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少女漫画と小説の感想ブログです

ネタの枯渇回避と連載継続のために学校イベントが始まり、ボヌール組の出番激減。誰得??

幸福喫茶3丁目 6 (花とゆめコミックス)
松月 滉(まつづき こう)
幸福喫茶3丁目(シアワセきっさ3ちょうめ)
第06巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

潤は『店長おかえりなさい&進藤さんいつもありがとう』パーティーを、ひそかに一郎くんと計画。二人の怪しい行動に進藤さんの心中は…!? 一方、高校では文化祭が近づき大忙しの潤。一郎くんがバイトを始めたきっかけエピソードも必見!!

簡潔完結感想文

  • 一郎がボヌールでバイトを始める経緯が語られる。2年前じゃなくて3年前じゃないの??
  • マフィンは作れるがクッキーは作れない謎設定。進藤の恋の予感と伏線はあるが回収されぬ。
  • 唐突に始まる潤の学校生活。笑顔と しょんぼり顔だけで周囲を動かす潤の王女っぷりは不変。

ロイン・潤がいなくてもボヌールは回る、の 6巻。

まずは謝罪から。ずっと感想文で読みたいのに描かれてないエピソードとして挙げていた、一郎(いちろう)がカフェ・ボヌールでバイトを始める経緯は この巻に収録されています。1回 読んだはずなのに記憶から消えていた。当該箇所は削除し、自分の至らなさを反省せず、今回も辛口感想文を始めます。

『6巻』中盤から驚くべきことが起こる。それがヒロイン・潤(うる)の高校生活の始まりである。これまで潤の高校生活は、男目当てに彼女に近づく同級生を描いた『3巻』しかなかったのに、ここからは高校でのシーンが解禁になる。

これによって初めて潤にも同世代の友達がいることが判明する。これまでイケメンか子供かモデルしか潤に近づくことを許されなかったが、今回から一般の生徒も潤と交流することを許される。ただしボヌールは聖域のようで、学校の面々がボヌールに来店することは まだない。前述の男目当ての同級生は悪し様に描かれていたが、女性キャラもボヌール(進藤(しんどう)と一郎)に近づかなければ、存在を許可されるらしい。白泉社ヒロインの独善にも困ったものだ。

『6巻』から友達解禁は遅いように思うが、思えば同じ白泉社作品の葉鳥ビスコさん『桜蘭高校ホスト部』はヒロイン・ハルヒに ちゃんとした同性の友達が出来たのは『10巻』だった。それまではヒロインの王女の地位を確立する期間なのかもしれない。


のタイミングで潤の学校生活を描くことになったのは、おそらくはボヌールを舞台としたワンシチュエーションドラマに限界が到来したのと、季節イベントを取り入れるために学校という舞台が必要だったと思われる。いきなり文化祭回から始まるのも、お祭り感と複数回に跨ぐ連載ネタが確保できるからだろう。

ただ読者には その舞台転換が唐突に思える。これまで禁止されていた状態だった学校シーンを解禁する理由付けが欲しかった。どうせなら『3巻』で夏休みが終わった際に、学校編を開始して、学校の面々を少しずつ紹介していけばいいのに。一気に7人ぐらいの固有名詞キャラが顔を出す。『6巻』全体では10人以上の新キャラが投入されている。これは単純に画面がうるさいし、頭も混乱する。

登場人物が増えることは、潤の思い通りになる人が増えるということ。ヒロインへの賛美は無限。

夏休み明けを遅くして、それまでに店長をボヌールに帰還させれば、夏休み明けの平日の日中もボヌールには最低限の人員は確保できるし一石二鳥ではないか。どうしても色々とチグハグな感じがしてならない。思いついたネタを投入している感じがするし、伏線や匂わせばかりで一向に物語が進んでいない感覚が離れない。月2回の連載ではネタを作る時間もないのは分かるが、もっと大きな視野で物語を構築した感覚を味わいたいものだ。


変わらず子供ネタの多さ、離婚や死別など片親比率の異常な高さなど同じような味付けのエピソードが多い。(偏見かもしれないが)不幸に見える状態を物語に利用しているだけに見える。

