葉鳥 ビスコ(はとり びすこ)
桜蘭高校ホスト部(おうらんこうこうほすとくらぶ)
第10巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
桜蘭学院でいつも黒装束の猫澤梅人部長。彼の率いる黒魔術部の呪い姫・伽名月麗子の呪いの生け贄にホスト部員が選ばれて…!? 夏休み、ハルヒは軽井沢でバイトのハズが、父のオカマ仲間の美鈴の娘・メイの世話をすることに!?
簡潔完結感想文
子供との適切な距離を見定める 父親たちの 10巻。
全18巻の折り返し地点を過ぎた『10巻』から、
準レギュラー確定(多分)の新キャラが登場します。
それが安村(やすむら )メイちゃん。高校1年生。
ハルヒの父と同じオカマバー勤務の美鈴(みすず・源氏名)の娘である。
再婚した母が継父と海外出張に行く1か月の間、実父と暮らす予定だったがメイは拒否。
そこでハルヒの家に転がり込み、ハルヒ父子とメイの3人暮らしが始まる。
去年(という名の何回目かの夏)と同じ軽井沢の地で皆で過ごす夏だが、
今年はもう同じ地点には戻れない、引き返し不能地点に足を踏み入れることになる…。
本書における メイちゃんの役割は実に多彩だ。
まずはハルヒの本書初(高校生活初)となる女友達だろう。
ハルヒは学校生活も ソツなく こなしているため、友人は多いが、
自分のことを女性と知っている女友達は桜蘭学院入学後はいなかった。
(あっ、ヅカ部がいるか。友人関係とは呼べないので黙殺しよう…)
同じオカマ(差別的か)の父を持つ境遇が、言葉を重ねずとも彼女たちを近づけたか。
そして一緒に生活する必要性もあって、メイにはハルヒの性別を先に理解させる必要があったのだろう。
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ただ、ハルヒとメイは同じようで、育ってきた環境が違う。
母と死別した後に女性として生き始めたハルヒ父と違って、
メイの父はメイがいるにも関わらず離婚して、その道に走った。
そのことがメイの心にわだかまりを生み、父親を拒絶するキッカケとなっている。
そんなメイの父親への拒絶の心にシンクロするのが環(たまき)。
『9巻』での「デコチュー」事件以来、ハルヒは環に近づく危険を感じて距離を取り続ける。
高熱で記憶のない環は、ハルヒが自分を遠ざける理由に思い当たらず、
思春期の娘と父親のような もどかしい関係を味わう。
そこで これまで以上に他人様の事情に足を踏み入れ、メイ父子の仲を修復しようとする環。
いつも通り、善意100%の、自分の苦労を厭わない働きっぷりだが、
その裏にはガムシャラに動いて、少しでも打開策を見つけようという考えもあるのかも。
また壊れかけた家族の修復も、自分の家族の夢と繋がるところがあるのだろう。
環の陰の働きっぷりは、メイの心を少しずつ氷解させていくのだが…。
メイの役割の最後は、環に恋することだろう。
作中にはなかなか登場しない環へ恋心を抱く女性(『1巻』1話の女生徒ぐらいか?)。
ハルヒの友人がライバルときたら、流石のハルヒも少し動揺するかと思いきや…。
うーん、メイちゃんには当て馬となってハルヒの恋心を引き出して欲しかったですが、
ハルヒに特段の変化はありませんでしたね。
ただ、メイのために日々 努力を惜しまない環の働きは
確実にハルヒの心に好印象を残しているようです。
環の恋情を感じ取ったメイちゃんには、
これから環の恋の協力者としての立場での働きを期待します。
ハルヒには多少 強引に物事を動かしてくれる同性の友達が不足していましたから。
メイちゃん編では父親たちの描写も良かったですね。
ハルヒの成長を しみじみと感じるハルヒ父の姿も良かったですし、
メイの父・美鈴の話も、オカマになるのはフィクションとしても、
子供がありながら離婚した父親の複雑な胸中が表れている。
もう一人『10巻』で登場する父親が、常陸院(ひたちいん)の双子たちの父。
有名デザイナーの妻の陰に隠れがちだが、
彼はしっかりと子供たちの成長と、個性を見つめ続けていた。
この父親、ほぼ気配だけで双子のどちらかが分かっているから凄い。
ハルヒに常陸院家に嫁いで欲しい気持ちが湧き出てくる。
本書における「父親」は善人が多いですね。
中には父としての役割を十分に果たせなかったと自責の念を持つ者もいるが、
それでも その子にとって不幸にならない形を模索し続けている。
少女漫画のトラウマで問題になりがちな親子関係において
「毒親」がいないのも本書が読み易い部分かもしれない。
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そして少しずつ掘り下げられる光(ひかる)と馨(かおる)の葛藤。
「1個しかないものを好きになっちゃった時は どうしたらいんだろうね…」
という馨の悩みは アサダニッキ さん『星上くんはどうかしている』に通じるものがある。
ここまで双子について掘り下げるのなら、
彼らのどちらかが選ばれてほしい気もするが、
環もまた最初からハルヒの父親役として存在するし…、
と自分の中のキャラクタへの愛着に気づいた『10巻』でした。
ハルヒも早く自分の周囲の男性たちの魅力に気づいて欲しいものです。
1話目ではハニー先輩に恋人(候補)が登場。
『9巻』でも3年生組はハルヒに恋愛感情はないことが示されてましたもんね。
初登場の1年D組女生徒・伽名月 麗子(かなづき れいこ)姫は黒魔術部の部員。
彼女はとあるキッカケで出会ったハニー先輩の魂を手に入れようと日々 努力をしている。
本書の登場人物は ほぼ「成績 + 家柄」トップのA組生徒か、
桜蘭学院における最下層のD組の生徒しか登場しませんね。
1回だけ『1巻』にC組の男子生徒がいたか。
B組C組だと 中途半端な立ち位置だからでしょうか。
家業に問題があるボサノバ君はともかく、伽名月姫がD組である必要性はない気もするが。
たとえA組とD組のカップルでもハルヒと環や双子ほどには、格差はないんでしょうけど。
こうして3年生組はハルヒ争奪戦から脱落。
残るは2年生組と1年生の双子たち。
そんな彼らが(3年生組も含めて)2つの勢力に分かれて開催されるのが、桜蘭学院初の体育祭。
表向きは鏡夜(きょうや)先輩と幼なじみの対象対決だが、
実質、2年生コンビの初の本気勝負、そして常陸院の双子が初めて違う立場で争う場になる。
もしやこれは、ハルヒ争奪戦の準決勝という位置づけか?
(と思ったら『11巻』の結果は予想外のものだった)
正々堂々スポーツで勝負して、自分の心に落とし前を付けるのが体育祭なのかもしれない。
お金持ちの とんでも体育祭の全容は、次巻!!
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- 作者:葉鳥 ビスコ
- 発売日: 2007/04/05
- メディア: コミック