《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

最高権力者に恋をするのが白泉社ヒロインの宿命だから、店長登場でターゲット変更!?

幸福喫茶3丁目 5 (花とゆめコミックス)
松月 滉(まつづき こう)
幸福喫茶3丁目(シアワセきっさ3ちょうめ)
第05巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

草が潤を好きだと気づいた柏は、草と一郎くんのバイト一日トレードを提案! ボヌールに嵐が巻き起こる!? そんなある日、店長で進藤さんの義父が戻ってきて…。ボヌール三人組の小学生時代を描いた特別編も見逃せない!!

簡潔完結感想文

  • 三角関係の当て馬を投入したり、天然鈍感ヒロインに「好き」を学んだり恋愛が始動する!?
  • 店長の帰還。小さい店にパティシエは2人も いらないから、リストラ対象は進藤では??
  • 素直になれない2人が本当の父子になるまで。『4巻』の読切短編も同じテーマだったよね…。

切なものを大事にし過ぎて 取り出せないまま、の 5巻。

『5巻』でも引き続き白泉社らしく順調に登場人物が増えていくが、それよりも もっと描いてほしい場面が幾つも浮かぶ。私のアイデアが優れているとは決して思わないが、少なくとも新キャラに頼る展開よりは、読者の望む内容だったとは思う。以下は描かれることのなかった話である。

まずはカフェ・ボヌール開店の経緯を知りたい。『5巻』でボヌールが3年以上前から この地にあったことが判明する。『2巻』の商店街バトルでは店を開いて間もない印象を受けたが、そうではないらしい。開店準備をしたであろう店長が今回 帰ってきたのだから、この後に もう一つの主役とも言えるボヌールの歴史を紐解くような話を用意しても よかったのではないか。

最終回に登場しそうな雰囲気すらあった店長が早くも帰還。私は最後まで彼に馴染めなかった。

また店長の不在から潤が補充されるまでが一番 大変だった時期の話も読みたい。なにせ一郎は バイトとして役に立たない場面が多いから、この時の進藤の奮闘を読んでみたかった。彼がテンパって、どうにか新しいバイトに頼ろうとした気持ちの推移、そして潤が現れて心底 助かったという安堵を読みたい。でも中盤以降は、私が読みたいものと、作者が描くものの乖離を感じるばかりである。

あとは進藤は どうして店長と同居をやめることになったのかも知りたい。少なくとも小学生時代までは同居しているが、いつから2人は離れて暮らすことになったのか。進藤が製菓学校に通うために1人暮らしをして、自然とバラバラに暮らすようになって戻らないままとか、そういう経緯があるのだろうか。本書は何も教えてくれない。

しかし この時点では、まさか店長が最後まで店に居座るとは思わなかったなぁ。なんとなく また旅に出て、3人体制のボヌールになるのかと思ってた。店長が来たからって、話に展開が ある訳でもないし。巻数的にも第一部(完)といったところか、第二部からは これまで封印していた潤の学校生活なども描かれる。少しずつ世界は変化していく。

連載を続けたい作者は、メインキャラの核心に触れると物語を畳むようで忌避していたら、結局 物語の隙間を埋めることなく終焉を迎えてしまった、という印象を残す。もうちょっと全体の構成を見渡せていれば 本書はもっと違うものになったのに、と残念でならない。


くにいる人(それも あまり快く思っていない人)の癖というのは一度 気になると止まらなくなり、やがて相手が それを勝手にストレスを溜め込む事態に なってしまう。

私は本書の読書で幾つか気になる作者の癖がある。最も代表的なのはヒロイン・潤の笑顔だろう。本書では最強の必殺技として使われているが、私は潤の笑顔が あまり好きではない。作者が「決め顔」として描いている顔を快く思えない。本書において それは読み手側としては致命的。笑顔 = 良い子という記号として使い過ぎていて辟易とする。

