好会には入らない。それは彼なりの お茶会同好会への敬意であろう。自分の目指すものとは違うから別の場所を作る。敵対行動のように見えるが、棲み分けをした結果だろう。
だから奈子がしたように自分の理想を体現できる同好会を立ち上げようとした。熊笹は賢いなぁ。入ってから文句を言うのではなく、入らないで奈子たちの活動理念を しっかり理解している。もし熊笹が単純な人なら、自他の考えの違いを理解できず、先輩は間違ってます!と『1巻』生徒会長の妹・皐月(さつき)のような波乱が起きていただろう。

ただし熊笹問題が片付いても美佳の問題が残っている。

こうして長かった1年が終わる。少女漫画において一番 長くなり現実時間との差が激しいのが高校2年生だろう。あと3か月の作中の高校2年生にリアルでは何年かけるのだろうか…(苦笑)