《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒロインの特別性 確保のため同世代の女性は悉く排除。モデルの子だけは有名人だから交流可。

幸福喫茶3丁目 3 (花とゆめコミックス)
松月 滉(まつづき こう)
幸福喫茶3丁目(シアワセきっさ3ちょうめ)
第03巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

無愛想魔王の進藤さん、空腹即爆睡の変人・一郎くん、怪力☆潤(うる)が働くカフェ・ボヌールは、美味しさ優しさ保証付。両親にもやっと一人暮らしを認めてもらい、潤は今日も絶好調!ファン必見、一郎くんの子供時代も登場!!

簡潔完結感想文

  • 母親に続いて義父とも面談し、恋愛感情の前に結婚の準備が整う。一郎は ほぼ無視。
  • 夏休み明け学校生活開始と思いきや、王女の地位確保のため、同級生を悪者に仕立てる。
  • 増える小学生以下のキャラ。回想を含めれば3回連続で子供の話。ロリ・ショタは満腹。

角関係が始まるどころか恋愛感情すら見当たらない惨憺たる 3巻。

恋愛問題を保留にして、序盤は日常回が続くのが白泉社系作品の常で、ネタの枯渇を回避するために主要人物たちの親族が続々と投入される。『3巻』ではヒロイン・潤(うる)の家族(亡き父も含む)、そして従弟、バイトの先輩・一郎(いちろう)の家族も過去回想の中ではあるが登場する。また『2巻』で登場した安倍川(あべかわ)兄弟の家族も顔を出す。

キャラ数がどんどん増えていくが、本書の特徴としては そのキャラの中で小学生未満の割合が多いことが挙げられるだろう。どうやら作者は まだまだ恋愛模様を描くつもりはないが、子供たちのハートウォーミングな話は描きたくて仕方がないらしい。『3巻』後半に収録の3話は どれも子供が登場する。

どうも子供ならではの健気さとか失敗とかが作者のツボらしい。そして彼らを優しく見守る大人側に読者を誘うことで、ご満悦な気分を味わわせてくれている。感情や立場が複雑化する大人(高校生ぐらい~)よりも、単純に物事を語れる子供に焦点を当てて、本書の言う「しあわせ」を表現している、とも言える。…が、読者の誰も子供の話が読みたくて本書を読んでいる訳ではない、というギャップが生じる。そういう話が描きたいのなら最初から羅川真里茂さん『赤ちゃんと僕』や時計野はり さん『学園ベビーシッターズ』を始めればいい。それに子供の話で良い話を描く作者の自己陶酔が感じられ、私は あまり好きではない。

恋愛描写は手に余るが、子供の描写なら出来るから その方面ばかり描いてしまうのか。コレジャナイ感。

ロイン・潤の母親は女王と称される人だが、潤自身も王女であることが示される2話目には眉をひそめた。

この話は潤の同級生たちに聖域だったボヌールが侵食されていき、潤が疎外感を覚えるという展開。ヒロインが悲しんでいると周囲の人間が全力で彼女の価値を褒め称えるという結末を迎える。そしてそれを どうやって描いたかというと、学校の子たちを下げて、潤だけが正しい行いをするという形式だった。

これには本当に辟易とさせられた。他の女性と比べてヒロインの特別性を描くのは少女漫画では 良くみる手法だが、こんなに あからさまに
学校の子たちを悪者にしなくても いいじゃないかと思わずには いられない。

ヒロインである潤だけが、イケメンやモデルの蜜香(みつか)に愛されて、他のモブ生徒は舞台となるカフェ・ボヌールに来る価値がないと言わんばかりの内容は、潤に完全に自分を重ねている読者や作者には心地よいだろう。けれど私には甘ったるいだけヒロイン賛美に思え、深い味わいを感じられなかった。

そして何よりも残酷なのは蜜香は潤にとって大事な人なのではなくて、モデルで有名人の蜜香が潤を溺愛しているという構図を見せつけるために彼女が登場することだ。上述の通り、本書には子供のキャラが多いのだが、きっと3巻までで同世代の同性の友達が1人も登場しないのは、潤の特別性を確保するためなのだろう。作品にとって潤がどれだけ大事なのかを読者に洗脳・刷り込ますために、潤には同性の友達がいない。その中で蜜香だけが登場を許されるのは、彼女が完全に潤の信者になったからで、そして人気モデルという職業で選別されたから。蜜香が ただの一般人では女王・潤様に近づくことさえ許されなかっただろう。誰よりも作品側が蜜香をミーハーに扱っていて不快だ。


の母親に招待された通り、ボヌール一行は潤の家を訪問する。
この回は義父により潤の仕事仲間として相応しいか男性陣が審査が始まる。義父も母と同じく一郎にはあまり食いつかず、進藤(しんどう)メインで話が進む。一郎ファンの読者は この格差に納得がいかないのではないか。