エネルギー切れによる突発的に眠ってしまうバイトの一郎も、その原因が分かっているならバイト前に満腹にすればいいのに、と半分はネタ設定なのに苛立つし、心配になる。キャラ付けしたはいいが、全15巻 同じことをしてコマが埋めていくのは しつこさ を感じる。

そして作者の好みなのか、手癖なのか分からないが、やたらと小学生以下の子供キャラや幼少期の回想が散見される。健気な子供が好きなのか、同じような話が続いて飽きる。子供が出るたびに、出たっと眉を ひそめてしまう。
子供への間違った優しさも気になるところ。お金を持っていない、または足りない子供に やたらとケーキを振る舞う。ファンの読者なら いつもは仏頂面の進藤さん優しい と歓喜する場面なのだろうが、子供ネタを作品が都合よく使っているように見えてしまう。


藤が風邪で休んだ際、安倍川(あべかわ)兄弟が助っ人になった借りを返してもらうため、兄・柏(かしわ)は、弟・草(そう)と一郎のトレードを要請する。これは潤に恋愛感情を持ち始めた草と潤を接近させてあげようという兄の配慮だった。

こうして三角関係の3人が1つ屋根の下、働くことになる。無自覚天然な潤は いつも通りだが、彼女への気持ちを意識し始めている草と進藤は微妙に牽制し合う。
草は側にいると、進藤と潤が特別な関係になっている気がして やきもち が顔を出す。それが頭を占め、ミスしてしまうが、潤が全面的にフォロー。その際に草は潤を呼び捨てにすることの許可をもらう。こうして草が完全に恋愛感情を自覚する。進藤は まだまだ気持ちが形にならないので、草ばかりが本書における恋愛面をリードする。


いては新キャラ・井上(いのうえ)が登場する。彼は数少ない進藤の友達。といっても小学校以来 会っていないので進藤に会ったのは偶然で継続的な友達ではない。進藤はまだ20歳なのでスーツで入店してきた井上も大学生。今は教育実習生だという。教育実習生が、その期間に学校を抜け出してカフェで一息つくなど いいご身分だと思うけど。
井上は巻末収録の特別編が初登場で、後に本編にも登場するキャラ。『4巻』の雪菊兄弟の設定など この後も初登場は別の場所だが本書にゲスト参戦するキャラは増えていく。こういう作品のリンクを やりたい気持ちも分かるが。

この回は特別編に続き、進藤の小学校時代が回想される。そんな進藤の秘話を聞いた潤が笑顔を見せることで井上も潤に魅了される。そして進藤も潤だけは邪険に扱わないこと、一郎も温かく見守っていることを知り、井上は安心する。
最後に潤は、自分には恋愛感情が分からないと井上に伝えると、彼は「気づくと その人のことばっか考えたり」「笑顔が頭から離れなかったり」することが好きだと教える。いよいよ潤も恋愛感情解禁か!? と思わせて何事もなく進むのが白泉社作品である…。


の存在だったボヌールの店長が帰還する。関節痛は彼のキャラ付けなんだろうけど、あんまり有効に使えていない。

店長と最初に会うのは潤。これまでも何回かあったが人助けをすることで縁ができ、笑顔を見せることで店長も潤には参ってしまう。店長が店長であることは最後まで隠される。これは一郎の弟・二郎(じろう)が男の子であることを最後のサプライズにした回と良く似た構成だ。

密かに店長がボヌールの現従業員たちの仕事ぶりやチームワークを見ることで、自分の不在の間に入った潤が潤滑油となって店の雰囲気を和らげていることを知る。作品的には新参者である店長は もう一度 潤の価値を上げるために存在すると言えよう。店長は潤に、潤が男性2人の表情を和らげたことを告げる、彼に認められることで潤は絶対的な地位を確立していく。

