《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

その人が一番 輝いている時を見逃さず、惹かれてしまう、そんな君の心もまた美しい。

青春しょんぼりクラブ 1 (プリンセス・コミックス)
アサダニッキ
青春しょんぼりクラブ(せいしゅんしょんぼりくらぶ)
第01巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

好きになった男子がことごとく自分の目の前で彼女を作ってしまうというジンクスを持つ少女・桃里にま。そんな彼女が入部した“クラブ”は「他人の恋愛を観察・研究する」という、ちょっと変わった部活動で!?すべての恋愛負け組に贈るニュータイプ・ラブコメ!!

簡潔完結感想文

  • 3回の短期連載が全73回の超長期連載に。文科系部活の青春群像ラブコメ
  • 主人公は当て馬体質。両想いから一番遠くにいるので彼女の春は遠すぎる。
  • 女装男子にアニオタ、理事長の娘と個性豊かなメンバーとの部活モノ漫画?

ばし しょんぼりしても また すぐ立ち直るのが青年の心理の強靭さ、の 1巻。

元々は3回の短期連載だった作品。
短期連載では 主要キャラが3連続で失恋して しょんぼり するという内容。
これが人気を得て連載化、最終的には全73回+αの超長期連載となった。

この長編化で起こった面白い現象が、主人公の とある設定により、
彼女の恋愛成就が果てしなき道であること。

本書の主人公・桃里(ももさと)にま は、
「好意を抱いた男子は ほぼ100%の確立で 主人公の目の前で彼女ができ」る、
究極の当て馬体質の持ち主というユニークな設定。

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特異体質を見込まれて校内の部活(?)に勧誘される。群像劇といい白泉社っぽい始まり。

この体質を見込まれ、舞台となる学校の「青心研」こと「青年心理研究会」に目を付けられた にま。
この会は、恋愛を観察し記録し整理し分類し、
さらに興味深い対象は手元に置いてさらに仔細に研究するが目的だという。

当て馬体質で、かけがえのない友達や先輩に出会えて、彼女の青春は輝き始めるのだが、
恋愛に関して言えば、彼女は成就から一番 遠いところにいるのは間違いない。

何と言ってもメタ視点の用語である当て馬体質を自覚するヒロインという前代未聞の設定が面白い。

そして彼女は、もう一つ 巻き込まれ体質であることを自覚していない 。
癖の強い生徒ばかりに目を付けられる彼女が、
荒波にもまれながらも、自分を強く保ち続ける姿もまた 応援したくなる姿である。

しょんぼり しても立ち直る、若き彼らの青春を仔細に記録した物語である。

ちなみに、皆様におかれましては どうでもいいことですが、
このブログ初の4大出版社(小学館集英社講談社白泉社)以外の少女漫画です。


年、2020年に私の中で大ヒットした『星上くんはどうかしている』の作者さんが、
『星上くん』の連載前から連載終了後まで ずっと描き続けていた作品。

序盤から その予感はしていたが、
物語が進むと、群像劇としての面白さが倍増していき、どの登場人物も愛おしくなっていく。
そしてどんどんコメディ要素が強化されていった。
最初から面白い作品だが、本領を発揮するのは作者も読者も登場人物に慣れてきてからである。
中盤以降は1話の中で複数回 笑ったような気がする。
主人公の体質や性格が原因で恋愛自体はなかなか話が進まない部分もあるけど、その不満を笑いが補っている。

全16巻を完読してから再読すると、『1巻』での初々しい彼らの姿を微笑ましく思う。
本書には数多くの生徒が登場することになるが、主に彼らは文科系の部活動に所属している。
ちょっとずつ捻くれた心を持つ者たちが、
人と人の対話を重ねることで、恥ずかし気もなく書けば、友情によって心持ちが変化し、
自分に素直になって生きる様子が清々しく映る。


書が清々しいのは、主だった登場人物たちが皆、信念を持っているからではないだろうか。

例えば主人公・にま は、上述の通り簡単には へこたれない。
会の創設者の三刀屋 依子(みとや よりこ)は、真剣に恋愛を研究している。

そして依子によってスカウトされた2年生男子たちは それぞれに変わっている。
隠岐島 武(おきのしま たけし)は、当たり前のように女装をしている。
彼は人の頼みを断れない。
目の前の人が自分に与える役割を全うしようとする お人好しである。

そしてアニメオタクの残念男子・簸川 諒(ひかわ りょう)は自分の欲望に素直である。
美形だけれど、「徹底した三次元への無関心に興味」をもたれてスカウトされた(『2巻』より)。

彼らは自分のしたいことに全力であるから、例えそれがどんな事柄であろうとも、
そこに人としての美しさを帯びるのではないか。

それは この後に登場する濃いめのキャラたちも同じ。
自分の欲望や使命に忠実なのが分かるから、彼らは憎めない。
彼らのお陰で後半は耳を塞ぎたくなるほど賑やかな学校生活が待っている。


心研の活動は ハッキリ言って下世話である。
生徒たちの告白の場面や痴話喧嘩を覗いては、観察データとして保存している。
この読者も感じる嫌悪を薄れさせるのが、1話目の にま の心の動きだろう。

青心研の活動には創設者・依子の過去体験が起因していた。
彼女の母は 小さいときに 恋人作って出ていった。
だから依子は自分が納得いく答えを探しているのだ。

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青心研の精神的支柱はアニオタ・簸川なのかもしれない。彼が三次元に目覚めた時が会の終焉?