また設定だけでなく、心情的にも似たような部分が多いのも気になる。大切な人の幸せを守るために自分が身を引く、という自己犠牲的な人が登場するのは何回目だろうか。潤が両親の再婚を機に家を出たのもそうだし、子供の進藤が自分の名字を店長の名字に変えなかったのも同じような理由。こうなると作者の好みや癖だろう。私は この味は もう飽きた。


頭は作者大好き子供ネタから。この回から一郎の弟・二郎(じろう)と、安倍川(あべかわ)兄弟の妹・さくら は同じ幼稚園に通っている設定となる。

身体が弱く あまり外で遊んだことがない二郎を さくらが連れ回す。どうやら この幼稚園は園児が自力で帰宅するという2023年からは あまり考えられない設定。平和な地方の街とかでは まだ存在するのだろうか。

彼らの散歩の途中、一郎の学校の後輩女子生徒が彼に近づくため二郎に接近する。それを二郎が毒舌で撃退する。こうして『3巻』に続いて、進藤や一郎に近づく高校生の女性は計算高い設定にして、潤だけがピュアという構図を維持していく。

二郎が初めて、和菓子店・安倍川屋に行き、ここで妹を溺愛する兄の柏(かしわ)、そして一郎が初恋の草(そう)に遭遇する。6歳の頃の一郎に恋をした草は、6歳の二郎を見てトラウマを発動させた。

そうして今度はボヌールに行こうとするが体力がなく、元々 風邪気味の二郎が倒れてしまう。それを発見するのは潤で、彼女の笑顔で二郎は歩く元気を回復する。子供に無理をさせない人ばかりの中、潤だけは子供に選択肢を提示した。そういう公平さが潤の美点なのだろう。こういう場合、体調が悪化したら問題となるが、こういう少しの無理を重ねて体力が向上するのも事実だろう。

そして二郎は、大好きな兄の結婚相手に潤ならば許せるようになる。潤は進藤の身内の店長と、一郎の身内の二郎に認められ、誰からも文句の出ない嫁候補になっていく。


2年前、一郎がボヌールでバイトを始める頃の秘話が明かされる。ずっと疑問だったのが、一郎は3年生で留年しているなら3年前じゃないのか?という点。まさか留年設定を忘れてはいないと思うが、実際に計算が合わない。作者のこういう点が信用ならない。2年前とする根拠を読者に提示し、余計な混乱を回避して欲しい。

高校1年生だった一郎は超進学校の中で成績が学年トップ。だが優秀な余り教師からは過度な期待を押しつけられ、そして同級生たちからは遠巻きにされるか嫌味を言われるかで、一郎の気持ちは ささくれ立っていた。

そんな頃、一郎はボヌールの店先で倒れ、18歳(17歳?)の進藤や店長に会う。進藤の顔は目が心持ち大きく描かれている気がする。

ボヌールに助けられ、シアワセ教を布教され、彼は店に入り浸る。バイトにスカウトされたのは意外にも進藤が、一郎の顔の良さで女性客が釣れると嗅覚を働かせたからだった。んーー、進藤の職人気質からすればケーキの味で笑顔になってもらうことを目指すような気がするが、ミーハーな面を覗かせる。なんか作者の進藤像を私の中の彼が一致しないなぁ。こういう展開にするにしても、自分の仏頂面な接客のせいで、客足が遠のいてしまい、店の経営危機みたいな理由が欲しいところ。作品を通して進藤の行動が あんまり一貫してないのが気になる。

留年しているのに なぜ「2年前」と言い切るのかが謎。進藤の飛び級設定しかり不必要な設定を作りすぎ。

ボヌールで働くことは、競争意識の中で生きる高校生活に疲れていた一郎に潤いをもたらす。だが そんな彼の生活を快く思わない教師や生徒の嫉妬に飲み込まれる。それでも母は息子のことをしっかり見て信じてくれているし、今の一郎には居場所がある。こうして一郎のバイト生活が始まる。