店長という客観的な視点から見ても潤は 2人の男性にとって特別。潤のヒロインの座は守られる。

潤は店長の復帰で自分が この店に不必要になるのでは、と不安になるが、店長は潤の働きぶりを見ていたので、潤は継続して働けることを許される。潤は自分に(望まない)家族が増える際には、勝手に家を飛び出したのに、自分がいたい場所には しおらしく い続けることを願う。とってもワガママに育ったね★
それに潤は店長不在の時に自分が「勝手に働いた」と自分が不法侵入したかのような言い分をするが、(おそらく)進藤が求人を出したんだから、そんなことは絶対に ない。どういう認識の仕方なんだか。むしろ店長もケーキを作れるので、要らないのは進藤なんじゃないか。


長と進藤は これまで別の部屋で暮らしていたが、店長の留守の間に彼の家が猫屋敷になったため、店長は進藤の家に転がり込む。ということは今後は店長が進藤のマンションにいることで『4巻』みたいな隣の進藤の部屋に入り浸るなんてイベントは もう見られないのかな。

店長は松本 南吉(まつもと なんきち)という名前で、進藤とは名字が違うことが判明する。それに衝撃を受ける潤。どうやら3年前(彼が高校1年生の時(1年留年))に一郎がボヌールのバイトを始めた時から名字は違ったらしい。

「家族」に憧れ、進藤を引き取った店長だったが、ある日 進藤が自分の名字を維持いしたいという申し出を受け入れた。店長はそれを、未だに進藤が自分を捨てた母親を待っているサインだと感じていた。自分が母の姓を捨ててしまうと、全てが終わってしまう。自分は捨てられたのではない、という進藤の願望も入っていたかもしれない。

店長は自分が進藤から父と呼ばれることはないのは、父親らしいことをしていないからだと思っていた。だが潤は進藤が店長を尊敬していることを知っている。その2人の すれ違う思いを潤の言葉が埋めていく。でも こういう複雑な親子問題は『4巻』の読切短編で読んだばかり。状況が似ていて、同じ味に感じてしまう。


場早々 店長は怪我をする。この件を通し、進藤と店長の距離を縮め、彼らが同居することになる過程を描く。

出掛けていた進藤は遅れて店長の怪我を知る。だが彼は店を開き続けることを自分の使命とする。そんな彼を薄情だと感じた潤は、どうして店長のことを父と呼ばないのか、と一歩踏み込んだ発言をする。

そこで始まるのは進藤の回想。彼らがあった就学前から小学校時代が描かれる作者好みの お話。
進藤は、母のことがトラウマとなり店長を信じ切れなかった。いつか この人も勝手に家を出ていく、と思い、彼との距離を縮めずに過ごしていた。それを縮めたのは店長の作る お菓子だった。
だが進藤は住居の周辺の人が、自分たちのことを噂しているのを聞き、自分の事情に店長を巻き込みたくなくて、名字という一線を引いた。

それは店長を守るための行為でもあった。そんな自分の心境を素直に語る進藤。いつもは自分のことを話したがらない進藤が どうして この時は こんなにも自分の弱さまで吐露したのかが 良く分からない。もう少し分かりやすいキッカケを用意してほしかった。

進藤の気持ちを知った一郎は勝手に店を閉め、彼を店長の元に向かわせる。そうして病院の店長のベッド脇で彼らは親子であるという認識を共有するのだった…。

「幸福喫茶3丁目 特別編」…
またも作者が好きな小学生以下の お話。
小学生高学年の進藤は、女子生徒からの人気が高いため、一部の男子の反感を買っていた。クラスのクリスマス会ではクッキーを用意していたが、男らしくない 女みたい、という男子の反応を気にして出せなかった。

この話では少女漫画作家が やりがちな、カップルの2人は実は昔に会ったことがある、が出てくる。潤だけじゃなく一郎も9年前に一気に進藤と会っていたというエピソードが披露され、一郎の父親も初登場する。これは嬉しいサービス。

眠った一郎を起こすために進藤は自作のクッキーを取り出し、それを食べた潤の笑顔で彼のコンプレックスは消える。そして彼らだけは性別による偏見を持たずに、進藤を肯定してくれた。こうして進藤はパティシエの道を進んだ、という話。

ちなみに開店中に全員 寝る、という とんでもないオチが待っている。ボヌールは これでいいのか…。