義父の質問によって、これまでは自分のことを話さない進藤のパーソナルな部分が判明する。酒や煙草をやらないとか、真面目な部分が見えてくる。

そして潤が席を外した際には、男性陣が潤を守るために生きていることが判明し、読者の承認欲求は満たされまくる。義父とも顔見知りになり、今後 潤と交際する どちらかの男性は結婚まで視界が開けた。

この回で潤の父親の話題が出てきて、写真で その顔も判明する。進藤の母親を含め、今は いない人は ちょこちょこ話題に出てくる。離婚とか不在、死別なんかも、作者の考える「しあわせ」を際立たせる大事なスパイスなのだろう。

どうでも いいけど、この回で潤の家で一郎がケーキを一つ食べた後に寝ちゃうのが気になる。空腹だから眠るという流れなのに、食べても寝ている矛盾が気になる。こういう作者が何も考えてなさそうな部分が好きになれない。
ちなみに空腹で倒れてしまうのは血糖値が関連しているのだと勝手に思っている。この一郎の特性をリアルに考えていないんだろうけど、一郎は道の真ん中で倒れたりしたら一巻の終わりだ。「てんかん」の人たちと同様に免許を取るのも大変だろうなぁ。


うやら作中では夏休みが終わったらしい。逆に これまでが夏休みだなんて記述あったっけ??

日中は進藤が1人で切り盛りすると言う。なぜか新学期初日の朝に一度 集合したボヌール組を見た学校の子たちが進藤と一郎に興味を持つ。そして上述の通り、潤の不安を払拭するために、学校の子たちが嫌な人間にさせられる。この回は「しあわせ」とは真逆の気持ちになった。

同世代の女性は登場すら許されないが、男性である安倍川 草(そう)は再登場を許される。
学校帰り、潤が草の制服にジュースをかけたため、その洗濯をするため安倍川家に お邪魔する、というのが導入部。いや、安倍川家に来たら洗濯機に放り込めばいいだけの話で潤が介入する意味は、漫画の展開以外には まるでない。

潤は そこで草の継母に初めて会い、妹の さくら、兄の柏と一家に続々と挨拶をする。
ここでは草たちが営業妨害をしたこと、お菓子対決のことなどが語られ、潤は全てを水に流す。いつも通り、潤の笑顔は無敵で、その笑顔に草が心 惹かれ始めるという本書の序盤で唯一進む恋愛関係が語られる。


族&新キャラの潤の従弟の健志(けんし)が初登場する。健志は小学校6年生で、顔は潤(または彼女の父親)にそっくり。『3巻』の1話目にも名前だけ登場していた。ちなみに潤が好きらしい。

本命の三角関係(潤・進藤・一郎)はノータッチだが、周辺の男性キャラに潤好きを増やしていく。

健志は小さい頃から父親を亡くした潤のことを気にかけていたが、自分が本当に潤を支えてやれることは出来ない。その歯がゆさは今も同じで、ボヌールの年上の男たちに比べれば自分は まだまだ。
だが潤の笑顔で自分の気持ちは燃え上がり、彼は これからも潤を好きでい続ける。恋愛的には弟オチだが、潤の笑顔最強というのは いつものオチ。

続いては一郎の家族の話。彼の父親は医者、母親はデザイナーだということが明かされる。親がいないことが勲章みたいになりかけている本書だが、いる場合は特別感のある職業にするようだ。

一郎が幼稚園に通っていた頃から両親は忙しくなり、共に夕食を食べる機会も減っていってしまった。一緒にご飯が食べたくて両親の帰りを待っていた一郎だが、幼いから寝落ちしてしまう。夕食に手を付けない息子。それを見かねた帰宅した母親が毎回、寝ている一郎の口に食事を運ぶようになる。そこで目を覚ますと母親の姿を見られるを出来ることから、食べ物を食べると目が覚める体質が完成した。

共働きでも幸せだった一郎。そして今は潤も進藤もいると一郎は珍しく笑顔になる。この笑顔は忘れられない。回想の中ではあるものの、この回も一種の子供回であって、小学生以下の話が続く。


ストも子供が登場する話。潤がバイトに行く道すがらで見た小学生の男児。どうやら迷子であるらしいが、バイト中も ずっと気にかかっていた。

その子がボヌールの前を通りかかり、潤は お節介を焼く。潤の笑顔を見た瞬間に、少年は泣き出し、離婚して一緒に住めなくなった妹に会いに行く途中で迷子&金欠になってしまった自分の事情を話す。進藤は、その子が母親に捨てられた自分と同じように大人の事情に振り回されていることを知り、不器用に励ます。そして交通費を貸し、家族4人分のケーキを持たせる。

ボヌール側が子供に過剰に優しくするのは、安倍川家の さくら や お菓子対決でもあったなぁ。子供相手だと、潤も年上のお姉さんになり、「いい話」が作り易いんだろうけど、早くも飽きてきた。大人の一般客でも こういう「しあわせ」を巡る話を作るのならいいが、それが作れそうにないから、子供に逃げている感じが伝わってくる。