を長いこといなかった店長は潤が この店で知り合った人たちの中で知らない人がいる。そのギャップを埋めるべく潤は店長の帰還パーティーを計画する。進藤は店長と暮らしているため、ネタバレを阻止するため、一郎と2人だけで計画するが、その2人の様子を見た進藤は面白くない。

潤は一郎を自宅に招き、店長のための お菓子作りを始める。この時は割とスムーズに お菓子を完成させているが、(悪い意味で)伝説の『10巻』のクッキー回では全然 上手くいかなかったが、この違いはなんなのか。一郎のフォローの有無なのだろうが、潤の能力が安定していない気がする。

バイト終わりに潤は店長(と進藤)を招待し、彼女の発案は大成功となる。自分が仲間外れにされた苛立ちやモヤモヤが勘違いだと分かった進藤は自分の気持ちの正体に気づく日も近いだろうか。


に始まる潤の学校生活では新キャラが大量投入されて、頭が追いつかない。そして いきなり文化祭回が始まる。

潤の友達・有本(ありもと)と生徒会長の相沢(あいざわ)が登場するが、彼らは読切短編からの出張キャラ(『7巻』収録。どうして『6巻』に収録してくれなかったのだろうか。ちょっと不親切だ。)。どうも この頃の作者はリンクできるところは しておけ、という方針みたいだ。こういう手法が上手くいくと「松月ワールド」と称賛されるのだろう。

生徒会役員たちは全員 色々とキャラ付けされているが、キャラ付けの割に活躍は少なく、深堀されることもない。端的に言えば 滑り気味。当たれば大きいのだろうけど、過剰なキャラ付けは段々と読むのが面倒くさくなってくる。潤は学校でも人気者で、彼女の願望を叶えるために周囲の人間はいるようだ…。

クラスの文化祭の出し物が喫茶店になり、ボヌール内でも潤の可愛さで全員が文化祭に行くことが決定する。その前に、一郎が寝た隙に、文化祭の参考にするために潤と進藤でケーキ屋巡りをすることが店長命令として下される。

こうして2人は揃って出かけることにする。デート回ですね。この回で安倍川兄妹の父親が初登場。だが彼は進藤を見た瞬間に固まる。どうやら因縁があるようだ。作者の張る伏線は あまりうまく機能しないことが多すぎるので、大した真相ではなかったりするから厄介だ。


化祭の準備では新キャラ・土田(つちだ)が登場し、彼の話が この文化祭の縦軸となる。土田は授業が終わると すぐに帰ってしまうが、潤は文化祭でクラス全員参加を目指すために彼と関わるようになる。

文化祭回は土田と彼の幼なじみの山根(やまね)のロマンス回であり、作者お得意の子供ネタ、家庭ネタのオンパレード。土屋は母子家庭の長男でバイトを優先するから文化祭どころではない。しかし土田がこのクラスで唯一 お菓子を作れることが判明し、王女・潤の懇願によって土田は折れる。勿論、彼がお菓子作りをしたいという願望があってのことだが、潤の望みは何よりも優先されるという いつものパターンだ。

バイトで多忙な土田は当日だけ頑張ってもらうことになり、飾りつけなど準備はクラスメイトが受け持ち、クラスは一体となる。

潤は土田と山根の間に何かあると察し、偶然 知り合った土田の双子の弟妹から情報を聞き出す。どうやら山根は弟妹の面倒を見たり、甲斐甲斐しく土田家の事情に介入しているらしい。

バイトへの道すがら山根にも偶然遭遇し、彼らが去年、山根の母が土田との交流を快く思っていない発言をし、それを本人に聞かれてしまったことから土田は山根との距離を置いた。話としては切ないが、誰かのために自分から身を引こうとする話は もう お腹いっぱいだ(潤の両親の再婚、進藤の子供の頃など)。山根は もう一度 土田に拒絶されるのが嫌で、適度な距離から彼を見守っているだけ。

そして もう一つ、潤のクラスを邪魔しようという勢力が現れ、文化祭は混沌とした様相を呈す…。お祭り騒ぎの中、次の巻まで話が跨るのは白泉社らしいなぁ。