そんな依子の事情を知ってしまったら情に脆い にま は彼女と青心研を否定できない。
だから にま は依子に これからも相談相手になって欲しいと申し出る。
ただし観察者と対象者ではなく、友達として。

こういう にま の真っ直ぐさは好きですね。
互恵関係をしっかり築いている。

そして何より、彼らが恋愛初心者で失恋しか経験していないのに あれこれ言っているから面白い。
この辺は先日読んだ ろびこ さん『僕と君の大切な話』と似た構図である。


品を支えるのは主人公にま の素直さと心の強さだろう。

彼女が どうして当て馬体質なのか。
それは彼女の感覚が非常に優れており、異性の ちょっとした変化に気づくからだろう。

「恋愛がうまくいく直前って いちばんその人が一生懸命になってる瞬間」で
「いつも その引力に巻き込まれちゃう」。

確かに恋愛によって外見が綺麗になったり、生活が生き生きするものだ。
にま は、その場面を逃さず心のシャッターが切れるから、その人の持つ美しさに惚れてしまうのだろう。

更には、連戦連敗というか勝負にならなくても にま は人を好きになり続ける。
そこが凄い。
生き方がポジティブだ。
他人より多く しょんぼり するが、人より多く立ち直っている。
彼女はこの後も自分がどんな目に遭っても、人のことを否定しない。
人間という存在が好きなのだろう。

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簡単に恋に落ちるのは、その人の一番綺麗な瞬間を見逃さないから。名カメラマンに なれる⁉

らく 本書のヒーローであろう隠岐島も面白い人物だ。

序盤の彼の特徴は何と言っても女装姿。
そして彼が人生を費やした女装が、失恋により あっけなく終了するのも特徴だ。

彼がずっと想っていた、男嫌いで有名だったはずの年上の女性が、学園祭に彼氏を連れてきた。
そして うっかり にまが彼氏にトキめいたもんだから、
当て馬体質が発動してしまい、その女性は彼氏にプロポーズする始末。
にまが隠岐島の初恋に 止めを刺したとも言えなくもない…。

ただし、頼まれたら断れない性格の隠岐島だから、
その年上女性から望まれた役割を演じていただけと自己分析するように、これが初恋だったのかも怪しい。
隠岐島が自覚的にする初恋は この後にあるのかもしれない。

ちなみに失恋前の隠岐島が にま に対して
「やっかいな恋しかできないやつには 冷静な他人がそばにいてくれるのは いいもんだ」
と言ったのは、自分と簸川(アニオタ)との関係も指しているのだろうか。

確かに三次元に興味のない人は何を話しても、女装でいても冷静でいてくれるだろう。
ある意味で青心研で一番 観察者に向いているのは簸川なのかもしれない

簸川以外の青心研メンバーが3人とも失恋するまでが短期連載の内容。
確かに しょんぼりした青春であった。
が、彼らには青春を取り戻す機会が与えられる…。


期連載開始の4話目の時点では少し時間が経過しているのか、
「桃里にまは恋の守り神」「お祈りすると恋が叶う」という噂が立っている。

自分を詣でる女子生徒を にま は迷惑に思うが、恋する気持ちは共感するので、
アドバイスができるよう恋愛関係の知識を入れる。
彼女たちに怒りをぶつけるのではなく、こういう人のために動こうという考えが にまの長所である。

だが、しばらく にまが誰も好きにならない期間が長いため、ご利益がなく、
にま への信仰が一転して、自分たち信者が彼女の機嫌を損ねたからだという流れになるのが面白い。
人が寄ってくるのも鬱陶しいが、人が過剰に自分を避けるのも傷つく。
恋をしてもしなくても、にま は心が折れる運命なのか…。


して好きになった相手が自分を好きになる、にまと正反対の人物・三郷 香菜(みさと かな)が登場。
彼女は隠岐島先輩を好きになったといい、執拗に彼を狙う。

仄かながらある隠岐島への にまの恋心が、当て馬体質を発動させるのか、
香菜の能力によって隠岐島は陥落するのか。
どちらであっても この恋愛の結末は一つしかないように思われるが…。

性格的には問題があるし、にまを利用しているのは彼女を信仰していた他の女子生徒と変わらない。
ただし香菜の場合、にま は物理的な当て馬で、彼女を踏み台にして隠岐島への足掛かりとしている。

そういう意味では、にま の人格を認めているし、
彼女の努力と執念だけで恋愛を成就させようとする気持ちのいい人だと言える。言えないか。

新キャラやコスプレ甲子園など色々な話が重なって、『2巻』も大層面白そうである。